過酷なゴズによって執筆を妨害されています、助けてください神様仏様ヒナタ様
「………………」
「………………」
気まずっ。ハナコさんとお友達になってからそこそこの時間が経ったと思うけど、こんなに気まずい空気なのは初めてだ。
それもそのはず、彼女からしてみれば僕はシスターフッドからの使者。警戒しない理由がない。というかサクラコさんは何を言ってしまったんだ?あんな温厚なハナコさんを怒らせるなんて相当のことをしないと無理な気がする。
いや怒ってるのか?なんかこう、じっと見つめられているというか、心配されているというか。なんだか居心地が悪い空気感だ。
「えぇと、ハナコさん……?」
「……はい」
会話が進まない。そもそも僕がそんなに会話が得意なタイプでは無い。本来の喋り方なら明るさを滲ませてそれとなく誤魔化しが効くんだけど、お嬢様言葉じゃカタすぎてそうもいかない。
「その……誤解をしている、んですわよね?」
「誤解、と言いますと?」
知らないんだよねこれが。誤解を解いてほしいとは言われたものの何をどう誤解しているのかは聞いてないんだよ。聞かなかった僕も悪いけど、サクラコさんももう少し丁寧に説明してくれても良かったんじゃない?
「……誤解は誤解です」
「えぇ……?」
3点リーダーが多い!ハナコさんは疑ってるし僕はどう話していいかわからないし。僕が行けば解決するとか言ってたけど兆しが一向に見えない。
「……あのですね、正直ワタクシもよくわかってないんですわ。ハナコさんは何を誤解しているんですの?」
こうなればもう本人に聞くしかない。説得に来た人間がするべき事じゃないけど、こうでもしないと話が進まない。
「私も要領を得ないのですが……クララちゃんはサクラコさんの頼みで来たんですよね?」
「そうですわ。誤解を解いてきて欲しい、ワタクシにしか出来ないと、そう言われてとりあえずハナコさんにモモトークを送って呼び出したはいいものの、そもそも誤解ってなんの事ですの?」
「ふむ………………概ね理解しました」
「今ので!?」
もう読心術とかそんなレベルだよこれ。
「クララちゃん、聞かせてください。正直に、本心から答えて欲しいです」
「はいッ!なんでしょう!?」
「クララちゃんは自分の意思でシスターフッドに入り、活動をしている。これに間違いはありませんか?」
「え、ええ。そうですわ」
「何故シスターフッドなのですか?クララちゃんはシスターフッドで、何をしたいんですか?」
「それは……」
『異世界から飛ばされてきた理由を探しています』
はいダメー。終わりだよこんなこと言ったら。誤解は深まり僕は縁を切られ明日にはトリニティに迷い込んだ狂人として十字架に張り付けられてるに違いない。
「……言いづらいことですか?」
「その…………はい。申し訳ありませんが、ハナコさんにもあまり言いたくないことというか……」
結局僕の取れる選択は黙秘のみだった。下手な嘘をつけば余計に誤解されかねないし、僕が来た意味がなくなる。本当のことも言えないし、苦しいけれど正直に教えられませんと告げる他ない。
「わかりました。クララちゃんの言うことですから、私は信じます」
「ほ、本当ですか!?よかったですわ~!」
「私も安心しました。クララちゃんが騙されてるんじゃないかって、心配だったんです」
「そ、そうですか?サクラコさんはそんな人には見えませんが……」
「シスターフッドはボランティアや各部活の援助等様々な慈善活動をしています。ですがそれと同時に黒い噂がトリニティ内の一部では流れている、という事実もあります。私はまだ全てを知っているわけではありませんが、シスターフッドが公表していない事実というのは結構あるんですよ?」
「それは、何故……?」
「さあ?そこまでは私にはわかりません。彼女たちが何を思い、何を善しとしているのか、それを知るのはクララちゃんの方が先なのでしょうね」
ハナコさんはすっと目を細めて、僕の髪を撫でた。髪型を作るのが面倒で全て下ろしていたが、さすがにこの気温には耐えられなかったので後ろで結んでいた。その毛量たるや、耳に掛かりきらなかった分の髪が垂れている。それをハナコさんは優しく持ち上げた。
「綺麗なアッシュの髪だと思っていましたが、緑のインナーカラーが入ってたんですね。私、知りませんでした」
「へ、変ですか?夏休みからずっとこの髪型だったので、その、シスターフッドの皆さんにお恥ずかしいものを見せてしまったのでは……」
「いいえ、とっても可愛いですよ。サイドから下ろした緑の髪と水色の瞳が、まるで誰も知らないところで流れる小さな滝みたいで……」
「ス、ストップ!ストップですわ!なんか恥ずかしくなってきましたわ!」
ハナコさん、急に口説き始めるからビックリした。顔あっつい。
