こんにちは。イチゴころころです。
1000UA到達です! 本当にありがとうございます。おかげさまで第2幕も今回で最終回を迎えました。重ねてお礼申し上げます。
第2幕のキャラ・怪人紹介、用語集の回も現在編集中です。どうぞお楽しみに!
ストーミングペンギンレイダー撃破後、まもなくして七つの『銀の鍵』の柱は消失した。離れのガゼボに集められていた小黒鈴を含めた七人と、“予備”として最後まで大広間で歓談させられていた数名の参加者を除き、実に60名近くがゾンビ化し、廻たちに討伐されるという悲惨な末路を辿った。
この事件は表向き『社交パーティ会場で起こったガス爆発事故』と処理され、報道された。生存者たちが皆、記憶が曖昧だったこともあり、このやや無茶寄りの隠蔽もギリギリ成立したという。また廻がKPF本社経由で手回しをし、報道機関に圧力をかけてもらったため、凄惨な"爆発事故"はそこまで話題にならずに人々の記憶から薄れていくと思われる。遺族や生存者本人たちに対して誠実な対応とは言えないかもしれないが、真実をその一端でも知ると教団の情報網に引っかかるという最悪の二次災害になりかねない。
生存者と言えば、崖下に落ちたイエローガイストと薬師寺良華は見つからずじまいだった。特にイエローガイストについては不自然なほど痕跡がなかったため、廻と一織は彼が生存しているものとして考えた。一方で岩場から赤いドレスの切れ端と血痕が見つかったため、薬師寺については他の犠牲者共々死亡したことになっている。大ボスクラスの情報源であり、変身しなければただの人間でもあった薬師寺良華を勢い余って殺害してしまった、と一織は激しく悔やんだが、廻は「人類文明がもろとも殺害されるところだったのだからあれは正当防衛よ。わたしが許す(意訳)」と涼しい顔で言い放った。彼女の堂々とした物言いに、一織は心の中で感謝した。
後始末に奔走しているうちにあれよあれよと1週間が経ち、週の始まりのとある平日。日の傾かない夕方の
「あ、あの! 一織さんもめ、廻さんも、本当にありがとうございました……。一度ならず、二度までも、私を助けてくれて……感謝しても、その、しきれないくらいでひゅ……」
「おー鈴さん、わざわざ差し入れまでありがとうねぇ。お、いいね、おいしいよねここのシュークリーム。霧島さんも一緒に食べる?」
「結構よ」
「かー、出たよ。ごめんねえ鈴さん、あれでも霧島さん、気持ちだけはちゃんと受け取るタイプだから。君が元気な姿を見せてくれるだけで本当は嬉しいんだよ?」
「目白くんの妄想をいたいけな女子高生に刷り込まないでくれるかしら? わたしが適当に訴えたらあなた終わるわよ?」
「適当に社会的制裁をチラつかせるのやめよ?」
テーブルにシュークリームを出し、実食の準備を始める一織。彼に「せっかくだから一緒に食べよう」と手招きされると、鈴はおずおずと着席した。その様子を見ていた廻は、視線をノートパソコンから鈴に移して目を細めた。
「……さすがにもう、忘れたことにしなさいとは言えないわね」
「あ、あはは……。と言っても今回のことは、私はほとんど寝ていたようなものなので憶えていないんですけどね……」
「それもそうね。……というよりわたしは、先週の段階で小黒鈴さんと接触していながらわたしに一言の報告もなかった件について、誠実な話し合いを期待したいわね」
「ん“っ」
シュークリームを頬張っていた一織の動きが止まる。
「……なんだかんだで言うタイミングなくてさ。まあ結果オーライだしいいんじゃん?」
「良いわけないでしょう、脳味噌が沸騰でもしているのかしら? だいたい目白くんが変に唆したせいで、彼女がパーティに巻き込まれたようなものじゃない。結果オーライでもなんでもないわよ。タイミングが悪ければこの子もゾンビの仲間入りだったのよ?」
