ペラリ。
ページの捲れる音。視線を落とすと机に向かって熱心に書物を読む時上クララさんの姿。
彼女が読んでいるのはどれも古代語で書かれている書物で、シスターフッドの中でも解読出来るものはそう多くありません。
あの浦和ハナコさんも、辞書を使わずに解読することは出来ないと仰っていました。それだけでも凄いことなのですけれど。
(そんな類い稀なる才能を持つハナコさんには是非ともシスターフッドに入って欲しいのですが……)
入学して間もないというのに既に多くの才で人々を魅了してきた浦和ハナコさんには、ティーパーティーを含む色々な組織からの勧誘が来ていると聞きます。そしてそのどれに対しても首を縦に振らないという話も。
クララさんとハナコさんがお友達であると知った時には、これも神のお導きに違いないと思いました。そして再度ハナコさんの元へと向かったのです。きっとお友達と一緒なら不安も少ないと、そう思いクララさんがシスターフッドに入ったことを伝えました。
『……クララちゃんが?それは、自分の意思でですか?』
何故かハナコさんに誤解を与えてしまったのです。私達が無理にクララさんを引き入れたのではないかと、疑いの目を向けられてしまいました。
『ええ、もちろんです。私達は一切彼女に強要はしていません』
『……なるほど、そういうことですか』
なるべく刺激しないよう、笑顔で接しているはずなのですが、ハナコさんの目つきが更に鋭くなります。何故でしょう、誤解が深まっています。
『ハナコさん、貴方は誤解をしています』
『ええ、きっと誤解なのでしょう。そうでなくては困りますから』
『クララちゃんと、話をさせてください』
人の笑顔がこんなにも恐ろしいと思ったことはありませんでした。
そういった経緯からクララさんをお呼びしに参ったのですが、どうやら彼女もそれどころではない様子。
彼女が1冊読み終えたタイミングで声をかけてみましょう。
「クララさん……」
「どわあああああぁぁぁ!?!?」
ああ、驚かせてしまいました。
「急に声をかけてしまい、申し訳ありません」
「いっいえ!なんでもないですわよ!?」
彼女の言葉選びには度々引っかかる点があるのですが、ひとまず置いておきましょう。
彼女の読んでいた書物は全て古代語で書かれている。彼女は辞書を用いずにこの書物を熟読している。つまりはそういうことになります。
「しかし私も驚きました。クララさんは古代語を理解しているのですね」
「なっ………なんのことですわ?」
それは無理があるでしょう。理解できない言語で書かれている本をまるまる1冊読み終えるなど、常人に出来ましょうか。
「ご謙遜なさらずとも、その才は誇るべき……いいえ、トリニティの宝と言っても差し支えないでしょう」
「いやいや、それは過言じゃ……………じゃなくて!わ、ワタクシは古代語なんてサッパリですわ!ただ形がかっこいいな~~~って眺めてただけですわよ!」
流石に苦しすぎませんか……しかし、これだけ必死に否定するということは彼女にとって触れられたくないことなのでしょう。
「……わかりました、そういう事にしておきましょう」
あまりにもな言い訳に少し口元が緩んでしまいました。何故か彼女の顔が怯えているように見えるのは気のせいでしょうか。
「ああ、そうでした。クララさんに『お願い』がひとつあったのです」
「お、お願い……」
ゴクリ、と生唾を呑む音が静かな資料室に響きます。なにか警戒されているように感じますが、物騒な内容ではありませんから。
「ハナコさんと『お話』をして頂きたいのです」
「お話……」
「はい。先日、私の不手際によりハナコさんにあらぬ誤解を与えてしまいました。その誤解を解いてもらいたい、ということです」
「なる、ほど。それでワタクシは、何を言えば…?」
「何を、と具体的に指定するつもりはありません。ただ事実を、そしてハナコさんから何か尋ねられるようであれば、心に思ったことを正直に。それだけで良いのです」
「わ、わかりました……」
しばしの間があったものの、快く引き受けて頂けました。
「では、よろしくお願い致します」
資料室を後にするクララさんを見送り、ほっと一息。よかった、これでハナコさんの誤解もなくなるでしょう。ご友人からの言葉であれば信じていただけるに違いありません。
ふと、クララさんの読んでいた書物に目を落とすと、それはトリニティの歴史にまつわるものの中でもかなり古いものでした。これに記された内容は翻訳されてトリニティの授業にも使われているはず。
そもそも多くの古典はその歴史が多くの人々に知れ渡るように参考書などに翻訳後のものが載っているはず。わざわざ現物を手に取る理由があるとは言い難いのですが……まさか彼女は───────
将来、考古学者になりたいのでしょうか。
セイアちゃんといい、トリニティの人達どうしてこんなに言葉が足りないん……?