仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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4-10. 覚醒④ 恋愛バナシはお断り?

 

 

 向かってくるバイクに何発も弾丸を撃ち込み、彼をバイクから降ろしたまでは良かった。

 体勢を崩した彼にいきなり最大出力の跳び蹴りを放ったのも、悪い選択ではなかったと思う。

 問題は――案の定と言うべきか――アマゾンラムダが落車のダメージをほとんど受けていなかったこと。そしてそれ故に、体勢を一瞬で立て直していたことだ。

 

 満太の渾身の一撃は軽々受け止められ……そこから先は一方的だった。

 

 ラムダが十数発の拳を見舞う間に、ようやく満太が一撃を返す。その一撃も青色のアマゾンには届くはずがなく、次の十数発が浴びせられる。瞬く間に彼のアーマーは砕かれ、首を刈り取らんばかりの強烈な肘鉄を最後にその変身が解除された。

 

 そしてラムダは、気を失った少年をゆっくりと見下ろして――。

 

 

 

  *  *

 

 

 

「……? あれ……いっ!? ってぇ……」

 

 満太が目を覚ますと、目の前に瓦礫の山が積まれていた。小さく切り取られた星空から降り注いでいるのは、恐らく月明かりだろう。

 だがそれよりもひたすらに全身が痛い。浮かびかけた様々な疑問は激痛に遮られ、霧散していく。

 

「糸巻くん……? 起きたのね、よかった……」

 

 声に振り返ると、瓦礫の隙間に埋もれるようにして廻が横たわっていた。左耳のランプを弱々しく瞬かせながら、砂埃まみれの顔をこちらに向けている。

 

「メグさん! だいじょ――あいっ、たぁっ」

「わたしは大丈夫、あなたこそまだ動かない方がいいわ。……幸い大きな怪我はないみたい。どうやら、A.I.M.S.ショットライザーのライダーシステムはとりわけ頑丈にできているようね」

「……」

 

 満太は自身のすぐ横に落ちていた青い拳銃を拾い上げる。装填されたままのシャークプログライズキーは閉じられていた。

 

「……何があったか教えてくれますか? あっ、オレがボコボコにされた部分は省いてもらって。そこは憶えてますし、あの、凹むんで……」

「そう。憶えて、ないのね……」

「え?」

「なんでもないわ……あなたが変身解除する直前に放った弾丸が、既に半分崩れていたアーケードの天井にトドメを刺したのよ。落ちてきた大量の瓦礫は、今度は地面――地下街の天井にトドメを刺した。……あれ、わざと狙ったのでしょう?」

「ああ、まあ。……自分らが地下街まで落ちてくる羽目になるとは思いませんでしたけど。……イオさんはどうなりました?」

「あの程度の不意打ちが効くような相手なら、そもそもわたしは負けたりしないわ。彼はきっと崩落から逃れたのでしょう。わたしたちがここに落ちてきてすぐ、バイクが走り去る音が地上の方から聞こえた」

「帰った、ってことすか」

「彼は洗脳されているけれど、幹部がリアルタイムで面倒を見ている訳でもないようね。洗脳はそこまで万能じゃなくて、あまり複雑な命令は与えられない……ターゲットを見失って巡回に戻ったと言ったところかしら」

 

 廻は言葉を切ると、差し込む月明かりに照らされた瓦礫の山を見やる。明かりは見えても、月そのものはここからでは見えない。

 

「結果的に、あなたに助けられた。礼を言うわ……ありがとう」

「……」

 

 彼女の耳は青色に光っていた。その色が意味するところを満太は知らないが、なんとなく廻の心情が理解できる気がする。

 

「まあ……そんな顔しないでくださいよ」

 

 努めて明るく口を開く。

 この沈黙を保ってはいけない、受け入れてはいけないと、彼は直感的にそう思った。

 

「今のオレたちにはこれがある、そんでオレは変身できる! イオさんにはボロ負けしたけど……この瓦礫を吹っ飛ばすくらいなら余裕っすよ!」

 

