仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

51 / 77
4-7. 覚醒① 薄雪の邂逅

 

 

「 わ た し わ る く な い も ん ! ! 」

 

 すこぶる腹が立ったのを覚えている。

 どれだけ大泣きしようが、向こうが先に侮辱してきたという事実は変わらない。泣いているのが向こうだからという理由で、自分がまず諫められるというのは我慢ならなかった。

 

「めぐり様、声が大きいです。はしたないですよ」

 

 しかもこんなことまで指摘される。はしたないとか、なくないとか、今は関係がないでしょ、と思った。

 

「らんじゅちゃんが先なんだよ! めぐりさまはどんくさいのねとか言って、ぶじょくしてきたんだよ! ()()()でぼこぼこにつるし上げて何がわるいの!」

「どこでそんなお下品な言葉を覚えてきたのですか……」

「 と ー さ ま に お し え て い た だ い た の よ 何 か も ん く で も ! ? 」

「声が大きいです……! はあ……そんなところだろうとは思いましたけど……」

 

 彼は「やれやれ」と言って肩をすくめ、大きな眼鏡をくいっと上げた。わたしは思わず身構える。こうなったときの彼は少々手強い。

 

「めぐり様、良いですか? 立派な淑女たるもの、いかなる理不尽にも毅然と、それでいながら思いやりを持ってですね――」

「ぐ、ぬぬぬぬ……」

 

 何度か言い返した。しかしどうしても、七歳も年上である彼と自分とでは語彙力が違う。それにやはり、彼は頭もいい。わたしよりちょっとだけ運動神経がいいからといって調子に乗るあの子なんかとは格が違う。逆に理詰めで追い込まれていくのを実感し、わたしはとても悔しくなったが、絶対に負けたくないと思ってひたすら屁理屈をこね回した。

 

「めぐりー?」

 

 背後からかけられた柔らかい声に、既に半泣きだったわたしはすぐさま振り返る。

 

「かーさま!」

 

 思いっきり駆け出し、抱きつく寸前でちょっとだけブレーキ。大きなタイヤのついた椅子に座ったまま、母はわたしを抱き留めてくれる。何のお花かは知らないけど、とても優しい香りがした。

 

「ねえねえかーさま、わたしわるくないんだよ! わたしとらんじゅちゃんがかけっこしてて、こーせーさんがしんぱんしてて、らんじゅちゃんが先に走って、わたしが後ろを走って、ブランコのところまで走って、らんじゅちゃんがやったーって言って、それでねそれでね――」

「はーい、めぐり。一旦落ち着いてね。するーん、するーん……」

「ん、んふふふふっ」

 

 母がかけ声と共に、わたしの髪を撫でてくる。母にそうされると、決まってわたしは嬉しくなる。くすぐったくて、ふわふわして、なんだか色々どうでも良くなるくらい、嬉しくなるのだ。

 

「うんうん、めぐりはいい子だねぇ。かあさまは知っているからね、めぐりは悪くないって」

「……! うん……」

「じゃあ……悪いのはらんじゅちゃん?」

「……んーん。どっちも、わるくなくて……。でも、ちょっとずつ、どっちも、わるい……と、思う」

 

 母は微笑んで、再び髪を撫でてくれた。そこで初めて、母の背中にしがみつくようにしてこちらを覗き込む女の子がいることに気づく。たぶんそのとき、その子とわたしは同じ表情をしていたと思う。

 

 仲直りをした後は、余計に心が弾む気がした。笑いながら駆け出すその子を、わたしも笑いながら追いかける。全然追いつけないけど、すごく楽しかった気がする。輝星さんがほっとしたような顔をしてこちらを見ていた。いずれ彼とも決着をつけなければならないが、まあ今は一旦どうでもいいか。わたしはよく分からない嬉しさに包まれたまま、母の方を振り返った。

 

「……え? ……母様?」

 

 そこに母はいなかった。

 父がいた。

 父は傘を差したまま、母の墓を見下ろしていた。

 

 いつの間にかそこはお屋敷の中庭ではなく、いつの間にか大雨が降っていて、そこに幼馴染たちの姿もなく、わたしはヒューマギアになっていて、わたしの両腕はなくなっていた。

 

