仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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こんばんは。イチゴころころです。
700UAありがとうございます! 嬉しい限りです。






2-6. そして道は交差する

 

 

「今日はありがとうございました。……あ、あの! ご迷惑でなければ、また、ご一緒したいです」

「ああ。そのときは霧島さんも交えて3人で話そう。君が元気に過ごしてるって分かればあの人も嬉しいだろうし、何より俺の犯罪臭が薄れる」

「ふ、ふっく、ふふ。で、でわっ。失礼します……!」

 

 鈴はにちゃっとした独特な笑みを零しながら路地を歩いていった。その後ろ姿はどこか晴れやかに思える。

 

「ついエラエラを語りすぎちまったときはやらかしたと思ったけど、少しでも元気づけられたのなら本望か」

 

 去りゆく鈴の足取りはみるみるうちに弾んでいき、しまいには下手くそなスキップになりながら大通りに消えていった。

 

「……なんか元気すぎる気もするけど、まあいいか」

 

 息を吐きながら振り返ると、インドカレー屋の横の階段からひとりの男が降りてくるところだった。

 

「おや」

「あ、おつかれさま。積もる話は済んだかい?」

「ええ、おかげさまで。お気遣い痛み入ります、目白様」

 

 霧島家の執事・本城輝星は眼鏡を外し、素材の良さそうなハンカチで額の汗を拭くと、一織に穏やかな笑みを向けた。

 

「お屋敷には“成果なし”と報告することに致しました」

「え、まじか。いいの? 連れ帰るためにここまで来たんだろうに」

「お嬢様は、お嬢様なりに悲しみを乗り越えようとなさっています。そこに水を差すのは無粋というものでしょう。それに私は霧島家の執事である以前に、廻様の味方でございますから」

 

 眼鏡をかけ直し、いたずらっぽくウインクをする本城。夕日に照らされた端整な顔立ちの中に、強い信念のようなものが見えた気がした。

 

「ははっ。……かっこいいじゃん、スーパー執事」

「如何なるときも彼女の理解者であり続ける所存です。幼なじみ、でもありますので」

「ええっ、すごいな。幼なじみの執事とか、そんな漫画みたいな設定って実在するんだ」

「……目白様」

 

 本城は一織に改めて向き直り、頭を下げる。

 

「不躾な申し出とは重々承知しております。ですがどうか、我々霧島家のことは――」

「聞かなかったことに、でしょ? 言われなくてもそのつもりだよ。あの場でつい聞き入った俺にも落ち度があるし」

「……恐れ入ります」

「まあ色々大変そうだけど、……うん、お互い頑張って生きていこう!」

「ええ。ではごきげんよう」

 

 本城は満足げに頷いて踵を返し、「ああ、そうでした」と振り返る。

 

「お嬢様の想いをどうか無下になさらぬよう。祖父君(そふぎみ)のご遺志を継いで、必ず真人間になってください」

「あ、はい」

 

 そういえばそんな設定でしたね、と一織は真顔になる。

 

「それから、くれぐれも妙な気を起こさないように。お嬢様に指一本でも触れようものなら、お屋敷の地下で一本ずつ切り落として差し上げますので」

「なんて物騒なお屋敷なんだ」

「では」

 

 柔和な笑みのスーパー執事は今度こそ去って行った。一織は苦笑いを零すと、細い階段に足をかけた。

 

 

 

 一織がacquarioのホールに戻ると、廻は窓際の席に座りどこか寂しげに外を眺めていた。

 

「おかえりなさい。気を遣ってくれて感謝するわ」

「あの執事にも同じこと言われたよ。いい人だな、彼」

「霧島家の執事ですもの。不調法な人間に務まるはずがないわ」

「はは」

 

 廻は片手でゆっくり髪を撫でると、視線をテーブルへ落とす。

 

「……目白くん、K P F(ケーピーエフ)って聞いたことある?」

「ああ、なんだっけ。アメリカだかサウジアラビアだかのでっかい会社だよね」

「何の頭文字かは知っているかしら」

「え、なんだろう。K? Kだから……の、ノウ? あ、ノウレッジ?」

「『Kirishima(霧島)  Pacific(パシフィック)  Foundation(ファウンデーション)』よ。ちなみに本拠地は日本」

「へぇー……え?」

「『霧島財閥』という呼ばれ方もあるけれど、一般には浸透していないものね」

「ちょっとまって、それじゃあ――!」

「ええ」

 

