仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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こんばんは。イチゴころころです。

800UAありがとうございます! たくさんの方の目に触れられているようで、本当に嬉しいです。よろしければ感想や読了報告等いただけると作者の励みになりますゆえ、是非是非よろしくお願い致します!


さて前回に引き続き、某神話のタグが生き生きしてきました。
第2幕もいよいよ大詰め……かも?







2-9. 其は無限、時空を繋ぐ銀の鍵

 

 

 パーティ会場、隠し区画のサーバールームにて。

 一織の情報提供が功を奏し、廻は手際よく“答え合わせ”を済ませることができた。そして気になる採点結果も、ほぼ満点だったと言っていいだろう。

 

「教団の情報網の正体……それは教徒本人ではなく、彼らが持つ、現代人なら当たり前のように所持している携帯端末だったというわけね」

 

 多くの場合はスマホ。人によってはタブレットタイプや腕時計タイプでもあるだろう。要は教団由来のアプリをインストールした端末が、そのまま情報網の一角として稼働する仕組みらしい。

 

 アプリに隠された機能は大きく分けてふたつ。

 ひとつはその携帯端末のカメラ・マイクを常にアクティブにし、教団幹部用サーバーに定期送信するというもの。これが情報網の真の姿である。教徒たちは『翡翠の光』の名前すら知らないが、普通に暮らしていればスマホはまず持ち歩く。持ち主を起点に自動でアプリが情報収集を行い、教団に不都合な何かが発生していないかを間接的に見張る。波妃町の何も知らない住人たちは、何も知らないまま密告し合っているようなものだ。

 

「……下劣もいいところね。反吐が出るわ」

 

 教団相手にいまさら法治国家的制裁を望んでいるわけではないが、これは人々のプライバシーを土足で踏みにじる悪趣味極まりない犯罪行為だ。スマホはどこにだって持って行けるし、どこにだって持って行く人も数多い。職場や学校はもちろん、自宅、それも寝室や浴室などの生活空間にだって何気なく持ち込むだろう。それらの映像・音声が水面下で収集され、幹部のサーバーにストックされる。教団にとっての不穏分子を発見するという、ただそれだけのために。

 

「教徒全員が動く盗聴器兼、監視カメラということ。このあたりの感覚は以前と変わらなそうだけれど……」

 

 そしてアプリのふたつめの機能。情報網に不穏分子が引っかかった際に発動する機能こそ、『洗脳催眠』である。

 現代において、催眠という事象はある程度科学的な根拠に基づいたものという認識がある。特定の音や光など、五感に訴えかける何かをトリガーにして、対象に特定の行動を促すといったカラクリだ。試合前に好きな曲を聴いてテンションを上げる、寝る前にヒーリングミュージックを聴いてリラックスする、などが身近な例だろう。この辺りは暗示と表現した方が近いかもしれないが、根本の原理としては同一だ。

 このアプリには、聞き取れない周波数の音を出して持ち主を洗脳催眠状態……一織や廻が嫌と言うほど見てきたあの状態にする機能がある。その主導権はやはり幹部のようだ。教団側の命令一つで一般人を物言わぬ傀儡に変える、こちらもおぞましい機能だ。あのQRコードは言わばマニュアル操作ボタンで、特定の機器を使って読み取りをかけると幹部側からの操作がなくても持ち主を一時的に操れるようになるのだとか。

 

「ふぅ……こんなところかしら。ほんと悪趣味すぎる。嫌悪感で頭がどうにかなりそう」

 

 廻は父の形見のデバイスを自身のスマホから引き抜き、得た情報を一織に転送しようとする。

 

「……圏外、か。インカムも繋がらないし、目白くんが連絡をよこしたのがここに来る直前でよかったわ」

 

 スマホをしまい、再び拳銃に持ち替える。教徒の実態は粗方明らかにできた。しかしながら知りたい情報はまだまだある。ゾンビ化の原因、“この時空に存在しない技術”とは何か、教団の目的は何か。

 

「………」

 

 部屋の奥を見る廻。細い通路の先に扉があり、うっすらと光が漏れている。隠し区画はまだ続く。得られる情報がここまでとは言わせない。

 

「あの先は……ここよりは広い空間のようね。生体反応は……なし。けれど、なにかしら? 何かのエネルギー反応……?」

 

 不可思議な計測結果に廻は首を傾げる。だが他に進む道はなく、引き返すという選択肢も当然ない。

 廻は足音を殺しつつ扉に近づき――その扉を開けた。

 

「――なによ、あれ」

 

 