でもなんか、いつもと違う。ハナコさんはたまに……いや結構な頻度でストレートに褒めるから、照れさせられることもしばしば。そういう時は大体照れちゃって可愛いなぁくらいの感じで笑顔を浮かべてるんだけど、今は少し寂しそうだ。
「……誰も知らなかった場所、私が一番最初に見つけられたらよかったのに」
「?」
「ふふ、なんでもありませんよ♡」
なんだか、よくわからなかった。ハナコさんの聡明さについていける頭は僕にはない。
「さて、そろそろ行きましょうか。サクラコさんには後で謝っておきます。クララちゃんにも、ご迷惑をおかけしました」
「そ、そんなこと!ハナコさんはワタクシを心配していた、感じですわよね?そんなの、ワタクシの方こそ謝らないと……」
「私がひとりで空回りしていただけですから。クララちゃん、シスターフッドの活動がんばってくださいね」
「は、はい!」
そうして僕らは別れた。シスターフッドの黒い噂、隠蔽されている真実、そんな話を聞いても僕はサクラコさんやヒナタさんを疑うことが出来なかった。懐柔されているのかもしれないけど、2人の善性に疑問を持つということが正しいとは思えなかった。
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「うーん……」
この書物も読み終わった。やはり古代語というのは僕達の使っていた文字とほぼ同じものだと考えて間違いない。たまに専門用語みたいなものが出てきて解読不能になるが、大凡の文章の流れは前世での知識で読み解くことが出来る。
ところが、この書物に書かれている内容に全く覚えがない。過去に起きた出来事も、この学校の成り立ちも、どれも僕が知らないことだらけだった。この文字が使われていたのなら、少なくとも僕が住んでいた国の周辺地域で起こったことに違いはないはずだ。
加えて、魔術に関する記録が一切ない。あれほど生活にも戦争にも組み込まれていた文明の利器について、どの書物であれ一度も触れていないというのはおかしい。考えられる可能性は、僕の生きていた時代の記録はその全てが戦火などで焼けてしまったというものだが、仮にそうだったとしても時代の痕跡が文字を残して全て消えてしまったというのは現実的じゃない。
つまり、僕は過去から未来へ渡ったのではなく言語が限りなく近い推移をした別の世界へと飛ばされたというのが最も可能性の高い結論だ。
「うーん………………」
これは僕にとって非常に認めがたい現実だ。折角生前の記憶との関連性を見つけたのに振り出しに戻された。しかもこの結論は、僕に関する情報をこの世界で見つけるのがより難しいことを示している。振り出しどころか悪化しているまである。
ていうか予言の子ってなんだよ。読んでみたら"今年入学するトリニティ生で、夏休み初日の日付に学園を訪れる生徒"とかいう絶妙に僕とは言い切れない特定のされ方だったよ。
これ僕より後に訪れた生徒が実は予言の子でしたみたいなオチにならない?おかげでシスターフッドに入れたのはラッキーだったけど。
とまあそんなわけで、僕が何者かを知るのはもう少し先の話になりそうだった。最悪この学園にいるうちに何かを掴めれば良しとするか……。
資料あさりはこれくらいにして、夕方のボランティア活動に備えて準備を始めよう。
「あら。こんにちは、シスタークララ」
「あ、ええと、こんにちはですわ」
資料室から出ると、バッタリと他のシスターと鉢合わせた。名前を呼ばれてびっくりしたけど、そういえば僕も自己紹介を終えた身だった。
先日、シスターフッド内での顔合わせがあった。結構な人数がいたのにも驚いたし、何よりタイミングが中途半端だっただけに僕しか自己紹介をする人間がいなかったというのもあるのか、僕の名前はそこそこ覚えられているらしい。
あの、君もちゃんと胸大きいね。なんか見渡す限り巨乳のシスターばっかりで僕疎外感凄かったよ。さすがにヒナタさんレベルの人はなかなかいなかったけどさ。もしかして素晴らしいシスターの条件の中に巨乳って項目あるのかな?信心深くもなければ胸も小さいってもうシスター失格じゃんね。
「貴方もボランティアに参加するんですか?」
「は、はい。資料室の整理が終わったので、準備をしようかなと……」
「丁度良かった、私も参加するんです。おそらく初参加でしょうから、私が色々と教えましょう」
「ありがとうございますわ」
なんて優しいんだ。僕が嫉妬の炎を燃やしている間に僕の手を取ってくれるなんて、自分が恥ずかしい。
いややっぱり妬ましい。もし僕をこの世界に転生させたやつがわかったら、前世と同じく貧乳の体に生まれさせたことを問い詰めてやる。
ちなみに前世では金髪ショートの156cmくらいでした。身長は変わらないけど髪がめちゃくちゃ伸びて扱いに困ってるクララちゃんです。
杏山カズサのインナーカラー可愛すぎて狂う。