 廻は顔を上げ、淡々と告げた。いつも通りの――見とれるほどに気品のある居住まいで。

 

「KPF会長の名は霧島(のぼる)。2年前、教団に殺されたわたしの父よ」

 

 彼女の声は淀みなく、真っ直ぐに、それでいて悲しげに一織の耳へ届く。

 一織は何を言うでもなく、ただゆっくりと椅子に腰を下ろし、続きを促した。

 

「2年前、わたしたち親子は事故に遭った。詳細は記憶していないけれど、その事故で父は死亡。わたしは生死を彷徨い、一命を取り留めた後も眠り続けた。……半年前に目覚めたとき、わたしを取り巻くすべては変わってしまっていたの」

「(2年前、か……)」

「わたしは唯一の肉親だった父を喪い、霧島財閥は多くの幹部を残したままトップを失った。財閥の人たちは2年間、本城家を中心に事故の詳細や原因、父の死因などを調査してくれていたみたいだけれど何一つ判明せず。次第に彼らの関心は『誰が霧島昇の後継を務めるか』というものに移っていった。……そんななか突然、植物人間状態だった霧島廻(ひとりむすめ)が目覚めてしまったらどうなると思う?」

「………」

 

 少なくとも歓迎はされないだろう。一織は言葉を失ったまま視線を逸らす。

 

「わたしにはどうでもよかった。遺産なんていらないし、誰が継いだって構わない。その代わり、わたしは誰も信じない。……『翡翠の光』というキーワードはね、財閥の人たちが2年をかけても見つけられなかった、そして父がわたしにだけ遺してくれた、唯一の手がかりなの」

 

 彼女はコートのポケットから、例のデバイスを取り出した。それは廻が、一織と初めて出会ったときから使用している謎の装置。いつも彼女に的確な情報を与え、教団の情報網にさえ立ち向かう力を与える廻の“秘策”。そしてその秘策は同時に、形見でもあったのだ。

 

「輝星さんには悪いけれど、わたしは霧島家の関係者を頼らないし、当てにしない。財閥の人たちにとっての『霧島廻』は、ショックでお屋敷を飛び出していったわがまま娘のままでいい。わたしは自分のやり方で……“わたしたち親子”の仇を討つ」

「(わたしたち、親子の仇……?)」

「以上がわたしの“エピソード”よ」

 

 彼女は言葉を切り、話を終えた。凜とした廻の視線を見やると、一織はわずかに頬を緩めた。

 

「うん。ありがとう、話してくれて。でもちょっと意外だったよ。君の事情は最後まで明かされないと思っていたから」

「わたしの元・教育係の暴行を改めて謝罪しようと思っただけよ。輝星さんに締め上げられるあなたがあまりにも惨めで見ていられなかったものだから」

「なんじゃそりゃ」

「……なにも知らないままに向けられる敵意ほど、辛いものもないもの」

「………」

 

 半年前に目覚めたとき、彼女は何を思ったのだろう。唯一の肉親を喪い、自分を守ってくれるはずの財閥は半ば内部分裂状態。本城輝星のように心から彼女の理解者たらんとする人物もいたはずだが、一個人への思いやりなど瞬く間に埋もれてしまうのだろう。それほどまでに大きな組織なのだから。

 

「とにかく、これで話は終わりよ。他に浮上した疑問もあるかもしれないけれど、放念なさい。今の話はわたしの謝罪であり、誠意であり、それ以上ではないわ」

「ああ、十分だよ。話してくれて嬉しかった」

「……あなたの感想は聞いていないわ」

「わかってるって。……で、お返しと言っちゃなんだけど、俺からもひとつ情報が」

 

 切り替えるようにぱちぱちと手を叩き、椅子から立ち上がる一織。その様子を見て廻は眉をひそめる。

 

「なにかしら」

「教団のペーパーカンパニー……あのタコ野郎はロッジとか言ってたっけ。昨日行った『ナガミフィッシング』で4件目だったけど、どこもヒトもモノもない撤収済み状態だったよね」

 

