仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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こんばんは。イチゴころころです。

週明けから数日の間、発熱につき体調が終了していましたが、すっかり元気になったので執筆を再開しています。健康って素晴らしい。
先週までこつこつと積み上げていたストック分も綺麗に投稿しきったので、またぼちぼち、のんびりと更新していけたらと思っています。

それでは本編、どうぞ!





2-8. 其は予兆、狂気を見守りし旧き印

 

 

 薬師寺良華の別荘が如何に広大な施設であろうとも、その隠し部屋の発見は廻にとって容易な工程だった。ちょうどパーティの開会宣言が行われるのと同じ頃、海岸を大きく迂回した廻はジェットスキーを入り江に停め、手はず通り裏手から屋敷へ潜入した。その後は敷地内を適当に徘徊しながら建物を対象にスキャンをかけ続け、ものの数十分足らずで『見取り図に存在しない通路と空間』を発見したのだった。敷地の広大さに反してヒトの行動範囲は大広間とその周囲に集中しているため、廻の探索が誰にも見とがめられることはなく、仮に目撃されたとしてもチャイナドレスを着こなしている今の彼女は一見普通の参加者のため、いくらでも言いくるめが利く。

 

「……ふう、ここまでは順調。むしろ、隠し通路の先すら敷地相応の広さだったことの方が厄介かしら」

 

 まさに迷宮、もしくは悪の秘密基地とも言えるような様相。しかしここがあくまで教団のロッジである以上、最深部に『祭壇と小箱』があることはほぼ間違いなく、撤収される前の様々な資料もこの先にある可能性が高い。

 

「それにしても……やっぱり妙。ロッジの隠し部屋は極論、祭壇が設置できるスペースがあれば成り立つはず。やっぱり規模が大きい。それに、この通路にしたって()()()()()()()()()()()ような跡が……。薬師寺良華は何を考えているの……?」

 

 人気(ひとけ)のない通路を進みながら思考を巡らせているとインカムに通知音が。正面から潜入している一織からの何かしらの連絡だろう。廻は周囲に人の気配がないことを改めて確認し、回線を繋ぐ。

 

『――おつかれさま霧島さん。先に言っておくけど大広間横の中庭から通話をかけているよ。会話を聞かれる距離に人はいないし、見とがめられてもタバコ休憩とか言ってケムに巻く準備はできてる。そして当然、そうまでしても共有しておきたい情報が俺にはある』

「……誰かに思考を先回りされることがこれほど不快だとは知らなかったわ」

『あれ……? もしかして俺はどう転んでも霧島さんを怒らせてしまう悲しい宿命を背負ってる……?』

「思い上がらないで。目白くんごときがわたしを怒らせるだなんてあり得ないから」

『ごときて……。てか不快感を覚えるのはアリなんだ?』

「………」

『ごめん。悪かった。だんまりしないで。とっておきの情報、あるから』

「まったく……」

 

 額を押さえる廻。港湾区のダイニングカフェで初めて話したときから、この目白一織という男との馬鹿げたノリについ乗っかってしまう自分がいる。この1ヶ月で何度『無視すればよかったのに』と反省したことだろう。教団への復讐のため、余分なモノはすべて削ぎ落とすと決めていた廻だったが、この男はそんな心の城壁をふわふわとすり抜け、へらへらとしたノリを押しつけてくる。そしてそんな彼に対し、廻は罵詈雑言をもって真正面からひねり潰したくなってしまう。そうこうしているうちに、気付けば同じ土俵での馬鹿らしい言い合いが成立しているのだ。そのことが何よりも腹立たしかった。

 

「はやく話してちょうだい。あなたの掴んだとっておきの情報を」

『ああ。まず教徒たちの真意だけど、「翡翠の光」として関わっている線は考えなくて良さそうだ。彼らはあくまで表向きの団体に関わる一般市民。英会話を学びたかったり釣り好きと繋がりたかったり……今回の場合はただ社交クラブに興じたいだけの人々だな』

「それじゃあ、彼らは知らず知らずのうちに『教徒』にさせられていただけ、ということかしらね」

『そういうこと』

「となると余計に、情報網や洗脳催眠の仕組みが気になるところだけれど」

『実はそっち方面でもひとつ……耳寄りな話があるんだ』

 

 通話越しの一織の声色が、僅かに重くなる。

 

『プライマル・ベイのデジタル会員証、あるでしょ? 霧島さんが提示用画面のダミーを作ってくれたやつ。あれがもともと専用のアプリなのは知ってるよね』

「ええ。さすがにアプリまるごと偽装する必要もないと思ったから、提示用画面の部分だけを作ったのだけれど」

『パーティ参加者のひとり……一旦詳細は割愛するけどとある人物にアプリを見せてもらったんだよね。そのアプリのマイページ画面には、提示用画面とは別のQRコードが表示されるんだ。パーティの最中、薬師寺良華の私室に招かれた際に提示する必要があるんだとか』

「なるほど……?」

 

 その時点で妙な話ではある、と廻は首を傾げた。絶妙な手間というか、回りくどさを感じる。

 

『そしてそのQRコード……たまーに見かける中央にアイコンが組み込まれたタイプだったんだけど、そのアイコンが――』

「――! まさか!」

『ああ、()()()()()だった。より細かく言うなら、“五芒星の中心に目のような楕円が描かれた、手描きっぽいタッチの(しるし)”かな』

 

 そこまで詳細に描写されたのなら間違いがない。その造型は廻や一織にとって見覚えしかない紋章のもの……これまでのロッジ探索で目にしてきた、祭壇に置かれた小箱の上部に刻まれた印と完全に一致するのだから。

 

