仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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どうも。イチゴころころです。
日常パートを書くのが楽しすぎてめっちゃ肥大化しました。楽しかったです(笑顔)。

それでは本編どうぞ。激闘から一夜明け、とある少女の自室から始まります。



2-3. 虚構(ウソ)虚言(ウソ)

 

 

 週の始まり、月曜日。普通の女子高生・小黒鈴(おぐろすず)はスマホのアラームで目を覚ました。

 

「ふあ……」

 

 彼女は大きく伸びをして、ふらふらと上体を起こす。

 寝ている間にサメとタコの激闘が、それも町内有数の観光スポットで行われていたことなど当然知るはずもなく、重たい身体を引きずるようにして朝の支度を始めた。

 

 

 

「いただきます」

 

 制服姿で食卓に着く鈴。対面には既に朝食を終え、コーヒーをすするスーツ姿の父。

 

「どうだ、鈴? 期末試験の勉強は」

「順調だよ、お父さん」

「ははは、いらない心配だったかな」

 

 にこやかに微笑む父。すると台所から母が顔を出した。

 

「そうですよお父さん。学年18位の優等生に失礼よ?」

「やめてよお母さん……そんな大したものじゃないって」

「大したものだよ。それに父さんは、次は10位以内取れるんじゃないかって密かに期待してるんだ」

「取れますよ、この子なら。ねえ、鈴?」

「まあ、がんばるけど」

 

 ほのぼのとした団らん。

 

「昨日だって、図書館で頑張って勉強してたんだもんな?」

「うん――」

 

 ほぼ一言も発さない学校とは違い、鈴は爽やかで朗らかな笑みを浮かべ、

 

 

「――クラスの友達と勉強してたよ。数学の範囲が今回も難しいから、みんなで教えあったりして」

 

 

 平然と、嘘をついた。

 

「へえー、そんなに難しいのか」

「うん。三角関数なんだけど、私もみんなも大苦戦で」

 

 昨日、日曜日の日中はひとりでネットカフェにいた。勉強などせず漫画を描いていた。

 

「懐かしいわあ。母さんも苦手だったのよ」

「やっぱそうなんだ。でもみんないるおかげですごく捗ったよ。図書館はエアコンも効いてて涼しいし」

 

 図書館なんていう広々としていて人も多い空間で勉強するなんて無理だ。考えただけで嫌になる。

 

「でも数学なら、鈴の得意分野ですものね?」

「うん。美加がずっと『答え教えてー』って、放してくれなくて。代わりに美加の英語のノートを見せてもらったんだ。あの子、英語得意だから」

 

 美加はクラスのパリピだ。ここ半年まともに会話していないし、彼女の得意科目など知らない。知ろうとも思わない。

 

「いいなあ、青春って感じで。楽しそうだ」

「うん。楽しかったよ」

 

 楽しいわけがあるか。

 

「ほら。次の試験もきっと、鈴なら大丈夫よ――」

「そうだな。だって――」

 

 うるさい。

 

「「――鈴は立派で、優秀な()だから」」

 

 うるさい。

 ふざけるな。

 

「うん。頑張ってみる。ごちそうさまでした」

 

 穏やかな笑顔で会話を終え、鈴は食器を片付け始めた。

 

 もう覚えていないほどの昔、幼い鈴はいつからか両親の『理想』を察知できるようになった。娘に“こうあって欲しい”と願うことは親として当然のことかもしれない。同様に、“大好きなパパとママに喜んでほしい”と願うことも何もおかしくはないのだろう。

 

 幼い鈴は大好きな両親の『理想』を実演して見せた。寸分違わず、彼らの『理想』の通りに。鈴は間違いなく立派で優秀だった。本来の自分を、両親にも自分自身にさえも隠し切ってしまえるほどに、優秀だったのだ。

 

 家族に嘘をつくことに、罪悪感を覚えなくなってからもう何年になるだろうか。

 両親は鈴に友達がいないことを知らない。クラスでハブられていることも知らない。

 鈴が陽キャになろうとして破綻したことも。

 陽キャになるためにどれだけ頑張っていたかも、知らない。

 

「そうだ、鈴」

「なに。お父さん」

 

 膨らむ『理想』は止まらない。芋づる式に次の『理想』が生えてくる。もっとも、当人にとってはそれが『理想』などという自覚はなく、ごく当たり前の会話なのだろうが。

 

「今週末のこと、考えてくれたか?」

「あー……」

「もう最後になるし、どうしても鈴のこと紹介したいって思っているのよ」

薬師寺(やくしじ)さまも会の皆さまも、以前から鈴に会いたいって言ってくださってたし、どうかな?」

「えっと……」

 

 鈴は自然な動作で顔を伏せ、両親から見えない角度で顔をしかめた。

 

「(またか……最悪。会ったこともない大人の集まりに顔出すとか、絶対嫌なのに……)」

 

