クララちゃんへっぽことか単純バカとか言われててワロタ。ちょっと楽観的なだけだよ!へっぽこは……まあ、うん。バカもまあ……そう。
「あ、サクラコサマ」
その一言で空気が凍りついた。まるで錆び付いた機械のごとくこちらをギギギという効果音と共に振り向くのは歌住サクラコその人である。
「……クララさん、どうされましたか?」
いつもより当社比3倍増しで威圧感のある笑顔に気付かないふりをしつつ要件を伝える。
「実はヒナタさんから伝言を頼まれていまして」
ヒナタからの伝言。別に大して緊急のものでは無いが、備品に関する報告だ。虫の居所が悪いであろうサクラコ"サマ"には悪いけれど、破損した備品を取り替えて欲しいとの連絡。
「ああ…………わかりました…………」
しかしサクラコ"サマ"は何処か上の空だ。なんとタイミングの悪いこと、僕はそそくさと退場しようとしたのだがサクラコ"サマ"の右手が肩を掴んで離さない。
「待ってください。少々尋ねたいことがあります」
やば、もしかしてヒナタさんが壊したことバレてる?不慮の事故につき見逃して欲しいというところが本音だけれど、この威圧感の前ではどうも上手く口が回らない。
「その、サクラコサマという呼び方はどうしたのですか?貴方はサクラコ"さん"と呼んでいましたよね?」
「え?あ、あー……みなさんがそう呼ぶので、合わせようかと」
意外にもサクラコサマの指摘した点は呼称に関する疑問だった。呼び方に拘る人には見えないけれど、流石に急に変えたら気になるのも無理はないよね。
「無理に人に合わせる必要はありませんよ?貴方の呼びやすいように呼んでいただいて構いませんから」
威圧感は増すばかり。しかし合わせる必要が無いで自由奔放に生きようものならこのトリニティ総合学園で浮いてしまうのは明らかで。
生前では国王すら呼び捨てにしていた僕もこの学園にいる間はみんなと同じように敬称をつけて呼んでいるわけだ。
「別に苦じゃないですわ。皆から尊敬される方には相応しい敬称ですし、それにサクラコサマはそういう風格のある方ですから」
こう、ボスって感じがするよね。人をまとめる側の人間って雰囲気がある。リーダーシップって言うのかな?使い方合ってるかわかんないけど。
シスターフッドの面々からの評価は様々だけど、みんな共通してるのは尊敬しているってところ。だから間違いなく慕われてはいるんだろうね。怒らせたらヤバいみたいな話もあるけど、まあ普段穏やかな人ほど怒った時は、みたいなよくある話だと思う。流石に命までは取らないよね?
「…………ええ、ええ。もちろん呼称に固執しているわけではありません。好きなように呼んでいただければ結構です。大事なのは関係性ですから、これからも"よろしく"お願い致しますね?」
「アッハイ!」
ああなんか怒ってる気がするこれ。もしかしてサマ付けられるの嫌なのかな?でもそれだったらシスターフッドの人皆殺しにされてるだろうしなー。まあ大事なのは関係性らしいので、これ以上詮索するのはやめておこう。間違っても直接尋ねてはいけない。
「では、ワタクシはこれで……」
サクラコサマの方を向いたままバックステップで離れていく。既に自分がどこに向かっているかもわからない。目を離した隙に急接近されている予感がして進行方向を向くことが出来ない。そうして僕は礼拝堂の奥へと押し込まれていった。
─────────────────────
礼拝堂の外に進んでいたつもりがさらに奥の方へと入っていったらしく、気づけばあかりは更に少なく、あたりは薄暗くなっていった。まだサクラコサマがいることを考えると礼拝堂には戻りづらいし、どうしようか。
「ちょっと、そこの貴方」
不意に声をかけられたから肩が大きく跳ねた。まさかこんなところに他の人がいたなんて。
「ど、どうかなさいまし?」
「……貴方ですね、シスターサクラコが連れてきたという新しい人は」
「多分、そうだと思いますわ」
「ふぅん…………どんな誘い文句でここに来たんです?」
流石にここで予言の子とか言い出したらヤバい目で見られる気がする。
「……ワタクシの力が必要だと、そう言っていただいたので」
「そ、それだけでですか?」
「? ︎︎はい!」
見知らぬシスターは信じられないと言いたげな目で僕を見た。
「お世辞だとか、都合よく利用されるとか、そういったことは考えなかったのですか……?」
「ええ、特には」
シスターの目が頭の悪い生徒を見る教師の目に変わった。
「……おめでたい事ですね。ですが、私から1つ忠告をして差し上げましょう。あまりシスターサクラコを信用しない方がいいですよ」
「そ、それはどうしてです?」
「あの人が何を企んでいるかは知りませんが、私達の知らぬところで組織を動かそうとしているようですよ?」