「つまりそのQRコードは表向きのプライマル・ベイ会員としてではなく――」

『真の姿たる「翡翠の光」の教徒に対して機能しているもの、ってところかな。ここから先は俺の想像だけど、英会話教室や釣りクラブでも同じ要領でその印が配られていたんじゃないか? そうやって教団由来のペーパー団体に関わってしまったすべての市民が同じ印のQRコードを持っているとしたら、それは彼らの共通点になる。バラバラにも見えた教徒たちの、唯一のね』

「あながち、的を射ている想像かもしれないわね……」

 

 今日び、会員証として専用アプリのインストールを必要とする商業施設は珍しくない。それは規模もジャンルもバラバラなペーパーカンパニーを媒介にし、自然な形で『星形紋章のQRコード』をばら撒ける仕組みとなる。教団という組織の抱えるシステムの一角に、関わりがないはずがないだろう。

 

『以上、俺の仕入れた情報でした。明かすべき命題の直接的な解答ではないけど、答え合わせは霧島さんの本分かな。君のことだからロッジの中枢にはもう辿り着いてそうだし』

 

 どんな目線からの物言いよ――と廻は小さく吐き捨て、通路の先の扉を見やる。まるで透視でもしたかのようにその先の空間を把握すると、不敵に頬を緩ませた。

 

「――ちょうどこの先に小規模のサーバールームがあるみたい。今の話のお陰で効率よく情報を抜き出して、答え合わせができそうよ。感謝するわ、目白くんにしては上出来」

『ははっ、素直に喜んでおくとしようかな。……ところで話は変わるけど、俺のアマゾンズドライバーは手はず通りの場所に?』

「ええ。入り江に向かう裏庭の端、ライオンの噴水から数えて3つめの植木の影に隠してあるわ」

 

 アマゾンズドライバーは持ち運びに適さない上にあの見た目である。幸い入場前の持ち物検査はなかったが、万が一にでも参加者や黒服に目撃されたらつまみ出されるどころでは済まないだろう。秘密裏に潜入する側の廻が持ち込み、回収可能な場所に隠しておくという手はずだったのだ。

 

『助かるよ。ちょうど今中庭にいるし、これから回収しに行こうと思う』

「構わないけれど……どうかしたの? 今の話の他に、何か気になることでもあった?」

『ないよ。でもほら、俺たちが情報収集している間にもこのパーティ……薬師寺良華の計画は進んでるんだ。文字通り、現在進行形でね。そういう意味では、俺たちはどんなに頑張っても“後手”でしかない。何かが起きたときに、せめて戦える態勢は整えておかないとって思ってさ』

「……その通りだわ。愚問だったわね」

『霧島さんも気をつけて』

「ええ。目白くんもね」

 

 短いノイズと共に通話が終了する。廻は切り替えるように軽く首を振り、右手で髪を撫でる。

 

「……あの馬鹿げたノリさえなければ、人並み以上に頭が回って視野も広い有能な人材なのよね、彼」

 

 そうして独り言のように愚痴を零しながら拳銃を構え、通路の奥――サーバールームに向けて歩みを進めた。

 

 

 *  *

 

 

 廻がロッジの深部へ、一織が裏庭へそれぞれ向かうのと同じ頃。

 黒服に身を包んだ本城輝星は己に課された業務を粛々とこなしていた。

 

「――では改めて、会員証のご提示をお願い致します」

 

 大広間横の廊下にて、本城の前に集まっていたのは中年男性七人組のグループ。彼らはたどたどしい手つきで各々のスマホを操作し、会員証のマイページ――そこに表示された星形紋章のQRコードを提示した。

 

「では、失礼して――」

 

 本城は懐からバーコードリーダのような装置を取り出し、提示された七人のコードを読み取らせていく。

 彼はこのパーティの『立会人』としてこの場に呼ばれているが、そんな仰々しい役職名の実態は(てい)のいい雑用だ。トランスチームシステムを扱い、イエローガイストに変身できる彼は用心棒として適任であるが、逆に言えば目立った脅威さえなければただの助っ人労働力であれば良い。薬師寺良華が速やかに儀式を完遂するまで、スタッフとしてただ業務をこなすだけのはずだった。――あの男、目白一織の姿を目撃するまでは。

 

「ご提示ありがとうございます。では、薬師寺様のお部屋へご案内致します」

 

 主催者の私室に招かれるという()()を律儀に守りつつ、表情を失った男性グループを引き連れて廊下を進む。寂しげに響く自分たちの足音を聞き流しながら、本城はあの招かれざる客について思案していた。

 

「(あの喫茶店の道楽息子様が、プライマル・ベイの会員だった……。いえ、そんな出来すぎた偶然、あるはずもないでしょう。会員リストにはざっと目を通してありますが、つい数日前に、それもお嬢様関連で知り合った人物の名など嫌でも目につくはず。……つまり彼はここの会員でも何でもない、翡翠の光とは本来無関係の人間。ではそんな彼が、なぜ紛れ込んでまでこのパーティ会場にいるのか。まさかとは思いますが……)」

 

 ちょうど1週間前、九重峡谷にて激突したあの『サメ怪人』の姿が脳裏をよぎる。彼もまた、何らかの意図を持ち教団ロッジを探っていた招かれざる客だった。

 

「(……いずれにせよ、お嬢様が何も知らず、(なに)にも関わらず、平穏に過ごすことこそが私の本懐。あの男に翡翠の光との接点があった時点で、それはもはや逃れようもない重罪だ)」

 

 無人の廊下の端、質素な扉の前で立ち止まり、振り返る。

 中年男性たちは何かをぶつぶつと呟きながら、促されるままに部屋へと足を踏み入れていく。

 

「(――始末、するほかないようですねえ)」

 

 薄く笑みを浮かべ、本城は恭しくお辞儀をした。目の前の扉はそれに応えるように、七人の男性を飲み下すように、そっとその口を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

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