 しかしそんな意志を伝えることは困難だ。鈴にとって両親の『理想』を否定し、拒み、突っぱねることは、きっと学年で10位以内を取ることよりも難しく、辛い。

 

「えっと、確認、してみる。友達と勉強しにいくかも、しれ、ないし」

 

 返答を先延ばしにするので精一杯だった。これだけでも大量の罪悪感が鈴を押しつぶそうとしてくる。

 

「――じゃあ行ってきます」

 

 困ったように肩をすくめる両親を見ないようにして、鈴は玄関を出る。肩に掛けたのはお小遣いを切り崩して購入した、新品のバッグだった。

 

 

 * *

 

 

 イエローガイストとの死闘から一晩明け、週の始まり月曜日。

 喫茶acquarioの奥、自身の居住スペースにて大量のデータに目を通していた廻は、ラムダとその異形の会話を思い返す。

 

「(彼は目白くん、アマゾンラムダの存在を脅威に感じている様子ではなかった。仮にも異形の力を使いこなし、イエローガイスト本人とも渡り合うほどの戦いを見せたのに。でもそれはきっと――)」

 

――“君が如何に強力な力を使いこなしていたとしても、我々は組織だ。たったひとりでどれだけもがき、いくらわめいたとろで――、――には辿り着けない”

 

「(きっと目白くんが単独だと思われているから、かしら。教団がイエローガイストやアマゾンラムダのような戦力を他にも有しているのなら、当然目白くんひとりの脅威度は低く見積もられるわよね)」

 

 教団が”存在しない技術”をいくつも扱えることはわかりきっているので、今更単純な戦力差を気にしても仕方がないだろう。しかし廻が気になっていたのはそこではない。

 

「(教団は共謀者(わたし)がいることを掴めていない……?)」

 

 廻はイエローガイストと直接対面していない。しかしこれまで、特に『サカタ英会話教室』初潜入や埠頭での女子高生救出作戦では何人もの教徒と対峙してきた。教団には最低でも“男女二人組の敵”と認識されていると思っていた。

 

 だが実際は、イエローガイストは廻のことを認知していなかったのだ。

 

「(教団の情報網は、わたしたちが思っているほど万能ではないのかもしれない)」

 

 もしそうだとしたら、今まで以上に大きく動くことができる可能性がある。教徒とその情報網のことをすべて明らかにしたわけではないので、もちろん油断はできないが。

 

「うっ……」

 

 頭の奥に鈍痛を覚え、廻は目を閉じる。

 

「一気に色々と処理しすぎたわ……。ほんと、不便ね……」

 

 額を押さえて首を横に振ると、ホールの方からドアベルが鳴る音が聞こえた。

 

「ようやく帰ってきたのね。……まったく、お昼ご飯に2時間も掛かるなんて、どこまで行ってきたのかしら」

 

 ノートパソコンを閉じて抱え、ホールに向かう。

 

 

 

 居住スペースから出てきた廻は、バーカウンターに置かれたいくつもの紙袋を見て眉をひそめた。

 

「……それ、何かしら」

 

 訝しむような彼女の声に顔を上げたのは、昼下がりの日差しに暖められた窓際で漫画を読んでいた一織。

 

「おつかれさま霧島さん。冷蔵庫にシュークリーム入れといたんだけど食べる? 駅前で美味しそうなの売っててさ」

「……結構よ」

「そう言うと思った……多めに買っておいたから良ければ食べて」

「差し入れなんて不要だといつも言っているわよね。結局あなたが自分で食べるからロスにはなっていないけれど、はっきり言って食費を倍にしているだけよ? あなたの行動」

「ロスとか気にするなら素直に食べれば良いのに……」

「目白くんの施しを受けるつもりはないと言っているのよ」

「俺は悲しいよ……」

 

 廻はカウンターにノートパソコンを置き、開く。

 

「それで、結局この袋はなんなのかしら」

「漫画だよ。お昼のついでにアパートまで行って持ってきた」

「……気は確か? 曲がりなりにも職場に漫画を持ち込むなんて」

「いや、だって。acquarioに籠もっての情報収集って俺ほとんど役に立てないし……。それに俺って暇になるとすぐ霧島さんに話しかけちゃうからさ。役に立たないどころかイライラさせて邪魔するのは流石に悪いと思って。暇つぶしと言えば聞こえは悪いけど、まあ俺なりの誠意なわけです」

「なにを――」

 

 “なにを無茶苦茶な屁理屈を”と言いかけて、廻は口をつぐんだ。一織の両腕、そこに巻かれた包帯やガーゼが彼女の目に留まる。

 

「ん? どうかした?」

「いいえ。あまりにも合理的で建設的な判断をするものだから目白くんに化けた何者かではないかと疑っていただけよ」

「俺の評価ってまじでどうなってんの」

 

 まあいいけどさ、と一織は読んでいた漫画を閉じ、紙袋に入れる。

 

