どうもこんばんは。イチゴころころです。
本当は更新がもう少し後になる予定だったのですが、先日視聴したギーツの最終回とキングオージャーの(何度目かわからない)(実質的な)最終回のお陰で創作意欲がぶち上がり、週末のうちに想定以上に書き溜めることができました。校正などしつつ、今週ものんびり更新していきます。
というわけで第3幕、はじまりです!
3-1. vs司祭
波妃ビルの地下。多くの人が利用する地下駐車場よりもさらに一段、”下”にある広大な空間に、玉虫色の光の柱がふたつ灯った。床に描かれた複雑な魔法陣と、ローブを着せられ横たわる合計14人の人影がその光に照らされる。
「……いよいよ、か」
そびえ立つふたつの『銀の鍵』を見上げるのは、豪奢なローブを身に纏う男性。彼が傍らの端末を操作すると、消灯していたいくつものモニターのうちのひとつに監視カメラらしき映像が表示された。そこに映る顔ぶれを見ると、彼は僅かに頬を緩めた。
「まあ、いい。じきに仕上げが完了し、海底都市は浮上する。大いなる深淵が目覚め、私の悲願は成就する……」
「――どうも? 忙しそうっすね」
「おや……」
背後からかけられたのは、この場に不釣り合いなほど緊張感のない声。振り返ると、ゆったりとした夏物のジャケットを着こなした男性が暗闇の奥から姿を現した。
「もう、ここまで辿り着いたのかね」
「“もう”ってほどでもないっすよ。ここに来るまで2年、ずいぶん時間がかかった……。この2ヶ月あまりでラストスパート。追い込んで追い込んで、ようやくって感じです」
「試験も一夜漬けしてばかりだったからね、君は」
「そんな余計な部分まで覚えてていただけて光栄ですね。ほんと、お久しぶりです藤堂教授。いや――」
ジャケットの男――
「――ここでは“司祭様”って、呼んだ方がいいですかね?」
「ふ、……ふふ」
返答代わりに零れる、枯れた笑い声。司祭は被っていたフードを外し、白髪交じりの老いた顔を目の前の教え子に晒した。一織にとっては2年ぶりとなるその厳格そうな顔は、玉虫色の光源に照らされて不適な笑みを浮かべていた。
「久しぶりだね、目白くん。よりにもよって君がここまで辿り着くとは、夢にも思っていなかったよ」
「これでも頑張ったんすよ、色々と」
薬師寺良華の『お別れパーティ』から半月、一織は上司である
特に元教徒かつ両親が薬師寺良華と近しい距離にいた少女・鈴のもたらした恩恵は凄まじく、『薬師寺良華が藤堂研究室の卒業生』であることと『自ら銀の鍵の生け贄となった教団関係者のリストの中に「藤堂武蔵」の名前だけなかった』ことがものの数日で発覚。司祭の正体を絞り込むに至った。
「酒田も永見も、どうにも行方が掴めないと思ってたら自ら銀の鍵の生け贄になってたとは。人脈使って教徒に生け贄押しつけてた薬師寺良華がまだマシに思えますよ……いや、どのみち破滅を望んでるのなら変わらないか。……で、曲がりなりにも教団関係者だったはずのあんたについての情報だけ、不自然なほどに見つからなかったわけです」
嫌悪感を露わにする一織。彼の姿を見て、『司祭』こと藤堂は小さく首を傾げた。
「2年もかかった割にはずいぶんと手際がいいね、目白くん?」
「上司が『銀の鍵』の残留データとかいう、めちゃ便利な“答え合わせ表”を偶然手に入れ――いえ、薬師寺から譲り受けまして。お陰で余計なミスリードもせず、ここに来ることができた。俺は何もしてませんよ、せいぜい司祭の正体を知ってびっくりしたくらいです」
「……君はそういう男だったね。個人の成績は鳴かず飛ばずでも、グループ活動の実績は上々……。周囲の力を借りるのが達者な、君の愛嬌を私は評価していた」
「相変わらず、褒めてるのか貶めてるのかよくわかんない物言いっすね。……それで?」
一織が一歩前に出た。その声色はもう一段重く、鋭くなる。
「あんた一体、何してんすか?」
「……」
「俺を騙し、アマゾンにした。霧島家で“事故”を引き起こし、あの人の人生を滅茶苦茶にした。どちらも2年前だ。そこから今まで、波妃町の人たちを好き勝手弄くり回して、部下であるはずの幹部たちも使い捨てて……。そうまでして目指すのが邪神クトゥルフの復活? 旧支配者による破滅? ……到底、到底理解できないですね。何を考えてんすか、いったい何がしたいんすか。ええ? 藤堂教授……!」