「う、あ……。ご、ごめ……」
「ま、まあまあ! 実際私も両親も助かりましたし、最終的には結果オーライなんですって! ――あ、そ、それで! そのですね、実は私、皆さんにお願いが……」
一織と廻の視線が集まる。鈴はその複数の視線に一瞬だけたじろぐが、生唾を呑み込んで速やかに覚悟を決めた。勇気の出し方はもう知っているのだ。
「あ、あの。私も皆さんに協力させてください。い、一緒に教団と戦いたいですっ!」
「えっ」
「おお……!」
驚愕を表すふたりの視線。だが一織の方は即座に笑みに変わる。
「いいね。歓迎するよ、鈴さん」
「なっ!?」
廻の方は一転、困惑に変わった。
「なに即答しているの!? 目白くんの辞書に熟考という言葉はないのかしら、ないわよね、絶対ないわ! そのカステラ並にふわふわした脳を開いてみなさい。わたしがカステラナイフで書いてあげるわよ……!」
「いいの、そんなこと言って? 鈴さん、家族含めて元・教徒だよ? 俺たちが知らないような情報、どれだけ持ってるんだろうね?」
「――――」
彼女の動きが一瞬だけ止まる。『銀の鍵』に触れたことによって教団の最終目的を理解した廻だったが、その他の莫大な情報をすべて理解できたわけではないのだという。つまり教団に関わる情報は今までと変わらず地道に収集していく必要があり、鈴の存在はあまりにも貴重な情報源なのだ。
だが数秒の逡巡ののち、彼女はふるふると首を振った。
「だ、だめよやっぱり。危険すぎる。教団にこれ以上関わるなんて」
「わ、私! 私たち家族を滅茶苦茶にした教団が許せないんです! 同じような悲劇を生まないために、世界の平穏のために……私はひとりでも、き、教団と戦います!」
「な、なな……」
するするとまくし立てる鈴。彼女のダウナー気味な本性を知っている一織から見れば、その態度はいささか大げさだったかもしれない。しかし一織は、彼女の本性の奥に眠る『変わりたい』という願いも知っていた。小黒鈴という少女――二度も教団の理不尽に巻き込まれた彼女は今度こそ、自分を変えるために踏み出そうとしているのだ。
そのことを悟った一織は口角を上げ、口を開いた。
「あー、鈴さんは本気だなぁ。これは本当にひとりでも突っ走りかねない。……俺たちが近くで守ってあげないと、犠牲者がひとり増えることになっちゃうかもなぁ」
「――、………! ~~~~っ!」
廻はさらに数秒、百面相のように表情を動かしてから悔しげに着席した。
「邪魔だけはしないで……。それから最低限、自分の身は守りなさい……」
「……! あ、ありがとうございますっ!」
「良かったね、鈴さん」
「は、はいっ!」
「ははっ。……また一気に賑やかになったな。ねえ、本城さん」
一織がバーカウンターの方に声をかけると、紅茶を淹れていた眼鏡の優男が柔和な笑みを返してきた。
「ええ。協力者が多いに越したことはないでしょうし、私も歓迎です」
「えっふぁっ!? だれですかあのイケメンバーテンダー!? いつからそこに!?」
「本城輝星、バーテンダーではなく執事です。……小黒鈴様、改めてお見知りおきを」
「あわわわわ……はわわわわわわわわ……」
突然高水準な顔面偏差値を叩き付けられ、おまけにその顔面が自分を“様”付けで呼んだ上に美しすぎるお辞儀まで見せてきたものだから鈴の思考がバーストした。
「……本当はわたし、霧島家関係者にだけは関わって欲しくなかったのだけれど」
「お嬢様の心中はお察し致します。ですが私は、最低でもこの喫茶店にいる間は、霧島家ではなくお嬢様の味方でありつづける所存です」
「……」
プライマル・ベイの事件報道に圧力をかける際、
