仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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4-END. 星々へ(いざな)うルージュ

 

 

「――最低。最低よあなた」

「いやほんと、ほんっとごめ……」

「つまり待ち合わせ場所に向かう途中、不審な人影に襲われる女性を見かけたという時点で、わたしに一言連絡していればこうはならなかったワケよね? ひとりで勝手に追跡した結果幹部の不意打ちを受けて洗脳を施され、何も知らないまま待ちぼうけていたわたしに襲いかかることもなかったかもしれないと、そういうワケなのよね?」

「ごもっとも……ごもっともです、ハイ。あの……俺が駄目にしちゃったお洋服も、ニット帽も、弁償しますので……」

「ふぅん? ふぅぅーーん? お金を出せば許されると思っているの。浅ましいわ、あー浅ましいわね目白くん。ただでさえ変態でふわふわ男なのに、ホウレンソウもできない上に浅ましいだなんて、元よりあるのか怪しかった救いようがとうとう微塵もなかったのだと証明されてしまったわね?」

 

 廻は絶好調だった。

 昨日までと比べて2割増しくらい濃くなった毒を吐いているのはもちろん、その左耳でえらく上機嫌そうにピコピコするランプも、(土の上で正座させられている一織はともかく)満太にはバッチリ見えていた。

 

 空になったゼリー飲料の容器で一織のつむじをぺちぺち……いやバシバシとタップしながら、廻は「だいたい――」と言って目を細める。

 

「あなたが何も憶えていないというのが心底腹立たしいわ。そこまでして接近した幹部のこともおぼろげで、何よりわたしをあんな風にめちゃくちゃにしたことを、ほとんど憶えていないだなんて」

「あ、あの霧島さん、言い方がちょっと……」

「なによ! 事実でしょう、あの夜わたしのことをめちゃくちゃにしたのは! こちらの言葉に聞く耳も持たず、抵抗できなくなったわたしのことを散々! めちゃくちゃにしてくれたじゃない!」

「あ、天然で言ってるのねこれ! わ、悪かったよ、この通りだからもうめちゃくちゃって言わないで!」

「すぐ謝る! 頭を下げればいいと思っている!」

 

 すっかり軌道に乗ったふたりの漫ざ……言い合いを眺めながら、満太はほっとため息を吐いた。

 

「(ともかく、大丈夫みたいだな。……ここはデキる男らしく、空気を読んであげるとしますか)」

 

 糸巻満太はクールに去るぜと心の中で唱えつつ、空気の読める少年は静かにその場を後にするのだった。

 そして――、

 

 

 

「……お?」

 

 崩壊した屋内を抜け、敷地の正面玄関付近まで戻ってきた満太は、そこで異様な光景を目にした。

 視線の先に一台のバンが停車していたのだ。さらに、その周囲には数十人の人影が整列している。

 ……2日前までの満太ならいざ知らず、今の彼にはその人影の正体がすぐに看破できた。遠目には人間にしか見えなくとも、人間とはほど遠い冷徹な機械兵士(ガーディアン)に相違ないと。

 

「……ようやくお見えになりましたか」

 

 運転席のドアが開き、どこか間延びしたような声と共にひとりの女性が姿を現す。

 

 真っ黒な冬物のコートから覗く、真っ白なフリル。

 すらりと伸びた足先を引き締める、シックな光沢を持つヒール。

 綺麗に切りそろえられたブロンドヘアーには、上品な頭飾り(ホワイトブリム)が添えられていた。

 

 メイドだ。黒塗りのバン――しかもその運転席から、ひとりのメイドが降りてきた。

 

「(…………は? なんでメイド??)」

 

 その場違い極まりない光景に、満太の思考が止まりかける。だが目の前の女性の風貌は、いち男子高校生の語彙力ではどうしたってメイドとしか言い表せなかった。

 

「『アイピースカンパニー』所属サービスコンシェルジュ、七塚(ななつか)と申します。……おっと失礼、片田舎の高校生にこの社名を言っても伝わりませんわね。では――」

 

 七塚と名乗ったメイドの女性はわざとらしく口元を隠す。手袋の指の隙間から覗くその口元は、陰湿な笑みを浮かべていた。

 

「――“『琥珀の星』所属、幹部”と言った方が、わかりやすいでしょうか? 新人仮面ライダーのお坊ちゃま?」

「……っ」

 

 正直、このタイミングでこんな場所に現れた時点で他にないと思ってはいた。ご丁寧にガーディアンまで並べられていたら尚更だ。格好こそ奇抜だが間違いなくこの女性は『琥珀の星』幹部――一織を洗脳し、ビヤーキーを操り、教団の残した魔導書を探し回り……頑なに姿を見せないまま自分たちを苦しめ続けた“敵”に他ならない。

 

「残念ですが、抵抗は無駄ですわ? ここは既にガーディアンによって包囲されています」

 

 満太が言葉を失う一方、七塚と名乗った幹部は得意げに腕を組む。

 

