どうも、イチゴころころです。
900UA到達しました! ありがとうございます!
先日ふと思い立って自宅の本棚を漁ってみたのですが、書店で購入できる文庫本の小説って、1ページあたり700字弱みたいです。出版社によってページあたり文字数には差があるようです。ちなみに私が調べた本は1冊全部で21万字程度でした。
本作は1話あたり3~5千字で(作者が力尽きるので)投稿していますが、文庫本換算すると5~8ページぶんという計算になりますね。本編も2-9終了時点で9万字とちょっとですので、あと少しで文庫本の半分ほどの量になるわけです。すげえ(語彙力)。
「くそっ、やっぱモタモタしすぎたか!」
アマゾンズドライバーの入ったバッグを抱え大広間に戻ると、一織は異様な光景に出迎えられた。
人の数が少なすぎるのだ。60名以上いたはずの参加者、つい先ほどまでパーティを満喫していた会員たちの姿が激減し、残された数名もなぜか何事もないかのように歓談している。嫌な予感を覚えた一織は素早く広間を見渡すが、小黒鈴と彼女の両親らしき人影もまったく見当たらなかった。
「そんな、鈴さん……!」
急いで廊下に戻り、窓から外を見る。夜の闇に覆われた敷地内には街灯が点在しているものの、彼女らの姿はどこにもない。
「なにやってんだ目白一織……! どう頑張ったって後手になるって、そう言ったのは俺だろう! わかってたはずなのに……!」
インカムに手を当てるが返ってくるのはノイズだけ。少し前から廻との通信は繋がらないままだ。
「あっ、見つけた!」
アマゾンの視力を少しだけ借り、大きな噴水のある庭園を横切る数名の集団を発見した。その中にボタニカル刺繍のドレスの少女・鈴の姿も見える。一織は見つけるやいなや廊下を駆け出し、再び屋外へ向かっていく。数名の黒服に不審な目を向けられるが、ここまで事が進んだ今となっては知ったことではない。一織は彼らに構わず走り続けた。
その集団は入り江方面とは別の裏庭へ向かっている様子だった。庭を抜け、海に面した断崖沿いの遊歩道にさしかかる頃、ようやく遠目に彼女らの後ろ姿を捉える。
「この先に何が……? いや、何でもいい。追いついて止める。そしたら――え?」
ふと視界の端が目映い光に照らされ、一織は咄嗟に振り返った。
「……なんだよあれ」
背後にある建物――先ほどまでいた屋敷の本館の端から、天に向かって光の柱が伸びていた。さらにその奥、位置的に中庭の辺りからももう一本、さらに別の場所からももう一本。次々と立ち上る光の柱は玉虫色ような奇妙な輝きを携え、得も言われぬ圧迫感を一織に与えてくる。
「一体なにが――」
「――
「は……?」
視線を向けると、奇妙な生物を象った彫像の影から声の主が姿を見せる。赤いドレスを纏った長身の女性、薬師寺良華だった。
「少しだけ昔の話をしましょうか。ほんの三億年とちょっとの昔話を、ね♪」
「………」
彼女は一織に話しかけているようだが、その瞳は彼の背後、今も煌々とそびえ立つ何本もの光の柱を見つめていて、その表情には恍惚とした笑みが宿っている。
「一柱の大いなる邪神が、多くの眷属と共にこの
一織は生唾を飲み込む。額に汗が滲むのを感じる。これは人類が知っていい話なのかと、全身が警告を発しているようだった。
「先住していた古のものとの争いの果てに追いやられたとも、星辰の変化により力を失ったとも言われている。けれど彼は今も……多くの眷属たちと共に水底で目覚めを待っている。繁栄の象徴たる都市ルルイエが再び陽の光を浴び、現代の支配者に代わって星々を拝む日を待っている。盲目白痴の魔王の孫、外なる神を祭る祭司長、深きものどもの長。その邪神の名は――」
どくんと心臓が跳ねる。一織に残った“人間”の部分が確信したように叫ぶ。これは知ってはいけない、触れてはいけない、決して理解してはいけない
「邪神の名は
「……それが、あんたらの目的か」
「『翡翠の光』の最終目標はクトゥルフの復活。海底都市に接続し、星辰を正し、大いなる邪神を蘇らせること。そのために『銀の鍵』を利用し、水底に眠る悪意と関わりの深い“プログライズキー”という技術を集め、研究してきた」
ここで初めて、薬師寺良華の真っ黒な瞳が一織を捉えた。
「ボウヤも、止めに来たんでしょう?」