 シャークキーを抜き取り、再起動してショットライザーに装填し直す。……しかしキーのロックは外れず、ライザーは待機状態に移行しないまま黙りこくっている。

 

「……A.I.M.S.ショットライザーは本来、脳にチップを埋め込んで人工知能の補助を受けないと使えない。そんなチップも、手術のノウハウもこの時空にはないから、その変身ツールを使える人間は世界のどこにもいないの」

「え、じゃあ」

「チップはないけれど、“近しい規格のヒューマギア”ならここにいるわ。あの時、わたしはショットライザーと同期して補助と調整を行った。わたしが許可したから、あなたは変身することができたのよ」

「まじか……」

「……」

 

 沈黙が広がる。

 満太が思わず黙ったのは、自分が“誰にも使えないはずのアイテムを使える特別な人間”じゃなかったことへの落胆ではない。……そんな都合の良い補正が自分にないことなどとっくに承知している。

 彼が汲み取ったのは今ショットライザーが起動しない本当の理由――すなわち『許可しない』という廻の意志だ。

 

「あと数時間で、わたしの身体は崩落のダメージから回復して、動けるようになるわ。そうしたらもう一度、あなたの変身を許可する。瓦礫をどかして地上に戻るためにね。……それが最後よ。あなたの変身を、わたしはもう認めない」

「そんな、メグさん――」

「――あなたの言う通り、後悔を払拭するには“先”に進むしかなかった、あなたの変身は有意義な挑戦だったのかもしれない。けれどもその結果がこれ。最悪の状況を抜けた先に、より酷い最悪があっただけ。わたしの精一杯の期待はより大きな理不尽に叩きのめされて、あなたは負けて……それで目白くんはっ……!」

 

 廻は表情を歪ませ、顔を背ける。彼女は瓦礫の向こうを見ているようだった。

 

「イオさんが……どうしたんすか?」

 

 今の彼女が“どこ”から目を背けたがっているのか……満太には見えない。廻はただ、力なく首を振るだけだ。

 

「なんでも、ないわ……。あなたの弾丸が天井を崩したから、何も起こらずに済んだ」

「……? まあ、気持ちはわかりますけどね。不甲斐なく思ってんのはオレも同じですし」

 

 満太はそう言うと息を吐き、瓦礫に腰を下ろした。それから、どこへともなく口を開く。

 

「オレたち、随分と“後悔”ってヤツに好かれてますよね」

「……」

 

 “あの時ああしていれば”と、振り返ることは簡単だ。同時に、ごく自然な反応でもあるだろう。

 逆に、“いやいや、でも”と言ってもう一歩進もうとすることはとても大変で、疲れる。多くの場合、その反応は合理的ではないからだ。そのくせ、その勢い任せの一歩に限って、しくじったときの傷がやたらと深い。それはつまり成功したときの達成感もひとしおであるということなのだろうが、果たして成功することなどあるだろうか? あっただろうか? そうやって上手くいくのなら、誰も苦労などしないのではないだろうか?

 まったく合理的でないのに、人はそれをつい求めてしまう。だから理想というものは、この世からなくならないのかもしれない。

 

 

 

 差し込む月明かりも傾き、薄く細くなりつつある頃、ふと廻が「ねえ」と呟いた。悶々と考え続けるうちに夢うつつになりかけていた満太は我に返り、すぐそこで横たわる彼女に視線を向ける。お互いが黙ってから数十分しか経過していなかったが、彼らにとってはあまりにも長すぎたようだ。

 

「目白くんと出会った頃のわたし、ことあるごとに『期待』って言っていたのよね。……『期待している』とか、『期待していい?』とか」

 

 満太がなんとなく得ていた情報によると、このふたりが出会ったのは今年の6月。そう思うと出会いから邪神復活未遂を防ぐまでよりも、その後の方が長いんだな……と、満太は改めて気づく。9月の誕生日会を除いてほとんど交流していなかったからその間のことは知り得ないが、街に残されたゾンビを倒すために『仮面ライダー』を全うしていたことも――同じくなんとなくではあるが――把握している。