 昨日はイエローガイストに遭遇したが、あのエンカウントは恐らく運が良かっただけだ。数分遅れていただけであの警告色の異形は速やかにキーを回収し終え、廻たちの捜査は空振りに終わっていただろう。

 

「ええ。そもそもなぜ撤収する必要があるのか、なぜ『撤収』と『キーの回収』が分けられているのか、撤収の前に何が起きたのかがまったく判明していないわ」

「だけど『撤収前の』ロッジを見つけ、捜査することができればそれらが全部判明する。そうでしょ?」

「……!」

 

 廻は目を見開き立ち上がる。ふわりと揺れた茶色い前髪の下で、彼女のまなざしが鋭く光った。

 

「見つけられるってこと……? 撤収前のロッジを」

「ああ、かもしれない、ってだけだけどね。英会話教室の酒田やフィッシングクラブの永見のようなロッジの管理をしていたらしき人物は、みんな謎の失踪を遂げていた。俺たちはその失踪を足がかりに、撤収後のロッジを見つけていたよな」

「そうね、どの人物も失踪後の足取りが絶妙にぼかされていて、結局行方は掴めなかった」

「でも『謎の失踪』ってのははあくまでも俺たち目線の結論だ。彼らも社会に溶け込んでいたのだから、そんな人物がいきなり消えたら騒ぎになるだろう。いくら警察や報道機関を操ったとしてもな。……でもそうなっていない」

 

 ヒントは彼女との会話だった。

 独特なテンポ感で喋り、一織の推し漫画談義をよくわからない真顔で聴き続けた女子高生・小黒鈴と交わしたとある会話。

 

 

――『木曜日の午後くらいから早退を繰り返せば自然に風邪を演出できるはず……!』

――『いやいやそこまでする!? そんな徹底した仮病の演出なんて――』

 

 

「彼らは自然に失踪できるように『演出』していたかもしれない」

「……いなくなる理由を周囲に示していたということ?」

「明確に理由を示す必要もないかもね。……大人気連載漫画が突然打ち切られたらそれは大事件だけど、しばらく休載していたマイナーweb漫画が打ち切られても大騒ぎする人はほぼいない。理由なんて知らなくても勝手に納得する。そういうものか、ってね」

「なるほど……じゃあ今、わたしたちが探すべきは――」

「――社会から自然にフェードアウトしようとしている、元気いっぱいの仮病野郎だ」

 

 パソコンに向かう廻と、それを横で見守る一織。

 ふたりはまた一手、己が目標に向けて踏み出す。

 

 

 *

 

 一方、波妃町西区住宅街のとある一軒家にて。

 

「あ、あの。お父さん、お母さん。今週末の“会”のことなんだけど」

「うん?」

「(だ、大丈夫。いまならいけるぞ小黒鈴。私は世界最強のクリエイター、いずれ書籍化されるエラエラ作者、印税で余生を過ごす女! この自己肯定感と勇気、全部使い切れ!)」

 

 変わりたい――。そう願う彼女の関心は、両親の『理想』へと向いていた。鈴だって最初は、大好きな両親の期待に応えたいという純粋な気持ちを持っていたはずなのだ。

 

「わ、私も一緒に行って、いいかな……?」

「おお……」

「まあ!」

 

 だからもう一度向き合ってみる。言われるがままではなく、自らの意志で。失敗したときはそのとき考えれば良い。そう教わったように。

 

 

 *

 

「見つけたわ」

「はやっ」

 

 廻が画面に映したのは、波妃町のとある社交クラブのホームページ。

 

「社交クラブ『プライマル・ベイ』か。観光地のホテルみたいな名前だな」

「よくある富裕層が政治的な話をするための社交クラブではなく、会長が自身の邸宅や別荘に人を集めて定期的に楽しく食事会をしているだけの団体みたい。ようは小金持ち風情が背伸びをしているだけの社交界ごっこサークルね」

「さすがアルティメットセレブの評価は説得力が違うな……。で、この性悪そうな会長どのが仮病野郎、というわけか」

「ええ。彼女が今週末、自身の別荘で開催するのよ――」

 

 *

 

