仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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3-7. 警告色のアジテーション

 

 

 思えば当然のことである。

 道中ですれ違った住民すべてが“あの状態”だった。それはつまり、波妃町に潜んでいた教徒全員……さらには教徒“じゃなかった”人も全員、自我を失ってぶつぶつと何かを呟く人形と化しているということだろう。こちらを捕捉し、敵を排除しようと迫り来る教徒を何人も振り切りながら、努めて冷静に分析できたつもりでいた。

 

 考えが甘かった。甘すぎたのだ。ご都合主義にも程がある。

 

「すず」

「おぐろ、すず」

 

 もはや教徒を辞めたとか、アプリを消したとかが関係ないことなどわかり切っていたのに。

 

「敵」

「邪魔者」

 

 どうしてその()()から、当たり前のように自分の家族を除いていたのだろうか。

 

 

「――ああああああぁぁぁぁああああぁぁぁあーーーっ!!!!」

 

 

 住宅街の片隅に響く鈴の絶叫。だぶついたパーカーを羽織った彼女は自宅の門扉の横でうずくまり、無茶苦茶に頭を掻きむしった。

 

「ばかだ、ばかだばかだっ……! ひ、っぐ……どおじでごんな、ぁあああ……!」

「小黒さん! 小黒さんしっかりしてくれ! くっ――!?」

 

 満太は玄関の扉を背中で押さえつけながら、扉の向こうから伝わってくる衝撃と聞こえてくる“娘”への敵意の言葉に顔を歪ませた。

 

「――ろ、すず」

「――ま者、背――者、敵」

「ああもうせめて口を閉じろよあんたらの娘だろ! 目ぇ覚ませよぉぉ!!」

 

 その言葉を鈴本人に聞かせたくない一心で声を荒げ、扉の向こうに訴えかけるも効果など当然なく、満太の声は虚しく玄関先を転がるのみ。

 

「(くそっ、どうする!? 原チャリはすぐそこ、路地に出て1メートルもないってのに!)」

 

 扉が開きかけ、満太は慌てて両脚を踏ん張って押し返した。

 

「(だめだ、離れられない! 走って撒くのも無理だ! いっそオレがこの人たちを……、うっ!?)」

 

 指先が震える。先ほど学校で“クラスメイト”と“先生”を殴り飛ばしたときの感触が蘇ってくる。

 

「(無理だ……無理だろっ、こんなの――!!)」

 

 足に力が入らなくなってきた。そもそも相手は大人ふたりである。無力化するどころか、いつまでもこうして扉を押さえていられるはずもない。どうしようもなく詰んでいることをじわじわと実感し、視界が滲んでいく。

 

「(ちくしょう……ここまでなのかよ……オレまだなんにも……!)」

 

 歯を食いしばり、生垣の手前で丸くなって悲痛な嗚咽を漏らしている鈴の姿を見やった。彼女の苦痛が伝わってきたのか、はたまた己の無力さを痛感したのか、満太は込み上げてきた情動のままに大きく口を開く。

 

「ちくしょ――……あ?」

 

 しかしふと視界が真っ茶色に染まり、喉を通り抜けようとしていた叫び声は情けない疑問符へと変化した。満太と鈴のちょうど間の芝生が爆発し、土と土埃が舞い上がったのだということは不思議と瞬時に理解できたが、その土埃の中から現れたモノは満太の理解を完全に超えていた。

 

 人型の、それでいて明らかに人間ではない姿の異形。流線型の凹凸のある体躯に、腕と足から生えた刃のようなもの。吊り上がった両目に、背中の大きなヒレ。その雰囲気はどことなくB級映画御用達のモンスターじみているが、その異形の放つオーラにチープさなどは欠片もなく、少なくともたったいま満太を塗りつぶそうとしていた絶望感を吹き飛ばすくらいには、目を惹かれるような威容を纏っていた。

 

 そして何より、恐らく上から降ってきたであろうその異形を見た彼女――鈴の表情が綻んで泣き笑いに変わったことが、満太の思考から絶望とは別の何かを湧き立たせたのだった。

 