 

「その度に彼は『期待するな』だとか『応援して』だとか言っていた。きっと、わたしの扱うその言葉が、薄っぺらいものだって気づいていたのでしょうね。事実、わたしは“期待”するだけで彼のことを信じようとしていなかった。そのことを間接的に教えてくれたのは鈴ちゃんだったわ」

 

 目を細める廻。真っ黒な右の眼窩がきゅるると音を立てる。

 

「いつになったらわたしは……誰かを信じることができるのかしら。そうしたら……間違えることもなくなるのかしら」

 

 誰に対してでもない疑問。ぱらぱらと、どこかの瓦礫から零れる砂の音だけが返答のようだった。

 

「あ、ごめんなさい。わたし、急にわけの分からないことを――」

「オレはいいと思いますけどね、期待」

「え?」

 

 受け取り手のいない疑問を拾ったのは満太だった。顔を上げ、あるいは下げ、ほとんど暗闇の中で彼らの視線が間違いなく交わる。

 

「オレ、3人きょうだいの末っ子なせいで色々見てきたんすよ、兄貴と姉貴の失敗とか後悔とか。だからなんて言うか……そういうのを上手いこと避けて生きていくことができた。自分を信じることも、誰かに期待することもせずに……そうせずとも、上手いことやれたから」

 

 ふたつ年上の――当時高校3年生だった兄はある時、満太のクラスメイトの女子と付き合い始めた。身内だった満太には彼らが少なくとも真っ当に想い合って交際を始めたことを知っていたが、まあ色々と複雑な経緯だったらしい。そしてその複雑な経緯は、周りからは所謂“寝取り”に見えたようだ。

 兄と、兄と付き合うことになったその女子生徒は、瞬く間に非難の的となった。ありきたりと言えばありきたりな恋愛トラブルだが、実の兄とクラスメイトが当事者というのは、正直居心地が悪かった。

 

「確かに、期待を押しつけて向き合うことを疎かにすることは、人を“信じている”とは言えないと思います。そうやって行き過ぎた期待は、誰かを傷つけることになりもする」

 

 “上手いことやれる”術を知っていた満太は、積極的な関わりを避けた。『好きになった子の前でカッコもつけられないくらいなら死んでしまえ』と言って非難に立ち向かう兄のことを、最初は馬鹿にしてさえいた。だが――

 

「でも“期待”からじゃないと始まらないモノも、結構あったりするんじゃないかって、オレはそう思いますよ」

 

 そんな流れにひとりで立ち向かうクラスメイトの姿があった。身内でもない、当事者でもないあの子。誰にそうしろと言われたわけでもなく、そうする責任や義務があるわけでもないのに、あの子はありきたりな恋愛トラブルを解消するために必死で動いていた。

 

 鼻で笑うことはできた。でもしなかった。既に彼女が好きだったからだ。

 だが満太が手をこまねいている間に、あの子は諦めてしまった。『好きになった子の前でカッコもつけられないくらいなら死んでしまえ』とかいう期待の塊のようなセリフを思い出し、率直に『死にてえ』と思った。

 

 満太にとっての最初の“後悔”であり、初めての“理想”だった。

 

「薄っぺらい“期待”、上等っすよ。少なくともそのお陰でオレは、ようやく当事者になれた。メグさんのお陰で後悔をひとつ――たったひとつだけど滅茶苦茶でかいひとつを、乗り越えられたんすから」

「……わたしの、おかげで」

「まあオレの方は、メグさんの期待に応えられなかったわけですが……。てかなんだよイオさん、強すぎだろ……ぶっ壊れかよ……」

 

 ショットライザーを拾い上げて表面を指で叩きつつ項垂れる満太。彼のその姿を呆然と見上げていた廻は、しばらくして「そうね」と呟いた。小さくも、どこか芯の通ったような「そうね」だった。

 

