第1話、(ようやく)完!
今後はもう少し配分を考えます(できるとは言ってない)。
プレビュー見ているとメインキャラたちの名前、読みにくすぎない? と今更ながら感じました。
改めて
前回、謎の”敵”の襲撃を何とか掻い潜った彼らだったが……?
※10/25 一部、改行等のレイアウトの整理を行いました。
日は落ちても、波妃町は眠らない。
特に駅前は、それなりの活気と賑わいを見せる。もちろん大都会ほどではない。それでもこの街に暮らす人々にとって、街の見せる夜の顔も日常のひとつなのだ。
非日常の極みのような状況から逃げ延びた廻と女子高生・鈴は駅前の喧噪から少し離れた路地裏の、人気の無いコインパーキングで一息ついていた。
「はい」
「……?」
「少しでも拭いておきなさい。何もしないよりは寒くないはずよ」
廻が自身のバッグから取り出したタオルを差し出すと、鈴は小さく会釈して受け取った。いくらか落ち着きを取り戻したようだが、受け取った手が震えていたのは寒さのせいだけではないだろう。
「ここから家まで帰れるかしら?」
「だい、じょうぶです」
「そう」
廻も自分のタオルを出し、長い茶髪を絞るようにして拭いている。
「今日あったことはできる限り忘れて」
「……むりそうです」
「でしょうね。でもあなたが誰にも話さず、今後町中でわたしを見かけても他人のふりをすれば、忘れたことと同じになるわ」
「……」
「申し訳ないけれど、あなたのフォローはこれ以上できない。してあげたくても、わたしにはこれ以上の余裕はない。……巻き込んでしまってごめんなさい」
廻はバイクに積んでいたもうひとつのバッグ、鈴本人のバッグを取り出して彼女に差し出した。
「……ありがとうございます」
鈴はそれを受け取ると、ゆっくりと抱きしめる。脇腹に当たった参考書の角が、鈴の日常を思い出させてくれるようだった。
「そのタオルは持って行って良いわ」
「ありがとう……ございます」
「おーい」
背後から気の抜けたような声。振り返ると、ジャケット姿の一織がこちらに歩いてくるところだった。
「集合場所が伝わっていたようで安心したわ」
彼が掲げているスマホには地図アプリが表示されている。
「どこから突っ込んでいいやらだよ。確かに“行け”とは言ったけど街までノンストップで飛ばしてっちゃうし、かと思ったらチャットアプリでここの住所だけ送ってくるし。そもそも俺たちって連絡先交換してないはずだよな?」
「裏技よ」
「例の“秘策”ってやつ? まあなんでもいいけど」
「あ、あの……私、行きます」
鈴がふらふらと立ち上がり、廻に一礼して歩き出した、一織の前までくると、改めて深々とお辞儀をする。
「ありがとう、ございました……」
そうして鈴はバッグを肩にかけ、重い足取りで路地裏を出て行った。
「……俺のこと話した?」
救出劇の最中、一織は変身後の姿でしか彼女に会っていないはずである。
「いいえ。日中あのカフェで会っていたときの姿でも覚えていたんじゃないかしら。それも含めた救出前後の状況から、アマゾンラムダの正体を看破した」
「まじかよ」
「わたしの想像よ。でもありえなくはないでしょう。見た目より賢そうだし、あの子」
「てか帰しちゃって大丈夫なのか? せめて家まで送ってやるとか」
「教団の情報網なら、バッグの中身がわたしたちに渡ったことは知られているはずよ。その時点でターゲットはわたしたちに移った」
「……口封じにまた狙われる可能性は?」
「口封じをする最大の理由は、自らの活動が明るみに出ることを防ぐため。『正気を失った街の人たちに襲われ、サメの怪人に助けられた』なんていう高校生の話、真に受ける大人はまずいないわ。むしろ口封じに動いて街の人間を消すことのほうが問題になる」
「筋は通っているな。どちらも、教団のイカレ具合が根拠になってるってのが腹立たしいが」
それで、と一織は気怠げに伸びをして、輪留めに腰を下ろす。
「俺たちはこうして会っているだけでリスクが発生しているらしいけど、それでもわざわざ呼び出した理由は?」
「――話しておきたくて、わたしの、目的」
