仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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ここから決着までノンストップ!
本当はこの1話で決着まで持って行く予定だったのは内緒です。

ぜひぜひ決着までお付き合いください。





2-11. 其は意志、貴方がわたしの仮面ライダー

 

 

 ストーミングペンギンレイダーの拳を右手で、スチームブレードの斬撃を左手でそれぞれ受け流し、時間差で飛来したトランスチームガンの銃撃を回し蹴りで弾き返すと、暗い青色に身を包んだサメの怪人は石畳に着地した。だいぶ前から息は上がりっぱなしだが、致命傷はひとつもない。

 

『……さすがに、褒めて差し上げる必要があるみたいですねぇ』

 

 余裕の声色を見せるイエローガイストはわざとらしく手の甲を叩く。

 

『我々ふたりを相手取り、なおも有効打を往なし続けるとは。下品も突き詰めればそれなりには至るということですか』

『ふー……、ふー………!』

『ではでは、このあたりで勝利条件でも確認しておきましょうかぁ? すべての仕込みを終えた我々は、クトゥルフ復活の儀式が完了するのを待てばいい。すぐそこの「銀の鍵」が発動すればちょうど八つ目、でしたっけ?』

『……!』

 

 嘲笑うように指し示された先を見ると、崖の端に八角形屋根のガゼボがあった。ガゼボを中心に魔法陣が描かれていて、今まさに教徒たち――小黒鈴とその家族を含む七人の参加者が魔法陣を囲むために整列したところだった。どうやら戦闘をしながら、いつの間にか彼女らに追いついていたらしい。

 

『我々は極論、このまま適当に戯れているだけで勝利できる。ですが、おやおや? 君の勝利条件は何でしょう? まさか我々を倒して、魔法陣を止めるという工程を、防御で手一杯という現状を打破するところから始めないといけないのですかねぇ?』

『――御託はいいンだよ、ガイスト。アタシはとっくに我慢の限界を超えてるの』

 

 陰湿な笑い声を上げるガイストに、釘を刺すように割り込んできたのはペンギンレイダー。彼女は二対一という有利な状況でなおラムダを仕留められない状況に苛立っていた。

 

『このクソガキを、いますぐぐちゃぐちゃに叩きのめさないと気が済まないのよ――!』

 

 薬師寺良華は特別な幹部。司祭様に認められ、より多くの『銀の鍵』起動権を賜ったプライマル・ベイ会長。レイダーにもなり人を超えた力を手にした彼女が、どこの馬の骨とも分からない乱入者にかき回されたままなど、彼女自身到底認められない。

 

『くたばれェエ!』

 

 レイドライザーのボタンを押し込む。プログライズキーに込められた『ハリケーン』のアビリティデータにブーストが掛かり、両手の間に圧縮された冷気が集まっていく。

 

STORMING(ストーミング) BOLIDE(ボライド)!》

 

 肥大化する真空の刃。彼女はその超出力の一撃を――ガゼボの前に並ぶ教徒たちめがけて射出した。

 

『(……っ! 鈴さん――!!)』

 

 ラムダも同時に走り出す。整わない呼吸を止め、攻撃を受け止め続けてぼろぼろの両脚に力を込め、ストーミングボライドを追い越すほどの加速で彼女らの前に立ち塞がる。

 

 しかし、如何にアマゾンラムダが防御術に優れているとはいえ、疲労の抜けない状態から人々を庇うことと必殺級の一撃を受け流すことを、同時に成立させるのは無理があった。

 

『うぐぁ――っ!』

 

 ストーミングボライドの直撃を受けるラムダ。酷使された身体にとどめを刺すような一撃を受け、アマゾン細胞が活動を停止。アマゾンズドライバーの発光ユニットが消灯し、その変身が解除された。

 

「はぁっ……、はぁっ……!」

 

 膝をつく一織。腰からアマゾンズドライバーが外れ、薄く氷の張った石畳を転がった。咄嗟に手を伸ばすも届かず、膝から力が抜けてうつ伏せに倒れ込む。

 

