仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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こんばんは。イチゴころころです。
いよいよパーティ開幕です! ここまで長かった笑

どうやら作者は会話パートに向いているらしく、調子に乗っていると無限に掛け合いが湧いてくるので、これでも結構削った方なのです。

毎話欠かさず戦闘シーンを描写できる本場ニチアサ作品や、他の二次創作ライターさんはまじですごいと思う。






2-7. 潜入開始

 

 

 波妃町東部、海岸沿いの崖の上にある広大な別荘地帯『みかどヶ丘』。

 広々とした丘陵に趣のある別荘が点在する様はさながらのどかな異国の高原地帯。赤レンガの風車小屋が似合いそうと専らの評判である。残念ながらそんな風車は実在しないが。

 そんなみかどヶ丘の最東端、小さな入り江を見下ろすように建てられた豪邸こそ、社交クラブ『プライマル・ベイ』会長・薬師寺良華(やくしじりょうか)の別荘にして『お別れパーティ』の会場である。

 

「……別荘? あれが? 城じゃなくて?」

 

 着慣れないタキシードに身を包み、敷地から離れた岩場にて双眼鏡を覗いていた一織はそう呟いた。

 

「スパイ映画の終盤とかで潜入するやつじゃん。いやまあ潜入はするんだけどね今から」

「確かに思っていた以上だわ」

 

 一織の背後には、もみじ色のチャイナドレスを着こなす廻の姿。彼女は遠くにそびえる豪邸を見つめ、特段意外そうでもない声色で答えた。

 

「わたしが6つのときに買ってもらったフロリダの別荘と同じくらいの大きさね」

「はわー格が違った。なんかもう安心するわ」

「でも実際、妙ではあるわ。これまでのロッジに比べ、やっぱり規模が大きすぎる」

 

 英会話教室を始めとする教団のロッジは、どれも表向き十数名程度の団体だった。当然、本拠地となる建物の規模もそれ相応。しかしこの『パーティ』は、それらの前例から大きく逸脱している。

 

「知る人ぞ知る社交クラブか……会員数は確かギリ3ケタ行かないくらいだっけ」

「96名。今日のパーティに参加するのは67名ね。地元の資産家でもある薬師寺良華本人にその側近もいると考えると、会場に集まる人数はもう少し増えるかしら」

「……」

「お互い慎重に行きましょう。これだけの規模……わたしたちが今まで見てきたロッジとは根本的に違う“何か”が起こっても不思議ではないわ」

「うん。でもまあ、ヒトの多さは情報源の多さでもある。やるべきことを、手はず通りやっていこう」

「……そうね」

 

 一織は振り返り、廻と向き合う。

 

「最終確認よ」

「ああ。俺は正面から参加者に紛れて潜入し、宴を普通に満喫するフリをする。目標は『教徒の実態を明らかにする』こと」

 

 教徒。それは教団の手足にして情報網を司る端末。そもそも積極的に教団と関わっているのか、それとも表向きの団体の一員でしかないのか、それすら謎の住民たちだ。情報網の仕組みや洗脳催眠のカラクリなどが判明すれば、今後の大きなアドバンテージになるだろう。そしてそんな教徒が70人近く集まるこのパーティは情報の宝庫、サメの前に現れた魚群と同義だ。

 

「わたしは入り江を迂回し、裏手から屋敷内に潜入。教徒の目を掻い潜り屋敷内を探索する。目標は『祭壇の発見』と『小箱の確保』。加えて教団に関する資料なんかも得られれば最高ね」

 

 ロッジ内隠し部屋に設置される祭壇とそこに置かれる小箱は、教団にとって最も重要なモノであることは間違いない。そこを押さえることは情報を得るだけでなく、未だに全貌が見えない教団の目的を阻止することにも繋がる。そして何より、この屋敷はようやく辿り着いた『撤収前のロッジ』だ。教団幹部と思われる薬師寺良華が、なにかしらの資料を保管している可能性は十分にある。

 