「廻様の仰るとおり、我々霧島財閥の人間は二年をかけても『翡翠の光』の尻尾すら掴めず、孤独に戦うお嬢様に気付いて差し上げることもできなかった。……使用人失格も良いところだ。ですが、だからこそ、今一度お嬢様に寄り添いたいと思った次第でございます。小黒様と違って私には情報提供すらできませんが、微力ながらお側にいることを、お許しください」
「わたしは霧島財閥の人間を当てにしない。けれど輝星さんが財閥関係者ではなくひとりの、ただの執事として協力すると言うのなら、わたしは何も言わないわ。……期待、していいのよね?」
「………。……もちろんです」
改めて頭を下げる本城。廻は彼を一瞥すると小さく頷き、再びノートパソコンに向かう。顔を上げた本城は眼鏡の奥で一瞬、その目を細めたのち、淹れ立ての紅茶を運び始めた。
「ひとまずはこうして、皆様にお飲み物を振る舞うところからでしょうか。小黒様のぶんもご用意致しましたよ。おふたりともどうぞ召し上がれ」
「お、ありがと、本城さん」
「わー、もう全然話見えないけど私いますごくじゅーじつ……。勇気出してよかったぁ……う、うゅっふふふ……」
「あれ、霧島さんのぶんは?」
「断られてしまいまして……」
「でたよ」
一織が視線を送るも、廻はホールの隅でキーボードを叩きながら「何も聞こえない」風の表情をとっている。
「そう言えば目白様、貴方も紅茶の淹れ方を学んでみたらどうでしょうか。ゆくゆくは祖父君の遺志を継いでこの喫茶店を切り盛りする身の上でございましょう。よろしければ私が教授して差し上げますが?」
「あれ、その設定って……」
「あ」
タイピングの音が途切れる。廻は落ち着いた挙動でパソコンを閉じると、やたらと凜とした表情のまま立ち上がった。
「――今日はもう休むわ」
「おいちょっと待てホラ吹きセレブ。面倒なのはわかるけど君の撒いた種だからね? 俺の名誉のために誠実な話し合いが必要とされている気がするんだがね?」
「……わたし、自分の身の上は自分の口で話すべきだと思うの。おやすみなさい」
「ちょっとまって! 逃げるな! もー!」
「目白様ぁ……? お嬢様に対していささか無礼が過ぎるのではありませんか……?」
「いやいや違うんだって、ってイテテテテテ!? なにこれすげえ!? 親指だけでどうやってんイタタタタタタ!!」
「ひ、ひぃぃぃん……。けんか、けんかはやめてくださぁい……」
「ふう……」
ホールから聞こえる喧噪を閉め出し、居住スペースに引っ込んできた廻はそう呟くと、すぐにはっとして口をつぐんだ。
「今のはため息、のつもりかしら……? 不便ね、まだ抜けないだなんて」
小さなデスクの上にパソコンを置く。窓から差し込む陽光はようやく、夕方らしい茜色に染まり始めていた。
廻の居住スペース。六畳ほどの広さのその部屋は数値以上の広さを醸し出している。衣装ケースと、小さなデスクと、棺桶のようなサイズの白いボックス
「………」
廻はその広すぎる部屋をしばし見つめ、思考を振り払うように小さく首を振った。
「わたしは確実に近づいている。もう少し、もう少しで……わたしたちの仇を取れる。……見ていてください、父様」
視線を落とす。デスクの上には収集した三つのプログライズキーが並べてあった。薬師寺良華の使用していたストーミングペンギンに、英会話教室の奥で発見したバイティングシャーク。
そしてもうひとつ。廻が初めて英会話教室に忍び込んだときに発見した、始まりの手がかり。乳白色のクリアパーツでコーティングされた表面には、『天使』とも呼ばれている海洋生物の姿が刻まれていた。
キーの名は『
そのプログライズキーが開かれるのは、もう少し先の話である。
第2幕 pArty ――END