こんばんは。イチゴころころです。
連載開始から20話以上かけて、ようやく本作が『仮面ライダーの物語』になりました。
さあ決着なるか。是非お好みの戦闘BGMと共にお楽しみください!
「たとえこの街の全員に否定されようとわたしは、この霧島廻だけは呼び続ける! ええ、何度でも――!!」
教団が破滅の意志そのものと言うのならば、
「彼はラムダ! ――『仮面ライダーアマゾンラムダ』よ!!」
彼の『ただ生きる』という信念は生存の意志そのもの。
「さあ――!」
『――勝負だ!』
教団が振りかざす意志に対する、これ以上ないカウンターピックだ。
『――ヴゥオォォオオオアアア!!』
咆哮と共に跳び上がる仮面ライダーアマゾンラムダ。薬師寺良華――ペンギンレイダーは辛うじて躱すも彼の拳は地面に突き刺さり、石畳を広範囲にわたって叩き割った。
『くっ!? この、クソガキどもォォォ!!』
地面を転がった彼女はレイドライザー内部に記録していた信号を発信。『幹部からの命令』の発動を受けると、それまでただ集まるだけだったゾンビ教徒たちが一斉に動き出した。
『こいつらを押し潰しなさいッ!!』
迫り来るゾンビに対し、ラムダは大ぶりのスイングと体術、廻は正確な射撃と華麗な蹴り技で対抗した。ふたりにとってゾンビはもはや敵ではないが……如何せん数が多い。七つの『銀の鍵』が完成済みということは、生け贄にされた教徒の総数は49人。所々に黒服を着たゾンビも見えることから、実際の数はより多いのかもしれない。廻によって既に相当な数が倒されていたとはいえ、疲弊した今のふたりに純粋な物量を正面から受け止めるスタミナはないだろう。
だが、
『(この程度の数なら――)』
仮面ライダーとなった男の意志は、純粋な物量程度では揺るがない。
『(――余裕、かな。まとめて薙ぎ払ってやる)』
ラムダは片手を下げ、ドライバー
そこに備わった機能はあまりにもエネルギー消費が激しく、これまで使用を避けていた。だが今の彼は、切れかかった体力をこの戦闘に全部ぶちまけると既に決意している。ためらいなくグリップを捻り、――ドライバーから引き抜いた。
《
引き抜かれる際、グリップが装着者のアマゾン細胞を少量“削り出す”。グリップに付着した細胞は特殊なパルスにより急速に肥大化、長大なシャフトと
『ハァァァアアアアア!』
ラムダによって振り回されるアマゾンスピアの連続薙ぎ払い。射程距離と攻撃範囲が爆発的に広がったその攻撃を受け、サメの戦士に果敢にも飛びかかっていたゾンビたちはあっという間に沈んでいった。脅威の排除を確認した彼はスピアを持ち替え、生垣のそばで戦い続ける彼女に声をかける。
『使って!』
投擲されたスピアはゾンビをまとめて四体刺し貫きながら、廻のすぐ横の街灯に突き刺さった。
「――たあっ!」
廻は流れるような挙動でそれを引き抜き、中国舞踊の棒術の如く華麗に振り回して周囲の敵を殲滅。彼女はそのまま遊歩道中央に躍り出ると、屋敷方面から迫り来る後続のゾンビを相手取り始める。
『うそ……でしょ……』
動揺するペンギンレイダーに、再びラムダが飛びかかった。彼女を守る盾はもうない。
『はっ!?』
『喰らいなァ!』
ペンギンレイダーの咄嗟の防御をすり抜け、ラムダの拳が彼女の頭部に叩き込まれた。ゴーグルがひび割れ、スリットの入ったプロテクターが派手な音と共にひしゃげる。
『ぎ、――ゃああああああーーー!?』
砕けた鎧の破片をまき散らしながら、彼女の身体は石畳を削るように転がっていった。変身解除には至らないものの、予想外の激痛を受けた薬師寺良華は頭部装甲の奥で顔を歪ませる。そして怒り狂ったように叫んだ。