「いおりさんっ、いおりさぁぁんっ! ざああぁぁぁぁん!!!」

『鈴さん、無事で良かった。何とか間に合ったな』

「わ、わたし、わたしぃっ! ひぐ、ぇうううっ!」

『大丈夫だ、よく頑張ったよ。よく生きててくれた』

 

 一織――仮面ライダーアマゾンラムダは鈴を片腕で抱き上げると、玄関に背中を押しつけたままの満太へ歩み寄った。

 

「お、おまえなに、なにモンなんだよ……! お、小黒さんから離れろよおまえぇっ!」

『ありがとうね。鈴さん守ってくれて』

「は……?」

『それはそれとして』

 

 ラムダは素早く空いた方の腕を動かし、満太の体を抱え上げる。

 

「おいなにし――」

『ふたりとも舌噛むなよ』

 

 支えを失った扉が開け放たれるのと同時に、ラムダは大きく跳躍した。民家の屋根を次々と飛び移り、凄まじい速度で駅の方角へ向かっていく。

 

「――っ!」

「うぎゃああああああぁぁぁあ!?」

『だから口閉じてろって!』

 

 満太の悲鳴を聞き流しながら、鈴は薄目を開けて振り返った。自宅は既に遥か後方、ましてや玄関先などとうに見えなくなっている。

 

「(お父さん……お母さん……!)」

 

 目尻に浮かんだ涙が千切れる。その粒が景色に溶けていく様がなんだか無性に哀しくて、鈴は虚空に向かって手を伸ばすのだった。

 

 

 

 *  *

 

 

 

「……済んだわ」

 

 廻の小さな声を聞き、店の窓にブルーシートを貼っていた一織と満太は黙ったまま振り返る。鈴はホール端のソファに寝かされていた。疲れ果てて眠ったようだが、その表情はうなされるように歪められている。彼女は廻によって着替えさせられ、簡単な応急手当を施されたところだった。幸い大きな怪我はないようだが、ぶかぶかのコートの隙間から覗く白い脚にはいくつもの痣や切り傷があり、足下に巻かれた包帯には薄く血が滲んでいる。

 廻は最後に濡れタオルで彼女の首元を拭うと、立ち上がって振り返った。その瞳には怒りが浮かんでいる。

 

「わたしのせい……わたしは結局追いつけなかった。居場所を掴めないまま、教団が動き出してしまった……!」

「見誤るなよ、霧島さん」

 

 一織が冷蔵庫からハンバーガーの包みを出しながら、低い声でそう応える。それを温めもせずに一口頬張ると、鋭い視線を廻に向けた。彼の瞳にも、静かな怒りが宿っていた。

 

「余計な意地を張ってモタモタしてたって意味なら俺も同じだ。責任の被り合いなら不毛だからやめよう。俺たちがキレるべき相手は自分らじゃない……教団だ」

「……そうね。その通り、だわ……」

「本城さんは?」

「連絡がつかないわ。波妃町にいることは確かだと思うけれど……無事を祈るしかないわね」

「……」

 

 考え込むように視線を落とす一織。一方で廻はテーブルから一台のスマホを拾い上げた。黒いブックタイプのケース――一織のスマホである。

 

「糸巻くんの話によると、登校中まで住民たちは正常だったらしいわね。しかしいざ学校に着いてみると、豹変した生徒や教員に小黒さんが襲われていた。間違いないわね?」

「あ、はい……間違いないっす……」

 

 満太はブルーシートに塞がれた窓の横で立ち尽くしながら、弱々しい声で肯定した。

 

「目白くんも同じね?」

「うん。たぶん8時頃だったと思う。コンビニのイートインで朝食を摂ろうとしたら急に襲われた。めじろいおりめじろいおり~って呼ばれながらね。お陰で食い損ねたよ」

「となれば教団の動き出しはちょうど今朝ということになるわね。おまけに、教徒じゃなかったはずの人まで洗脳状態になっている……。糸巻くん、あなたのスマホは小黒さんに言われて捨てたのよね?」

「あ、そうっす……小黒さんが、何かに気付いて……」

「……目白くんのスマホを軽く解析してみたのだけれど、今朝から今までの間に謎のデータを無理矢理受信させられていたわ。しかも数百件。どうやら教徒……正確には教団アプリの入った端末が近づくと自動でデータが送られ、画面を見た人を洗脳する仕組みのようね」