 まず目に飛び込んできたのは、そしてその目に焼き付いたのは、玉虫色に輝く光の柱。

 

 部屋の中ほどの床から天井に向かって一直線に噴き出すように、もしくは流れるように。

 

 玉虫色の光は常にその濃淡を変え、グラデーションが形作る模様は常に形を歪ませ続け、まるで光そのものが生きているような、意志を持っているような。

 

 神秘的、それでいながら内に目覚める感情は。

 

 抱くことを許された感情は、崇敬ではなく畏怖。

 ただただ、畏れるのみ。

 

 

「はっ――!?」

 

 拳銃を落としそうになっていることに気付き、廻は我に返った。咄嗟に胸に手を当てる。異常はない。異常はないが――、

 

「恐怖……? うそでしょう、鼓動も脈拍も速まるはずがない! ない、けれど……この感覚は!」

 

 恐怖と言う他ない。“あれ”はただそこにあるだけで人間に恐怖と狂気を与える存在、そのことを廻は直感的に理解した。並の人間が直視したら、下手したらそれだけで意識を失ってしまいかねない。

 

「なにが……なんなのよこれ……! 一体どう――あっ!」

 

 恐怖に震える感情の奥底を押さえつけるようにして目をこらすと、光の柱に目を奪われたせいで気付けなかったものが視界に入ってきた。

 光の柱の根元。成人ひとりがすっぽり入る程度の広さを持つ光の奔流を中心に、複雑な魔法陣が描かれていた。その陣の大きさは部屋全域に及び、廻のすぐ前の床まで書き込みが広がっている。

 そして光の柱を囲うように、あるいは魔法陣に沿うように、横たわる七人の人影があった。

 

「そんな……うそでしょう、まさかあれは……!」

 

 生体反応は今もない。七人の人影は見覚えのある黒いローブを被せられていて顔も見えないが、ローブの隙間から覗くのは綺麗に仕立てられたドレスやスーツ。つい何分か前まで、何も知らぬまま社交パーティに興じていた参加者たちで違いないだろう。

 

 そして。

 廻が状況を受け入れるのを、“彼ら”は待ってくれない。

 

「……っ!!」

 

 ゆらりと立ち上がる、ヒトだったモノ。これまでも行く先々で遭遇した、教団の傀儡たちのなれの果て。七体のゾンビは次々にその焦点を廻に合わせ、ゆっくりと向かってくる。

 

「くっ、うううぅぅぅ……! ごめん、なさいっ!」

 

 廻は歯を食いしばりながら、一気に七回、引き金を引いた。空気の抜けるような発砲音と共に七発の弾丸はゾンビたちの眉間を正確に撃ち抜く。哀れなパーティ参加者たちは今度こそ完全に倒れ伏し、塵となって消滅した。

 

「こんっな……! こんな、だなんて……! 目白くんは、これをっ、何度――!!」

 

 目を伏せ、拳銃を握り潰さんとばかりに拳を握りしめる。感傷に浸っている暇がないのは分かっているし、一織が言っていた『常に自分たちは後手』という言葉の意味も理解しているつもりだった。しかしこの部屋で起こったことはあまりにも唐突で、あまりにも呆気なかった。

 

「なんなのよ……これは……!」

 

 そう言って見上げたのはそびえ立つ光の柱。玉虫色に輝くその光の塊は相も変わらず脈動し、魔法陣中央から天井に向かって噴き出し続けている。

 

「なん、なのよ……!」

「――知りたいの?」

「っ!?」

 

 ふいに、廻へかけられる猫なで声。声の方角は光の柱を挟んだ反対側の壁。よく見るとそこには豪奢な扉があり、声の主はその扉を通ってたった今この部屋に入ってきたようだ。

 

「というか、知らなかったのね。ロッジを嗅ぎ回る可愛らしいドブネズミさん♪」

 

 真っ赤なドレスに、整えられた化粧。実年齢よりも若々しく見えるが、その猫なで声はどう聴いたって不釣り合いで、不気味な嫌悪感を廻に与える。

 資料で何度も目にした容姿。そして何より、ロッジの中枢とも言えるこの部屋に我が物顔で立ち入れる人物など、ほぼひとりまで絞られるだろう。

 

「主催者、薬師寺良華……!」

「年長者には敬称をつけなさい? それからその物騒なおもちゃも、初対面の相手に向けるものではないはずよぉ?」

 

 薬師寺良華は光の柱を迂回するように歩き、怒りに震える廻の表情と、構えられたままの拳銃を交互に見つめて嘲るような笑みを浮かべた。

 