「『ルルイエ異本』がこの別荘にあるということも既に確定済み。それにもうじき、アマゾンラムダがあの偽物を始末する頃合いでしょう。残念でしたわね、新人仮面ライダーごときでは彼は倒せません。貴方はとうとう“詰み”、なのですわ」

「…………ん?」

 

 彼女の言葉に眉をひそめる満太。目の前のメイドはそんなのお構いなしとばかりに、続けて口を開いた。

 

「さしずめ、わたくしが遣わせたアマゾンラムダに大敗して逃げ帰るところだったのでしょうが、当てが外れましたわね。しかしまあ、あの“霧島廻”もよりによってこんな子供をボディーガードに選ぶとは……」

「……」

「ひとつお聞かせください。貴方のその変身バックル、どこで手に入れましたの?」

「……え、なんて?」

 

 その言葉に満太は思わず、腰に着けたままのA.I.M.S.ショットライザーへと視線を下ろした。そういえば廻と話したときも、この拳銃の出所については濁されたような気がする。

 

「教団の残した『銀の鍵』の使用履歴に、そんなものは見当たりませんでした。アマゾンラムダに敗北した後の“霧島廻”が、貴方と邂逅するまでの短い期間でいつの間にか所持していたものがそのバックル……。怪しげなものを良いように押しつけて、子供を無理矢理戦わせるとは……あの偽物もとうとう見境がなくなりましたのね」

「……よくわかんないけど、それは違いますよ」

「あら?」

「これはオレが勝手に使っただけだ。それにあの人は……メグさんは隠し事はするかもしれないけど不誠実なことはしない。オレは無理矢理なんかじゃなくて、自分で決めてここにいるんだ。それと――」

「左様ですか。まあもとより、貴方から有益な情報が得られると思ってはいませんでしたが」

 

 満太の言葉を遮り、七塚はふうと息を吐いてコートを翻す。彼女が懐から取り出したのは、くすんだ色合いの配線が剥き出しになった大型拳銃――トランスチームガンだった。

 

「ここで処分させていただきますわ……かわいそうな仮面ライダーのお坊ちゃま?」

「な……」

 

 片膝を上げ、傍らにあった瓦礫にヒールを乗せる。スカートから覗く白い足――その太ももに巻かれたベルトから黄色いボトルを取り外し、カチカチと素早く振るう。

 フルボトル内の成分が活性化し、自らの闘争心が充分に煽られたのを感じ取ると、彼女は握っていたフルボトルを指先で弾く。弾かれた黄色い軌跡は彼女の眼前で弧を描き、トランスチームガンのソケットへと装填されていった。

 

Light(ライト)

 

 大型拳銃が起動、ボトルの成分を抽出して銃身内で気体へ変換……異形の鎧を生成する準備を始める。それを手先から伝わる振動で感じ取った彼女は、大きく腕を回して姿勢を整えた。

 拳銃は胸の前へ、揃えた踵は片方だけ斜め後ろへ。空いた手でスカートの裾を持ち上げ腰を落とすその所作は、見るものを魅了する洗練された”女性のお辞儀(カーテシー)”。

 

 上目遣いで、恭しさの中に確かな敵意を忍ばせた視線を少年へと向けながら、彼女はその引き金をゆっくりと引く。

 

「――蒸血(じょうけつ)

 

Mist(ミスト) Match(マッチ)――!》

 ――《Li・Light...! Light..!》

    ――《Fire...!》

 

 膨れ上がった蒸気を火花が吹き飛ばし、黄土色の鎧に身を包む怪人が姿を現した。

 

 女性的なボディラインに纏われる、重厚な全身装甲。

 稲妻を模した形のバイザーと、電球のようなパーツをぶら下げた1本のアンテナ。それらを携えた機械的な仮面は、どこかチョウチンアンコウを彷彿とさせる。

 胴体を這う排気パイプは綺麗な螺旋を描いていて、まるで巨大なフィラメントのようだ。

 

『「琥珀の星」執行者が(いち)……“ランブルルージュ”、ここに参上仕りました。これより我が任務、最後の仕上げを開始いたしましょう』

 

 怪人――ランブルルージュは懐からもう一丁のトランスチームガンを取り出し、ふたつの銃口を満太へ向けながらくつくつと笑い声を溢す。

 

『さあ変身なさい、はやくしないとアマゾンラムダが追いついてきますわよ? 野蛮な獣に食い殺されるよりも、このわたくしに果敢に挑んだ上で潰される方が……格好がつくというものでしょう?』

「いや、えっと……、ちょっと……」

『よもや怖じ気づき遊ばされましたか? どうしてもと言うのであれば、このわたくしがひと思いに――』

「ち、ちょっと待って!」

 

 声高に喋り続けるランブルルージュを、思い切って遮る満太。彼の手には既にシャークキーが握られているが、どこか変身を躊躇っているようだった。その様子は怖がっていると言うより……なんだかただ普通に言いづらそうな、申し訳なさそうな……。

 

『な、なんですの』

「いや……するよ、変身。ちゃんとやりますよ? でもその前に……訂正、しとかないと、というか」

 

