「はっ!ここは!?」
「目を覚まされましたか」
目を覚ますとベッドの上。掴みどころのない笑みを浮かべるサクラコさんともう1人のシスターが心配そうに僕の顔を覗き込んでいた。
「す、すみません。私のせいで……?」
あまりにもでかすぎる胸部に再び卒倒しそうになりながらも何とか意識を保つ。もうここまで差があると嫉妬すら湧いてこない。嘘、めちゃくちゃ羨ましい。
「いえ、ちょっと目眩が……」
目眩ごときで気絶するか、というツッコミはさておき。優しそうな人だが、これもシスターフッドの偉い人なのだろうか。サクラコさんは間違いなくそうなんだろうけど。
「あ、私は若葉ヒナタって言います!これからよろしくお願いします、クララさん」
「あ、はい。よろしくお願いします」
また名前が知られてる。もしかして有名人か?僕。
「サクラコ様からお話は聞いております。なんでもシスターフッドに必要なすごい方なんだとか……」
ですよね、コミュ障なのに名が知れ渡ってるわけないよね。ていうかさっき初対面だったのにその評価はどうなの?
「いや、正直ワタクシもあまり要領を得ないというか……」
「そうなのですか?」
ヒナタさんがサクラコさんの方に振り返る。するとサクラコさんは意味深に目を閉じてゆっくりと頷いた。
「な、なるほど……」
何が???
え、何今の。阿吽の呼吸というにはあまりにもヒナタさんの表情が何も理解してなさすぎるでしょ。
「よくわかりませんが、改めてよろしくお願いします!」
よくわからないんじゃん。
お互いに頭にはてなを浮かべながらの自己紹介が終わると、サクラコさんが口を開いた。
「2人には早速、お願いしたいことがあります」
「は、はい!なんでしょうか……?」
まさか初仕事が入ってすぐとは驚いた、新人研修とかないんだ。まあそれもそうか、あんな急な勧誘だったんだしなにか任せたいことがあったんだろう。そして今から任されるものがそれ、というわけだ。
「先日ヒナタさんが参加した地下の調査…………その未探索部分の追加調査を貴方達にお願いしたいのです」
「そ、それは私たち二人で、でしょうか……?」
ヒナタさんの問いにサクラコさんは頷く。ヒナタさんの表情を見るに簡単な話ではなさそうだ。
「なるほど、クララさんはお強いんですね!一緒にがんばりましょう!」
「お待ちになって!?」
聞いてない聞いてない。え、僕強いの?魔術使えないけど。
「サクラコさん?ワタクシあまり戦闘は経験がないんですわよ」
「なるほど。しかし心配いりません、ヒナタさんが一緒にいれば問題ないでしょう」
今度はヒナタさんの顔が驚愕に染まる。この人全然話通してないじゃん、大丈夫?
「わ、私に出来るでしょうか……?」
「ええ、シスターヒナタ。貴方なら必ず成し遂げられますよ」
「わかりました……!頑張ります!」
オドオドしてると思ったけど切り替えも決断も早い。性格の割に結構いける子なんだ。
そんな子がバディなら安心だ。僕もお荷物になるつもりはないけどね。
「詳しいことはヒナタさんの口から聞いた方が良いでしょう。それでは2人とも、よろしくお願いします」
ん、待てよ。何か忘れているような……あ。
「あの、採寸は……?」
僕が急に倒れてしまったせいで採寸の話が後回しになってしまったはずだ。
「ああ、それならば貴方が寝ている間に済ませておきました」
「あ、ああ……ありがとうございますわ」
巨乳2人に囲まれるという辱めを受けながら、絶望の格差の中で採寸をするものだと覚悟していたけれど……。ホッと息を吐く動作がサクラコさんとシンクロする。
なんで?
「足元には注意してくださいね。色んなものが転がってたりするので…」
このトリニティ総合学園、超デカいだけの学校かと思ってたら地下にも色々とあるらしい。というかこっちの方が規模が大きい説すらあるようだ。地下にこんな空間あったら崩れた時大変なことになるんじゃないの?
「前回の調査では左の方に進んだので、今回は右の道を行きます」
ヒナタさんが前に進む。それに合わせて僕も進んでいくわけだが、手に持っている明かりがまあなんとも旧式だ。もっと奥まで照らせるライトだってあるはずなのに、なんでこんなに周りしか照らせないランプを使わなきゃならないんだ。
「ライトを使うと側面の壁や天井などの様子がわかりづらいからだそうです。調査ですから、壁や足元や天井、どこに何が書かれているかも大切なことなんです。受け売りですけど……」
なるほど、一理ある。先程からゆっくりとあたりの様子を確認しながら進んでいたのは、慎重になっているだけじゃなかったんだ。
それに辺りを照らそうとすると指向性のある光源は不向き、しかも強い光を手元に持ってしまっては邪魔になるというわけか。むむむ、僕もまだまだだ。
その後も足元や天井といった見落としやすいところを注意深く観察していると、ヒナタさんが立ち止まった。
「クララさん、右の壁を見てください」
灯りが仄かに照らすその先には、短いながらも何か文字が書いてある。ヒナタさんと2人で近づくと、見覚えのある文字が書いてあった。
「古代の言葉ですね。……私には読めないんですけど」
申し訳なさそうに困り顔で笑うヒナタさんを横目に、僕はその文字に目を通した。間違いない、間違えるはずがない。でもどうしてここに僕たちの使っていた文字が書いてあるんだ?