「……父様!」

 

 必死に声をかけるも、見計らったように強まった雨音にかき消される。父は振り返らない。やがて雨は大きな濁流となり、わたしを呑み込んだ。目の前にいた父がどうなったかは、わたしには見えなかった。

 

 目の前をニット帽のポンポンが横切った。咄嗟に手を伸ばそうとしたがわたしの腕はなく、咄嗟に誰かの名前を叫ぼうとしたがそれが誰だったのかどうにも思い出せなかった。

 

 どのくらいそうしていただろう。

 何度も岩にぶつかった気がする。痛みなんてないが、岩にぶつかると痛いということは知っていた。

 呼吸なんて必要ないが、ずっと水の中にいると苦しいということは知っていた。

 別にあの男のことなど何とも思っていないが、自分の声が届かないことがあそこまで辛いだなんて初めて知った。

 

 砂嵐が晴れる。同時に音もクリアになる。白い空に昇る太陽が見え、乾いた風の吹き抜ける音が聞こえた……気がする。ゆらゆらと流れる自分の身体を受け止めたのは、雪が薄く降り積もった土の塊だった。

 

「……――、………」

 

 声が出ない。音声ユニットが濡れているからかもしれない。

 ただ、わたしは何とかして声を出したい、と思った。

 

「……? ……、……!」

 

 なんでそう思ったのだろう。

 そうだ、()()()()()()()()()()()

 

 再び暗転していく視界の中の、『排水シーク■■ス開始/再■動まで■■秒』というぐちゃぐちゃになったウィンドウの向こう――雪に覆われた土の上に、誰かが立っていた。

 

 足元しか見えないけれど、そのスーツの裾、左右で少しだけサイズが違う立派な革靴には、見覚えがある……気がする。

 

 ガリッ、と。

 一瞬だけ通るようになったスピーカーから、か細いわたしの声が聞こえてきた。

 

 

「とう、……さま?」

 

 

 

  *  *

 

 

 

 何も映されていないスクリーンの淡い光だけが辺りを包む、人気(ひとけ)のない会議室にて。

 本城有衣子はプロジェクター横のデスクに腰を預け、手に持ったスイッチのような装置を眺めていた。真っ赤なスイッチ上部には『牡牛座』のシンボルマークが刻まれている。

 

「……ゾディアーツスイッチ、と呼ばれる代物らしい。今朝、ルージュから探索成果の一部として送られてきた」

 

 有衣子は視線をそのスイッチに向けたまま、独り言のように呟いた。

 

「藤堂には恐れ入ったよ。銀の鍵を使って、本当に見境なく様々な時空の技術を取り出していたようだ。よほどクトゥルフ復活にご執心だったと見える。このスイッチを含め、使いこなすのに厳しい条件があるものがほとんどだったようだがね」

 

 彼女は牡牛座のマークを指でなぞりながら、「しかしサンプルとして出てきたものがよりにもよって牡牛座とは、ね」と意味深な笑みを浮かべた。

 

「私にも使えたら良かったのだが、そう都合良くもいかないか。遠い宇宙を目指し、かつ日本の中心たる都に拠点を置く我々『琥珀の星』と相性が良いのは、やはりフルボトルに連なる技術だったという訳だ。これはせいぜい()()()()()()の礎となってもらおう」

 

 スイッチをデスクに置き、有衣子は「それで?」と、振り返らぬまま背後に言葉を投げかける。

 

「ルージュの報告に不満があるようだね、輝星?」

 

 背後の暗闇に緊張が走った。彼女の息子・本城輝星は整えられた前髪の下でその両目を小さく見開く。

 

「……廻お嬢様を迎えに行く任務だと、私はそう聞きました。ですがあれは……! あやうく彼女は殺されるところで――」

「殺される? ヒューマギアに命などない、何を見誤っているのだ」

「っ!」

「ルージュには、最悪あの“お嬢様”の記憶メモリだけ持ち帰れば良いと伝えてある。身体などいくらでも追加で取り出せばいい。お前が藤堂から取り返してくれた『銀の鍵』でね。違うかな?」

 