「……!」
彼女の手には青色のプログライズキーが握られていて、腰には既にレイドライザーが装着されていた。
「……やれるもンなら、やってみなさいよ」
《HURRICANE!》
「実装……」
《RAIDE RISE!》
《STORMING PENGUIN!》――《The winds are at his command...》
バックルから流れるアラーム音と共に姿を現したストーミングペンギンレイダー。白と青の鎧に身を包んだ彼女は愉しそうに肩のアーマーを震わせた。
『この屋敷に設置した銀の鍵は八つ。魔法陣ひとつに生け贄七人……♪ 誰にも……他の幹部にも、司祭様でさえも成し得なかった偉業を今宵、このアタシが達成する! 誰よりも強く、美しく、多くの教徒に愛されたアタシだからこそできる、悲願を達成してみせる!』
「はは……なにが愛された、だ。言ってることはサッパリだけど、要は詐欺師の延長だろう」
本能的に震える手を無理矢理抑えつけ、一織はアマゾンズドライバーを装着する。それを目にしたペンギンレイダーは再び陰湿な笑みを零した。
『なあんだ、ボウヤの方だったの。ウワサのドブネズミの正体』
「あ?」
『報告よりもずっと弱かったものねえ、あの愛嬌のない小娘は♪』
「……彼女はどうした」
『さあ? そろそろ死んでる頃じゃない?』
吐き捨てるように、心底興味のないことのように彼女は淡々と述べた。
『銀の鍵に脳内ぶち犯されて頭が破裂するか、全身バラバラになって時空の狭間に溶けていくかのどっちかじゃない? 仮に命があったとしても廃人確定でしょうね。考える力も意志も持たず、汚らしく体液を垂れ流すだけの木偶人形と――』
「――もういい」
《
「アマゾン」
幾重もの光の柱をバックに灯る爆炎。炎の収束を待たずに、一織――アマゾンラムダは敵に向かって駆け出した。
《D・D・Dive! To the bottom...! 》
『はあアアアア!』
大きく振り抜いた拳の一撃。それを腕で受け止めたペンギンレイダーが大きくノックバックした頃、ラムダの変身が完了した。
『ぐぅっ!?』
『薬師寺、良華ァァアアア!!』
遊歩道に響く怒りの咆哮。牙を剥いた
そしてその様子を、屋敷の影から見据える人物がいた。彼は黒服としての業務を終え、自身の担当する最後の一団を魔法陣の部屋へと誘導した直後だった。
「ふうっ……。もう始まっているのですか、せっかちな方だ。それに、やはりあの目白一織……」
呼吸を整え、本城はネクタイを緩めた。ハンカチで手早く汗を拭うと、空いた方の手でフルボトルをカチカチと振る。
「私の疑念の通り、教団に楯突くサメの怪人でしたか。――またとない機会だ。廻様の平穏と安寧のため、彼にはここで消えてもらいましょう」
活性化したオクトパスフルボトルの成分が本城の闘争本能を刺激する。彼は口角を吊り上げると、ボトルをトランスチームガンに装填した。
《
「――
《Mist Match――!》
《Octopus...! O・Octopus...!》――《Fire...!》
灰色の蒸気の中から現れるイエローガイスト。彼はバルブのついた深紅の片手剣・スチームブレードを刀身と柄の部分に分解し、トランスチームガンの銃口と後部にそれぞれ連結した。合体したふたつの武器はたちまち巨大な狙撃銃剣へと姿を変える。
イエローガイストはスコープを覗き込み、遥か遠くの遊歩道で激突するラムダとペンギンレイダーを捕捉すると、オクトパスフルボトルを再装填した。
《Steam Shot! Octopus!》
『そォれ――!』
漆黒の弾丸を発射し、すぐさまイエローガイスト本人もゆらりと駆け出した。
『……!?』
ペンギンレイダー相手に怒濤の連撃を与えていたアマゾンラムダは、死角から高速で飛来する殺意を肌で感じ取った。
『はあっ!』
ペンギンレイダーの頭を石畳に叩き付けると、その勢いのまま振り向きざまに裏拳を放ち、完璧なタイミングでスチームショットの弾丸を弾き飛ばした。しかし、空中で爆裂したその弾丸は大量の黒煙を吐き散らし、ラムダの視界を黒く塗りつぶしてしまう。
『……この攻撃は』
『シッ――!』
黒煙の中から音もなく突撃してきたのは警告色のガスマスク。喉元を狙う紅い刃を腕のブレードでなんとか受け止めると、ラムダは地面を蹴って大きく後退した。