「ここに置いてくから、霧島さんもご自由に読んでくれ」

「読まないわよ」

「息抜きに最適だよ? 絶対面白いからね、これは俺が保証してもいい」

「どうでもいいけれど、よくこんな量集める気になったわね。紙媒体なんてスペースを圧迫して仕方がないでしょうに」

「また物議を醸しそうな発言を……。だが残念、そんな霧島さんをも唸らせる秘策を俺は用意してあるのだ」

 

 そう言うと一織はスマホを取り出した。

 

「最近はイラスト投稿サイトでも漫画が読める時代なのだよ。書店には置いていないような君の推し作品に、きっと出会える」

「………」

「俺が最近ハマってるのはこの『エラエラ』ってラブコメで、だいたい1週間で1話更新されるんだけどこれがまー面白いんだよな。 あ、エラエラってのは略称なんだけど――」

「ちょっといい加減にしなさいよ、結局いつも通り話しかけてくるじゃない。そうならないために2時間もほっつき歩いてきたんじゃないの? だいたい――!」

 

 まさにいつも通り、我慢の限界を超えた廻の説教が始まろうとしたそのとき、

 

 

 

「――お嬢様!!」

 

 

 

 怒声と共に蹴破られるように玄関の扉が開き、かつてない勢いでぶん回されたドアベルが悲痛そうな音を鳴らした。

 

 飛び込むように入店してきたのは、いかにもな執事服に眼鏡をかけた長身の優男。

 

「え、誰」

「あ」

「お下がりくださいお嬢様! この不届き者がああああ!」

「え、ええっ!? なになになになになに!?」

 

 あたふたするのも束の間、一織はあっという間に組み伏せられ、バーカウンターに押さえつけられてしまった。

 

「いてててて!!」

「覚悟しろこの犯罪者! この私が来たからにはただで済むと思わないことですね!!」

「いたいいたい!」

 

 女性にweb漫画を薦めただけで事案になるのかよ! というツッコミすら許されず、()められた肩の痛みに悲鳴を上げる一織。

 そんな彼に手を差し伸べたのは他でもない、“お嬢様”こと廻ご本人。

 

「やめなさい、その手をどけて」

「お嬢様……?」

「(き、きりしま、さん……!)」

「彼を許してあげて」

「(あれ、なんか思ってたのと違うぞ)」

 

 なんだか根本的な部分が覆っていない気がする。と一織は抗議の視線を上げる。すると一瞬、廻と目が合った。

 

「……!」

 

 “いいから黙って従いなさい”的な彼女の目だ。見紛うはずもない、この1ヶ月間で何度も見てきたのだから。

 

「(つまり――)」

 

 霧島廻は家出セレブなので、お屋敷の人に探されていた。

 そして今回、運悪くこのスーパー執事みたいな人に見つかってしまった。

 さらに、彼女が危ないことに関わっていることをお屋敷の人は恐らく知らない。

 と言うことは、バレたら最悪お屋敷に強制送還されるかもしれない。

 ゆえに、この場をどうにかして言いくるめて逃れなくてはならない。

 

「(――ってことかな!)」

 

 奇跡的なのかどうなのか、彼女の思惑を汲み取り口を閉じる一織。この間約1秒。

 そんな彼の様子を察したのか、廻はゆっくりと語り出した。

 

「彼の祖父はここのオーナーだったのだけれど、半年前に亡くなってしまって、彼がこのお店を継ぐことになったの。でも彼は禄に経営せず、管理すらせず、駅前の賭博場に入り浸る日々を送っていた。そしてこの喫茶店は潰れる寸前で……わたしはそれが見ていられなかった。だから彼に言ったの、このお店を売ってくれないかって。ひとまずはわたしのお金でこのお店を立て直すから、必ず真人間になりなさいって。そうしてわたしはここに住み込み、このお店を見守っていくことになったわ。彼が社会の屑から、立派な人間になるその日まで――」

 

 凜とした声色で廻は言い切った。覚悟を決めてそれを聞いていた一織は、

 

「(何言ってんだこのトンチキ家出セレブは)」

 

 困惑を隠せないでいた。

 

「(どこからツッコんでいいかわからんけど飛躍してるなんてもんじゃないぞ。なんだその出来の悪いAIに書かせたみたいなストーリーは。よくそんなキメ顔ができたな。あとパチンコとかじゃなくて賭博場って言うあたり育ちの良さ出てて無性に腹立つ)」

 

 こんな話さすがに通らないだろ……と視線を上げると、執事風の男性は瞳を震わせ、

 

「なんと……」

 

 と言って拘束を解いた。

 

「ご立派です、お嬢様――」

「ええ、わかってくれてよかったわ」

「(――トンチキしかいねえのかこのお屋敷は!!!)」

 

 一織は肩をさすりながら、最後まで声に出さずに耐えきった俺まじで偉い――と思うのだった。

 

 

 

 

 

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