こんばんは。イチゴころころです。
本作のOPテーマは……全然絞れなくて困っています。
好きな曲・物語に合っている曲が多いのなんの。
昼下がり。穏やかな陽光が
駅併設の波妃ビルは街のシンボルのひとつであり、大通りを少し外れた路地からでもよく見える。前髪のセットが上手くいってご機嫌な成人男性・
「あ、そういえば霧島さんさ、バイク昨日のと違うよな」
視線を下げると路地の端にやたらとごついバイクが停めてある。
「ええ、昨日乗っていたものはあまりにも多くの教団関係者に目撃されてしまったから」
彼の向かいに座るのは季節感のないベージュのコートを羽織っていながら汗ひとつかかない成人女性・
「あーそれもそうか。2台持ってたんだ」
「いいえ、新しく買ったのよ。昨夜」
「えっ」
「なに?」
「いや……」
涼しげに髪を撫でる彼女がそれなりの金持ちであるということは、昨日の時点で一織も把握していた。
「(金銭云々を抜きにしても、バイクってそんなほいほい買えるものだったっけ……?)」
「それからさっきのあなたの疑問について」
「お、おう」
「『教団のターゲットがこちらに移ったのなら、はやめに姿をくらました方がいいんじゃないか』って話だけれど、これについては現状問題ないと判断して良いでしょうね」
「そうなのか?」
ふたりは昨日、操られた教団関係者に襲われる女子高生を救出し、廻のバッグを取り返した。そこまでして教団が奪おうとしていたバッグの中身がこちらにある以上、同様の手口で狙われかねない。と、一織は今日の出会い頭に警告していたのだ。
「昨日の夜から今の今まで、わたしたちがどちらも無事なのが証拠でしょう」
「それは事実だけど、無事でいられる理屈も知っておきたい」
「教団の情報網、その中核を担うのは奴らと関わりのある市民……つまり『教徒』による密告よ」
「あの操られていた人々の、言わば
「ええ。あの女子高生はきっと、間違って持っていった私のバッグの中から、件の物品を取り出すところなんかを教徒に見られたのね」
「それで情報網に引っかかり、襲われるに至った、と」
救出劇の最中、一織はアマゾンラムダの姿だったし廻はフルフェイスのヘルメットを被ってずっとバイクに乗っていた。そのバイクもきっと棄てるなどしたのだろう。男女のコンビ、くらいは知られているかもしれないが、個人の特定には至っていないと考えて良さそうである。
「あ、待って。でも俺、変身するときにヘルメット取ったぞ」
「取っていたわね」
「しかもこう、敵さんが一斉に振り向いて大注目の中、割とノリノリで変身した」
「結構かっこいい雰囲気出して変身していたわね」
「うるさいな! そんなにかっこつけてはないぞ!」
「……少しはかっこつけてたのね」
「ていうか、まずいのでは!? 俺だけ見られてたのでは!?」
「大丈夫よ」
廻がおもむろにスマホのライトを点けると、対面にいた一織は思わず顔を背けて目を覆った。
「ちょっ……」
「あの時、バイクのライトを向けていたのは敵の視界を奪うため。教徒たちから見て、あなたは逆光の中で変身を始めた。割とノリノリでちょっとだけかっこつけて変身していたところ申し上げにくいのだけれど、誰にも見られていなかったからまるで問題ないわ」
「結構しんどいなそれ! 成人男性が晒していい絵面じゃない!」
「他意はないのだけれど目白くんはいくつなのかしら」
「このタイミングで聞くのは他意しかないだろ……」
「ちなみにわたしは22よ」
「きたねえ……。これで俺は『逆光で誰も見てないなか結構かっこいい感じで変身した成人男性』になるか『女性に年齢を言わせておきながら自分の年齢は頑なに明かさない成人男性』になるかしかなくなった……」
ぎりぎりと拳を握る一織だが、なおも『私は言ったわよ』みたいな顔して待っている廻を見て観念した。
「……24だよ」
「うわ、年上……」
「露骨にドン引きするのだけはやめて」
「80字以内でまとめるなら『誰も見ていないなかでも結構かっこいい感じで変身し、女性の年齢を聞いてもなお自身の年齢バレを渋り、平日の昼間から仕事もせずに喫茶店で美女と密会する、24歳男性』といったところかしら」
「……ツッコミどころをひとつだけ選べるとしたら美女のくだりにするよ」
「唯一の誇張のないくだりを抜き出すなんてね」
「てか、ん……? 待てよ。バイクのライトをこっちに向けてたのなら……霧島さん見てくれてたんじゃないの? 俺の変身」
「……」
「直前まで会話してたしな。変身のときだけ視線を切るのも不自然だ。だとしたらむしろ”俺の覚悟の変身……その目で見届けたのは霧島廻ただひとり”、みたいな胸熱シーンになるのでは?」
「……………」
「いや黙っちゃったよ」
「最悪だわ……あなたの口車に乗せられてつい何でも言い返してしまう……」
「どこまでが素なんだあんた……」
まあなんでもいいけど、と一織は息をつき、エアコンの効いた店内を見渡す。客は自分たちふたりだけのようだ。
「そう言えば、てっきり俺は霧島さんがコアなカレー好きなのかと思ったけど、早とちりだったみたいだな。まさかカレー屋の真上にこんな喫茶店があったとは」
30分ほど前、インドカレー屋の前で一織と廻は落ち合った。しかし案内されたのはカレー屋の真横、細い階段をのぼった先にある小洒落た扉だった。
「知らなくて当然でしょう。わたしも今日初めて来たのだし」
「へえー。なんか小綺麗だし、オープンしたてっぽいしな」
知る人ぞ知る隠れ家カフェみたいなものだろうか、と一織は想像した。客が他にいないところからも、大っぴらに宣伝はしていないように思える。
「(オープン前から情報集めて、目を付けてたとか、なのかな。この霧島さんが……)」
未だにスマホを操作し続けている廻を見る。きっと同じような真剣な表情でSNSをチェックし、この店のことを知ったのだろう。そう考えると目の前の無愛想な美人もちょっとだけ可愛らしく見えてくる。
「……どうかしたの?」
「別に。いい店だなって思ってさ。雰囲気、海っぽくて綺麗だし」
「そう」
「でも……人足りてないのか? お冷や全然出てこないし。セルフ?」
再び店内を見渡すが、ウォーターサーバーのようなものは見当たらない。今まで気付かなかったがテーブルにはメニュー表もなかった。そもそも店員の姿を見ていない気がする。
「あれ……? あ、あのー。すみませーん? 店員さーん? あのー……」
「来ないわよ」
どうやら作業を終えたらしい廻が、スマホから例のデバイスを引き抜きながらそう告げた。
「は? なんでだよ」
「あなただからよ」
「え、いやいや、俺が何したって言うんだよ」
「昨夜、あなたが言ったんじゃない」
廻がスマホの画面を見せてきた。名刺らしきもののデザインが表示されていて、横書きの右上部分には『喫茶acquario』とお洒落なフォントで書かれていた。そして、
「雇って欲しい、って」
「え?」
名刺の中央部分には『ホールスタッフ 目白一織』と書かれている。
「だから店員はあなたで、わたしが店長」
「……は?」
「この喫茶店は、わたしが昨夜購入して今朝改装させた、わたしたちの表向きの職場よ」
廻が画面をフリックすると、さっきのものより二回りくらい豪華になった『店長 霧島廻』の名刺が現れた。
「――はああああああ!?」