 満太は気まずそうに目を泳がせた。少なくとも満を持して登場した大ボスに見せていい表情ではないことに、ルージュはバイザーの奥で眉をひそめる。

 

「えと、イオさ――アマゾンラムダは、来ないっす。いや来るかもしれないけど、たぶんそれはオレの助太刀として、っすかね?」

『…………は?』

「アンタのかけた洗脳は解けてます、30分くらい前に。メグ――霧島廻さんも別に壊されてないし、みんな無事っす。はい」

『……』

「………」

『…………』

 

FANG(ファング)!》

 

『ちょまっ、まち、待ちなさいっ!』

「うおぁびっくりしたぁ……なんすか?」

『なんっ、なんですの? 洗脳が解けた? “霧島廻”が無事? そ、そんなワケがないでしょう! アマゾンラムダは最強の傀儡! 新人仮面ライダーにも、ましてや腕のなくなったヒューマギアごときにもどうにかできる筈が――』

「ああ。生えましたね、腕」

『生えました!?』

「なんか、レーザー? みたいなので……シュインシュイーン、つって……生えました。オレもちょっとよくわかんないけど」

『……』

 

 硬直する黄土色の怪人。バイザーの奥でぱくぱくする口が、満太には容易に想像できた。……というか腕が生えた云々に関しては、自分で言ってて恥ずかしくなるくらいに突拍子のない話ではある。

 

『……ははん? 見えましたわよ、貴方のくだらない魂胆が!』

「え?」

『動揺させて隙を誘うおつもりでしょう? なんと姑息な! それでいて浅はかな! よほど命が惜しいと見えますわ!』

「あー……」

 

 そうなっちゃったかー、と額に手を当てる満太。

 すると背後に気配を感じ、少年はどこかほっとしたように振り返るのだった。

 

『残念でしたわねぇ、格好良さの欠片もない大ボラを吹いてまで逃げ延びたかったのに。己の状況を理解したのならとっとと観念して――』

「おーおー、なんかすごいことになってるなぁ。マッキー大丈夫だったか?」

「その声……藍珠(らんじゅ)かしら? まさかあなたが幹部だったなんてね」

『……はえ?』

 

 ぞろぞろと、崩れかけの建物から姿を見せる人影。背の高い男の方も、片目のないヒューマギアの方も、絶対にこの場にいてはならない人物だ。

 

「え、なになに、霧島さんの知り合い?」

七塚藍珠(ななつからんじゅ)……前にも話した、霧島家の元メイドでわたしの幼馴染みよ。本城家の運営する企業に就職したと聞いていたけれど、確かにそれだと『琥珀の星』の幹部にも充分なり得るわね、盲点だったわ」

「すげぇ。さすがっつーか、メイドとか普通にいたんすねメグさんのとこ」

「なんてったって我らがアルティメットセレブだからねぇ。なんか“庭師”とかも普通にいたらしいよ、すごくない?」

「なんであなたが誇らしげなのよ……」

『ま、待て! 待ちなさい!』

 

 半ば悲鳴のように声を張り上げるランブルルージュ。廻たち3人は、絶妙に緩んだ雰囲気のまま振り返った。

 

『な、なな……なんで、なんであなた方がここにいるんですの!? 特にそこの目白一織! わたくしのかけた支配の印は――』

「ハスターの術なら効かないわよ。インサニティ・ジャッカーを介して、目白くんの精神からは狂気がリアルタイムで取り除かれているから」

「……それ、俺の精神大丈夫なんだよね?」

 

 ランブルルージュは慌ててリモコンのようなものを取り出すが、ディスプレイには案の定と言うべきか、”反応無し”という旨の表示が映されていた。

 

『あ……ああ……?』

「ちなみにあなたの探していた『ルルイエ異本』もわたしの手にあるわよ。ほんの一部だけれど解析もしてある。すべてはハスターの狂気を祓い、目白くんを助けるために」

「俺のために、ね。ふふ」

「……激しく訂正するわ。すべては琥珀の星の野望を打ち砕きわたしたち親子を襲った運命に決着をつけて世界を救うため。目白くんは世界を救うことによって結果的に枯れるのを免れるであろう道ばたの草と同レベルの“ついで”よ」

「そこまで躍起にならなくてもいいじゃん……」

「オレと語り合ったときと話が違うようですが」

「お黙り後輩」

「語り合ったって何?? めっちゃ気になるんだけ――」

 

 

『ふ……っざけるなああッ!』

 

 

 銃声が空へと打ち上げられた。下手したら延々と駄弁り続けそうだった3人に、鋭い緊張感が突き刺さる。

 

『ふざけるな……わたくしの、わたくしの任務は完璧だった!!』

 

 ランブルルージュ――七塚藍珠(ななつからんじゅ)はギリギリと拳銃を握りしめた。

 目白一織を洗脳し、“霧島廻”を記憶媒体のみ残して破壊し、魔導書を回収し――ようやく完遂しかけていた自身の任務。その結末が目の前で和気藹々と繰り広げられる茶番であるという事実に、怒りを覚えずにはいられない。

 