一織が顔を上げると、廻はバイクに体重をかけたまま、ビルの間の闇を見つめてこう告げた。
「わたしの目的は『翡翠の光』を潰すこと」
「……」
「教団の抱える深淵を覗き、秘密を暴き、跡形もなく……消す」
ビル風が吹き、彼女の濡れた髪をふわりと浮かす。廻は瞬きもせず、視線を一織と合わせ、そしてすぐに逸らした。
「だからその、よければ聞かせて欲し――」
「いいよ」
「――え」
面食らうような彼女の表情を見て、一織は口角を上げた。
「俺の目的聞いて、利害が一致しそうなら協力を申し出る。みたいなつもりだったんでしょ? いいよ、協力しても」
「いや、え? でも」
「俺の目的を教えるよ。それは生きること」
「……は?」
廻は再び面食らった。彼の発言もそうだが、彼の表情がまるで友人に漫画を貸すことを承諾するような、軽い雰囲気のものだったからだ。
「人体実験の二次被害でというか、俺、絶賛求職中でさ。なんとか食い扶持を繋いできたけど限界近いんだよね。だから再就職して、生活できるくらいに稼げるようになる。それが俺の目的」
「い、いや、でも。そんなことで――」
「そんなこと?」
一織の言葉がほんの少し、重くなったような気がした。
「……もちろん俺の身体をこんなんにした連中に対して黙っているつもりもないし、教団関連で安否を確認したい人もいる。でも、何をするにも生きてからだ。復讐を果たすにも、正義を執行するにも、自分が死んでちゃ始まらないだろ」
「そう……」
一織の目は真剣だった。
「だからまあ、いいよとは言ったけども、実際は霧島さん次第。俺を雇ってくれるのか、そもそも雇えるだけの資金力があるのか」
そんな彼の目を見て、廻は笑みを零した。
「目白くんも、見た目より賢いのね」
「失礼だな。でもどうしてまた」
「雇えるだけの資金力があるのか、ね。ええ、あるわよ。そして
「……お互い様だろ。一日通して、お互いにいい値踏みの機会になったかな」
「そういえばバイトの面接行っていたわね」
「さっき不合格のメールが来たよ。寝不足で朝飯も抜いて受かれって言う方がおかしい」
「わたしのせいにするつもりじゃあないでしょうね」
「するかよ」
からからと、夜の駐車場に乾いた笑いが転がった。
一織は立ち上がり、バイクに寄りかかる彼女と再び視線を合わせる。
「――ともあれ、礼を言うわ。半ば捨て鉢だったわたしの復讐に、中身を詰める根拠が生まれた」
「じゃあ、契約成立ってことでいいのかな」
「ええ。わたしの知識とあなたの能力で教団を出し抜き、潰す。……期待していいのよね?」
「期待はするな。でも君が報酬を出してくれるのなら、信じてくれていい」
「どちらでもいいわ。あなたは労働力を、わたしは報酬をお互いに与える。契約書はいらないから、口座番号をあとで送りなさい」
一織は思わず吹き出した。
「話が早くて助かるよ」
「お互い様」
廻はそう言うとバイクに跨がる。ヘルメットを抱え、一織の方を振り返った。
「明日また会いましょう。諸々と準備をし直してくるわ。場所は、そうね……」
彼女は静かに目を閉じ、数秒後に開ける。ガラス玉のように綺麗な瞳が、裏路地の一角を向いた。
「そこで」
「……え?」
一織が何かを聞き返す前にバイクは発進し、角を曲がって路地から出て行ってしまった。
「……まったく。なにがどうなることやら、だな」
もう一度廻が示した方角を見る。裏路地の何てことの無い雑居ビルの1階。
「お腹空いたな。カレー食べたくなってきた、シーフードカレー」
廻が示した場所には閉店時間を過ぎて灯りの消えた看板があった。そこには『インドカレー』と、捻りのないゴシック体がでかでかと載っていた。
「この時間やってるとこあったかなあ」
かくして、陰謀渦巻く街の中で、小さな出会いが重なった。
彼らの出会いと決断はやがて街と、世界を巻き込む出会いに繋がる。
これは人を辞めた男と、人を信じることを辞めた女の物語だ。
改めまして、ようやく一区切りとなりました。
ここまで読了ありがとうございました。
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次回以降も是非、お楽しみに!