「でも嬉しいわ。鈴が自分から行きたいって言ってくれるなんて」

「う、うん。最後、みたいだし」

「そうなのよ。薬師寺(やくしじ)様は来月から海外に行かれるそうで、今週末を最後に会は一時お休みになってしまうの」

「その会長さんは、私のこと知ってるんだよね。私は会ったことないけど」

「自慢の娘ですもの。お母さんもお父さんもつい話題に挙げてしまって。とても聡明で優しいお方ですから、きっと鈴も仲良くなれるわ」

「そ、そうだと、いいな……へへ」

「きっとそうなるわ。家族3人、一緒に楽しみましょう――」

 

 

 

   「「――最後の『お別れパーティ』を」」

 

 

 

 *  *

 

 

 こうして、各々の小さな一手は交わろうとしていた。

 

 そしてこの場所。

 波妃駅併設のランドマーク、波妃ビルの屋上でも、もう一手。

 

「――はい。引き続き捜索をいたします。……はい。では失礼します、母上」

 

 通話を切り、眼鏡を外す。湿った夜風が頬を撫で、汗を拭くハンカチの端をなびかせる。

 簡素な通知音が鳴った。彼は先ほどとは別のスマホを取り出し、画面に表示された文章に目を通す。

 

「おや。……なるほど。立会人を、私に。妥当と言えば妥当ですが――」

 

 眼鏡を掛ける。口角を上げると、柔和な微笑みが波妃町の夜景を見下ろした。

 

「――なんとも、人使いの荒い()()()ですね」

 

 再び懐に手を伸ばし、取り出したのは手のひらサイズの小さなボトル。

 ボトルを握りしめ、振る。

 カチ、カチ、と。小気味よい音が鳴るたび、心臓の鼓動が高鳴る。

 

 カチ、カチ、カチ、と。

 

 全身の血管が膨張していくような、それでいて脳細胞が冴え渡っていくような、そんな高揚。

 

「ええ、ええ。まずは目の前の回収業務から、片付けるとしましょうかぁ……」

 

 キャップを捻る。空気の抜けるような音が短く響く。

 ボトルの側面に刻まれているのは、薄い桃色に色づけされた8本の触手。

 

 彼はそれを水平に傾け、右手に持った大型拳銃――『トランスチームガン』に装填した。

 

Octopus(オクトパス)

 

 トランスチームガンが起動、低い駆動音と共に『オクトパスフルボトル』内の成分を抽出し、内部に充填させていく。

 彼は右手を耳元に寄せる。その駆動音にしばし耳を傾けた後、右手を大きく回して胸の前へ、左手は水平に、右足を下げ、頭を垂れる。

 すらりと伸びた背筋、指先。見る者を魅了するほどの美しい所作で形作られたその姿勢は、いまや創作の中でしか見られない伝統的な男性のお辞儀(ボウ・アンド・スクレープ)

 

 

「――蒸血(じょうけつ)

 

 

 囁くように言い、引き金を引いた。

 

Mist(ミスト)  Match(マッチ)――!》

《Octopus...!  O・Octopus...!》

 

 銃口から噴き出す、成分を濃縮させた蒸気が彼の全身を包み、黄色と黒――警告色の全身装甲を生成する。ビルの屋上を覆う灰色の暗雲の中に、誰もが知る頭足類を模したシルエットが浮かび上がっていく。

 

Fire(ファイア)...!》

 

 変身完了を告げる機械音声と共に全身の排気パイプから火花が飛び散り、ぱらぱらという破裂音が灰色の雲を霧散させた。

 蒸気の中から現れたのは、黄色くゆらめく異形の亡霊。

 

『さて、業務開始と参りましょう。司祭様のくだらない遊戯に「彼女」が巻き込まれてしまわぬよう、すべてはスケジュール通りに運ばねば』

 

 彼は首を鳴らすようにガスマスクを傾け、足元を蹴ってビルから飛び降りた。

 

『これからもずっと、貴女が何も知らぬまま幸せに生き続けられるために。この私がお守り致しましょう――廻様』

 

 

 大切な人の名前を呟き、本城輝星(イエローガイスト)は闇に消える。

 

 

 今度こそ、彼らの一手はその足並みを揃え『パーティ』へと向かっていく。

 各々の足並みはやがて週末を迎え、日曜日の朝日を拝む。

 三つの道が交差するは波妃町の片隅。東部海岸の別荘地帯にて、大いなる運命を動かす宴が幕を開けるのだった。

 

 

 

 

 

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