『「琥珀の星」とは……この惑星の新たな支配者の名! わたくしたちには世界を背負うという大義がある! それをこんな……なんにも知らない連中にぶち壊されるだなんて……断じて! 断じてあり得ませんわぁ!』

 

 湧き立つようなプレッシャーが黄土色の鎧から放たれる。その見えない圧に満太も、一織も廻も、確かな戦慄を覚えていた。

 

『何をっ、何を勝った気でいますの“霧島廻”……! 廻お嬢様のフリをしているだけの醜い偽物の分際で……知ったような口を利いているんじゃありませんわ!』

 

 七塚藍珠――彼女は『琥珀の星』の執行者。

 この場にいる彼女は間違いなく……この数日間で廻たちを追い詰め続け、あわや全滅といった展開にまで追い込んだ“幹部”その人なのだ。

 

「……そうね。少々気が緩んでいたけれど、思い出したわ。わたしも貴女に……思うところが山ほどあるんだった」

 

 しかし、この程度のプレッシャーに怯む彼らではない。

 

「僭越ながら右に同じ、っすかね。……そっちの病み上がり先輩は安静にしてた方がいいと思いますけど?」

 

 それほどまでにこの数日間は濃密だった。そして、そんな数日間に終止符を打つための相手が今、目の前にいる――。

 

「まさか。一番もの申さなきゃいけないのは……俺だろうしね」

 

 怯んでいい道理など、どこにもないのだ。

 

FANG(ファング)!》

LAMBDA(ラムダ)

TENTACLE(テンタクル)!》

 

「変身っ!」 / 「変身」

 

 勢いよく交差する、輝く弾丸とクリオネのライダモデル。

 目の前の2人がそれぞれの装甲を身に纏う様子を見守りながら――一織は静かに、己の内側へと語りかけた。

 

 ――ずいぶんと久しぶりだなぁ。のびのびやれて楽しかったかい?

 

 満太の言う通り、本調子からはほど遠い。表に出さないようにしているが疲労は嫌になるほど溜まっているし、廻にゼリーをもらったとは言え空腹もまったく解消されていない。なんなら若干熱もあり、身体の節々が軋むように痛い。

 

 ――そう? まあそれもそうか。じゃあ迷惑かけたぶん、お互い頑張らないとだな。

 

 だが引き下がるわけにはいかない。終止符を打つ場に自分がいないのでは、廻と満太に申し訳が立たないから。

 この落とし前は必ず、自分の手でつけるべきだ……!

 

 

「 ―― ァ ア マ ゾ ン ッ ! ! 」

 

 

《D・D・Dive! To the bottom...! 》

 

 黄昏の淡い光に照らされる庭園にて、三色の影がその地面に降り立つ。

 

 鮮やかな水色の鎧を纏う仮面ライダー、バルバトス。

 純白の体躯に深紅の単眼を携える仮面ライダー、廻。

 そして、暗い青色の異形にヒトの心を宿す仮面ライダー、アマゾンラムダ。

 

『さあ――勝負だ!』

 

 それぞれの“意志”が混ざり合いながら膨れ上がり、狂気に染まるプレッシャーを押し返していった。

 

『っしゃおらぁ!』

 

 先陣を切ったのはバルバトスだった。ショットライザーを構え、待ち構える黄土色の怪人へと真っ直ぐに駆けていく。対するランブルルージュは片腕を上げ、自身の背後で待機している機械兵士たちへと怒号を放った。

 

『フォーメーションF、展開ですわ! 蜂の巣にして差し上げなさい!!』

 

 整列していたガーディアンたちは即座に前進、ルージュの目の前で壁を築くように陣を組み、迫り来るバルバトス目がけて一斉に発砲した。

 しかしその程度で封じ込められるバルバトスではない。彼はすぐさま射撃を返して数体のガーディアンを破壊、隙間へと滑り込むようにして弾幕を突破した。彼が放つのは暴走ヒューマギア用の徹甲弾、時空は違えども機械に対する威力は折り紙付きだ。そのまま彼は点在する瓦礫を飛び渡りながら、一発の被弾もなく次々とガーディアンを倒していく。

 

『へへーんだ! ガーディアンなんざ今更すぎなんすよ――って、あっ』

 

 奮戦するバルバトスの背後に、撃ち漏らしたガーディアンの影。その機械兵士は銃剣を振りかざし、今にも彼へと叩き付けようとするが……死角から飛来したレーザービーム、もとい狙撃弾によって消し炭になっていった。

 振り返れば、塀の上でアタッシュライフルを構える廻の姿が。結構な距離がある上、射線にバルバトスも被っていたはずだが、彼女の正確無比な射撃技能の前では些細なことのようである。

 

『あざっす! そっちの姿もかっけぇっすね、先輩!』

『褒めても何も出ないから集中なさい。それとも、補助のレベルを元に戻してあげましょうか、後輩くん?』

『結構っすよ。オレ、アドリブだけには強いギタリストなんで!』

 

FANG(ファング) BITING(バイティング) BLAST(ブラスト)!》

 