「"銃火器は第3管理室に移動させた"……」
内容はメモ書きのようなもの。それもわざわざこんな所に書くまでもない、1度伝えれば済むようなことを何故ここに?
1番考えられるのは個別に連絡するのが手間だった可能性……つまり旧トリニティには多くの人間がいたということになる。いや、この規模の地下空間を使っていた人間だ、かなりの数がいたとしてもおかしくはないか。
「ク、クララさん!もしかして読めるんですか!?」
顔が近い!可愛い!…………じゃなくて、まずい!なんの偶然かは知らないが、古代文字とされている言語を読み取ることが出来るというのは下手したら僕の正体に繋がりかねない!
「あ、その、いえ!間違い!間違いですわ!見た事のある文字だと思っていたんですが、思い違いだったようですわ~~~!」
必死で誤魔化すも、ヒナタさんは「でも……」と流されなそうな雰囲気。そりゃそうだ、綺麗に文章として読み取ってしまった以上余程の間違いをしていない限り疑いを晴らすことは出来ない。
くっ、思わず声に出して読んでしまった。どうすれば───────
「危ないっ!」
焦っているところにヒナタさんが覆いかぶさってきた。え、何?もう頭おかしくなっちゃいそう。
「罠……だったみたいです。恐らくこの文章に近付くと作動する仕掛けだったんだと思います」
僕達がさっきまでいた所には鋭い槍のような棒状の武器が壁から突き出ていた。メモ書きの前に罠を置いておくとか古代人の脳みそはどうなってるんだ?
「こんな罠が色んなところに……?」
「はい、こうした調査では少なくない頻度で見つかることがあります」
さっきの反射神経は完全に慣れている人のソレだった。信じたくないけど本当みたいだ。ホワイ古代ピーポー。
「先程の文章は見られたくないものだったのでしょうか……」
「……!!きっとそうに違いありませんわ!ワタクシの読み取りは間違っていたと言うことですわ!」
「そ、そうなのですか?」
「はい!ワタクシはメモのような伝達事項だと思っていましたが、そんな文章の前に罠を設置するわけがありませんわ!」
「そう、ですね……」
サンキュー古代人、お前らの頭がおかしかったおかげで僕は危機を脱した。ヒナタさんは何故か残念そうだけど、僕的にはラッキーofラッキーだ。
「さあヒナタさん、探索を続けますわよ!」
「は、はい!」
ご機嫌な僕に引っ張られ困惑気味のヒナタさんが駆け足でついてくる。もう怖いものなんてない!
無事帰還したのでサクラコさんに報告。僕が読み取ったその他の情報からもどうやら倉庫のように使われていた場所らしい。もちろんヒナタさんには言っていない。
ただ最初のメモからも読み取った通りその役割は他の施設に移されたらしく、僕達が調査した限りでは何も残っていなかった。いつ放棄されたのかまではわからなかったけど、長いこと(古代の施設だから当たり前ではある)使われていなかったようだ。
「ふむ……」
ヒナタさんと僕では古代文字を読むことは出来ないことになっているので、撮影した文字の写真をサクラコさんに提出した。専門用語が混ざっていて正確に読み取れない部分があったことを考えると、僕の解読能力の有無に関係なくサクラコさんに提出するのが最善だったと言える。
何が言いたいかというと、僕が読めるかどうかは関係ない、つまりは読めることを知らせなくてもいいという言い訳だ。騙しているという事実は心苦しいけれど、流石に事案の重大さ故に許して欲しい。
「どうやらこの施設は早い段階で使われなくなったようですね。特に発見がなかった点からも……ええ、この推測は正しいと思います」
サクラコさんも僕と同じ結論らしい。それはつまり、僕が古代文字を読めることの証明にもなる。イングルと呼ばれる僕達が使っていた文字が、何故ここに記されているかは不明だ。
……いや、可能性はある。それは、僕が飛ばされたのが別の世界ではなく同じ世界の未来だった可能性だ。
そう考えれば辻褄が合う。僕がこのトリニティで目を覚ましたのは、僕が過去に死んだ場所が今のトリニティとなっていたから。この世界の技術が僕の生前よりも大きく進歩していることだって説明がつく。
そして僕の今の体、つまりこの子は僕が意識を乗っ取ってしまったのではなく、僕の生まれ変わりだったということだ。突然前世の記憶に目覚めた理由はまだわからないが、サクラコさんの言う『予言の子』というワードから推測するに僕が目覚めることは必然だったんだろう。
現代の知識がある理由も納得出来る。僕の生まれ変わりとなって生きていた少女が蓄えたものに、前世の記憶が枝を継ぐように付け足されたからだ。目覚めるまでの記憶が無いのは気掛かりだが……そのうちなにか思い出すかもしれない、焦る必要は無い。
近付いている、少しずつだが運命は僕を導いている。僕は何者なのか、何故この時代に選ばれたのか、その理由が明かされる日は近い。これは現代風に言うのならばアレだ。
勝ったな風呂入ってくるというやつだ。
日記にある通り迷推理です。クララちゃんはバカではないけど安直な思考するタイプ。