『今日は別の任務にあたるため行けませんわ~』っと。よし、送信!
「申し訳ありません。補習授業部の皆さんの監督役というお仕事があると言うのに」
「いえいえ、あっちでの仕事はほとんど無いようなものですし。しかしそれこそ、ワタクシで良かったのですか?」
「はい。サクラコさんを信用できるかは別として、実際に私の目でも確認しましたから。ヒナタさんに劣らない、素晴らしい実力をお持ちだと思います」
「ほ、褒めすぎですわよぉ。へへ、えへへ、ま、まぁそこまで言われたら、ワタクシとしても責任を持ってこの任務を遂行させていただきますわ!」
「ええ、よろしくお願いします」
本日は別の任務についているクララです。なんでもかなり重要な任務とのことで、サクラコはくれぐれも内密にと念を押していたっけ。
今回一緒に任務にあたるのは救護騎士団団長の蒼森ミネ。かなり偉い人らしい。あとすごい強い人らしい。
そんなミネが運転する車の中での会話。まあ当然盗聴なんかの心配もないからこその雑談ではあるんだろうけど、とはいえそれなりの緊張感がある。なにせ後部座席の僕には表情が見えないというのに、ピリピリとした雰囲気が伝わってくるのだから、あまり良い状況ではないんだろう。じゃなきゃ護送なんてしないし。一体何が起きているのやら。
隣の席をちらりとみると件の護衛対象は案外呑気なもので、特段険しい表情もせず涼しい顔で座っている。むしろ彼女を挟んで向こうにいるもう一人の護衛の方がよっぽど緊張しているように見えた。
ん、ハナコからメッセージが来てる。
『それは残念です。内容をお聞きしても?』
『護送だか護衛だかそんな感じですわ』
『それは話してはいけないような気もしますが……』
『あ』
少し間があった。
『クララちゃん、1年で見違えるほど銃の扱いが上手くなりましたからね。護衛対象については何か聞かされていることはありますか?』
『いえ、何も。特に興味もありませんし』
『……そうですか。クララちゃんらしいですね』
『お仕事に戻るので、皆さんに応援してますとお伝えください』
『はい、クララちゃんも頑張ってください』
メッセージのやり取りが終わり、端末の電源を切る。
「とはいえ、どうしてワタクシだったのでしょう?強い方ならそれこそ他にもいそうですが」
「ああ、それは私の要望だ」
そこで初めて彼女が口を開いた。獣人族ながら高貴な雰囲気で、もう見るからに貴族って感じ。
「自己紹介が遅れたね。私は百合園セイア、ティーパーティーのホスト……いや、今は元ホストか」
「ティーパーティー……ああ、なるほど」
なんか偉い人だね。
「まずは個人的なお礼を言わせてほしい。彼女を……ハナコを支えてくれてありがとう」
「?」
「私はハナコの、まあ一言でいえば友人だ。彼女は非常に難儀な性格をしているが、それでも君のことを話すときはとても楽しそうにしているからね。心の底から君のことが好きなのだろう」
「え、あ、えへぇ……」
「……わかりやすいな、君もハナコも」
こほん、と咳ばらいをしセイアは再び口を開く。
「ともかく、君と直接会って話がしてみたかったというのがひとつ」
「ひとつ、ということは他にも理由が?」
「その通りだ」
セイアは目を細めた。
「私には未来が視える」
はあ、と気の抜けた声が僕の口から漏れる。
「信じられないかい?」
「いや、そういうわけではありませんが」
急に言われても、というところが正直なところ。だから何?としか返せないし、かといってそれは流石に失礼だと僕も思うし。
「星見みたいなものですわよね」
「なんだいそれは」
しまった、この世界には星見がいないのか。天体の動きから未来を予測する人たちなんだけど、そういうのじゃないんだ。
「アニメーションの世界の話ではなく、現実の話だよ」
「ああ、ははは……」
なんか勘違いしてくれてるみたいで助かった。
「話を戻すよ。私には未来が視える、それも正確な場面の描写としてね」
「なるほど、すごいですわね」
「褒めてくれと言っているわけじゃない」
睨まれてしまった。
「考えてみたまえ。自慢したいだけならもっと尊大に、未来予知の素晴らしさをアピールするだろうさ。私がこれを君に伝えるのは、この未来予知が君に関することだからに他ならない」
「ワタクシの未来の姿ですか?」
「ああ。私の視た君の未来、それは……」
「簡潔に伝えるのならば───────君は、エデン条約までに死ぬことになっている」
──────────────
なぜ、とかどうやって、とか疑問は尽きない。そもそも意味わかんないし、急に死ぬとかね。
「困惑するのも無理はない。ただこれは私の未来予知に映った真実であるとだけ言っておこう」
「その……ワタクシは何故死んでしまうんですの?」
「私にもそこまではわからない。どういう経緯で、どうして、そういったことは私の未来予知には映らないんだ。ただ紙芝居の一枚のように、写真の一枚のように場面を切り取って私に見せるだけなんだ」