「連絡はいつものインカムで。ただし細心の注意を払って、それも最低限で頼むわよ。なにぶん人が多い。聞かれでもして潜入に気付かれたらアウトよ」

「わかってるって。そっちこそ充分に気をつけて。基本的に別行動になるから、俺は君を守れない。イエローガイストと遭遇する可能性もゼロじゃないし、どちらかと言えば深部を目指す君の方が確率は高いと思う」

「ご忠告どうも。でも余計な心配よ」

 

 廻は消音器付きの拳銃にマガジンを込める。海風に髪をなびかせながら背を向けると、チャイナドレスのスリットから覗く左足――そこに装着されたレッグホルスターに拳銃を差し込んだ。

 

「――教団を潰すまで、わたしは死なないから」

 

 なびく茶色い髪。海を見下ろす彼女の視線の先には、一台のジェットスキーがある。もちろんレンタルなどではなく、購入したての彼女の私物だ。

 

「ははっ……」

 

 その後ろ姿に思わず見とれた一織は、呆れたような、どこか嬉しそうな挙動で頭を掻いた。

 

「やっぱいいね。君がそうやって堂々と何かを言ってくれると、ああ本当にそうなるんだなって思える。安心して動けるよ」

「……わたしはあなたのそういう軽口を聞かされる度に不安になるのだけれどね」

「そりゃあ失礼」

 

 ふたりは歩き出した。彼女は海に、彼は丘に向かって。

 沈みかけた夕日が雲間に隠れ、海辺の柔らかな風がみかどヶ丘を撫でる。長い長い夜の、始まりを告げるチャイムのように。

 

 

 *  *

 

 

「やっば……ギリギリ」

 

 開始時刻ちょうどくらいになって、一織は会場の正面玄関に到着した。着慣れないタキシードに履き慣れないブーツでゆるやかな丘をのぼるのが想像以上に苦痛で、しかも敷地内に入ってから玄関までがやたらと長かった。こんなに焦らさなくてもいいのに、と庶民派の一織は心の中でツッコミを入れる。

 

「失礼。……会員証を」

「おっと、少々お待ち」

 

 玄関前にいた黒服の男に声をかけられる。おそらく薬師寺の側近だろう。一織はうろたえることなく、廻が偽装したデジタル会員証の画面を見せる。

 

「……どうぞ」

「どうも。――失礼」

 

 一織はやや芝居がかったような所作で会釈をし、エントランスを抜けてホールへ向かう。

 

「(おおお、ちょっと緊張した! 時代に乗っかったデジタル媒体の会員証なんて、うちの霧島さんにかかれば偽装もなんのそのだな。……いや、あの人ならカードタイプの会員証だろうが何だろうが作るか)」

 

 そんなことを考えながら扉をくぐってホールへ入ると、ちょうどホール内で拍手が起こった。どうやら主催者が挨拶を終えるところらしい。

 

「――それでは皆さま、最後のパーティを心ゆくまで楽しみましょう」

 

 拍手が再びホールに満ちる。奥のステージ上では、真っ赤なドレスに身を包んだ長身の女性がにこやかな笑みを浮かべている。

 

「(彼女がこのパーティの主催者にして、『翡翠の光』の重要人物……かもしれない人か)」

 

 薬師寺良華、37歳。地元の資産家であり、プライマル・ベイの会長。廻が調べた彼女自身のデータに怪しい部分はなかったが、直近数ヶ月でこの別荘に大量の物資を搬入していたことが判明した。パーティの準備のために色々調達しただけのようにも思えるが、不可解なのは物資の品目も、どこから調達したのかも記録に残っていない点だ。教団との繋がりを明示する証拠ではないものの、きな臭いことは明らかである。

 

「(彼女に接触するのは、なるべく避けたいところだな……)」

 

 薬師寺は紛うことなき大ボスクラスの獲物であり、上手いこと接触できればそれはもうクリティカルな情報がわんさか手に入ることだろう。……一織にそこまでの交渉技能があれば。

 

「(相手は平然と社会を欺き、これから自然とフェードアウトしようとしてるような人物だぞ。情報を抜き出すどころか、俺の方がボロを出す自信しかない)」

 