「ところで……彼女のどこが好きなの?」

「……へ?」

「だから、鈴ちゃんのこと。どういったところが好きなのかと聞いているのよ」

「な、なんすかぁ急に……。びっくりするなぁ……」

 

 突然の質問に身構える満太をよそに、廻は得意げに微笑んだ。

 

「残り約2時間。完全なスリープモードになることもできるけれど、それではあなたが退屈でしょう。未だに連絡先の交換もままならない哀れな糸巻くんに対して、知識と経験に溢れるこのわたしが相談に乗ってあげようと思って」

「よくそんな寝っ転がったままでドヤれますね……」

「いいから教えなさいよ、『恋愛バナシ』は庶民の高校生なら日常茶飯事でしょう。……どこが好きなの?」

 

 心なしか語尾が弾んでいる。約半年もの間某ふわふわ男との会話で鍛えられているだけあって、満太のツッコミ程度ではびくともしないようだ。

 

 正直、廻の言う通りではある。この手の会話はそれなりに慣れているのだ。『恋バナ』は男子高校生にとっては模擬試験の話題の何億倍も有意義で生産的な時間――少なくとも満太と、仲の良いクラスメイト、それにバンドのメンバーはそう認識している。そして何より、つい数週間前には修学旅行があったばかりなのだ。自分の事情なんて語り慣れている。

 ……だがこの状況は話が違いすぎる。相手は年上の女性。しかも美人で、加えてなんとびっくりカノジョはセレブでヒューマギア。こんなニッチな状況どこで慣れろというのか、有識者がいれば教えてほしいと思った。

 

 そうして満太は観念し、おずおずと口を開く。

 

「…………一生懸命なところ、っすかね」

 

 それが友人たち相手に何度も言った、満太の本音そのものだった。謎の緊張で若干噛みつつではあったが、紛れもない本心だ。

 

「糸巻くん、あなた……」

 

 そして彼の本音に対し、知識と経験に満ちあふれるらしい年上の美人は茶化すでも、からかうでもなく、なんとも読み取れない表情で首を傾げるのだった。

 

「気色悪いわね」

「ちょっと!?」

「ごめんなさい口が滑ったわ。……こほん、それで? 好きになったきっかけは?」

「続けるんすね! この理不尽極まりない面談を!」

 

 これが先輩のパワハラと言うヤツか? と、満太は戦慄する。帰宅部とはいえ学校の先輩らともそれなりにコネクションを築いてきた彼だったが、ここまで癖の強い圧をかけてくる相手は初めてだった。

 

「……一年の時、じゃんけんで負けて体育祭実行委員になりかけてたオレに声かけてくれたんすよ。『私に代わらせてくれない?』って。それがその……かっ、可愛くて」

 

 同じく語り慣れた本音ではあるが、やはりやけに緊張する。数多の同胞たちと幾多の恋バナをくぐり抜けてきたこのオレがなぜこんな恋愛弱者みたいな反応せにゃならんのだ――と満太は呆れつつも、なんだかんだで素直に答えている自分が不思議に思えてきた。これがこの年上美人の持つカリスマ性というものなのだろうか?

 

「存外普通ね」

「もう絶対喋らねぇっすからね!!」

 

 前言撤回、これはパワハラだ。しかもパワハラではないように一瞬だけ思わせてくる、レベル高めのパワハラだ。

 

「というか鈴ちゃんの本来の性格を知っていると、そんな言葉をそんな可愛げに言うことに含みを感じずにはいられないわね」

「……オレも気づいてましたよ。小黒さんが猫被ってるって」

「え」

 

 廻が目を見開くと、満太は短く息を吐いた。目の前の暗闇が一瞬だけ、白く色づく。

 小黒鈴の存在感は、クラスにおいて限りなく薄い。友人からしたら満太は“地味子に片恋する変わったヤツ”でしかなく、誰も鈴の本性を知らない。今のエピソードにツッコミを入れたのは、廻が初めてとなる。