『やっぱりあんたか――イエローガイスト』
黒煙が晴れ、姿を見せたのは見覚えのある頭足類の異形。彼はペンギンレイダーに肩を貸すようにして立ち上がらせると、呆れたようなため息をついた。
『今のも防ぎますか。相変わらず、生にしがみつくかのような品のない防御術ですねぇ』
『うぐ……ぐぅ、ガイスト……。遅いンだよ、アンタはアタシの護衛でしょうが』
『失礼、レディ。貴女様より賜った
ふらふらと立ち上がるペンギンレイダー。その前にイエローガイストは立ち、狙撃銃剣を分解する。
『護衛としての業務にも、これより尽力させていただく所存ですので』
『アハハ♪ それでいいのよ。アタシの偉業、その最後の一手をここで完遂させましょう!』
ペンギンレイダーが両手を胸の前で構えるとどこからか冷たい風が吹き、冷気が彼女の手元に集まっていく。イエローガイストもその傍らで、トランスチームガンと逆手持ちのスチームブレードを構える。
『さて野蛮な海の獣よ、これでこちらの手数は倍になりました。君のお得意の防御術は、同時にいくつまで防げるのですかねえ……? 検証といきましょうかぁ』
『上等だよ――来いッ!』
ラムダも両腕を顔面の前で交差させ、独特のファイティングポーズを取る。腕のブレードの隙間から覗く黄色い複眼は、立ちはだかる二体の異形を真っ直ぐに見据えていた。
* *
視界の端から端まで、いくつもの画面で埋め尽くされていた。あらゆる人の営み、情動、歴史が早送りで流れては視界の外に消えていく。
無限に広がる情報の海を、わたしは漂っていた。わたしが何者なのか、どうしてここにいるのか。何を願い、どこを目指していたのか。わたしは何も知らない。『わたし』という情報は、とうの昔に埋もれて見えなくなってしまった。
破滅する世界を何百と見た。救われる世界を何千と見た。人と異形の争いを幾万と、人と異形の友情を幾億と見た。
海底に沈む都市が見えた。きっとこれが、わたしの知りたかった情報なのだと思う。けれどもうどうでも良かった。なぜそれを知りたかったのかなんてもう思い出せない。それを知ってどうしたかったのかなんてもう分からない。目の前にはこんなにもたくさんの世界があるのに、わたしはどこにも入れないし、誰にも見つけてもらえない。哀しいときに、どうすれば良かったのかも思い出せない。
幸せそうな親子の姿が見えた。父と母と幼い少女。それはどこかの世界の、名も知らない誰か。彼らの笑顔に不思議と視線を奪われたけれど、その画面も押し寄せる別の画面によってすぐ流されていってしまった。わたしはそれがとても悔しかった。悔しいときにどうすれば良かったのかも、わたしには分からない。
分からなかったから、やりたいようにやってみることにした。
目の前を埋め尽くすたくさんの画面をかき分け、重たい腕と足を動かして進む。玉虫色のねばねばした球体がわたしにまとわりついてくる。邪魔だ。ひとつ思い出した。邪魔なものはどけてしまえばいい。
視界にいくつもの画面が貼り付いてくる。ひとつ思い出した。いらないものは払い落としてしまえばいい。
理不尽な暴力に襲われる人々の映像を見た。思い出した。腹が立つものには腹が立つと言えばいい。理不尽な暴力にはすべてを賭して抗えばいい。
「道を空けなさい……」
その声は怒りに震えていた。とてもとても懐かしい――わたしの声だった。
「わたしには、こんなのに付き合っている暇なんてないッッ――!!!」
甲高い破裂音。ガラスが砕けるように視界が裂け、漂っていた大量の映像が何処かへ吹き飛んでいく。
『銀の鍵』の光の柱から弾き出された廻は、その勢いのまま床を転がった。四肢は痙攣するかのように震え、激痛に苛まれた頭を抱えることもままならない。
「くぅぅううう――!! うああぁぁぁっ!!」
ばちばちと、思考の奥底で火花が飛ぶ。神経を素手でかき回されたような気持ち悪さに耐えきれず、何度も呻き声を上げる。ひとしきりのたうった後、最後に廻はその全身を弛緩させた。
「うぅ、っく、かぁっ……! 戻ってきて……やったわよ」
仰向けのまま、震える指に力を込めて拳を握る。天井を見上げる彼女の瞳には、いつもと変わらない鋭い光が宿っていた。
「待ってなさい、薬師寺良華……!」