「わーお…………」
二人が去ったあと、自分の口から出たものは感嘆詞。友情を越えて愛情とか、でも甘酸っぱい味はしないような。自分の用事も忘れて過ごした一時は、自分を数ヶ月前にいた明るい世界に連れ戻したように感じた。
「ま、私がいるのは地獄のど真ん中なんだけどね」
それは自戒。それは自責。全てを壊した瓦礫の山の頂点で、私は生きていく。瓦礫も屍も積み上げて、血まみれの真っ赤な手でこの世界を触る、染める。
彼女たちの幸福も、親友の存在も、自分自身でさえも、全てを壊す。崩壊は止められず、始まりと終わりはセットなのだ。そして物語の終わり方は決まっている。
「……さてと、私も行かなくちゃ」
どこへ? 誰かに訊かれた気がしたけど、答えは持ってなかった。
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ハナコ、完全復活!
瞬く間に調子を取り戻したハナコはみんなに勉強を教えながら、先生の補助も行っていた。本来は僕とマリーが担当するはずの業務なんだけど、補習授業部の面々と近いハナコの方がより適任だという意見は至極真っ当だ。
「……もうワタクシたちの仕事もありませんし、いつもの活動に戻りますか?」
「え、えーっと……サクラコ様にお聞きしてみましょうか?」
「ダメです♡二人ともいないと私悲しくて泣いちゃいます」
「……だそうです」
「あはは……まあ、そういうことなら……」
このやり取りも2度目。別にボランティアに時間を回したいというわけじゃないけど、突っ立ってるだけなのも退屈だ。
「アズサさん、気分転換に体を動かしませんか?」
「いいよ。クララとの実践訓練は面白い。銃やトラップだけじゃない全てを使った白兵戦は……うん、私は好きだ」
「ダメです♡アズサちゃんは引っ掛け問題が課題なのですから、問題数をこなすことが大事なんですよ?」
「……すまないクララ、まずはこの問題集を片付けてからだ」
「早く終わらせればその分遊ぶ時間も増えますわよ~」
「うん、頑張る」
フンスと気合を入れて勉強に取り組むアズサ。僕はと言うとマリーからの非難の視線を躱すことで精一杯だ。
「邪魔したつもりはありませんわ。これも全てアズサさんのことを思ってのこと」
「はぁ、あまり皆さんを困らせるようなことは……」
「わかってますわよ」
どうしたものか。先生の方をちらりと見ると、先生もなにか考えているようだった。そしてこちらと目が合い────。
「"そうだ、クララ達もテスト受けてみたら? "」
「はい?」
「私達もですか?」
先生は頷く。いやいや、なんの意味があんのさ。
「そうよ! 偉そうにしてるけど、アンタ本当に頭いいわけ!?」
「随分な言われようですわね」
コハルがさらに噛み付く。教師役が教養のない人間だと疑われているならまだしも、僕とマリーは監督役に過ぎないというのに。
「まあワタクシは別にいいですけれど、マリーさんは……」
「ええ、私も構いません。少しでも皆さんの力になれれば幸いです」
あんま断らなそうだなとは思ったけどさ。
そんなわけで僕とマリーも急遽参戦したテスト。その結果は……まあ言うまでもない。
「な、なんで……」
「え、コハルさんマジでこの点数ですの?」
「うるさいわね! たまたま、ケアレスミスが重なっただけなんだから!」
「ケアレス……?」
なにケアレスミスって。人の名前みたいだね。
「ええと、ちょっとした足し算を間違えたりとか、解答欄を間違えてしまったとか、そんな感じのミスでしょうか……」
「いやぁ……それで、ケアレスミスだからどうという話なんです?」
「"ク、クララ! その辺でやめとこう! "」
何かを危惧した先生が割って入る。そんなに焦った顔をしている理由が僕にはわからない。
「ていうかこれなにを間違えて97点なんですの? 間違いがないことを確認して提出したはずですけど」
「"ちょっと待ってね。クララが間違えた問題は……これだね。"」
「語学……え、これが?」
「"うん、まあ類似単語だから間違えやすいのはわかるよ。"」
「いやいや、同じ意味ですわよ。議論しましょう先生、ワタクシの認識では……」
「"と、とりあえずまずは補習授業部のみんなの添削からだから! また後で、ね? "」
「むう……約束ですわよ?」
納得いかないけど、僕にも立場がある。1番大切なのは補習授業部のみんなの点数だからね。
「マリーちゃんも流石の成績ですね」
「ハナコさんは……すごいですね」
「たまたま覚えていたところが問題に出てきただけですから♡」
えー、絶対ニュアンス的には間違ってないのにな。一般的な使われ方はしてないみたいな話? えー、なんだかなぁ。
「……なんであんなヤツが頭いいのよ!」
「コ、コハルちゃん! 一応先輩ですしっ」
「だって急に水着で教室に突っ込んでくるような変態なのよ!? ハナコもそうだけど、変態ってなんで頭いいのよ!」
「あはは、そこは関係ないとは思いますけど……」
("ヒフミ、『一応』もまあまあ失礼だと思うけど……")
辞典は……ああ、図書室行った方がいいかな。あーなんか気になってきた、早く終わらないかな監督業務。
「"じゃあみんな、ここからは間違えた問題を中心に勉強していこうか"」
「その方がより効率的に勉強できますからね! 一応タイムリミットもありますから……」
「でもこのペースならまあ普通に合格できそうですわね」
「"そうだね。みんな飲み込みが早いからかな"」
「当然でしょ! エリートなんだから!」
「うん、このまま一気に仕留めよう」
「そんな物騒な表現になります?」
なんかアズサって他の子と違うんだよね。なんだろう、常識がズレてるみたいな感じかな。
「クララちゃんも結構変わってると思いますよ?」
「読心まで出来るとは恐れ入りましたわ」
「予測ですよ♡」
ウインクもばっちり。普通に怖いけどね。
そんなこんなで今日の活動も終わり。補習授業部のみんなはお泊まりらしいけど、僕とマリーはまた明日。少し寂しいけど、泊まるのは禁止なんだよね。
「……ええ、サクラコさんの意図も理解できますから。しかし、そうなるとこれは……」
ハナコは何か考え事をしてるみたいだった。とりあえず後のことは先生に任せるとして、僕は……お腹すいたしご飯でも食べに行こうかな。
「マリーさんはどうします? ご飯」
「よろしければ、是非ご一緒させてください」
可愛い笑顔だ。あれなんかビックリして……なんか気まずそう、なんだろ。
「マリーさん? どうかしましたか?」
「い、いえっなんでも……そ、それでは皆さん良い一日をお過ごしください!」
結局よくわからないままマリーに手を引かれ校舎を後にした。
その後ハナコから、『テストが終わったら一緒にご飯を食べに行きましょう』とメッセージが届いたので、親指を立てたスタンプを返した。
そういえば1年の時が最後だったかも。
「クララさんはどうしてシスターフッドに?」
「うん? んー……誘われたから……?」
「そ、それにしては真面目に活動をしていらっしゃるというか……」
「まあ、別に真面目にやらない理由もありませんし」
「なるほど」
マリーは僕の答えに満足そうに頷いた。
「ふふ、クララさんは何か……とても、善い人ですね」
「はぁ、そうでしょうか。わざわざ否定する気もありませんが」
「ええ、そういった素直な部分もハナコさんがお好きなところなのでしょうね」
終始楽しそうなマリーを横目に食事を続ける。
……マリー、見かけによらず結構食べるんだね? それセットで頼んだけどまだサイドメニューもいくんだ。僕は少食だからなぁ。