こんにちは。イチゴころころです。
おかげさまで500UA到達しました! ありがとうございます!
今回は珍しく(?)戦闘メインです。
是非お好みの戦闘用BGMと共にご覧ください。
川の流れる轟音が空気を震わせる地下室の中で、打撃と銃撃の音が断続的に響く。
『そぉれ――!』
イエローガイストが一呼吸で7発の銃撃を放ち、ラムダは7発すべてを両腕でたたき落として距離を詰める。
『はああっ!』
一瞬にして肉薄したラムダは右手を振り抜くが、その拳とブレードはどちらも空を切った。続けざまに2撃目、3撃目と、蹴りも交えながらの連撃で追い立てるも、ひとつとして手応えはない。
イエローガイストはすべての攻撃を紙一重で避けていた。ふわりふわりと、まるで宙に浮いた一本の糸くずのように攻撃をかいくぐる様はまさしく亡霊だ。
だが、
『おや? おやおや。今のは決まったと、思ったのですが……』
ラムダ怒濤の連続攻撃、その呼吸の間を縫うように放たれたイエローガイストの手刀は、吸い付くように伸びてきた青色の右手に掴まれていた。
『いやはや、困りました――ねエっ!』
イエローガイストは空いたままの右手――そこに握られた大型拳銃を閃かせるが、
『ふっ!!』
それに応じるようにラムダも空いた左手を振り、銃口をかち上げる。重たい銃声が天井を穿ち、両者はそのまま組み合う形となる。
『ちょこまかと逃げてくれちゃって……ようやく捕まえたぞ』
『おやおやご存じないのですか? タコは簡単には……捕らえられないと!』
ぬるり。と、突然脱力されるイエローガイストの両腕。
彼の身体はまるで骨が消失したかのようにしなり、ラムダの拘束を一瞬にして抜けた。
『うおっ、気持ち悪っ!?』
『――そして逆に、掴むのが得意なのだと、ね』
ひらひらと振るわれるイエローガイストの手元に、いつの間にかかすめ取ったフライングファルコンのプログライズキー。
『あっ……!』
驚愕するラムダの隙を突いて、漆黒の体躯は跳び上がる。彼はそのまま宙返りしてラムダの背後に着地した。
『お前……、痛っ!?』
振り返ると同時に、背中に激痛が走る。咄嗟に背びれを触ると、浅い切れ込みが入っているのがわかった。
満足げに笑みを零すイエローガイストの手には、バルブのついた深紅の片手剣が握られていた。
『さてさて仕舞いとしましょうかぁ……。君の両手足にあるヒレは大層強靱でしたが、背中の可愛らしいヒレはそうでもないみたいですねえ……。スライスして乾燥させれば、おいしいスープが作れそうです』
『ハン……あんたで作るたこ焼きは身体に悪そうだけどな』
両者は再び激突する。
ラムダの流れるような連続攻撃を躱しつつ、イエローガイストは拳銃と片手剣に、蹴り技も絡めてあらゆる方向から反撃する。対するラムダもそれらのすべてを両手足で弾き飛ばしながら、それでいて攻撃の手を緩めない。
互いに決定打を欠いたままの攻防が続き、やがて大きな打撃音と共にふたりの怪人は距離を取った。
『……君、回避をしないのですね』
『は?』
『私の攻撃を、銃撃も斬撃もすべて防御している。その腕と足だけで、必死に受け止め続けている。知性も品性も感じられない、蛮族のような戦い方だ』
にらみ合い、円を描くように移動しながら、言葉を交わしつつも互いの隙を覗い続ける。
『そっちこそ、回避しかしないな。ひょろひょろと怯えるように逃げ回り、スリの真似事で相手を出し抜くのが、知性的で上品な戦い方なのか?』
『言って……くれますねェエ――!』
同時に飛びかかるアマゾンラムダとイエローガイスト。空中で両者の膝蹴りがぶつかりあい、またもや鏡あわせのように弾かれ、距離が開く。