光の柱に照らされた空間に響く、一織の低く唸るような声。藤堂武蔵は彼の放つ視線を受け止めると、ぐにゃりと顔を歪ませた。吊り上がった口角に、口元から覗く黄ばんだ歯。邪悪ともとれるその笑顔のまま、どこか楽しそうな上ずった声で彼は応えた。
「すべては……悲願達成のためだよ。目白くん?」
「……はぐらかさないでもらえますかね? あんたの講義は回りくどくない説明が売りだったはずでしょうが」
「私はもう教授ではない、『司祭』だ。外なる星辰に祈りを捧げる邪神クトゥルフと、光栄にも近しい役職を賜った、敬虔な信徒なのだよ」
「この……!」
「もう充分よ!」
一織の声を遮ったのは、彼の背後から姿を見せた霧島廻。彼女の顔には、一織と同等かそれ以上の怒りが貼り付いていた。
「霧島さん! 隠れてなきゃ――」
「これ以上の問答は無意味よ! あの男はとっくに正気を失っている。銀の鍵やクトゥルフの情報に関わり続けるということは、精神を狂気に染め上げることと同義なのよ! わかったでしょう!? ハッタリも交渉も、あいつには何も通用しない!」
「でも――」
「あいつはッ! 『翡翠の光』の首領、わたしたち親子の仇! それだけ……それだけわかればいい! 今日ここで終わらせる、わたしが教団を潰す!」
廻は憎悪の視線を司祭に向けたまま拳銃を抜き、流れるように発砲した。人並み外れた精密さから放たれた銃弾は、皺の跡が残る司祭の眉間へと正確に向かっていき――、
「――!?」
廻の目が見開かれた。司祭は銃弾に撃ち抜かれる寸前で身をよじり、それを回避したのだ。しかし廻と、その隣にいる一織が驚いたのはそこではない。
「教授、あんた……
眉間から逸れた銃弾は司祭の胸部に着弾していた。衣類が襟元から破け、大きな銃創が露わになるも、その傷口からは一滴も血が流れていなかった。
「もう覚えていないねえ。ただやはり、薬師寺くんの遺したゾンビ化の技術はとても便利だ。――ほら」
司祭の言葉に応えるように、彼の背後にあったふたつの光が大きく脈打つ。魔法陣に寝かされていた人影たちが次々に立ち上がり、ふらふらと司祭の周りに集まってくる。
「『銀の鍵』が……! 今度はなにをする気だよ……!」
「なんだっていいわ! 教団を潰す! 今夜、復讐を遂げてみせる!」
「ちょ、まっ! もう!」
拳銃を構え前進する廻と、アマゾンズドライバーを装着する一織。それを見た司祭――藤堂武蔵は恍惚とした表情のまま目を見開き、懐から青色のプログライズキーとレイドライザーを取り出した。
「来なさい。最後の講義だ」
《
「
《
《
レイドライザーが生成した機械的なリングが廻の射撃を弾き、司祭の全身を装甲で包んでいく。
《An aqua current that encompasses everything around it...》
瞬く間に姿を見せた異形の鎧。パイプで連結された胸部装甲と両肩の肩マント、クジラの尾びれを模した長大な団扇型の武器が目を引く怪人――『スプラッシングホエールレイダー』が現れた。
「お前が……、お前が……ッ!」
遂にその敵意を前面に出した司祭を前に、廻は怒りを絞り出すように声を荒げる。そのまま彼女はゾンビに目もくれず、ホエールレイダーに向かって連続で引き金を引いた。
「霧島さん! くっ――!」
《
「ふうっ――アマゾン!」
《D・D・Dive! To the bottom...! 》
目映い爆炎を纏いながら一織――仮面ライダーアマゾンラムダが跳び上がる。彼は今にも怪人に殴りかかろうとしていた廻のコートを引っ張り、入れ替わるようにホエールレイダーの前に躍り出た。牽制代わりの回し蹴りでゾンビもろとも後退させると、背後で尻餅をつく廻をにらみ付けた。
『頭を冷やせ、霧島さん!』
「うっ……!?」
『話し合いは諦めるよ、こうなったからには俺も腹を括る! 心配しなくても終わらせてやるよ――君の復讐を!』
「わか……ってる……!」
『ならいい。……ほら』
右手を差し出すアマゾンラムダ。廻はそれを握り返そうとして、すぐにハッとして手を引っ込めた。手を隠すようにして視線を逸らす。
『……?』
「いいから……もう大丈夫だから、行って。……はやく!」
『もう……了解だ、よッ!』