 すなわち、ここから先は初めて他者に向けて語る領域だ。

 

「気付けたのはまぐれ……だとは思いますけどね。でも一目で分かりました、猫被ってるって。これは後から知ったことなんすけど、オレが相方になるはずだったもうひとりの実行委員の女子は、筋金入りの男子嫌い……だったんすよね。オレと組んでたら破綻……しないにしても、上手く回らない可能性があった」

 

 だから彼女は媚びた表情を作り、明るい声色を作り、満太に声をかけた。満太を想ってのことではなく、ましてやもうひとりの女子のためでもないのだろう。可愛らしいあだ名で呼ばれていた当時の彼女は、そういう人間だった。

 

「オレは何故だか、そんな嘘っぱちで打算的な笑顔を目で追うようになっちまったんです。だからその……好きになったきっかけって言うのはちょっと違うかもですね。最初は正直、薄気味悪さすら感じてましたから」

「えっと……じゃあ、いつ……?」

「それが分かんないんすよねぇ。気づいたら、好きになったっていう結果があるだけでした。でもまあ、そんなんでいい気がしますよ」

「そ、そういうもの?」

「っすね。誰かを好きになるのに、必ずしも運命的な出会いとか壮大なストーリーが必要ってワケじゃないっしょ。()()()()()()()()()()()()()()、そう思います」

 

 最初は空っぽな羨望――廻の言う“期待”に近いものだったのかもしれない。だがこの恋心は、そんな“期待”に少なからず中身が詰まった結果だと思う。後付けしていく量は思ったよりも多く、一時は後悔によって足を止めようとしたものの、今はこうして、自ら巻き込まれに行く意志を取り戻すことができた。

 

 独り言にも近い満太の言葉に聞き入っていた廻は、彼の表情を不思議そうに見上げながら「そういうものなのね」と静かに呟いた。

 

「何というか、難しいわ。奥が深いのね、庶民の『恋愛バナシ』って」

「……その、略さず言うのやめません? いや略さないにしたってその呼び方はおかしい気もするけど」

 

 結局パワハラあるいはカリスマに流されて色々喋ってしまった……と肩を落とす満太であった。そして彼はふと、あることを思い出す。

 

「あっ、そんじゃあ、次メグさんの番なんで」

「は?」

「だから、今度はそっちの恋バナ聞かせてくださいよ。メグさんとイオさんの」

「……は?」

「いやいや、そんな圧、出さなくても……。そんなに恥ずかしいんすか? さぞかし壮大で運命的な――」

「ま、待ちなさい!」

 

 突然のキラーパスに廻は起き上がろうとする……が、機能回復中につき首から下はピクリとも動かない。

 

「壮大な勘違いをしているわ! わたしと目白くんの関係は恋愛バナシに持ち込むようなものじゃあない!」

「えっ、嘘ぉ!? 絶対そうだと思ってたのに!」

「そうって何!? ……えっ、“そう”って何よ!? 違うわ!? 違うから!!」

「マジな大声やめてください! 崩れる!」

「はっ!? まさか庶民の恋愛バナシは等価交換が原則ということなの……? 一歩的に聞き手に回るのは庶民のルールにおいて無礼千万、そういうことね!?」

「えっ? ああ、はい。あー……うん、そうっす。間違いない。無作法と言うものってヤツっす」

「迂闊だった!! けれどわたしは目白くんと交際しているわけではないわ! 残念だったわね!」

「そこにぃ……愛があればいいんですよぉ……?」

「 な い わ ! 」

「嘘ぉ? お似合いだと思うんだけどな~?」

「な、なーーー!? どこが、どこがよ!? いいこと? そもそも現代日本において――」

 

 彼らの語る言葉の数々は“期待”だったり、“理想”だったり、そういった中身のないものでしかないのかもしれない。

 月明かりすらも届かなくなった暗闇の中、瓦礫の隙間に染みこんでいくそれらの言葉には――しかしながら確かに、この場にいない人物へ向けた小さな想いが込められていた。

 