 人混みの中に消えた薬師寺のことをひとまず放念し、一織は改めてホール内を見渡す。

 高い天井、シャンデリア、至る所に置かれたテーブルに、並ぶ豪勢な食事。屋敷の外見通りの豪華でエレガントな内装とも言えるが、どちらかと言うなら――、

 

「あ、思い出したこの感じ。見覚えあると思った。……ホテルのビュッフェだ」

 

 ちょっと高いくらいのホテルに朝食付きプランで宿泊したときに訪れる、ロビーの横にくっついているなんだかお洒落な雰囲気のビュッフェ。……行き交う人々こそドレスやタキシード姿だが、部屋の雰囲気だけ見たらそんな表現がしっくりくる。一織が適当に言った『観光地のホテルみたい』という言葉がこんな形で当てはまるとは思わなかった。

 

「(そう考えると霧島さんの言った『小金持ちの背伸び』も言い得て妙だったな……)」

 

 小金持ちですらなく、少し前まで食い扶持も怪しかった一織が言えることではないが、何と言っても彼は霧島廻を知っている。背伸びも着飾りもせず、息をするように言葉のトゲをぶちまける女。それでいて隠しきれない気品、堂々とした佇まいを持ち合わせたナチュラルボーン・アルティメットセレブに比べたら、こんな屋敷とそれを擁する薬師寺良華など金メッキのハリボテと大差ないのだ。

 

「(……俺はどこでマウントとってるんだ。しかも霧島さんを勝手に引き合いに出して、怒られるぞ。……ちゃんと調査しよ)」

 

 短く息を吐き、再び辺りを見回すと、ぼふっ、という音と共に背中に小さな衝撃が。どうやら誰かとぶつかってしまったらしい。

 

「おわっと……。申し訳ない、よそ見をしてて――」

 

 慌てて振り返るが、誰もいない。

 

「ぴぃっ!? ご、ごめんなさいっ! おゆるし、おゆるしくださいっ!」

 

 視界の下から素っ頓狂な声。誰もいなかったのではなく、相手が子供だっただけのようだ。

 だが、

 

「なにとぞ、なにとぞおゆるしくださいっ! お、お召し物っ、よごれっ、私、この身この半生を捧げてでもお詫び申し上げま、シュッッ」

 

 パニクってなにやら物騒なことを口走っているその声、その髪の色、その背丈。一織には聞き覚えも見覚えもあった。

 

「……え?」

「5年、いえ3年お待ちいただければその、い、印税の一部をぉ……、ふぇ?」

 

 眼鏡はかけておらず、髪も低めの位置でシニヨンにしてあり、制服ではなくボタニカル刺繍の可愛らしいドレスを着てはいるが、間違いない。

 

「い、いい、一織さん!?」

「鈴さんか!」

「あっ!? い、いえ人違いですわ。さようならっ」

「そんなわけあるか! ちょっと待って、逃げないで!」

 

 

 

 着慣れないドレスとヒールでナメクジみたいな速度しか出せない鈴を追い詰めるのは容易だった。一織は観念した鈴を連れ、人混みグループから離れたテーブルの横で一息つく。

 

「そっか。じゃあおうちの人と一緒に来たんだ」

「はい、両親は半年くらい前からここの会員で。それで、食事会には何回か誘われてたんですけど、私断ってきてて……。今回、その、最後ってことで、その。……勇気、出してみようかなって。会員証も、この前発行してもらって……」

「そっか……」

 

 鈴の悩みの一端を知っている以上、こうして彼女が行動を起こしているという事実は一織にとって喜ばしい。ただし、ここが普通の社交パーティであるならばの話である。

 

「(よりによって教団の怪しいペーパー団体に突っ込んできちゃうとはな……。でもこれで、『教徒が自ら望んで翡翠の光の計画に関わっている線』は限りなく薄くなった……か?)」

 

 鈴が自らの意志で、自らを襲った組織に肩入れするとは思えない。となると『教徒』はやはり、あくまでも表向きの団体へ関与しているだけで、知らず知らずのうちに教団の術中に嵌まってしまっただけなのだろう。

 