『なにしてンだガイストぉぉぉ!! アンタはアタシの護衛だろうが! 立会人だろうがぁぁ! アタシは特別な幹部なんだぞ! アタシを守れ! 戦え! この役立たずがああぁぁぁ!!』
『……!』
今の今まで、崖の縁で唖然と立ち尽くしていたイエローガイストはその言葉でようやく我に返った。しかし彼の思考は、未だにこの現状を受け入れられないでいる。目の前で繰り広げられている戦いは、彼の本懐である『廻を渦中から遠ざけること』が、とっくの昔に破綻していたという証拠に他ならないのだから。
『(なぜだ、何が起きている。私はどこで誤った? どこで見落とした? 私は――)』
『ガイストぉぉぉぉぉぉ!!!』
『ええい黙れぇ!』
声を荒げ、彼はスチームブレードに手をかけた。震える指先で無造作に、バルブ横のピンを外していく。
『(今はあいつだ、仮面ライダーアマゾンラムダ……目白一織! あいつを始末する! あの男さえいなくなれば、あとはどうとでもなるっ!!)』
思考を無理矢理放棄し、バルブを回そうと腕に力を込める。が、なぜかバルブは回らない。
『は? なんだ……?』
バルブ横のピン。たった今外したばかりのピンが元の位置に戻っていた。これではバルブが回せず、技が出せない。
『なに――、あっ!?』
刀身に小さな火花が舞い、もうひとつのピンも元の位置に戻る。ガスマスク越しに、彼は火花の正体を捉えていた。視界を横切っていたのは小さな――銃弾だった。
『……!?』
視線を上げると、遊歩道の片隅にチャイナドレスの女性。ゾンビを殲滅し尽くした彼女はスピアを地面に刺し、消音器付きの拳銃をこちらに向けていた。その銃口からは細くたなびく硝煙。彼女はあの場所からスチームブレードを狙い、バルブを留めるためのピンを正確に撃ち抜いて妨害していたのだ。恐るべき射撃技能。しかしガイストには、本城輝星にとってはそんなことなどどうでもよかった。
『(なぜだ、なぜだ!? なぜ貴女がそこにいる!? なぜ戦っている!? そんな目を、そんな目をこの私に向けるなど――!!)』
『――ふッ!』
刹那、目の前で青色の軌跡が奔る。いつの間に接近していたアマゾンラムダが、回し蹴りでスチームブレードを弾き飛ばした。深紅の片手剣はくるくると回りながら、崖の向こうの海へ落ちていく。
『な――』
『よう色男。美女にでも見とれたかい?』
《
『共感するよ。同情はしないけどな――っ!!』
至近距離で放たれた渾身のアッパーカット。得意の回避も間に合わず、その拳とブレードが警告色の装甲を粉砕する。高々と吹き飛ばされたイエローガイストは断末魔も上げず、損傷箇所から蒸気を噴き出しながら崖下へと消えていった。
『あンの小僧……! 最後まで、生意気なだけの役立たずが……っ!』
よろよろと立ち上がるペンギンレイダーが恨み節を零すと、彼女の背後でガゼボの輝きが増した。地面の魔法陣も脈動するように、玉虫色の光を放出し始めている。
『霧島さん!』
「彼らは任せなさい!」
ガゼボへ駆け出す廻。咄嗟に攻撃しようとしたペンギンレイダーだが、素早く割り込んだラムダがそれを牽制する。
『終わりだ、薬師寺良華……!』
『終わらない……終わらない終わらない終わらない!! 今夜、悲願は達成されるんだ、アタシの手で! ルルイエは浮上し、クトゥルフは目覚め、アタシは司祭様にとっての特別なままで破滅を迎えるんだぁぁ!』
狂ったように叫びながら突撃するペンギンレイダー。対するラムダの挙動にももはや鋭さはなく、空になった体力を絞り出すような動きは重鈍そのもの。