 輝星は口ごもる。

 銀の鍵を起動させる装置は、長らく藤堂に独占されたままだった。彼の“自爆”を見届けたのち、速やかに回収するというのが彼のかつての任務。母の言っていることは正しいのだが、なるべく廻に……あらゆる意味で傷ついてほしくないと考えている輝星にとって、現状はもどかしい以外の何ものでもなかった。

 

「しかし追い詰めるだけ追い詰めて見失うとはね。あの“お嬢様”の無事を願うのなら、ルージュの健闘を祈るがいいさ」

 

 有衣子は心底どうでもいいことのように、鼻で笑って肩をすくめた。

 

「しかしまあ、ガーディアンもドブさらいに使われたのではたまったものではなかろう。ルージュに最低限の数しか支給しなかったのは正解だったね。……『翼の眷属』の方は、興味深い実験データが取れているようだが」

「しかし母上……!」

「しかし、何かな? 私はあいつにさして期待などしてはいないが、少なくともルージュのやつは仮面ライダーアマゾンラムダを手駒にした。それも初手で、だ。どんな手段が刺さったのかは知らないが、お前がついぞ倒せなかったサメのアマゾンを見事、堕として見せたのだぞ?」

「……」

「輝星、お前はどうなのだ? 未だに“あのドライバー”での変身に成功していないようだが」

 

 “あのドライバー”、という単語に輝星の全身が強張った。掌に汗が滲み、口の中が乾いていくのを感じる。

 

「……申し訳、ございません」

「あれは完全な姿ではない。前段階で苦戦しているようでは話にならないぞ?」

「……っ」

「まあいいさ。完全な姿になるための最後のパーツが未だ取り出せていないのも事実だ。『銀の鍵』をもってしても、おいそれと触れられる代物ではないらしい。その時までせいぜい精進することだね、我が息子よ」

 

 そう言い残し、有衣子はその場を去ろうとする。しかし暗闇に溶けかけるその背に向かって輝星が「母上」と、張り詰めた言葉を投げかけた。

 

「母上、ルージュのやつは『探索成果の一部』と言って、そのゾディアーツスイッチを送ってきたのですよね……?」

「……」

「あいつに課せられた本当の任務はお嬢様のお迎えでも、ましてや仮面ライダーの排除でもない……違いますか?」

 

 有衣子は答えない。その代わり肩越しに振り返り、ただ静かに微笑んだ。

 

「……! でしたら、本当の任務は、あいつがいま()()()()()ものは……!」

「ああ……仮面ライダーや“お嬢様”に関わることはあくまでついでさ」

 

 輝星の心臓がどくりと脈打つ。母の手伝いをしてきてもう10年ほどになるが、未だにこの本能的な恐怖・狂気には慣れない。

 

「ルージュに課した本当の任務は、藤堂が波妃町のどこかに隠したとある遺産の回収」

「……!」

「それこそは『ルルイエ異本』――旧支配者クトゥルフにまつわるあらゆる知識を記した、太古の魔導書さ」

 

 否、この言語化できない恐怖からは、人類である以上決して逃れられはしないのだろう。

 

 

 

  *  *

 

 

 

  [Standby... ... ...... ■■■, ■e■dy...]

  [Warning ■――■ing this is ■■――]

  [■■■. Lim■ted ――■■ mode...]

  [Take off ■――■■ the top of ■■――. Presented by ■■■A.]

 

 

 ただひたすらに唐突に。あらゆる脈絡を置き去りにして。

 

「あ……?」

 

 廻の意識は目覚めた。再起動した、と言った方が正確か。

 

「わた、zazaaza、――っ、わたし……?」

 

 少しだけ音声が乱れたが、すぐに安定する。同じく思ったより乱れていない視界を巡らせて辺りを見ると、どうやら自分はどこかの橋の下――川と土の境目辺りに横たわっているようだ。

 

「ここは……ええっと……あっ」

 

 立ち上がろうとして、立てないことに気づく。両腕がないのだ。

右腕は肩関節から先がなく、10センチほどの長さのケーブルが垂れているだけ。左腕はもっと酷く、肩すらない。へし折れたシリンダーのようなものが、大きな破断面から顔を覗かせていた。

 

「うっ……!?」

 