 

 

  *  *

 

 

 

 やがて朝日が昇り、月明かりよりも柔らかな光にクイーンコーストタウンが包まれる頃。

 斜めにそびえる瓦礫と満太の腕に支えられて、ようやく立ち上がった廻はおもむろに口を開く。

 

「知っておいてほしいことがあるの。……あなたが変身解除して、気を失った直後のことよ」

「……?」

 

 ラムダに手も足も出ず、惨敗したときの話だ。耳の痛い……どころではない話題だが、満太は黙って続きを促す。

 

「目白くんの目標はあくまで『霧島廻』……つまりはわたしの排除よ。変身したあなたを叩きのめしたのはあなたが脅威となり得たからであって、その脅威が無力化された後は真っ直ぐにわたしに向かってくる……筈だった」

 

 洗脳された一織は確かに、戦いながら彼女の名前を呟いていた――満太はそのことを思い出す。そしてその直後、アーケードの天井が落下して事なきを得たという話だったが……?

 

「彼は傷を負い、気を失ったあなたを見下ろした……目白くんはあなたを()()()()()()()()()

「……!!」

 

 本来アマゾンとは人喰いの異形である。一織の中にいる獰猛な細胞は常に、他の何ものでもない人間の血肉を求めているのだ。だが一織自身の精神力によって、その衝動は抑えられている……。

 これは廻が彼と知り合って間もない頃に教えてもらった彼の本質だ。正直実感がなくなるくらいには影の薄かった事実なのだが――それはひとえに、彼がそのへらへらした表情の奥に抑え込み、包み隠してきたお陰であろう。

 

「そもそも彼は操られたまま、もう何日も何も食べずに、標的を排除するために巡回と変身だけを繰り返しているのよ。洗脳による強制力が働いている以上、彼が無闇矢鱈に人を襲うことはないはず。けれど、このままだと彼は……」

 

 そう、洗脳は万能ではないのだ。満太を襲おうとしたのは、その兆しに他ならない。

 

「わたしは……彼を助けたい。……今この瞬間だけは、わたしの因縁も過去も関係ない。ただ彼を助けたいの、何としても」

 

 かつて一織は語った。一度でも人を食べたら、本当に戻れなくなる――と。

 

「だから……力を貸して欲しい、糸巻くん」

「あ……」

「身勝手なお願いなのは承知しているわ。鈴ちゃんが絡むならともかく、今のあなたに応じる義務や責任がないことも。けれど、どうかこの通り。……お願い、一緒に戦って」

 

 廻は頭を下げた。欠けた肩を瓦礫に預け、上半身を傾けただけのその格好はお世辞にも整った姿勢とは言えないが、その埃まみれの髪と裂けた後頭部を見て、満太は静かに拳を握りしめる。

 

「顔を上げてくださいよ、メグさん」

 

 答えは決まってる。恋愛バナシ……もとい恋バナを交わした相手を無下にするほど、ヤワな高校生活を送ってきたつもりはない。

 

「先輩のお願いなんだ、断る理由がないっすよ」

「”先輩”? ……先輩………」

 

 そして何より、片思いの相手の友人を味方につけるのは、古来より伝わる恋愛の必勝法だ。

 

「その代わり小黒さんが帰ってきたら、オレが超絶格好良かったって、バッチリ伝えてくださいね?」

「ふ。それはあなたの頑張り次第ね――後輩くん」

 

 疲れ切った身体が再び熱を帯びていく。

 これはやっぱり先輩のカリスマなのかも――と、満太は苦笑いを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
そしてUA2500到達しました! いつもありがとうございます。

今回は満太の過去をちょっとだけ掘り下げる回となりましたが、この頃の件の”あの子”がどんなだったか、気になる方は3-3を読み返すと見えてくるものがあるかもやしれません。お時間があれば是非。


と言うわけで次回

「4-11. 覚醒⑤ あなたは恋する仮面ライダー」

この世界の仮面ライダーは――名付けられてからが本番だ!


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