『良いでしょう。見てみたくなりました――』
体勢を立て直しながら、イエローガイストの手が深紅の片手剣に添えられた。
『君が無様に、怯えるように
バルブを固定していたふたつのピンを素早く外し、バルブを二度、捻る。
片手剣の柄から伸びる剥き出しの配線が脈打つように鳴動し、刀身の至る所から蒸気が噴き出す。彼がそれを逆手に持ち替えると、刀身はバチバチと青白い光を纏い始めた。
『おいおい……そんな属性攻撃もできるのかよそれ……!』
《
『そぉれェェェエエエエ!』
逆手持ちの剣を振り抜くイエローガイスト。刀身から白い稲妻が放出され、目の前の敵を消し炭にせんと襲いかかる。そんな殺意の奔流に対し、
『っはああアアアア!』
アマゾンラムダは迷わず真っ直ぐに突撃した。
『なにっ!?』
両腕を顔の前で交差し、放射された稲妻を受け止めるようにして走る。強烈な電撃を浴びた両腕の皮膚が裂け、血が噴き出した。しかし彼は止まらない。
《
肥大化したブレードを携えた回し蹴りがイエローガイストの胴体にめり込み、背後にあった柱ごと吹き飛ばした。
束の間の静寂。
粉塵が舞い上がるなか着地し、振り返るアマゾンラムダだが、
『まあ、そう簡単にはいかないよね……』
視線の先には、瓦礫の中から涼しげに立ち上がる黄色と黒のコントラスト。
『呆れました。まさかあの状況でなおも回避せず、防御したまま突っ込んでくるとは。無茶苦茶も良いところだ、下品にも程がある』
『どうにも、避けるっていう動作は俺の性分じゃないみたいでね。それに……』
余裕の声色を見せるイエローガイストに対し、ラムダは血の滴る指先を彼の左手に向けた。
『下品にやってみた甲斐があったよ。俺もちょうど、
『……!』
彼の左手に握られた片手剣の側面には、バイオレントシュトロームを受け止めたときについたと思しき傷跡が刻まれていた。本人こそ無傷であるものの、片手剣についたその傷跡は彼が“どうしても避けられなかった”証である。
『………』
イエローガイストは何も言い返さず、ぎりぎりと片手剣を握りしめる。バイザー越しにラムダを見据える丸い光は、ふつふつとした苛立ちを孕んでいるように見える。
『……まあ、良いでしょう』
彼は釈然としないように息を吐くと、真っ赤な片手剣を懐に仕舞い、代わりにマゼンタカラーのプログライズキーを取り出した。
『このロッジの成果は回収できました』
『………』
『君が何を目的に我々「翡翠の光」へと楯突いているかは知りませんし興味もないですが、ひとつ教えて差し上げましょう』
イエローガイストは拳銃を胸の前で構えて、引き金を引く。銃口からは灰色の蒸気が溢れ出し、黄色と黒のシルエットを隠していく。
『君が如何に強力な力を使いこなしていたとしても、我々は組織だ。たったひとりでどれだけもがき、いくらわめいたとろで――星々の深淵には辿り着けない』
蒸気が晴れ、彼の姿は跡形もなく消えた。気配まで完全に消えたことを確認し、一織は変身を解除した。
「はあ……」
吐き出した息が白く染まる。変身解除に伴い発生した冷気が一織の足元を凍らせていた。
「あっぶな……」
『――なにが危なかったのかしら?』
「うおっ」
インカムから廻の声。
『当ててあげましょうか。奴の去り際につい「悪いがおれはひとりじゃない」みたいなことでも言い返そうとしたのでしょう? 呑み込んで正解だったわね。これで
「なんでお見通しなんだよ……」
『それだけあなたの語彙力と思考パターンが浅いということよ』
廻のちくちくとした言葉に苦笑いを零しながらドライバーを外し、一織は壁に背を預けた。
「こっちの様子、いつから聞いてたの?」
『あなたがイエローガイストなる怪人に背後を取られるところから』