「そっか……それで鈴さんの家族も……」

 

 そう呟いた一織は空になったハンバーガーの包みをゴミ箱に捨て、鈴の自宅で一瞬だけ目撃した彼女の両親の姿を思い出した。あの場所は住宅街だ。周囲に住んでいる人の数は多いだろうし、仮に教徒が隣家にいなかったとして、通勤だの何だので家の前を通っただけでもアウトになる。彼らのアプリは既にアンインストールされていたはずだが、今回の仕掛けの前にはまったくの無意味だったと言うことだ。

 

「あ、てか俺のスマホは大丈夫なの? 霧島さんも大丈夫だった?」

「大丈夫よ、見くびらないで。目白くんのスマホにも簡単なプロテクトをかけておいたけれど、念のためしばらく使用は控えておいた方がいいわね」

「いつの間に……助かるよ」

「あのっ!!」

 

 満太の大声にふたりが振り返る。先ほどまで茫然自失としていた彼はようやく思考力を取り戻したようだ。その表情には小さな困惑と、大きな怒りが滲んでいた。

 

「なんなんすかこれは、何者なんすかあんたたちは……っ! いったいこの街でなにが起こって……! なんでっ、なんでこんなことにオレたちが巻き込まれなきゃならないんすか!!」

「……」

「人を……人を殴ったんすよオレ! 初ライブ観に来てくれたクラスメイトを蹴っ飛ばして、どんなに提出物忘れても怒らない先生をギターでぶん殴った! なんでオレがこんなことしなきゃいけない!? オレが……オレたちがいったい何をしたって言うんですかぁっ!!」

 

 満太は震える両腕を差し出す。血塗られた手を見ろとでも言いたげに。その姿を見た廻はゆっくりと拳を握り、声を絞り出すようにして応えた。

 

「何もしていない……あなたも、小黒さんも、この街の人々も……何もしていないのよ」

「じゃあ……オレは、オレ……!」

「一旦落ち着こう、高校せ……いや、糸巻くん。鈴さんが起きちゃう」

 

 うなだれる満太の肩を一織が軽く叩き、ペットボトルの水とハンバーガーの包みを差し出した。

 

「お昼には少し早いし、そもそも食欲もないかもだけど……最低でも水は飲んでおきな? 君だって相当疲れてるはずだ。ひとまず身体をいたわった方が良い」

「……」

 

 満太が弱々しくそれを受け取ると、一織は彼の顔を覗き込むように身を屈めた。

 

「それから、ひとつだけ言わせてもらうけど」

「……?」

「忘れないで欲しい。君が誰かを傷つける決断をしたお陰で、鈴さんが助かったって事をだ」

「あ……」

「暴力を肯定しろってことでも、誇れってことでもないからな? そういう結果もあったってだけ。めちゃくちゃ苦しいと思うけど、その苦しさは忘れちゃだめだ。暴力には()()()()()?」

「……っ!」

 

 彼の語尾に一瞬だけ見え隠れした重苦しい圧に、思わず肩をすくませる満太。だがすぐに一織はフワリと口角を上げ、満太の額を指先でつつく。そうして彼は顔を上げ、廻に向き直った。

 

「さて、そうは言っても彼の怒りももっともだよな。……霧島さん」

「ええ……もうこれ以上、教団が罪もない人を踏みにじることを許すわけにはいかない」

「今のところ世界そのものは何ともないけど……奴らはクトゥルフの復活に動き出したって認識でいいんだよね?」

「ええ。『銀の鍵』の残留データから得た情報によれば邪神復活の儀式にはそれなりに時間が必要。……でも具体的な所要時間はわからないわ。一晩とも言われているし、三日三晩とも言われている」

「またずいぶんアバウトだな」

「そういうものなのよ。クトゥルフを始めとした外の宇宙に関わる伝承は歴史の裏側に隠された、言わば虫食い文章のようなもの。だからこそ教団はプログライズキーのテクノロジーを使って、足りない部分を補おうとしているのだと思う」

「じゃあやっぱり、タイムリミットは短く見積もるに越したことはなさそうだ。……でも問題は結局のところ藤堂教授――司祭の居所がわからないってことだよな」

「くっ……」

 