「……あなたたちの、『翡翠の光』の目的は何? 何も知らない人々を踏みにじって利用して、命まで奪って! そこまでして何を目指しているの!?」

「んー……」

「答えなさい、薬師寺良華! それにこの光の柱だって、一体なんの――」

「――アッハァ♪」

 

 ふいに彼女の口から漏れる、恐らく地声であろう低い声色。

 

「アッ――ハハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハッ!! ハハハハハハハハハハハハッアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」

 

 狂気ともとれる彼女の低い笑い声が部屋中に響く。廻は耳障りな笑いを切り落とすように叫んだ。

 

「なにがおかしい!」

「おかしいわよぉ! だって、ほんっとーーーになァんにも知らないんですもの! 教団内でウワサのドブネズミさんが一体全体どれほど立派な志をもってアタシたちに噛みついているのかと思ったら! なんにも知らない! なんにも掴めてない! たぁだゾンビをぶっ殺して逆ギレしてる、小便臭ェ小娘だったなんて! 思いもよらなかったんですものぉー!!」

「こっの……!」

 

 拳銃を両手で持つ廻。彼女の敵意を孕んだ鋭い視線は薬師寺良華を真っ直ぐに射貫くが、赤いドレスの主催者は意にも介さず、愉しげな笑みのまま再び口を開く。

 

「滑稽で可愛らしいゲストのために一肌脱ごうかとも思ったけど、お姉さん人気者で多忙だからそんな時間ないのよねぇー。だから手短に、教えてアゲルわよ♪」

 

 懐に手を伸ばす薬師寺。廻は咄嗟に引き金を引こうとするが……目の前の女が取り出した物体を見て、唖然と動きを止めてしまう。

 

「それは……」

「あらぁ。これには見覚えでもあったのかしら?」

 

 廻の返答を待たず、薬師寺良華はそれを腰に当てた。それは小さな装置。黒を基調に、赤と銀の差し色が目立つバックル状の物体。薬師寺良華の腰に当てられると同時に左右からベルトが伸び、彼女の腹部に固定される。

 バックル部分の中央には何かを差し込むようなスロット。スロットの外側には細長い赤色のボタン。

 

 それ自体に、見覚えはない。

 だが一目見ただけで理解できた。スキャンをかけるまでもなく明瞭に。そのスロットに“何を”差し込むのか。そしてそのバックルが“どこの時空の”技術体系で造られたものなのか。

 

「それは……まさかプログライズキーを……!」

「『レイドライザー』よ♪ パーティを開く前、既にアタシが取り出していた成果。ヒトを『レイダー』へと変身させる装置。これでアタシも、ヒトを超えた力を扱うことができる。取りだしたてホヤホヤの、こっちの成果も使ってね」

 

 薬師寺の手には濃い青色のプログライズキー。彼女が空いた方の手で投げ捨てたのは、空になった星形紋章の小箱だった。

 

「さぁて……」

 

 薬師寺の声色がまた一段低くなり、彼女はそのままプログライズキーの起動スイッチを入れた。

 

HURRICANE(ハリケーン)!》

 

「あんまり大人を舐めンじゃないわよ? クソガキ」

 

 キーをレイドライザーのスロットに装填。バックルが起動し、機械的な待機音が不気味に鳴り響く。

 

「――実装(じっそう)

 

 鋭く言い放ったその言葉と共に、ボタンを叩くように押し込んだ。

 

RAIDE(レイド) RISE(ライズ)!》

STORMING(ストーミング) PENGUIN(ペングウィン)!》

 

 キーのデータ名を告げる音声と共に、機械的なリングが薬師寺良華の足元から上へ、彼女の全身をくぐり抜けさせるように上昇していく。リングの動きに合わせて、彼女の姿が変化していった。ヒトから異形へ。赤いドレスから白を基調とした全身装甲へ。

 

《The winds are at his command...》

 

 ものの数秒で完全に姿を変えた薬師寺良華――いや『ストーミングペンギンレイダー』と呼ぶべきか。

 その白と青の全身装甲はもはや鎧と言って差し支えない。中世の騎士を彷彿とさせる胸部装甲、下半身をガードする前垂れと腰マント、ペンギンの翼にも見える肩アーマー。頭部には巨大なゴーグル状のバイザーに、顔の下半分はスリットの入ったプロテクターで覆われている。全体的にペンギンの面影は見えるものの、凶悪な鎧に身を包んだ異形の兵士には、もはやそれの愛嬌など感じられない。

 

『さあ、大人しくしてなさい、クソガキ?』

「くっ――!」

 