……だが、突破できない。プログライズキーのアビリティデータを効率的に運用するレイドライザーのシステムは、出力だけならアマゾンズドライバーを凌駕している。それなのに越えられない。ペンギンレイダーの怒りの攻撃はすべて受け止められ、より重い一撃を返される。これが意志の差、『仮面ライダー』と『レイダー』の差とでも言うのだろうか。
『あああぁぁありえない! ありえない! ありえない! 「仮面ライダー」など、この時空に存在すらしないハリボテの偶像! 小娘ごときが何度呼んだところで、この世界は変わらない! 存在しないものは、最後まで、決して、存在しないままなんだぁっ!!』
彼女の拳がついにラムダの防御を抜け、彼の顔面に直撃する。だが彼は一切怯むことなく、その理不尽な言葉を笑い飛ばした。
『ははっ、知らないのか』
左手側のグリップを二度、捻る。
『彼女が堂々と何かを言うってことは、本当にそうなるってことなんだよ』
直立状態から片足を蹴り上げ、ペンギンレイダーの身体を空高くかち上げる。アマゾンラムダは地面を蹴り、跳び上がって追随。勢いを殺さないまま空中で蹴りの姿勢を作り、顎を引いて対象を見据えた。
《
『ハアアァァァァァ――!!!』
一本の矢のように、青色の軌跡を描きながら放たれた跳び蹴りがペンギンレイダーを撃ち抜き、その腹部に固定されたレイドライザーを破壊。青と白の鎧に身を包んだレイダーは、派手な火花を散らしながらガゼボの屋根に激突した。
『いあぁぁぁあああああーーー! 司祭様ぁぁぁぁああああーー!!』
既に教徒たちと避難を始めていた廻が咄嗟に顔を伏せると、ペンギンレイダーはガゼボごと爆発四散。瓦礫の大部分は慣性のまま海側へ落ちていき、後には無残な姿になった支柱だけが残された。玉虫色の光は消失し、ただの線の羅列となった魔法陣の上にストーミングペンギンのキーが転がる。ころころという乾いた音を最後に、遊歩道は静寂に包まれた。
「終わった……」
破壊されたガゼボを見つめながら廻がそう零すと、彼女に手を引かれていた教徒たちが次々に倒れていった。廻は思わず目を見開くが、彼らの生体反応は健在。恐らく『幹部』という指揮系統を失い、洗脳催眠状態が解除されたのだろう。
「気を失っているだけ、ね。……良かった、この人たちだけでも守ることができて。……あら?」
倒れ伏した教徒たちの中に見覚えのある顔を発見する。廻は膝をつき、ゆっくりとその人物の上半身を抱え上げた。それは幼さの残る黒髪の少女。廻にとっては、彼女の姿を見るのは1ヶ月ぶりだ。
「この子……」
「ん……? ふぇ……?」
その少女・鈴は閉じられた瞼を苦しげに震わせると、ゆっくりと目を開いた。廻が知るよしもないことだが、彼女は会員証を作ってから日が浅いために、洗脳の程度も軽かったようだ。
「わー、きれーなおねーさんだ……。私ついに、苦しみのない二次元だらけの桃源郷にたどりついたんだ……」
「何を言っているの……?」
『――さーん、きりしまさーん……』
「あっ、目白くん!」
「うへ!? い、一織さん!?」
石畳の向こうから、ふらふらとラムダが現れた。ドライバーの発光ユニットは弱々しく点滅し、身体の節々から白い冷気を放出している。
『どこだ……きりしまさん……』
「ばか! はやく変身解除しなさい!」
『あー……、そうだった……』
淡い光が彼を包み、着慣れないタキシードを着た男が姿を見せる。彼は焦点の合わない視線をしばし泳がせ、遊歩道の端にしゃがみ込む廻を見つけると力なく微笑んだ。
