一撃鍛冶師チャンネル   作:和成ソウイチ

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023.移動の最中に

 

「リコッタは何て?」

 

 刻哉に尋ねられ、フィステラは肩を震わせた。

 精霊少女の周囲を舞う蝶が、動揺で明滅する。なんと伝えたものかとフィステラは悩んだ。

 

「フィステラさん?」

「あの」

 

 躊躇いがちに口を開く。

 

「リコッタさんは、クィンクノーチの出身で……あまり、良い思い出がないようです」

「良い思い出?」

 

 言葉を濁しても、刻哉は容赦なく聞いてくる。

 刻哉とリコッタ、両者に良い格好をしようとしている自分に、フィステラは気づいた。

 腹を決める。

 今、この場でふたりの橋渡しができるのは精霊である自分だけだ、と。

 

「追放されたようです。そして、クィンクノーチに戻ることは、リコッタさんの命が危険にさらされることに繋がると」

「なるほど。前にフィステラさんが話してくれたやつだね。『理不尽な目に遭ったから精霊を嫌っている』って話。うん、いせストではその動画を流していなかった」

「ですから、クィンクノーチに向かうことにひどく抵抗があるそうです。わたしを殺す気か、と」

 

 それほどなのか、と刻哉は顎に手を当てた。

 しばらく考え、「じゃあ別の手にしよう」と彼は言う。

 

 フィステラは視線を感じた。リコッタが彼女をじっと睨んでいる。

 精霊少女は気圧されないよう、言った。

 

『トキヤさんが、鍛冶ができる拠点を求めています。でも、リコッタさんに危険が及ぶのであれば、別の手を考えようとおっしゃっています』

『トキヤが……』

 

 期せずして、刻哉と同じ考える姿勢を取るリコッタ。

 じろ、とフィステラは睨まれた。

 

『大精霊様、本当にトキヤがそう言ったの?』

『はい』

『そう……』

 

 視線の強さが和らぐ。

 獣人少女は、腰に下げた刻哉のナイフ擬きを触った。柄を何度か握ったり、離したりする。

 

『わたし、トキヤがやりたいことを最後までやれるようにするって決めたから……だから、わかった。案内する』

『リコッタさん……』

『大精霊様、トキヤに伝えて』

 

 リコッタは言った。

 

『クィンクノーチの街中には入れないけど、その代わり、わたしが知ってる秘密の隠れ家を教えてあげる――って』

 

 

 

 ――その後。

 

 刻哉たちは、まだ陽が明るいうちに移動を開始した。

 チーターたちがよく利用する街道を避け、川沿いを歩いてクィンクノーチ方面へ向かう。

 目的地は、クィンクノーチに隣接する小さな森の中だという。

 

 誰にも見つからないように動くということは、普段は誰も通らないルートを無理矢理進むということ。

 川沿いは大小不定形の石が転がり、足場がとても不安定だった。

 

 先頭を行くリコッタと彼女に続く刻哉が、それぞれ荷物を分担して運ぶ。獣人として類い希な運動能力を持つリコッタだが、かと言ってチーターのように万能なわけではない。

 持久力で言えば、最悪地粘材をかじればどうとでもなる刻哉の方が適性はあった。

 

 精霊少女は最後尾を行く。リコッタが合流した日からずっと、フィステラは気まずそうだった。

 精霊である彼女は身軽である一方、確たる肉体がない。重い荷物を運ぶには筋力とは別の力が必要になる。

 フィステラは荷物運びが苦手だった。

 

 彼女にとって、道中の沈黙は痛い。かたや自分を嫌う獣人少女、かたや普段は無口なコミュ障男。楽しい会話などあるはずもなかった。

 

 先頭を行くリコッタがぴたりと足を止める。それからおもむろに、ルートを変えた。

 彼女が避けた先に何かが――いや、()()()転がっていた。

 

「これは」

 

 フィステラが口元を抑える。

 石と石の間に挟まるように、半分腐敗した遺体が倒れていたのだ。

 

 服装が、赤黒く染まって破れたデニム生地の上下。

 外界人である。おそらく、男性。

 

『チーターが現れてから、増えた。こういうの』

 

 リコッタが言う。フィステラは通訳できなかった。

 刻哉は静かに、遺体に手を合わせる。

 

「トキヤさんは、平気なのですか?」

「平気じゃない。けど、山の中で動物たちの腐乱死体に遭遇することはあったから」

 

 それに自分もこうなる覚悟をしてたし――と彼は告げる。

 

「それよりフィステラさん」

「は、はい」

「俺たちのような外界人が死んでも、全員が全員、チーターになるわけじゃないんだね」

「そう、ですね。チーターとして蘇るためには、私や姉妹のような専用の能力を持った精霊が力を使うか、あるいは精霊が遺体に憑依するか、いずれかが必要です」

 

 ここまで損傷が進んでしまえば、チーターとして復活させることはできないだろう。

 

「それに、外界人なら誰でもチーターにする、というわけではありません。大噴禍を越えて、めぼしいスキルを所持するに至ったかどうか。それが判断基準になっています。精霊によっては、見た目の好みも強く反映されるようですが……」

「そっか。じゃあフィステラさん、俺が死んだときはその辺に捨て置いていいからね」

「そんなことしません!」

 

 フィステラは憤慨した。

 

「チーターにもさせませんから、トキヤさんは!」

「じゃあ頑張って生きないと」

 

 刻哉は応えた。

 相変わらず平坦な表情をしているが、口元と目元がほんの少しだけ、緩んでいる。

 そんな刻哉を、先頭のリコッタが頬を膨らませながら見つめていた。

 

 ――やがて。

 なんとかチーターに出逢うことなく、彼らは目的地の森の外縁へとたどり着いた。

 

 

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