「むぅ……」
唸る、唸る。されど答えは見つからず、また唸る。
「どうしましょうかねぇ……」
独りごちるも、答えは見つからず。
事の発端は諜報活動を行っていた2人からの情報だった。
「ま、わかってはいましたけど……ナギサ様は最初から補習授業部全員を退学させるおつもりだったみたいですね」
「んね、なんでそんなことすんのかわからんけど」
曰く、テストの合格点を引き上げるとのこと。先生から進捗を聞いてもうちょいイけると踏んだのかと思ったけど違うみたいだった。
僕的には2人が諜報担当だったのも中々衝撃だったけど、オタクちゃんことメリーの言葉も聞き捨てならない。
「最初から?い、一体どういうことですの?」
「言葉通りです。ナギサ様は彼女たちを退学させるための口実として補習授業部をお作りになられたということですよ」
「何のために?」
「さぁ?本人に聞いたら答えてくれるんじゃない?」
それもそうか。
「なるほど。そのナギササマはどこにいますの?」
「うんうん、わかった。アタシが悪かったからね、クララちゃんは一旦ステイね」
「本気でしたね今」
そりゃそうだろ。
「てか答えてくれない説有力だと思うけど」
「その時はその時ですわ」
「うんうん、そうだね。アタシの負けだからね、クララちゃんはお仕事頑張ってね」
「1度目で学習しなさいな」
「ふふ」
そうして2人は補習授業部が出来た経緯を話してくれた。つまるところ裏切り者……スパイがいるから追い出したいんだけど、誰が裏切り者かわからない。そこで疑わしきものを全て退学にすれば目的自体は達成出来るという算段なわけだ。
……なんかこう、最後が頭悪くないかな。もうちょっとスマートに解決する方法はなかったんだろうか。
とはいえ今の話が本当ならば今勉強していることになんの意味があるのか。いや勉強すること自体は有意義なんだけど、今回はちゃんと目的があるわけで。
「補習授業の皆さんが退学を受け入れるとは思えませんわ」
「でもナギサ様の権力って結構すごいよ?なかなか抗えないんじゃないかな」
「じゃあクーデターしかないですわ」
「その姿で言っていい言葉ではないかもね」
だってそれしかなくない?ナギサを降ろして次の王をたてるしか退学を免れる手段がないと思うけどな。
「落ち着いてくださいなクララさん。私たちシスターフッドに過干渉は許されません。サクラコ様もその上で出来る限りをクララさんに託したのですから」
「ですが……」
「既にナギサ様の口から先生に伝わっていることです。ならば私達に出来ることは先生と補習授業部の皆さんを信じること以外にありませんわ」
「正直、今の合格点ですらギリギリだと思いますわ。いずれはボーダーを越えられるでしょうが、時間が足りません」
「だとしても、です」
いつになく真剣なオタクちゃんの表情。
「もはや救護騎士団とシスターフッド以外はナギサ様の思い通りに動かせるのですよ。今不審な動きをしてシスターフッドの越権行為と見なされた場合、最悪被害を被るのは他でもない補習授業部の方々です。それをネタにシスターフッドへの干渉が始まれば、まだ内部に危ういものを抱えるシスターフッドとしては非常に苦しいのです」
「そう、ですわね……」
「それに、ここまでされてあのハナコさんが大人しくしているとも思いませんし。もう少し貴女の親友を信じてみても良いと思います」
ハナコが?
「あら、ご存知ありませんでしたか?ハナコさんはその手の人たちからは一目置かれる……ってレベルじゃありませんわね。それはもう引っ張りだこというレベルでその手腕を買われていたんですよ」
「まあ、何ができても不思議ではありませんが……」
「合理的かつ的確な判断を下し、想定外の事態にも臨機応変かつ迅速に対応するその姿は、それはもう万人が認めるほどだったと聞きます。とはいえ本人はそれを疎ましく思っていたようですが……」
「政治のことはワタクシにはこれっぽちもわかりませんわ」
「ええ、そうでしょうね」
「普通に失礼なんだよね」
確かに。
「ともかく、ハナコさんと先生に一旦はおまかせしましょう。私達は先にゲヘナへの潜入をしなければいけませんから」
「は?ゲヘナ?」
ゲヘナといえば、トリニティと犬猿の仲と噂の学校だ。
「言ってなかったっけ?次のテスト、ゲヘナでやるらしいんだよね」
「それはまたなんで」
「そりゃ何がなんでも退学にするためだろうけど、んーまぁ強いて言えば平和条約の一環とかになるのかな?無許可で土地を使うことの何がって感じだけどね」
「思ったよりやりたい放題ですわね」
他にも深夜開催だとか、もはや言葉もない。
そもそも補習授業部の中に裏切り者がいなかったらどうするんだ。冤罪もいいとこでしょこんなの。
「ナギサ様にとっては一世一代の賭けなのでしょうけど……というかまあ、一応は当たってはいるのですよ」
「当たっているって、何が」
「補習授業部の中にスパイがいる。それ自体は間違っていないのです」
今明かされる衝撃の真実。マジで言ってんの?