「生きててなによりだよ……きりしまさん」
「言ったでしょう。教団を潰すまで、わたしは死なないと」
「そうだね……ほんとにそうだった」
「あなたの方こそ、最後まで戦い抜いてくれた。……お疲れ様、本当に」
「はは……俺だって前に言っただろう」
アマゾンズドライバーが外れ、凍り付いた地面に落ちる。
「きりしまさんの応援は……いずれ万病にきくって――」
一織の膝からがくりと力が抜け、彼は柔らかい土の上に倒れ込んだ。
「……言っていたわね。主語が微妙に変わっている気もするけれど、まあいいわ」
誰にも見られていない月明かりの下で、僅かに頬を緩める廻。すると未だに夢うつつな鈴が素っ頓狂な声を上げる。
「ひぃんっ!? 一織さんが死んだ!?」
「死んでないわよ!?」
ぼろぼろと泣き始める鈴に、思わずツッコミを入れる廻。
「……死んでないわよね?」
そうして、多くの犠牲を出し、世界さえ破滅させかけた宴は幕を閉じる。
誰も知らない『仮面ライダー』によって邪神復活の儀式は阻止され、波妃町の夜は静かに更けていく。未だ教団の根は深く、司祭と呼ばれた人物が次にどんな手を打つのかも分からない今、世界が真の安息を迎えるのはまだまだ早い。しかしこの夜、廻と一織の意志は確実に“届いた”。教団を打ち破る第一歩として、泥臭くも確かな初勝利を飾ったのだ。
* *
荒れる海。
断崖にぶつかる波が水飛沫をまき散らし、轟音を響かせる崖下の岩場。
ぼろ切れと化したドレスを引きずり、頭から赤黒い血を流して歩く薬師寺良華は、呪詛を吐き零しながら岩場を登っていた。
「殺すぅ……殺すぅぅ……。クソガキどもが、舐め腐りやがってェ……。許さない、許さない、許さない……! 地の果てまで追って、殺してやるぅぅ……!」
瀕死の身体を無理矢理動かすのは怒り。レイドライザーが破壊された彼女にもはや戦う力はないが、その怒りと執念だけで四肢を動かしている。
そして彼女は、岩場の先にもうひとりの人影を捉える。彼はぼろぼろの黒服を身に纏い、乱れた前髪の下には眼鏡をかけておらず、薬師寺と同様かそれ以上に満身創痍であった。
「ガイストぉ……!! この役立たず! アンタのせいで、アンタが呆けていたせいでアタシは負けた……! 儀式も失敗した! どう責任を取るんだ!? 司祭様に死んで詫びンのか、アァ!?」
「死んで詫びるのは……貴女の方だ………」
「なに――」
波音にかき消される、重たい銃声。肩を撃ち抜かれた薬師寺良華は岩の上に倒れ、その表情には困惑が貼り付いていた。
「え、え……?」
「『彼女』を、銀の鍵の中に突っ込んだそうですねぇ……。彼女の
本城は薬師寺良華の胸ぐらを掴み上げ、彼女の額にトランスチームガンを突きつける。
「な、な……なに言ってンだよ、アンタ。アタシら教団に楯突く不穏分子を……片付けようとしただけじゃない……。そ、それにあの小娘は――あ、ぎぃっ!?」
彼女の言葉を遮るように、本城は銃口を傷口にぐりぐりと押しつけた。
「無礼、無礼、加えて下品極まりない……。お嬢様に仇なす者は何人たりとも許さない。それが私の……唯一の意志ですから」
「ああああっ!? やめろやめろ! なぜだイエローガイスト! まさか、まさかアンタ!? 司祭様もっ、翡翠の光の悲願でさえも――」
波が砕け、海が弾ける音がした。本城はドレスと同じ色に染まった肉塊を海に投げ捨てると、崖の上――そこにいるであろうもうひとりの“重罪人”に憎悪の視線を投げつけた。
「貴様もだ、必ずこの手で殺してやる。仮面ライダーアマゾンラムダ――目白一織ィ……!!」