 引き金を引く廻。相手は生身の人間ではなく、ためらう必要がない。それどころかためらったら自分自身が危険だ。しかし――、

 

「ううっ、や、やっぱり……!」

 

 生身の人間でないということは、対人用の武器でどうにかなる相手ではないということ。ペンギンレイダーの鎧の隙間、アンダースーツ部分を正確に狙ったことは咄嗟にしてはこの上ない判断だったが、銃弾は虚しく弾かれていった。

 

『あーあ。ほんっと、躾のなってない小娘ね……。大人しくしろって――言ってンだろうが!』

「あっ」

 

 めきっ、と。何かがひしゃげるような音と振動。腹部に突き刺さる重たい衝撃。

 一瞬で距離を詰めてきたペンギンレイダーの拳が廻の胴体にめり込み、そのまま彼女を背後の壁まで吹き飛ばした。

 

「ごっ……あ、ぐ、ぅ――!?」

 

 鈍い破砕音。漫画でしか見られないような蜘蛛の巣状の亀裂が走る壁。廻の胴部は陥没した壁面に食い込み、彼女は磔の体勢のまま、がくりとその頭を落とした。

 

「う……うぅ………」

『無様ね。ドブネズミじゃなくてカエルって呼んだ方が良かったかしら。でも、意識を保てたのは偉いわぁ、褒めてアゲル。アタシの手間も減るしね』

「(だめ……ダメージが……大きすぎる。何も見えない……。ゆび、ゆび一本、も、動かせない……)」

 

 ペンギンレイダーはだらりと垂れた廻の髪を鷲掴みにし、力尽きた彼女の身体を無造作に引き剥がした。

 

『約束通りひとつ、教えてアゲル。あの玉虫色の光の柱は「銀の鍵」。全にして一、一にして全なる窮極の門』

 

 髪を掴まれ、引きずられる感覚を覚えながら、廻は声を絞り出す。

 

「銀の、……鍵? また、この時空に存在しない、技術……?」

『ざぁんねんでした♪ あれだけは、銀の鍵だけはこの時空に実在している。だって……“存在しない技術”を()()()()()()()()()()()()()()()なんですもの』

「な、ん――」

『あれは鍵にして、門。あらゆる時間と世界に隣接した存在。どんな時空にも、平行世界にも、理論上は一瞬で行き来できる端末。今からあの中に――アンタの頭をぶち込む』

「……!?」

 

 ブラックアウトしていた視界が戻ってくる。廻が頬を床に擦られながら視線を上げると、玉虫色の光の柱――『銀の鍵』が目の前まで迫っていた。

 

『そんな「銀の鍵」もアタシたちの目的を達成するための道具に過ぎない。鍵の本体たる邪神の本来の出力には遠く及ばないし、翡翠の光の目的に都合がいいように調整もしてある。……良かったわねぇ。知れるわよ、あんなに知りたがっていたアタシたちの目指す深淵を』

 

 薬師寺良華の話が本当なら、この光はあらゆる時空に繋がる通路のようなもの。玉虫色の光の中には、今いる時空を含めたあらゆる時空の情報が流れている。それを翡翠の光がデチューンし、その通路の行き先をある程度絞ったと言うのなら、廻が知ろうとしていた教団の目的に触れられる可能性が高い。だが、そんな光の中に頭を突っ込まれるということは――、

 

『まあ、余計な情報もたっぷり入ってくるでしょうけどね。光の粒子ひとつひとつに別時空のすべての情報が詰まっているんですもの。頭が破裂するのが先か、精神が散り散りになるのが先か。その前に見つけられるといいわねぇ』

 

 それは事実上の処刑。なまじ教団の目的に触れられたとして、絶え間なく流れ込んでくる情報の奔流に人間の脳と精神が耐えられるはずもない。

 

『運が良ければどこかの時空に飛ばされちゃうかもね? あ、悪ければ、か。まあ身体が残っていたらあとで海に捨ててアゲルわよ。アンタがぶっ壊れる様子を鑑賞しているほど、アタシは暇じゃないの』

「うあっ……」

 

 首根っこを掴まれ、持ち上げられる。脱力した廻の目と鼻の先で、光の柱が脈打っている。

 

「や、やめ……」

『いってらっしゃい。――さようなら』

 

 掴んでいた手が放される。廻の身体は倒れ込み、視界は玉虫色のギラギラとしたものに包まれる。

 

「あ――」

 

 その瞬間、この時空の“すべて”と、隣り合うすべての時空の“すべて”によって、廻の記憶が、精神が、自我が、力任せに塗り潰されていった。

 

 

 

 

 

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