ラムダは苛立たしげに首を振ると、自身の背後――武器を振りかぶっていたホエールレイダーに向かって後ろ蹴りを見舞った。
『ぬうっ!?』
『ゾンビと「銀の鍵」の方は任せたよ!』
体勢を崩したホエールレイダーへと突撃していくアマゾンラムダ。廻は自身の手を静かに握りしめると、言い聞かせるようにかぶりを振った。
「まずは『銀の鍵』を止めないと……!」
廻は立ち上がると、拳銃を振り払うようにして連続発砲。迫り来るゾンビの群れを一呼吸で薙ぎ倒し、そびえ立つ光の柱へ向かって駆け出した。
「え?」
しかし彼女が目前まで近づいたところで、ふたつの『銀の鍵』はしぼむように消失。魔法陣の中央、ついさっきまで光の柱が立っていたそれぞれの場所には、見慣れた台座の上に機械的なアイテムが置かれていた。
「これは……」
ひとつはアタッシュケースのような形状をした、黒地に白のラインの入った装置。もうひとつはジャッキのような黄色いユニットが取り付けられた、バックル状の装置。どちらも見覚えのない代物だが、廻は一目でこれらの
だが今回は少しだけ状況が違う。廻の視線は吸い込まれるように床の魔法陣へと注がれる。たったいま彼女は見たのだ、『銀の鍵』の中から別時空の技術が出てくる瞬間を。
「……いや。違う、違うわ。違うに決まっている」
震える視線を背後に流し、ついさっき撃ち抜いたゾンビたち――その残骸たるローブの方を見る。薬師寺良華は彼らを『銀の鍵の生け贄』と言っていた。廻の抱える莫大な情報を介して、それが真実であることは“答え合わせ”済みだ。
つまり『銀の鍵』の用途とは、人間を生け贄として“この時空に存在しない技術”を取り出すという――?
「いや! いやああっ!? 違う! 絶対に、違うぅぅううう!!」
地下空間にこだまする廻の絶叫。彼女は拳銃を構え、ラムダと交戦中のホエールレイダーに向かって全弾発砲した。
『ほう……?』
『霧島さん!? どうしたんだ!?』
しかしそこにいつもの正確性はなく、放たれた弾丸は周囲の柱や床を穿っていった。
『霧島さん!!』
「――う、――――がう、ちがう……。わたし――」
彼女は俯いたまま、既に弾切れとなった拳銃の引き金を引き続けている。
『なにがあったって……、――あ?』
ラムダが咄嗟に腕を振り上げると、死角から飛来した光弾が弾かれ、反対側の壁に突き刺さった。
『お前か……イエローガイスト』
『さすがに腹立たしいですねぇ、一撃くらいは不意を打たせていただきたいものですが。君の下品さには驚かされてばかりですよ』
暗闇から悠々と姿を見せる警告色の怪人・イエローガイスト。彼はトランスチームライフルを肩に乗せ、ホエールレイダーの横に並び立った。
『腹立たしいのはこっちだよ。やっぱ生きてたのか、お前』
『軽口を叩いている暇がありますか? ご友人……ご友人方の心配をした方が良いかと思われますが』
『なに……?』
ガリガリという、慌ただしいノイズがラムダの耳に届いた。それはアマゾンズドライバーに取り付けた通信機から発せられたものだ。同様の音声が、回線を繋いでいる廻のインカムにも届いている。
『――さん! いいい、一織さん! 廻さぁぁん! きこえ、きこえますかぁっ!? どうぞ!? オーバー!?』
ふたりの耳に入ってきたのは、波妃ビルの外で待機していたはずの鈴の声だ。
「小黒、さん……?」
『鈴さん! どうした!?』
『――ゾンビが、ゾンビがこんなに!? あ、ああああ!? ど、どど、あっ、おふたりは無事ですかぁぁぁ!?』
『俺たちのことは良い! 本城さんはどうした!? 一緒にいないのか!?』
『――わわ、私を逃がすためにゾンビを引きつけてぇぇ! う、うわあああ私のせいです! ごめんなざいいぃぃ!』
「うそでしょ……」
『くっ……』
『さてさて? 状況はおわかりいただけましたか? 仮面ライダー、アマゾンラムダ?』
イエローガイストはわざとらしく咳払いをし、トランスチームライフルを構えた。その銃口はラムダの後方……呆然と立ち尽くしている廻の方を向いていた。
「あ……」
『以前教えて差し上げたはずです、我々は組織だと。君は詰んでいるのですよ、アマゾンラムダ。正義を気取っただけの醜い化け物よ』
『まずっ――!』