 ショットライザーから巨大なサメのエネルギーが放たれる。その大きな顎は押し寄せるガーディアンを呑み込みながら跳び上がり、空中でアラッシュライフルに撃ち抜かれて爆発四散。鉄の残骸とエネルギーの残滓を広範囲に降り注がせ、さらに多くのガーディアンを撃滅していった。

 

『な……なんなんですの、これは……っ!』

 

 虎の子の兵士たちが蹂躙されていく様を見て、ランブルルージュは動揺を露わにしていた。

 

『数では圧倒的に有利だった、はず、なのにっ……! ”仮面ライダー”とは、これほどまでの……はっ!?』

 

 怒りに顔を歪ませていた彼女は、猛スピードで迫り来る敵意をギリギリのところで察知する。

 ラムダだ。廻とバルバトスによりかき乱され、穴の開いた防御網。その穴を一直線に貫くように、アマゾンラムダが突撃してきたのだ。

 

『フンッ!!』

『ん、ぎっ!?』

 

 拳の直撃を何とか防ぐも、その衝撃で大きく後退させられる。すぐに体勢を立て直しはしたが、一撃を受け止めた彼女の左腕はびりびりと震えていた。

 

『こうして勝負するのは初めてだねぇ、メイドのお姉さん』

『目白、一織ぃ……!』

『まさかあのとき襲われてたメイドさんが、幹部本人だったとはね。まんまとしてやられたよ』

『くっ、完璧だったのに……わたくしの演技も、計画も! 完璧だった筈なのに!』

『それは認めるしかないかな。普通に上手だったよ、あの涙も怯えた演技も。俺だってつい――おわ?』

『ふぎゃ!?』

 

 感心したように頷いていたラムダの肩をレーザービームが掠め、ルージュの顔面に直撃した。……肩先は思いっきり焼け焦げている。

 

『なによ、それ……』

『霧島さんいま俺狙っ、……あ』

『目白くんはてっきり、幹部に不意を打たれ、“戦って”敗北したのだとばかり思っていた……。けれど実際は、メイドの格好した女の子に鼻の下伸ばしてホイホイついていって、それでまんまと洗脳されたと、そういうことなの……?』

『ご、誤解だよ! 単純に助けようと思って! それで、おうちまで送っていこうと――あ、いや違くて。違、くもないかもだけど……』

『わたしはこんな変態にめちゃくちゃにされて、こんな変態のことをずっと心配していたと、そういうことなのね……。ああ……今年イチ……知りたくなかった新事実だわ……!』

 

R’LYEH(ルルイエ)

 

『それ易々とは使えないって言ってなかっ――』

『 問 答 無 用 ! ! 』

 

《 フ ォ ー ス ラ イ ズ ! 》 / 《DEEP(ディープ)-ONE(ワン)

 

 泥のようなエネルギーが弾け飛ぶ。手にした(ランス)で泥溜りを叩き割り、仮面ライダー廻・ディープ・ワンが、のたうつ触手を従えて大きく跳び上がった。

 赤黒いシルエットはガーディアンの群れの中を音もなく通過すると、退魔の(ランス)――インサニティ・ジャッカーを地面に突き立てる。するとたった今すれ違ってきた兵士たちの頭部が綺麗に爆裂し、一瞬にしてガラクタの山が築き上げられた。

 そんな光景を見せつけられたルージュ(とラムダ)は、決して冬の寒さゆえではない震えに襲われるのだった。

 

『随分と下らない悪ふざけを思いついたのね、藍珠?』

『こっ、この……! このぉぉぉおおおお!!』

 

 がむしゃらに突撃するランブルルージュ。しかし廻は悠々と歩み寄りながら、6本のバッカルケーブルを連続で叩き付けて弾き飛ばす。再び地面を転がったルージュは、狂ったように怒鳴り声を上げた。

 

『フ、フォーメーションZぉぉ! ガーディアンども、合体よ! 戦争用兵器の力を見せておやりなさい! こいつらを踏み潰し、て……?』

 

 しかし彼女の叫びは徐々にすぼまり、困惑へと変わっていった。……反応がないからだ。トランスチームシステムに組み込んだ通信用モジュールから、返ってくる信号がひとつもない。

 

『はーー、だいぶ骨が折れましたけど……アンタの呼んだ迷惑な”囲い(ファン)”は全員、お帰りいただきましたよっと』

 

 肩で息をしながら、あくまで余裕そうに告げるライダーの姿があった。彼――バルバトスの背後では、まさに死屍累々といった様子で機械兵士の残骸が積み上がっていた。

 

『なっ、なん、なんっ!?』

『……打ち止めのようね、藍珠。観念しなさい』

『ちがう……ちがうちがうちがう! わたくしは任務を終わらせる! 「琥珀の星」によって統治された平和な世界のために……わたくしを見いだしてくれた有衣子(ゆいこ)様……輝星(こうせい)お兄様のために!! この“期待”にっ、応えなくてはならないんだぁぁーーっ!』

 