「最初からかよ。……ごめん霧島さん、せっかく見つけたキーを奪われた」
『なに寝ぼけたことを言っているの?』
「……え?」
廻のあらゆるボキャブラリを結集した罵倒の嵐くらいは覚悟していたのだが、通話越しの声は思った以上に柔らかい。
『教団の重要人物、しかも目白くんのような異形の力を持った存在と接触できたのよ? なにより言葉が通じる、教徒でもゾンビでもない意志を持った人物なの。あんなに会話もしてくれたから、人となりや思想にも迫れるかもしれない。目白くんの虫唾が走るようなお喋り癖も、役に立つことがあるのだと考えを改めさせられたわ』
ほんの少しだが、珍しく早口だった。1ヶ月越しの思わぬ進展に、たぶん彼女は興奮している。
「はは……そっか」
『ええ。解析できないプログライズキーよりもよっぽど有益な情報よ』
その場に座り込みかけていた一織は改めて足に力を込め、立ち上がって歩き出す。
「そっか……! 身体張った甲斐があったってもんだな! それじゃあ霧島さん――」
『ではまたacquarioで』
「え、あれ? いまどこにいるの?」
『もう帰っているわよ。早速これから情報の整理をするわ』
「ええっ!? 俺は!? 歩き?? ここから!?」
『川でも下ったらいいんじゃないかしら』
「俺はイワナのアマゾンとかじゃないんですけどね!!」
切られた。
――すけどね!! という声が少しだけ反響し、無性に切なくなる。
「結局、労いの言葉も得られずか……」
とはいえ、成果があったのも事実。1ヶ月の膠着に終止符が打たれたのだ。
「泳いで帰るか」
一織は確かにそこにある達成感を噛みしめながらアマゾンズドライバーを装着し、地下室を後にした。
* *
『司祭様、ただいま戻りました』
無数のモニターがひしめく広大な空間を、漆黒のガスマスクを被った異形が歩く。
「戻ったか、イエローガイスト」
豪奢なローブを纏った長身の人物が、モニターを見つめたまま声を掛けた。
『こちらが
「………」
司祭と呼ばれた人物が片手を上げると、部屋の奥から防護服を着た教徒が現れ、イエローガイストの差し出したフライングファルコンのキーを受け取る。
「4つめ……進捗は上々のようだね」
『はい。司祭様の悲願が達成される日も近いかと』
「やはり早々に、プログライズキーに的を絞ったのは正解だった」
司祭が指先でモニターをいじると、いくつかのアイテムの写真が載った画面が表示される。それらはそれぞれがまったく異なった造型であり、まるで
「ガイアメモリ、ラウズカード、ロックシード、
『ええ。しかしながらこの土地と最も相性の良いものがプログライズキーであると、司祭様は誰よりも先にお気づきになりました』
「ああ、そして我々『翡翠の光』が目指すべき大いなる深淵に辿り着くのにも、最も適した技術であると……」
司祭が振り返る。
フードの中の顔は見えず、しわがれた男性の声だけがイエローガイストにかけられる。
「君の扱うトランスチームシステムも素晴らしい技術だが、どうかね? この機会にプログライズキーの力へ乗り換えてみては」
『……もったいないお言葉。身に余る光栄でございます。ですがキーの力を扱うドライバーがありません。ドライバーさえいただければ、私は喜んで実験台になりましょう』
「じきに、手に入る」
くつくつ、と、司祭の低い笑い声がフードの奥からこぼれ落ちる。
「あのロッジの責任者は優秀だ。きっと“取り出して”くれる。私の悲願に近づける技術をね……」
『………』
「さあ見届けようではないか。……彼女の、『お別れパーティ』を」
不適な笑みが響き渡る空間で、黄色い亡霊は何も言わず、ただ静かに跪いた。