 思い出した。廻は一織――アマゾンラムダと戦い、一瞬の躊躇いの隙を突かれて敗北した。必死に呼びかけるも容赦なく叩きのめされ、両腕を奪われて川に落とされたのだった。あのとき感じた恐怖や、後悔や、なんだかよく分からないけれどとにかく辛いという感情……それらを一気に思い出して廻は吐き気を覚える。吐くものはもちろんないのだが。

 

「あれから、何日経ったの……? それにここは、どこ……?」

 

 位置情報も、日付も時刻も参照できなかった。機能制限がかかっているらしく、視界の諸々のウィンドウが非表示のままロックされている。ここまで大破しながら再起動できているというだけで御の字なのだろうが、それにしてもできることと分かることが少なすぎる。元・人間でありながらも、知らず知らずのうちにヒューマギアの機能に頼るようになっていた自分に嫌悪感を覚えた。

 

 ともあれ、最低でもここが風間川沿いのどこかであることは間違いない。また、季節が巡っていないことも確かだ。一年後の冬、という線もないだろう。その場合まず間違いなく、自分はバッテリー不足で再起動できていないはずだ。……淡々とそんなことを考えながら、廻は動作感度の悪い全身をもぞもぞと動かしてうつ伏せから仰向けになった。

 

「……我ながら、ひどい格好ね」

 

 着ていた服は千切れて伸びきり、布きれとなってほぼ剥き出しの素体に巻き付いているだけとなっている。幸いなことに滅亡迅雷フォースライザーは閉じたクリオネキー共々腰に巻き付いたままだった。ベルト帯のホルダーに挿してある『ペンギン』と『シャーク』のキーも紛失はしていない様子だ。……まあ、立つこともできない今の状態では、だからどうなるという話もないのだが。

 

 そのまま芋虫が這うようにして落書きの目立つ橋梁下の壁まで進み、壁を支えにして何とか立ち上がった。正確な時間は不明だが、それだけで何十分もかかったような気がする。そうして――あくまで気分として――一息ついたところで、廻は自問するように言葉を溢した。

 

「なに、しているのかしらね。わたし……」

 

 なるべく考えないようにしてきたが、限界だった。

 立ち上がったところで何になる? ただ立ち上がることにも数十分必要な今の自分が、ここから先いったい何を成そうと言うのか?

 

 『琥珀の星』の襲撃にまんまと後手を取り、そのまま敗北した。目白一織は敵の手中に落ちたまま、今もどこかにいるのだろう。彼の洗脳を解くためには正体も分からない幹部を倒す必要があるのだが、それは仮に万全の状態だったとしても困難を極める話だ。

 

 そこまで思案したところで、ふと頭上から降ってきた音に眉をひそめる。

 

「(ん……足音? でも、これ……)」

 

 それは足音だった。橋を歩くような規則的な音が聞こえ、廻は小さく身を屈める。今の自分の姿を通行人に見られる訳にはいかないというのもそうだが、その足音の響きに違和感を覚えたからだ。

 

「(あれは……!)」

 

 果たして足音の主は人間ではなく、人型の機械兵士――ガーディアンだった。それは以前輝星がけしかけてきた、ヒューマギアとは別時空の人形兵器。この個体はフードつきのコートのような目立たない戦闘服を纏っていて、たまたま廻が下から覗き込む形で盗み見たために正体が看破できたものの一見通行人にしか見えないだろう。そのガーディアンは何かを探すように頭部を巡らせたのち、来た道を戻っていった。市民に擬態してまで何を探しているのか……それは言わずもがな、取り逃した廻だろう。

 この様子だと、一織も自分を探しているのかもしれない。もし見つかったら、何の抵抗もできないまま今度こそ(ころ)される。もちろんそれはガーディアン相手でも変わらないだろう。どう転んでも無力でしかないことを改めて実感し、廻は小さく項垂れる。

 

「(再起動できたはいいけれど……どうしろと言うのよ……。ただでさえわたしは……わたしは、何もできなかったというのに……っ)」

 

 操られたまま襲い来るアマゾンラムダの姿を思い出した。あのとき彼を殺していればよかったのだろうか。殺さないにしても、浅ましく訴えかける以外の方法があったのではないだろうか。咄嗟とはいえあんな無様に泣きつくなんてどう考えたって有り得ない。……どれだけ言い訳なり後悔なりをしたところで手遅れだが。

