さあついに登場しました本作の怪人第一号。
その名も、ゾンビ(迫真)。
人間をカウントしても良いなら『教徒』が初ですかね。怪人とは、ってなるけど……。
ほどなくして、地下空間の最奥に辿り着いた。
コンクリートの壁の手前、小さな台座が置いてあるだけの殺風景な空間だ。しかしその場所そのものに不思議な圧力が感じられる。台座を囲むローブ姿の教徒たち……そんな光景が容易に想像できてしまう凄みがあった。
「まるで、祭壇ね」
『言い得て妙だな。そうすると奴らが崇めていたのは――』
「――これ、ということになるかしらね」
ふたりの視線は祭壇じみた台座の上、そこに静かに、それでいて堂々とした雰囲気で置かれている小箱に注がれていた。不気味な装飾に、星形の紋章が刻まれた蓋。まるで何もないところからその場に出現したかのような存在感を持つその箱は、廻にとって見覚えのある造型だった。
「わたしが2日前に盗み出した物と同じ箱だわ」
『大量の人員を割いて女子高生を追いかけ回すような、重要な物がもうひとつあった、と』
「今、軽くスキャンをかけたのだけれど、中身もわたしの知っている物と同じかもしれない」
『開けて大丈夫なのか?』
「少なくとも形と構成物質は同じだった」
『いつの間にそんなことまで調べたのか、ってツッコミは置いとくよ。……気をつけて』
廻は恐る恐る、箱を開けた。そして半分予想通り、半分予想を裏切られたような複雑な表情になる。
「やっぱり。でもこれは……」
『なんだ? “
不気味な小箱から出てきたのは、一転してスマートな見た目の四角いアイテム。手のひらに乗る……絆創膏の箱程度のサイズ感のメカメカしいものだ。クリアブルーのコーティングで文字が刻まれていて、これまたメカメカしいサメの模様も見える。
「……これは、“プログライズキー”」
『は……?』
「アマゾン細胞・ゾンビと同じく、教団の扱う“この時空に存在しない技術”のひとつよ」
夜。団地の遊具には子供たちの姿はなく、各部屋の窓に灯る明かりからは温かな団らんが聞こえてくるようだった。
「じゃあ、その『プログライズキー』とかいうやつが一体なんなのか、まだ分からないんだな」
「ええ。一昨日盗んだものを何度か解析してみたのだけれど、用途は分からないままだった。いま判明しているのは『プログライズキー』という名称と――」
「それが“存在しない技術”で造られているということ、だな」
ふたりは英会話教室の探索を終え、帰路についていた。入手した『バイティング・シャーク』と記されたキーは、廻のリュックの中に小箱ごと入れられている。
「いまいちイメージできないんだけど、なんで“存在しない”って分かるんだ? 未知の物質が使われているとか?」
「それもあるわ、回路の一部に、未知の流体金属が使用されていた」
「なるほどな。で、それもあるってことは、他にもあるってことだな? 心当たりとか?」
「……」
黙り込む廻。
「ああ、ごめんごめん。必要性を感じたらでいいからまた教えてよ。そのあたりの難しいことは分からないままでも、俺は戦えるからさ」
「いえ。わたしも軽率に思わせぶりなことを言ってしまったわ」
「てかまあ、存在を疑うようなぶっ飛んだ代物は他にもあるしな。アマゾン細胞も、さっきのゾンビも……普通に考えたらあり得ない」
「あなたの『アマゾンズドライバー』も、未知の技術と言わざるを得ないわよね」
「ああ。プログライズキーもこのドライバーも、一見、現代科学の範疇にいそうな見た目なのにな」
有名なゾンビもののゲームでは、ゾンビは死霊術のような摩訶不思議パワーではなく、人工のウイルス、つまり人間の技術によって生まれるものだと描写されている。しかし現実でそのウイルスが再現可能かどうかと言われると、まあまず無理だと誰もが言うだろう。
だが実際、一織はアマゾンラムダに変身できるし、14人の教徒はゾンビになった。目で見て体験している以上、“存在しない技術”が存在していることを受け入れなくてはならない。
「でも……変じゃないか? アマゾンもゾンビもプログライズキーも、あり得ない超技術で教団が生み出したと仮定して。……なんか、ばらばら過ぎないか?」