 廻は悔しげに目を細めると、開きっぱなしのノートパソコンに視線を落とした。ここ数日、司祭の潜伏先が一向に見つからなかったのも、クトゥルフ関連の情報の乏しさによるところが大きい。儀式に必要な道具や適した地形、もしかしたら時間帯や天候なども関わってきそうなものだが、これらが不明のままでは潜伏先の絞り込みなどできようがない。『銀の鍵』の残留データを取り込ませた父のデバイスをもってしても、潜伏先の発見には至らなかった。

 

「(銀の鍵でさえ得られない情報をなぜ司祭が知っているかも気になるところだけれど……今はそれより、何とかして司祭を見つけることに専念しないと。もうこれ以上……好き勝手させにために……!)」

「俺が変身して、アシを使って探し回るしかないかな……?」

「いくらラムダでも波妃町全体をくまなく探すなんて現実的ではないわ。第一、それで発見できたとしてどうやって戦うつもり? 水中ならともかく、長距離の高速移動はひどく体力を使うでしょう。住宅街からここまでですら相当消耗していたの、わたしは気付いているわよ」

 

 再び冷蔵庫へ向かおうとしていた一織の足が止まる。

 

「そうだけど……でも他に方法なくないか?」

「………」

 

 廻たちはとっくに後手に回っている。いよいよ手段を選んでいる場合ではないのはふたりとも理解していた。廻は視線を動かし、ホールの隅にあるテーブルを見やる。そこには入手した三つのプログライズキーと、アタッシュケース状の武器、それから黒い変身装置が置かれている。……そうだ。もう他に方法はない。仮にラムダが疲弊して戦闘不能になってしまったとしたら――。

 

 そんな廻の思考を遮るように、ノイズの混じった電子音が耳に届いた。作戦行動中に使っているインカムの回線からだ。

 

『お嬢様、お嬢様! ご無事ですか!』

「輝星さん!?」

「なに……?」

 

 廻は急いで通信機をパソコンに繋ぎ、スピーカーをオンにして音量を上げる。スピーカーからは風のぶつかるようなノイズと共に、本城の声が聞こえてきた。

 

『お嬢様! よかった、繋がった……』

「輝星さん、大丈夫なの!? 今どこにいるの!?」

『今朝方から教徒に追われていまして……ですが何とか撒いたのでご心配には及びません。それより……司祭の居場所が判明しました。青嵐(せいらん)スタジアムです!』

「なんですって……!」

『先ほどスタジアム内から、巨大な光の柱が立ち上がりました。恐らくですが、邪神復活のための儀式が始まろうとしています! これから私も――、………』

 

 大きなノイズが鳴り響き、通信が途絶えた。

 

「……! 目白くん!」

 

 廻に促されるよりも先に、一織はブルーシートを一部めくって窓の外を見ていた。波妃町北区……スポーツ公園併設の大型競技場・青嵐スタジアムの方角に、玉虫色の光がうっすらと見える。

 

「確かに見える……本城さんの言った通りだ。でも………」

 

 一織はブルーシートを閉じると、バーカウンターの席――本城がよく座っていた定位置の方へ視線を向けた。

 

「………」

「なにしているの目白くん、すぐ出るわよ!」

「あ、……うん、わかった」

 

 てきぱきと荷物を整えていく廻。一織も出撃の準備を始める。

 

「あ、あの……? なにがあったんすか!? オレもう何がなんやら全然わけわかんなくて……おお、オレはいったい……」

「あー糸巻くん、なんというか……このクソみたいな状況を作った元凶をぶちのめしてくる、ってとこかな。君はここにいてくれ。なるべく外には出ないようにね」

「は、はあ!? ちょっと待ってくださいよ! オレたちを、オレたちを置いてくってことっすか!?」

「そうだ。だから“君が”、鈴さんを守ってほしい。できるね?」

「は……はああ!? 言われなくてもそうしますけど!?」

「ははっ、頼もしいな」

「行くわよ目白くん。今度こそ、必ず……この手で教団を潰す……!」

「……」

 

 そうして廻と一織は店を出ていった。大型バイクのエンジン音が聞こえなくなると、満太は大きなため息をつく。

 