『……幾分か、品のない幕切れとなりましたね』

『フン、知ったこっちゃないわ。あのボウヤなら馬鹿正直に庇うだろうと思っただけよ。庇えなかったとして、“予備”もいるわけだし?』

『まったく……』

 

 つまらなそうに武器を下ろすイエローガイスト。一方でペンギンレイダーは一織に歩み寄り、ゴーグル越しに彼を見下ろす。

 

「はあーっ……はあーっ……! くっ……」

『ずいぶん頑張っていたみたいね。これで理解したでしょう、アタシたち「翡翠の光」に噛みつこうとすることが、どれだけ意味のない無駄なことか。……ほら、見てみなさい』

 

 薬師寺良華の言葉に促されるように、一織は視線を巡らせた。遊歩道に沿って植えられた背の高い生垣の向こうに、光の柱が七つ、そびえ立っている。そして遊歩道の先、屋敷へ向かう石畳の先からは、黒いローブを被った元・参加者たち……大量のゾンビがゆらゆらと歩いてきていた。

 

『「銀の鍵」の生け贄を再利用する技術はアタシが提唱した。そこの七人……ボウヤが必死こいて守った彼らももうじきゾンビの仲間入りね。八つ目の「銀の鍵」が発動し、アタシは悲願を達成する』

「こっ……んの――!」

 

 一織は再び両腕に力を込め起き上がろうとする。しかし、

 

『無駄だって、言ってンでしょうが!』

 

 ペンギンレイダーは目の前で転がる装置、アマゾンズドライバーを力任せに蹴り上げた。ドライバーは宙を舞い、遊歩道を歩くゾンビたちの向こうに消えていった。

 

「あ……」

『そこで世界の破滅を見てなさい。そして思い知りなさい、アンタの意志や信念が如何に無力で――なァんにもできない無価値なモンなのかをね!!』

 

 ガゼボの中で輪になっていた教徒たちが跪き、魔法陣が淡く光り出す。歯を食いしばる一織からは、小黒鈴の表情は見えない。――そのときだった。

 

 

 

「撤回しなさい、薬師寺良華っ!!」

 

 

 

 透き通るような、それでいて闇を切り裂くかのような、力強い声。

 

 遊歩道を歩いていたゾンビたちは振り返る間もなく、糸の切れた人形のように倒れ消滅していった。その向こう、七つの光に背後から照らされるように現れたのは、海風に髪をなびかせる細身の人影。ボロボロのチャイナドレスの内側から漆黒の戦闘用コルセットを覗かせる彼女の姿を、ここにいる誰もが知っていた。

 

『うそ、アンタ……!?』

「おいおい……これはなんとまあ……!」

『…………は?』

 

 ある者は生存に驚愕し、ある者は生存に歓喜し、またある者は彼女がここにいることそのものに動揺を露わにする。

 右手に拳銃、左手には拾い上げたアマゾンズドライバーを握りしめ、霧島廻は鋭いまなざしを二体の異形へと向けた。

 

「撤回しなさい。確かに目白くんの言葉にはあまりにも無駄が多いけれど、彼の意志と信念に無価値な部分はないわ」

「いやなんだその言い方……」

 

 腕に込めかけていた力がするりと抜ける一織。しかしその口元には小さな笑みが浮かんでいた。

 

『うそ、ありえない! 「銀の鍵」に頭を突っ込まれて正気でいられるなんてありえないっ! アンタは今頃、廃人になっていなきゃおかしいのよ!』

『………!?』

「おあいにく様、わたしは情報処理が得意なの。少々時間が掛かったけれど、あの『銀の鍵』が見せてきた情報はすべてラーニングしたわ。もちろん……『翡翠の光』が目指す悲願とやらについても。主催者の粋な計らいのお陰ね、オバサマ?」

『この……クソガキ……!』

「……ひとつだけ聞かせなさい、薬師寺良華。ルルイエの浮上とクトゥルフの復活はつまり、地球の支配権を彼らに渡すこと……人類文明の破滅を意味している。世界を征服するでもなく、自ら支配するでもなく、旧支配者による文明の蹂躙こそが貴女たちの悲願なの? 破滅の先に、貴女たちは何を見いだしているの?」