 半狂乱となったルージュが右手をスナップさせると、トランスチームガンに嵌まっていたライトフルボトルが外れて跳ぶ。ボトルはそのまま左手側のトランスチームガンへと、流れるように装填されていった。

 

Full-Bottle(フルボトル)!》

 

 変身状態でのボトル再装填こそ、トランスチームシステムにおける出力解放の合図なのだ。活性化した電気(ライト)の成分が銃身を満たし、仮面に吊り下げられた電球も呼応するように輝き出す。

 

『失せやがれですわ! こんの、偽物がァァーーーー!!』

 

Steam(スチーム) Break(ブレイク)! Light(ライト)!》

 

 閃光を纏った神速の銃撃。輝く光は奔流となって、目の前にいる廻を呑み込もうと突き進む。

 だが……渾身の一撃は廻の手前で折れ曲がるように逸れ、明後日の方向へ消えていった。

 

『知らないようだから教えてあげるわ』

 

 全出力を乗せた必殺の一撃。それを遮ったのは他でもない――ヒレのようなブレードを携えた青い腕だった。

 

『アマゾンラムダの防御を超えるのに必要な手数は“五手”よ。同じ出力をあと四つ、きっちり揃えてから出直すことね』

『な、なななっ、なああっ……!?』

 

 今度こそ打つ手のなくなったランブルルージュ。必死に思考を巡らそうとする彼女の眼前に、3人の仮面ライダーが並び立つ。

 

『さぁさぁ一気に決めますよ先輩方! ――アンコールは、お断りだぜ!』

 ――ショットライザーをバックルに戻し、キーのスイッチを入れるバルバトス。

 

『すっかりサマになってるなぁ。ね、霧島さん?』

 ――アマゾンズドライバーのグリップを二度捻りながら、真横を伺うラムダ。

 

『わたしあなたとはしばらく口を利きたくない』

 ――つんと顔を逸らしつつ、ルルイエキーを一度開閉する廻。

 

 かくして、三つの影は大きく跳躍する。

 

『(わたくしはどこで誤った……? 洗脳したラムダに頼りすぎた? いや、あの新人仮面ライダーの存在がずっと誤算で……いや、そもそもなんでっ、なんで“お嬢様”の偽物が五体満足なんですの!? ああ、ああ! わたくしはどこで……!)』

 

 迫り来る圧倒的な力を前にしてなお、ルージュの思考は固まったままだ。

 

『(“どこ”、じゃない……? 全員……? わたくしは、わたくしは最初から、詰ん――!?)』

 

 

《 「冒」 「涜」 「輪」 「廻」 》

 

 『己の限界を知りなさい……!』

 

《 BITING(バイティング)――

    VIOLENT(バイオレント)――

       デ ィ ス ト ピ ア ! 》

 

 

 黄土色の鎧に突き刺さる3本の蹴撃。叩き込まれたエネルギーは怪人の体躯を駆け巡り、閃光と共に溢れ出して爆発する。

 廻たちのクリスマスを慟哭に染め上げた『琥珀の星』の幹部――その断末魔が極太の火柱と共に、日の落ちた冬の夜空へと打ち上がっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 暗闇に水平線が隠され、冷たい海風が薄い雪の上を撫でる夜。

 先ほどまでの幾度とない激闘が嘘のように、みかどヶ丘を包む夜の帳は穏やかだ。

 

「――くっ、好きなだけ辱めるがいいですわ。わたくしは決して、仲間を裏切らないっ」

 

 そんな中、廻によってメイド服を剥ぎ取られ、ぴちっとした戦闘用インナーのみにされたルージュ――七塚藍珠は、紐でぐるぐる巻きにされた上で地面に転がされていた。

 

「拷問したければするがいい! 犯したければ犯すがいい! このっ、下衆どもめっ!」

「……」

「……」

 

 彼女はカチカチと歯を鳴らしながら、目の前に立つ男ふたり――見張っておくよう命じられた一織と満太に向けて恨み節を吐き続けている。

 ちなみに男性陣の名誉のために補足しておくと、藍珠が目を醒まして以降彼らは別に何も言っていない。ましてや「いつまで強がってられるかなァ」とか、そんなハードめな同人誌的……もとい非紳士的な台詞など一言も発していない。喋り続ける藍珠の近くに、なんとなく目のやり場に困ったまま突っ立っていただけである。

 

「どんなに卑猥なことを強要されようが、どんなに恥ずかしい言葉で穢されようが……わたくしはっ、わたくしは心までは屈しませんわ!!」

「どうしよう霧島さん! この人ちょっと面白いぞ!」

 

 たまらず振り返る一織。彼の視線の先では、廻が黒塗りのバンを物色し終えたところだった。

 

「朗報よ目白くん。……この街に、もうゾンビはいないみたい」

 

 顔を覗かせる廻の手には、藍珠のものと思しきタブレットが握られていた。一織が駆け寄ると、そこに表示された波妃町の地図を見せられる。

 

「ゾンビがいないって……ほんと?」

「どうやら藍珠は、『翡翠の光』のロッジ跡を探索するついでに各地点のゾンビを駆除していたらしいわ。そしてあえて残しておいた数体のみを、ビヤーキーに運搬させてわたしたちへの牽制に使っていた……と」