「はあ……なにがなんやらってんだよ、ほんとに……」

「んぅ……?」

「あっ」

 

 背後から聞こえたか細い呻き声に振り返ると、鈴が額を押さえながら上体を起こしたところだった。

 

「私は……? あれ……みんなは……?」

「小黒さん、よかった……! あ、えっと……はい、水」

「あ……うん、ありがとう」

 

 水を飲みながら、鈴は満太から何があったのかを教えてもらった。彼が事態の背景をほとんど知らないため本当にざっくりではあったが、それでも鈴は今がどんな状況であるかを理解できたようである。

 

「そっか……行ったんだ。……廻さんも、一織さんも……」

「お、おう……。まあ大丈夫だろ、ね? あのイオリって人、なんかすげえやべえ変身能力持ってたし、教団とやらもきっと倒してくれるよ。そしたらクラスのみんなも、小黒さんの家族も、きっと元通りになるよ!」

「うん……」

 

 鈴の胸の奥でズキリと響く痛み。そこから滲み出てきた感情は、怒りだ。自身が殺されかけ、少しずつ向き合えるようになった両親との関係も踏みにじられたことへの怒り。『家族を滅茶苦茶にした教団が許せない』と、半月前はほとんど建前だけで言った言葉に、ようやく中身が詰まったような感覚があった。

 

 しかし、

 

「(なんだろう……?)」

 

 一度眠り、落ち着きを取り戻した鈴の思考は、湧き上がった怒りとは別に一抹の違和感を感じ取っていた。

 

「(そもそも……教団は()()()()()()()()()?)」

 

 6月の初旬、初めて教団に襲われたのはプログライズキーの入ったバッグを間違って持って行ってしまったからだ。半月前、パーティに巻き込まれたのは鈴が教徒だったからだ。どちらも因果関係がわかりやすい。

 

 だが今回のはなんだ? と、鈴は寒気を覚える。仮に鈴が教団に敵対する存在であるとバレていたとして、わざわざ襲わせる必要があるとは思えない。仮面ライダーに変身し、明確に脅威となり得る一織を襲うならまだわかるが、鈴は戦闘技能もなければ探索技能もないないただの女子高生だ。それに口封じをするにしても遅すぎる。鈴をいじめるために、嫌がらせをするために襲ったと言った方がしっくりくる程である。

 

「(嫌がらせ、か……。なんだろう、この感じ……)」

 

 ()()、と思った。一年前、美加とメアリの不和を水面下で解消しようとした自分と()()ことを行っている、と。大げさな嫌がらせで廻と一織の怒りを煽り、教団に対するヘイトを稼ぐような何かが、水面下で起こったのかもしれないと。

 証拠はない。誰が何のためにそうするのかも皆目わからない。だがこの一連の流れに、過去の自分が奇妙なほどに重なっているという謎の実感だけがあり、鈴は生唾を飲み込んだ。

 

「(廻さん、一織さん……どうか無事でいて……!)」

 

 

 

 *  *

 

 

 

 同時刻。青嵐スタジアム、競技場手前の広場にて。

 

「なんだ……、おい、どうなってる……!」

 

 まるで待ち構えていたかのように立っていたスプラッシングホエールレイダーを前に、一織は動揺を隠せずにいた。

 

「くそっ、なんだよ……!」

「目白、くん……?」

 

 背後でバイクに跨がる廻も言葉を失っている。一織は悪態をつきながら自身の腰に巻かれたアマゾンズドライバーのグリップを何度も捻るが……いくら操作してもその変身装置は起動せず、ただ沈黙を貫くのみだった。

 

「動けよ、おいっ!」

 

 その姿を見たホエールレイダー――藤堂武蔵は頭部装甲の奥で陰湿な笑顔を作る。

 

『さてさて……“スケジュール”とやらも大詰めだねぇ。彼女を夢から引き戻す、集中講義の最後のひとコマを始めさせていただこうか』

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
これから第3幕もクライマックスに向かったり向かわなかったりします。はてさてどうなることやら……。

楽しんでいただけたら感想や評価など、是非是非お願いします!


次回「3-8. 滅亡と迅雷の決断」

彼女の”聖戦(ふくしゅう)”は何処へ行き着くのか。


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