使い勝手の悪い能力だなぁと、僕からの感想はそれだけだった。
「傷だらけの君が壁にもたれかかって息絶えている一枚絵、私に視えるのはそれだけだった」
「物騒ですわね」
「……怖くないのか?」
「実感が湧かないので、なんとも」
「それもそうだね」
セイアの表情は暗く、その瞳はどこか遠くを見つめていた。
「君も、アズサも……」
「アズサさんもなのですか?」
「アズサに関しては命の心配はない、はずだ」
「ただ良くない未来が視えたと」
「そういうことさ」
ふぅ、とセイアは息を吐いた。当事者の僕よりもなんだかつらそうだ。
「私の未来予知が外れたことはない。それでも……私はこの未来が覆ることを願っているよ」
そういったセイアの目は、憐みの感情で染まっていた。この反応から察するにその予知が外れたことは、きっと本当にないのだろう。
「ご忠告感謝いたしますわ。ただ、今まさに危機に瀕しているのは貴女の方ではないですか?」
「ふむ、確かにね。現に私は命を狙われ、生存を隠蔽しなければならないような身ではある。だが、私にとってはそれよりも……むぅ……」
「どうかなさいましたか?」
「……いや、うん。少しばかり体調が悪い。話の途中で済まないが、休ませてもらう」
ミネ、とセイアが短く呼んだ。
「わかりました。引き続き護衛の件はお任せください」
「…………ああ」
絞り出すように返事をすると、セイアはそのまま目を閉じた。
「普段からあまり体調の良い方ではないのです。未来予知など、人の身にすぎた
「負担も深刻なわけですわね」
「加えて先の襲撃の件もあります。心労も計り知れません」
「そこに関してはあまり詳しくお聞きしていませんが……」
僕が聞いたのは要人の護衛という件だけだった。ただ人命にかかわる案件とは聞いていたので、それなりには警戒していたけれども。
「セイア様のおっしゃった通りです」
ミネは短く答えた。なるほど、そこまでは話せないのね。
「それよりも、です」
車が止まった。
「セイア様の言っていた貴女の未来についてです」
「ああ、死ぬとか言われたやつですわね」
「何を楽観的になっているのですか?」
こちらに顔を覗かせたミネの表情は険しいものだった。
「もしも疑っているのであれば私からも念押しします。彼女の予知は本物なのです」
「いえ、疑っているわけではなく……」
「であれば!」
ミネの語気が強まる。
「何か心当たりはないのですか?対策は?」
「え、ええと……」
「私達救護騎士団も協力します。何か、その未来を回避する方法はないのですか!」
「ワタクシに言われてもですわ!!」
つられて勢いが強まる。だって今急に言われてもわからないじゃん。
「取り乱して申し訳ありません。しかしどうか、どうかその時が来ないよう最大限の注意を……!」
「わ、わかりましたから!とりあえず今はミネさんがいらっしゃいますから、ね!」
「当然、私の目の前で死者など絶対に出しません。しかし四六時中私がついていられるわけでは……」
そこでハッとミネは目を見開いた。
「貴女もセイア様と同じ場所で過ごしましょう!そうすれば私がお守りすることもできますから」
「その場合危険なのはセイアさんでは?」
この感じでそんなゴリ押しの解決法取るの? 思ったよりパワータイプだこの人。
「それにワタクシが戻らなければ流石に怪しまれますし。むしろそうやってセイアさんのいる場所が外に漏れるリスクを増やす方が危ないと思うのですが……」
「くっ……しかしそうなると貴女をお守りできません」
「いや流石に自分の身はある程度守れますわよ。病弱なわけでもありませんし」
そんな呆れた目で見られましても。
「その油断が命取りになるかもしれないのですよ!?」
「警戒はしておきますから!いざとなったらシスターフッドの皆さんの力も借りますから、ね!」
結局その後も口論は続いたが、一旦は経過観察というところで妥協してもらえた。
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「では今回の任務はここまでとなります。ここから先は私一人で担当しますので」
ミネがそういうと別の車が僕の後ろに停止した。気づかなかった、着いてきてたんだ。
「ここで解散と致します。その車がトリニティの校門前まで送り届けてくれますので」
「はーい。お疲れ様ですわ」
「お、お疲れさまでした!」
僕ともう一人の子が挨拶をして任務終了。車に乗り込もうとしたところでミネに腕を掴まれた。
「なっ……んですの?」
「くれぐれも、お気をつけて」
あまりにも鋭い視線にたじろいでしまったものの、どうにか首を縦に振りやっと解放された。
うーん、なんとなくイメージが固まらない人だったけど、多分いい人なのだろう。
そんなことを考えながら、僕は今度こそ車に乗りそのドアを閉めた。