「まじか……」

 

 廻によれば、ロッジ跡のクリアリングはこの別荘で最後。ここの屍はとうに駆除されているので、ゾンビの発生地点はこの街から排除されたと言えるだろう。

 

「もちろん討ち漏らしもあるだろうから、最後にパトロールは必要かもしれないわね。けれどルルイエゼツメライズキーとインサニティ・ジャッカーを使えば、広範囲のゾンビを一気に駆除できるわ。……過度に気負う必要は、もうない筈よ」

「そっか……なんだか実感ないけど、俺たちの“後始末”はひとまず終わったってわけかな」

「ええそうよ。夏以来終わりの見えなかった戦いに、ようやくゴールが見えた。これで街の人たちも安心でしょう。ええ、ええ。そうなのよ、わたしたちも――あ」

「ん?」

 

 いつもの調子……よりもやや弾むような心地でまくし立て、顔を上げた廻は、一織と目が合ったところでその顔を硬直させる。そして思い出したように、不機嫌な表情へ戻っていった。

 

「迂闊だった……あなたとはしばらく口を利かないって言ったのに……」

「あ、ま、まあ? “しばらく”にも色んな長さがあるし、ね?」

「……知らないわ」

「ああー」

 

 タブレットをひったくり、一織に背を向ける。なびいた髪が、図らずもその左耳を隠していた。

 ――どこかやんわりとしたその空気は、横たわる女の乾いた笑い声に遮られた。

 

「ふ、ふふ。ははははは……。よくもまあ、そんな暢気でいられますのね。偽物の“霧島廻”……!」

 

 七塚藍珠は青ざめた唇を歪ませ、廻たちを睨み返していた。その瞳には確かに、侮蔑の念が宿っている。

 

「どう転んだってあなた方に勝ち目はない……わたくしひとりを退けた程度でいい気にならないでくださいまし。……廻お嬢様のモノマネをしているだけのっ、汚らわしいガラクタの分際で!」

 

 思わず一歩前に出る一織の肩を、黒い手がそっと掴んで制す。廻は片方しかない目をすうっと細め、あくまで落ち着いたトーンで語りかけた。

 

「貴女こそよくそんな格好で啖呵が切れるわね。……何を考えているの?」

「ふ、ふふふ、ふっ……わたくしが抱えた人質は、目白一織()()()()()()のです。あなた方の大事な大事なお仲間は、既に我らが手中にある!」

「……は?」

「なんですって?」

「……!」

 

 一同に衝撃が走る。この場にいない自分らの“仲間”と言えば……ひとりしかいない。

 

「おいアンタ!」

 

 ひときわ動揺を見せたのはやはり満太だった。彼は藍珠の胸ぐらを掴み上げ、呻く彼女に構うことなく激しく揺さぶる。

 

「小黒さんをどうしたって!? あの子はこの街にいなかったハズだ!」

「か、ふっ……。へ、へえ? それは実に奇妙ですわねぇ? わたくしが昨晩――ちょうどあなた方がわたくしの拠点に踏み入ろうとしてた頃――波妃駅前を不用心にうろついていたのは間違いなく“小黒鈴”本人、でしたわよ?」

「んだと……?」

「鈴さんが、波妃町に戻ってきてた……?」

 

 目を見開く満太と一織。廻は黙ったまま自身のスマホを取り出そうとしたが、24日の戦闘の際に紛失していたことを思い出す。

 

「目白くん、あなたのスマホは? 何か来ていない?」

「え? ああ……」

 

 促されるままスマホを取り出すと、一織は静かに首を振った。案の定、とっくにバッテリー切れだったようだ。

 

「……そうよね。心配してくれるわよね、あの子は……」

「うん。それに鈴さんの行動力なら……」

 

 言葉を濁すふたりを余所に、満太は今一度、不敵な笑みを浮かべ続ける藍珠の肩を掴み直す。

 

「おい! 小黒さんをどうした!? あの子は今どこにいる!?」

「うっ、も、もうこの街にはいませんことよ……?」

「な――」

「『琥珀の星』本部へと移送して差し上げましたわ……。今頃は、さてどうでしょうねぇ? ひとり寂しく尋問でも受けているのではないでしょうか?」

 

 満太の表情が今度こそ固まる。

 琥珀の星の本部? 尋問? 詳しいことなど知らないものの、かえって嫌な想像ばかりが膨らんでいくのがわかった。彼女がどんな仕打ちを受けているのだろうという恐怖と、なぜ彼女が狙われなきゃならないのだという怒りがごちゃ混ぜになり、満太の思考をかき乱していく。

 

 しかし、

 

「ああ、そうなのね。それなら一旦は安心ね」

「だねぇ。どうなったかと思ったけど、よかったよ」

 

 しかし満太の背後から聞こえてきたのは、そんな気の抜けたような言葉だった。

 

「なんっ――」

「な、なんてこと言ってんすか、頭でもおかしくなりました!? アンタら小黒さんが心配じゃないんすか!!」

 