 やはりどうにも――あんな状況下でさえ、彼を前にすると調子が狂うようだ。

 

「(あら……? そういえば……)」

 

 再起動の前、と言うよりシャットダウンされる直前まで、夢のようなものを見ていた気がする。当然夢なんていう機能はなく、実際は水浸しになったメモリが一時的にバグを起こしていただけなのだろうが。

 その“夢”の中で、幼い日の記憶が再生されていた。まだ母親が生きていた頃の記憶だ。そこからシームレスに、ちょうどその水辺に打ち上げられる瞬間の意識まで繋がったのではなかったか? そして意識が完全に途切れる直前、誰かに会ったのではなかったか? 廻のよく知る、母と同じくらい大切だった“誰か”に――。

 

「たしか、そこに……!」

 

 欠けた肩を壁から離し、ふらふらと水辺まで戻る。自分が横たわっていた場所から少し外れた土の上に、その“誰か”は立っていたはずなのだ。

 

「……!?」

 

 その場所には誰もいなかった。足跡もなかった。しかし、

 

「なに、これ……?」

 

 その場所――湿った土の上には足跡の代わりに、奇妙な装置が置かれていた。銀色のベルト帯が伸びる、青い拳銃のような形をしたバックルだ。

 見覚えなど一切ない。しかし何度も同様の技術体系を目撃し、滅亡迅雷フォースライザーを扱う仮面ライダーでもある廻には一目で理解できた。それは“プログライズキーを用いる変身装置”である、と。

 

「なん――はぁうっ」

 

 思わず駆け寄ろうとしてバランスを崩し、廻は再び地面に転がってしまう。しかし構うことなく、必死で頭部を動かしてその装置を視界に収めた。左肩のシリンダーの根元がキュルキュルと鳴動する。伸ばす腕などないくせに、その装置を手に取りたくて仕方がなかった。

 

「なんで、なんで……っ」

 

 なぜこの装置がその場所にあるのか。夢の終わりに見た“誰か”が置いていったのか。その人物は、死んだはずの父なのか……? そんなはずがない……のであれば、いったい誰が、何のためにこんなことをしたのか? 

 

 様々な疑問が浮かんでは消え、思考を忙しなく揺さぶる。だがやはり――真相がどうであれ――廻の心情はある一点に行き着くのだった。

 

「なんで、こんなものをっ! わたしにどうしろと! 手に取ることも、満足に立つこともできないわたしに、そんな装置でどうしろと言うのよ……!」

 

 それを置いていった“誰か”に、あるいはその装置そのものに、あるいは自分自身に――湧き上がる悔しさをぶつける廻。思考が乱れ、ただでさえ動きの鈍くなった身体はちっとも思った通りに動いてくれない。

 

 そんな彼女に追い打ちをかけるように、頭上の鉄骨から再び規則的な音が響いてくる。

 

「(足音……! ガーディアンが戻ってきた……? それとも通行人? ここからだと分からない……あっ!)」

 

 その足音は橋を渡りきるとぐるっと迂回し、すぐそこの石階段を降りてくるようだった。こうなってしまったら仮に通行人だったとしても見られる訳にはいかない。廻は慌てて転がろうとし、未だにすぐそこの地面に置いてある装置を目に留めて動きを止めてしまう。

 

「(せめてそれを拾って……ああ、でもどうやって……。どうすれば……わたし、どうすれば……!)」

「あっ」

「(しまっ――)」

「やっぱり!」

「(え……?)」

 

 遂に石階段を降りきったその人影は、手に持ったバッグを持ち直しながら廻の元へ駆け寄ってくる。無地のネックウォーマーの隙間から、彼の白い息が短く尾を引いた。

 

「メグさん、っすよ……ね?」

 

 その金髪も、ギターケースも、廻にとって見覚えのあるものだった。

 

 

「糸巻、くん……?」

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
少々短めですが、結構な量の情報が出たことと思います。今後少しずつ、あるいはがっつりと触れていく予定ですので、是非是非お楽しみに。


次回

「4-8. 覚醒② すれ違う悔恨」

彼らは互いに、友だちの友だちくらいの人だった。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。