「そこよ。これだけ奴らの所業を目の当たりにしても、全くもって全体像が見えてこない。『翡翠の光』が結局、なにがしたいのか分からない」
「パズルのピースが揃わない、なんてもんじゃないな。パズルのピースと、プラモデルのパーツと、知恵の輪の片割れをひとつずつ渡されたような感じだ」
「ええ……統一感がまるでないのよ。しかもアマゾンラムダに関しては、生み出すだけ生み出しておきながら放っておいたままにしている」
廻はその目で、ラムダの力を見ている。本気を出したアマゾンには、軽く武装した程度の人間など束になっても勝てないだろう。そんな存在が数体でも解き放たれたら、波妃町を血の海に変えることだって容易いはずだ。
ゾンビだってそうだ。もしあの教徒たちがウイルスのようなもので生まれたゾンビなら、ウイルスをばらまくだけで街は終わる。あとは壊滅した街の映像でも流せば、世界征服の第一歩がお手軽に完成するだろう。
でもそれらをしない。ゾンビもアマゾンも街に蔓延ってはおらず、住民がたまに謎催眠で操られる以外、波妃町の表向きは至って平和なのだ。
「ああ、そもそも『教徒』が教団とどんな関係なのか、あの催眠状態のようなものはなんなのか。この辺りも未だ謎のままだったわ……」
廻が額を押さえると、一織は笑い飛ばすように声を掛ける。
「まあ、追々でしょ、その辺は。俺のスカスカな2年間を思えば、とんでもなく大きな前進だ」
「ほんと……おめでたい思考ですこと。あなたのそのお気楽な姿勢、わたしは嫌いよ」
でも――と、廻は歩みを止めた。
「あなたの能力は、評価してあげてもいい」
「おっ」
目を見開く一織に構わず、彼女は再び歩き出す。
「これからも馬車馬のようにこき使うから、そのつもりでいなさい」
「ははっ」
あんまりな言い草だが、その言葉尻は今までで一番柔らかい……気がした。
「馬じゃなくてサメ、だけどな」
「………」
「ごめん今のは俺が悪かったいやマジで」
「信じられないわ。まるで今までのは悪くなかったみたいな言い方じゃない」
「そんなに酷かったのか俺との会話!?」
「百歩譲っても最悪よ」
「まあなんでもいいか。それよりお腹空いた。霧島さんなにか食べたいものある?」
「同席前提の質問に吐き気を禁じ得ないわ」
「いいだろ別に!? どうせこれからacquarioに帰るんだし!」
「食材も何もないわよ」
「ちくしょうそうだった。……インドカレー屋行く?」
「おひとりでどうぞ」
日は沈み、激動の3日間は幕を閉じる。
この日、駅前の裏路地に初めて灯った小さな明かり。
それはちっぽけで、不揃いで、でも確かにそこにある、反逆の
* *
同時刻。
サカタ英会話教室、地下空間にて。
『――ふむ』
空っぽになった台座を見つめる――異形の人影があった。
ガスマスクのような造型の仮面。
鈍い黄色と漆黒が入り交じる全身装甲。
胴体に絡みつくように這わされた無数のパイプ。
そして、右手に握られた大型拳銃のような装置。
機械的とも生物的とも見えるその容貌。確かなことはそれらが“この世の
『さてと……どう弁解したものでしょうか』
台座の天板を指先で撫で、地下の暗がりの中を漂うように歩き出す。
『このロッジの成果は回収できず。それもどうやら……』
地下空間の中央付近。そこの床には人外の力でえぐり取られたような大きな破壊跡がある。さらに出口周辺の壁際には、ひっそりと並べられた14枚のローブ。
『……酒田氏が儀式に失敗した線は消えるでしょうかねぇ。はてさて、おイタが過ぎるのはどこのどちら様やら』
その異形は振り返ると、空っぽの台座を改めて一瞥した。
『やはりスケジュール管理体制には修正が必要そうだ。世話が焼けますねぇ――……』
気怠そうに、どこか楽しそうに。
その後ろ姿は、灰色の蒸気の中に消えていった。
第1幕 meguriAi ――END
イチゴころころです。
ここまで読んでいただきありがとうございました! 第1幕、終幕です。
第2幕の前に、ここまでの登場人物リストや用語集、エネミーリスト(ゾンビくらいしかいないけど)を作ってみたいと思っています。
ご意見・ご感想等いただけますと励みになります。お待ちしておりますm(__)m
物語はまだまだ続きます。
次回もよろしくお願いします!