『何を、見いだしているか、だと……?』

 

 怒りに拳を震わせる薬師寺良華。鎧越しのくぐもった声で、彼女は絞り出すように応えた。

 

『そこに理由なんてあるか! 地球上の生物が、理由をつけて繁栄しているのか!? ご立派な御託を並べて交尾をし、子孫を残しているのか!? そんな回りくどいことをしているのはせいぜい人間だけだ! (しゅ)の生存と繁栄が生物の至上命題と言うのなら、破滅だって同じで良い! 我々はただの意志! 大いなる深淵の復活と、世界の破滅を命題としただけの、この世の何よりも純粋で敬虔な意志そのものなのよっ!』

「……そう。もういいわ」

 

 廻は手首を返し背後に向けて発砲した。茂みの奥から向かってきたゾンビが一体、倒れて消滅する。見れば、遊歩道の先からは第二波とでも言わんばかりのゾンビの群れが迫ってきていた。

 

「教団とは何をどうしたって相容れないと、今一度理解できた」

 

 廻は目の前の敵を見据えたまま腕を上げる。もみじ色のチャイナドレスが翻り、魔法陣の光を浴びて淡く輝いた。

 

「改めてここに宣戦布告するわ、『翡翠の光』!! 人の想いと人類の歴史を踏みにじり、わたしたち親子と、ひとりの男の運命を狂わせた邪悪の教団――!!」

 

 波の砕ける音よりも高らかに、すべてを黙らせるような鋭さで、彼女の声が海岸に響く。

 

「その破滅の意志、このわたし()()がぶっ潰すわ! ――目白くん!!」

 

 廻が振りかぶり、アマゾンズドライバーを投げる。教団によって生まれ、ひとりの青年を異形に変えたつり目の装置。それは綺麗な弧を描き、満身創痍となった持ち主の元へ向かっていく。

 

「ん……!」

 

 一織は今度こそ両脚に力を込めて立ち上がり、手を伸ばした。返事をする体力などとっくにないが、彼女の言葉とこのドライバーだけは何としても受け取る。既にそう決意していた。

 

「(やってやるとも。君が……そう望んでくれるならな!)」

 

 心の中で返事をする。声を出す気力は、この後の一言のために取っておかなくてはならない。そんな心の声に応えるように、視界の奥で廻が小さく微笑んだ気がした。

 

LAMBDA(ラムダ)

 

 

 

「―――― ア マ ゾ ン っ っ ! ! !」

 

 

 

 夜空に向かって再び灯る閃光。彼の発する爆風を頬に受けながら、廻は小さく口を開く。

 

「……『銀の鍵』の向こう側に、異形の戦士たちの歴史をいくつも見たわ」

 

 その芯を持った声色は、小さいながらもこの場にいる全員の耳に届いていた。

 

「異形の戦士たちは皆、それぞれの世界で理不尽と戦っていた」

 

 彼女の言葉に呼応するように爆炎がゆっくりと収束し、海の捕食者を模したシルエットを形成していく。

 

「ときに敗れ、ときに挫け、何度も叩きのめされ……。それでも、自らの“意志”を貫いて理不尽に抗っていた」

『ハン! “存在しない技術”の原典たちの話? くっだらない! そんなものは文字通り、この時空に存在しない概念! この世界に実在するのは星々の混沌から生まれた家系のみ! 存在しないヒーローの名など何の価値もない!』

 

 爆風に煽られる頭部を腕で庇いながら、薬師寺良華は嘲笑った。しかし廻は、その嘲笑さえもはね除けるように口を開く。

 

「価値はある! 存在しないならわたしが存在させる! たとえこの街の全員に否定されようとわたしは、この霧島廻だけは呼び続ける! ええ、何度でも――!!」

 

《D・D・Dive! To the bottom...! 》

 

「彼はラムダ! ――『仮面ライダーアマゾンラムダ』よ!!」

 

 閃光が止み、爆炎が消失する。四肢のブレードと背中のヒレ、暗い青色の体表に覆われたその異形は今この瞬間から、ただの異形ではなくなった。

 

「さあ――!」

『――勝負だ!』

 

 

 

 

 

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