「マジですの?」
「マジです。ちなみに誰だと思います?」
「うーん……」
考えてみる。スパイとなるメリット、あるいは目的、あるいは適性。
「1番上手くやりそうなのはアズサさんかハナコさんですわね。ですが、アズサさんの部内での立ち振る舞いを見る限り可能性は薄いですわ。スパイであるならあそこまで一生懸命に取り組む意味はありませんし」
メリーが目を細めた。見定めるような眼差しだ。
「怪しいのはヒフミさんですわね。補習授業部に入れられた経緯も正直謎ですわ。テストをすっぽかした理由がライブだかなんだかに行って忘れてたとか、もう少しましな言い訳があるでしょうに」
平凡を装っているが、その実目立たないあの子が真犯人、なんて展開も無くはない。
「ですが目的が見えませんわね。余程裏に大きな繋がりがない限りスパイなんてハイリスクなことはしないはずですわ。そこを踏まえて総合的にはハナコさんが裏切り者と見るのが妥当ですわね」
僕は推理を続ける。
「彼女はコネクションも多く持っているようですし、わざと悪い点を取って目立たないようフェードアウトしたとも考えられます。目立つような行動をしていたようにも見えますが……まあ、彼女程の頭脳なら何か意図があるとこじつけられなくもありませんし。ああ、コハルさんは文字通り論外ですわね。議論の外、ですわ」
ここで僕は口を閉じてちらりとレンを見た。視線に気づいた彼女は首を斜めに傾ける。
「ハナコちゃんは親友じゃなかったの?」
「ええ、親友ですわ。ただワタクシの個人的なフィルターを排して見れば、現状最も裏切り者として妥当なのはハナコさんでしょうね」
「まあ、言われてみればそうかも」
レンは納得したようだった。
「仮にハナコさんが裏切り者だったとしたら?」
「……ら?」
メリーの質問の意図が一瞬理解できなかった。
「ああ、そういうこと。別にワタクシにとってハナコさんがスパイかどうかはどうでもいいですが……まあ、興味はありますわね。彼女がそこまでして何を成し遂げたいのか、あるいは何者になりたいのか。だって親友ですもの、なんだって知りたいと思いますわ」
場合によっては加担しなくもない。いやでもサクラコ様に止められるかな。んー……その時はハナコがやろうとしてる事がどれくらい面白そうかによるなぁ。
「……傍若無人、ですね。私達が止めても結局ご自分の判断で行動を決めてしまうのでしょうし」
「当たり前ですわ。じゃなければ、電気信号の差異で非合理的な行動をとるように進化した意味がありませんもの」
メリーが1歩下がる。ドン引きされてるねこれ。
「クララちゃんてさ、実はとっても運がいいんじゃない?」
「ええ、そう思いますわ。なにせこうして友人に恵まれるなんてこと、ここに来るまではありませんでしたから」
「いや温度差エグい。そうじゃなくて、ええと、うーん」
レンがああでもないこうでもないと首を捻る。それ口に出す人初めて見たよ。
「レンが言いたいのは、運良く咎められていないだけの危険人物ってことです」
「あ、こら。ストレートすぎ」
「クララさんほどではないかと」
「うーん正しい」
思ったことを言ってるだけなのにこの言われよう。まあでもいいんだ、多分2人は半分諦めてるし。
「貴方が道を踏み外した時、きっとハナコさんが止めてくれるのだと思います。しかしその役割が彼女だけのものというわけではありません」
うんうんとレンが頷く。
「ね、アタシら嘘は言いっこなしにしようよ。嘘ついたら針千本飲ますってやつ」
「残酷すぎません?」
「実際に飲ますわけないじゃん」
ビックリした。何言い出すのかと思った。
「ぶっちゃけみんなクララちゃんが過去に何かあった子なのはわかってる。だけど無理に言わなくていいからさ。アタシらも無理に聞かないから、だから昔の話はいいの。でも今とか、あとは先の話でさ、なんか不安だなぁって思っても一旦は話してみてほしいな」
「どうしても嘘をつきたい時は、どうすればいいんですの?」
「ふふ、つかないでって話してんじゃん。でもその時は……死ぬまでバレない嘘をついてよ」
「なるほど、わかりましたわ」
「……ま、クララちゃんには無理そうだね」
「それはやってみないとわかりませんわ」
「そうかなぁ」
なんだって急にこんな話をしだすんだ。
「レン、貴方ちょっと不器用すぎません?」
「うるさいなぁ。メリーだって心配なくせに」
「それはそうですが……はぁ」
メリーがため息をついた。
「別の意味でめんどくさい人達ですね」
「なんだよぅ」
なんだよぅ。
「あれ?じゃあハナコさんは裏切り者じゃないってことですの?」
「ああ、それは……はい。彼女はまあ、思春期なだけですし」
「じゃあ誰が裏切り者だと言うんです」
「それは───────」