「(鈴さんのお陰で思わぬ確信が持てた。でも厄介なのは、既に俺たちと交流のある彼女が『教徒』……情報網の一角になり得るということと、鈴さんもあの洗脳催眠状態にされる可能性があるってことだよなあ……。そして下手したら、ゾンビにも……)」

 

 あまり考えたくない話だが、目を逸らしていても仕方がない。そうならないように、一織と廻はここにいるのだ。そしてやはり、目下最大の目標は情報網と洗脳催眠状態の解明だろう。

 

「えっと……い、一織さんもここの会員だったんですね。なんだか意外です」

「ん、そう? まあ俺にも色々、歩んできた人生があるってわけ」

「は、はあ……」

「――あら、ここにいたの鈴。こちらの方は?」

 

 ふと、黒髪の女性に声をかけられた。状況からして鈴の母親だろう。一織は一瞬だけ焦りを覚えたが、落ち着いて懐から名刺ケースを取り出す。

 

「お初にお目に掛かります。わたくし波妃駅前の喫茶店『acquario』にてホールスタッフを務めております、目白と申します。以後お見知りおきを」

 

 ここにきて初めて活躍する作・廻の名刺。そして昨夜、タキシードを試着して自宅の鏡の前で練習した台詞も完璧であった。

 

「あらあらこれはご丁寧にどうもぉ。でも……鈴が喫茶店に行っただなんて、お母さん初めて聞くけど……」

「(え、そこ気になるの? 言ってないとだめなのか? そういうもんなのか?)」

「えっとお母さん。この人、美加のいとこなんだ。この前、みんなで一緒に数学見てもらっていたの。ほら、三角関数難しいって話したでしょ。一織さんは東京の偏差値70の私立を卒業してて、すっごい教えるの上手いんだ。喫茶店で働きながらも勉強してて、今度国家試験受けるんだって」

「(ちょっとまって何言ってるのこの子)」

 

 するすると他人の設定を盛りまくる彼女の姿に、一織は既視感を覚える。

 

「まあ、ご立派なのね! 大変失礼致しました。うちの鈴がお世話になっておりますぅ。今度ともビシバシ教えてやってくださいな。鈴は次の期末試験で10位以内を目指していますので」

「あ、はい任せてください。えと、さ、さいんがしーた――」

「じゃあ鈴、またあとで改めて薬師寺様にご挨拶へ行きますから、会員証の準備を忘れないでね。そのときになったらまた声をかけるから」

「うん。また」

 

 にこやかに会釈をし、別の人だかり目指して移動していく鈴の母。

 

「(なんかまた俺に変な設定が生えたな……。俺の周りにはお(くち)がお転婆な女の子しかいないのか)」

「あ、ご、ごめんなさい。だってほら、この前道ばたで突然声をかけてきたサメのお兄さんなんて言えないじゃないですか。そう思ったら私、咄嗟にいつもの癖ででまかせを……」

「いやいや、謝らなくていいよ。そう紹介されるよりよっぽど良かった」

 

 からからと、苦笑いの零れるパーティの片隅。そして一織は、とあるワードを聞き逃していなかった。

 

「ところでさ、さっき『薬師寺様へご挨拶しにいく』って話してたけど、会員証がまた必要になるんだ?」

「みたいですよ。私も詳しくないんですけど、入り口で見せたのとは別の、マイページのQRコードが必要らしいです」

「……ちょっと、詳しく教えてもらっていい?」

「もちろんです。えっとたしか、この画面から――」

 

 スマホの画面を見せる鈴と、覗き込む一織。

 思わぬ再会を果たした彼は、着実に情報を集めていく。

 

 

 

 その姿を――、

 

「……何が起きている」

 

 ――柱の陰から伺う人影があった。

 

「なぜ君がここにいるんだ。――目白一織」

 

 着慣れた執事服ではなく、飾り気のない黒服を着て。

 パーティ参加者でも霧島家執事でもなく、いちスタッフ、そして『立会人』として。

 退屈な業務をこなすはずだった彼――本城輝星は、眼鏡の奥の瞳を苛立たしげに震わせた。

 

 

 

 

 

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