ラムダは咄嗟に飛び退き、廻を庇うようにライフルの射線上に割り込む。直後に銃声が鳴り響き、彼らの真上の天井が大きく破壊された。コンクリートの破片がラムダと廻の周囲に降り注ぐ。
『(なんだ……外した? いや……?)』
『さあどうしますか? 外にいる可愛らしいご友人を見殺しにし、あくまで戦うというのなら我々もお付き合い致しますが』
『くそ……っ!』
怒りのまま、ラムダは目の前に降ってきた瓦礫を殴り飛ばした。そのコンクリートの破片は前方に立つ二体の異形・ホエールレイダーとイエローガイストの目の前で爆裂。粉塵をまき散らし彼らの視界を奪った。
『……撤退しよう、霧島さん』
「い、いや……あいつが……司祭が目の前にいるのに……わたし、わたしは……」
『しっかりしてくれ! このままだと鈴さんと本城さんが危ない!』
「……!」
『今なら! この作戦の及第点は達成できる……! そうだろう!?』
「う、うう……」
これは教団の本拠地と思しき波妃ビル地下への突入作戦。司祭の保有する戦力が未知数だったり、そもそも司祭の正体について一織が半信半疑だったりしたため、この作戦は“最低限これだけは達成しよう”というラインのみ決めて半ばぶっつけ本番で決行された。その及第点ラインこそ、『司祭の行おうとしている儀式の阻止』だ。
ラムダは廻の背後に目をやる。そこにはふたつの魔法陣のそれぞれ中央に設置された祭壇と、ふたつのアイテムの姿がある。それが何かは知らないが、司祭が自らの手で『銀の鍵』を使って用意したアイテムであることは間違いない。そして今なら、それらを強奪して撤退することができる。
『霧島さん!』
「わかってる! わかってるわよ!!」
廻は立ち上がり後退すると、アタッシュケースのような装置とバックルのような装置をそれぞれ片手で持ち、そのまま出口へ駆け出した。その姿を確認したラムダは瓦礫を蹴り上げて再び粉塵を巻き上げると、廻を追って出口へ向かう。背後からは怪人たちの陰湿な笑い声が聞こえてきたが、それ以上の追い打ちはなかった。
『(追撃してこない……? なにを考えてるんだ、あいつらは……?)』
「うううっ、く、うぅぅぅ……!」
飛び込んだ通路の前方からは廻の悲痛そうな呻き声。出口を目指す彼女は足取りこそスムーズなものの、何かを振り払うように小さく首を振り続けている。
『霧島さん、大丈――』
「――っ!? いや、触らないで!」
伸ばした手を避けるように身を屈め、足を速める廻。彼女の目的でもあり、復讐相手本人だった司祭を前に逃走を余儀なくされた現状は、確かに彼女にとって苦痛なのかもしれない。しかし一織の目にはそれとは別の……もっと根本的な“何か”によって彼女が苦しんでいるようにしか見えなかった。
『(どうしたって言うんだ……霧島さん)』
* *
「……順調かね、君の“スケジュール”とやらは? イエローガイスト」
粉塵の晴れた地下空間にて。変身を解除した司祭・藤堂武蔵は、傍らに立つ警告色の異形に向けて淡々と声をかけた。
『おかげさまで、滞りなく。
「構わない。奪われたあのドライバーも、今の君に掛かればいつでも取り返せるだろうしね。それに最悪、なくても問題はない。海底都市に接続するためのプログライズキーは既に、必要数に達しているからね。今は君の”スケジュール”の完遂待ちだ」
『……』
司祭は空になった祭壇の前まで歩き、地面に描かれた魔法陣を見渡した。
「……それにしても、君も大変そうじゃないか。私の教え子が、ずいぶんと迷惑をかけているみたいだね」
『お気遣い、痛み入ります。確かに私の目的である、彼女が何も知らないまま平穏に過ごす道は既に失われてしまった。ですが問題はありません』
イエローガイストは右手を小さく掲げ、その手に握られたトランスチームガンを感情の見えないバイザー越しに見つめた。
『道を誤ってしまったお嬢様を、正しき道へと導いて差し上げるのも……教育係の務めです。彼女は夢を見ているだけなのです、“復讐者である”という夢を。ならば現実を思い出せば良い、“霧島昇の娘だった”という現実を。くだらない夢さえ捨てられれば、きっと彼女は帰ってきてくださる……この私の元に、ね』
イエローガイストの全身が蒸気に包まれ、彼はそのまま姿を消した。他に誰もいなくなった広大な地下空間で、司祭の笑い声が小さく響くのだった。