「はあ…………」
具体的なことが全く判明しなかったが、どうやらサクラコサマは疑われているらしい。
「大方多少才能があるからと天狗にでもなっているのでしょう。いずれはシスターフッドを乗っ取るつもりなのかもしれません」
乗っ取りとな。生前、王国内部でクーデターが何度か起きていたことを思い出す。
「今のうちに離れておいた方が身のためですよ。どうしてもというのであれば、今からでも私がお手伝いして差し上げましょうか?」
「え、別にいいですわ」
シスターの目が聞き分けの悪い子供を見る教師のソレに変わった。
「私の話を聞いていましたか?」
「はい、ちゃんと聞いていましたわ」
「それを聞いてなお、あの女につくと。そう言うのですか?」
「そういうつもりでもないですけど……」
「じゃあ、なんだと言うのです?頭の悪い貴方でも話の内容くらいは理解できるでしょう。シスターサクラコの陰謀を知ってなお、彼女の味方をすると、貴方の行動はそう言っているのと同じです」
「だから誰の味方とか考えてるわけじゃないですわって。サクラコサマが何をしようがワタクシの知ったことじゃないんですわ」
はぁ?とシスターが怪訝な顔をした。
「正気ですか?歴史あるシスターフッドの伝統を彼女が壊そうとしているのですよ?新参者とはいえ貴方にもシスターフッドの歴史がいかに大きく重要なものか、それくらいはわかるでしょう?」
「いや、全然わからないですわ。なんなら資料を見る限りシスターフッドの前身であるユステナ聖徒会は……」
「ユ・ス・ティ・ナ・です!」
怒られた。発音違うんだ。
「……ユスティナ聖徒会は、結構ヤバいことやってましたわよ?シスターフッドに名前を変えた今も、伝統的にエグい拷問とかやってるってことですの?」
「それは…………時代にそぐわない方法というものがあります。そういったものは自然と無くなっていくものです」
「であれば、シスターフッドの伝統とやらも時代と共に移り変わっていくものだと思いますわ。それを変えるのがサクラコサマだろうが誰だろうが、ワタクシの知ったことではありませんから」
シスターはギリリと歯軋りした。お嬢様がこんな怖い顔していいの?
「話にならない……!所詮はシスターサクラコの連れてきた人間、ですね」
そんなにサクラコサマを目の敵にしなくても。シスターフッドとは言え僕とそう大差ない年齢の女の子ばかりだし、まあこういった内部のギスギスもよくあることだ。なんなら年上のおっさんたちの方がこういうの多かった気がするけど、うちの王国。
と、ここでひとつ気になったことがある。
「すいません、今何年生ですか?」
「……2年生ですが、それが何か?そういう貴方は1年生でしょう」
なるほど。
「アナタは古代語読めるんですの?」
「古代語ですか?…………まあ、多少は」
なるほどなるほど。
まあこれ以上は邪推なので考えないようにしよう。すごい目で睨まれてるし。
その後不機嫌そうに去っていくシスターの背中を見届けた。せっかくだし僕も礼拝堂に戻ろう。
礼拝堂に戻るとまだサクラコサマがいた。お祈り中らしい。
「サクラコサマ?」
「……っ!?こほん、なんでしょう?」
ごめんねお祈りの邪魔しちゃって。ビックリしたよね。
「サクラコサマはシスターフッドを乗っ取るんですの?」
瞬間、サクラコサマがめちゃくちゃ嫌そうな顔をした。すごい苦いジュース飲んだみたいな顔だ。
「そ、それは誰から聞いたのです?」
「そこで会ったシスターの方が言ってましたわ」
「くっ……はぁ、あまりそういう捉え方はして欲しくないのですが……」
サクラコサマが初めて見せる表情だった。いつも穏やかな顔をしている人だと思っていたけど、色々と苦労もあるらしい。
「というか、クララさん。私が仮にそんな企みを持っていても、肯定するわけがないでしょう」
「まあ、そうですわね」
「ならどうして聞いたんですか……」
「反応が見たかったので」
「そうですか……」
残念ながら彼女は僕の悪戯心の被害者だ。結果としては普段見られない表情が拝めて収穫アリだったわけだが。
「……クララさん、貴方が何を信じるかは貴方の自由です」
「当たり前ですわね」
「ですから先の彼女の言葉を信じ着いていくのも、私は止めはしません。どうか後悔のない選択をしてください」
「何を選ばされているのかイマイチわかりませんが……ええ、まあ、はい!」
なんか真剣そうな顔してるし合わせとこう。着いていくも何も最初から自分のためにしか行動してないけどね。
クララちゃん:生前も派閥争いに巻き込まれそうになったら勧誘してきた人間全員ボコボコにして帰してる。他人の内ゲバとか死ぬほど興味無い。そんなことより魔術の研究だ!