 ぐるんと振り返り、藍珠よりも先に抗議の声を上げる満太。信じられないものを見るような彼らの視線を受け取ると、一織の方が「もちろん心配だよ」と答える。

 そこで満太は気づく――言葉尻に反して、彼らの表情が真剣そのものであることに。

 

「鈴さんを始末した、とか言われたらどうしようかと思ってた。でも彼女は生かされてるらしい、だから安心したんだよ。……ははっ、“尋問”ね? 口先を回らせて貰えているんだったら、鈴さんなら半世紀は生き延びるでしょ」

「なっ、何を意味不明なことを! わ、わたくしはあなた方の大事な仲間を、重要な戦力を人質に取ったと、そう言っているんですのよ!?」

「確かに最悪の一手よ、藍珠。そうね……()()()()()()()()()()()()()()()()、これほど絶望的な状況もなかったことでしょう」

 

 廻のその言葉に、満太ははっと目を見開いた。

 

「目白くん、以前話したこと、憶えている? 埠頭で輝星さんと戦った後の、作戦会議のときの話」

「ちょうど思い出したところだよ。……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って話だね」

「な、なあっ!?」

 

 あの日に語った条件は今、ここに揃っている。

 

 街にゾンビはもういない。

 七塚藍珠という情報源は手中にある。

 ハスターの力に対抗できる、邪神の力も手に入った。

 頼れる“新人”も、ひょんなことから仲間になった。

 そして何より、廻のもとに最強の用心棒(アマゾンラムダ)が戻っている。

 

 散々引っ掻き回され、何度も迷って、何度も殺し合わされ……思えば酷い紆余曲折ではあった。しかしそんな紆余曲折の果てに――半ば机上の空論だったその“チャンス”が今、この場にすべてたぐり寄せられているのだ。

 

 口をぱくぱくさせ、完全に言葉を失った藍珠。彼女を尻目に、一織は満太の背にそっと手を置いた。

 

「助けなきゃいけないなら、助けに行けばいい。俺たちにはその力がある。……『仮面ライダー』として、力を貸してくれるかな、マッキー?」

「……答えるまでもないでしょ、ったく!」

 

 添えられた手を掴み返し、満太は立ち上がった。ここで尻込みしたら、仮面ライダーになった意味がない――そんな気概が、一織へと確かに伝わっていく。

 

「……決まりね」

 

 廻は振り返り、山の向こうの空を見上げた。

 それは約半月前、本城輝星がヘリで飛び去った方角。そして廻の実家にして彼女を取り巻く因縁の出発点――我が国の首都たる東京都へ向かう方角だ。

 

 ――日を改めて、再びお迎えに参りますよお嬢様……! もちろん、そちらから来ていただくのも大歓迎です。その日までどうか……“この名前”をお忘れなきよう――!

 

 輝星はそう言って、自らの組織の名を明かしたのだった。

 

「(言いつけ通り憶えていたわよ、輝星さん。片時も忘れることなんてできなかった。そして貴方の望む通り――こちらから出向いてあげる。もう戻らないと思っていたけれど……)」

 

 きっと彼は廻が改心し、自分らの理念を受け入れるという意味で言ったのだろう。だがそんなことなど天地がひっくり返っても有り得ない。こちらから出向くのは――その喉元に刃を突き立てるためだ。

 

「行きましょう、わたしの故郷へ」

 

 結局のところ、輝星本人が迎えに来ない理由はわからないままだ。もしかしたら今、彼自身も抜き差しならない状況にあるのかもしれない。それも含め、やはり未知の部分はまだまだ多い。

 

「鈴ちゃんを助け、霧島家の因縁を今度こそ……終わらせるために」

 

 未だに全貌の見えない『琥珀の星』や、『翡翠の光』の背景。霧島家の実態、それから2年前の“事故”の真実――。何が起こるかもわからない大都市に、しかしながらすべての答えが眠っているのだ。

 

 すべての謎を暴き、すべての因縁をこの手で――今度こそこの手で終わらせよう。

 

 

「――反撃開始よ」

 

 

 ここから先は、もう“後手”には回らない。

 

 

 

 

 

       

第4幕 shArks    ――END

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
第4幕、完です! ここまで読んでくださった方、本当にありがとうございます!

後半は特に戦闘多めの展開となりました4幕、いかがだったでしょうか? 
楽しんでいただけたら感想・評価・お気に入り登録などなど、何でも励みになりますので是非お願いいたします。

【予告1】
第4幕の設定解説回(恒例のEX回)の投稿は、年明け以降を予定しております。2週間以上空くかもですが、第4幕の振り返りと次回への橋渡しができる内容を予定していますので是非お楽しみに。

【予告2】
上記のEX回を終えたあとはいよいよ東京潜入編――、

「第5幕 Amber」

のスタートです! こちらは1月中の投稿開始を予定しています。

波妃町を飛び出し、一織と廻の戦いはさらに激化します。
是非是非今後もお楽しみいただけたら幸いです。

ではでは皆様、よいお年を!




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