仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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5-2-B. 一織と廻

 

 

 1月1日午前、とある少年が実の兄との新年の挨拶に勤しんでいた頃。東京都郊外のコンビニエンスストア駐車場にて。

 

 朝早くに喫茶acquario秋葉原支店を出発していた廻はバイクに腰を預け、ニット帽から垂れるポンポンを撫でながら物思いに耽っていた。未知の成分で形成された腕の球体関節が擦れ、きりきりと振動を伝えている。

 

「お待たせーい」

 

 コンビニへ朝食を買いに行っていた一織が戻ってきた。人喰いの異形を模したバイク・ジャングレイダーをえっちらおっちら押す姿は、溢れ出る初心者感――厳密にはペーパーライダー感――を隠し切れていない。

 

「おかえりなさい。……藍珠のクリスマスプレゼントにも随分と馴染んだようね、目白くん」

「うっ、嫌な言い方をするなぁ」

 

 ジャングレイダーは藍珠が一織を洗脳した際、『銀の鍵』経由で用意したマシンだ。その正体は無論と言うべきか、”アマゾンのいる世界”の発明品。乗り手のアマゾン細胞と共鳴し、技術をある程度無視して意のままに運転することができるスーパーマシンだが、廻はあまり気に入っていないようだ。良い思い出がないという意味では、当然と言えば当然だが。

 とは言え実質的なアマゾン専用車として設計されたこのマシンの性能には、ペーパーライダーである一織自身もかなり助かっている。普通のバイクでは、廻と並んで目的地へ向かうことすらままならなかっただろう。

 

「そう言う霧島さんは相変わらずというか、魔改造してもばっちり乗りこなしてるよね、その『めぐりん号』」

「『マシンリボルブリンカー』よ、そろそろ憶えてちょうだい」

 

 廻が元々使用していたスーパースポーツタイプのバイクを、ガーディアンの残骸を素材としてルルイエゼツメライズキーの力で強化改造したもの――それがめぐりん号、もとい『マシンリボルブリンカー』である。滑らかな流線型を描く白色半透明のフルカウルと、その奥からうっすらと見える骨格部分。全体的にどことなくクリオネを連想させるスタイリッシュなマシンである。命名は廻。満太は大絶賛。

 

「それに今のわたしはヒューマギアよ。バイクの乗り方は1年前にラーニング済み」

「今更だけど免許って……」

「当然、ちゃんと作ってあるわよ」

 

 “取ってある”……ではないあたり、一織の想像通りで間違いなさそうである。これまで散々後ろに乗せてもらったという事実から連帯責任のような何かを感じ、一織はそれ以上の追求をやめた。

 

「で、目白くん。朝ご飯食べないの?」

「えっ、ああ。ごめんごめん、もう食べたよ」

「……え?」

「店内のイートインスペースでちゃちゃっとね。ごめんよ、待たせちゃって」

「……」

 

 廻は視界の端の時間表示を確認した。彼が入店してから4分も経っていない。庶民の感覚に疎いため世の若者がどう感じるかは不明だが、廻からしたら文字通り“別に待っていない”の範疇である。

 

「そんじゃあ、改めて出発としますか――」

「待って」

 

 身体を傾け、廻はずい、と彼の顔を覗き込んだ。

 

「……なにか、遠慮してないかしら?」

「んー……?」

 

 ヒューマギアの中でも、例えば弁護士型などの個体はどんな嘘でも見破る能力を有しているらしい。兵士型である廻にそのような機能は備わっていないが、今の一織の表情がすっとぼけ以外の何ものでもないことは、彼女の経験から明らかだった。

 

「最近、わたしの前で食事するのやめたわよね、目白くん?」

「……」

「より具体的に示すなら、12月27日から今日に至るまでの最近ね。さしずめわたしを散々めちゃくちゃにしたことで負い目を感じて、今まで欠落していると思えるほど機能していなかった“遠慮”が四半世紀ぶりに産声を上げた、ってところかしら」

「ああもうっ、わかったわかったって。……降参だよ、まったくもってその通りだ」

「自分で言っておいてなんだけれど、あなたに遠慮という概念があったことに驚きを禁じ得ないわ。新年早々、今年一番の驚きかも」

「いや大げさだな……」

 

 一織はため息をひとつ溢し、廻の顔を見つめた。

 

 相変わらず綺麗な顔……思わずそう感じるほどに整った顔立ち。しかし現在、その顔の半分は包帯で隠されてしまっている。その布を取っ払えば、黒色と銀色の素体と真っ暗な空洞になった右目が見えるのだろう。ニット帽で隠れた後頭部にはパックリとした裂け目もある。

 

 冬の外気に晒されても彼女の頬は赤く染まらず。

 その唇の間から白い息が漏れることもない。

 

 ……彼女はぼろぼろだ。一織にはそう見えていた。

 実際はそうでもないのだろう、現に彼女は問題なく動いている。一度は千切れて消失した両腕も復元され、右目や後頭部もその気になればルルイエキーで復元可能だ。……それでも、冬の景色に佇む彼女の姿はどうにも儚げで、壊れかけの人形のような、そんな印象を一織は抱いている。

 

「……なにかしら」

「いや……。霧島さんの推理通り、遠慮してたよ俺。ようやくって感じだけど」

「わたしをめちゃくちゃにした件なら気にしないで良いわ。どうせ次のクリスマスまで許さないのだし」

「だよね」

 

 一織は小さくはにかむと、それもあるけど――と続ける。

 

「……君はただのヒューマギアじゃない。『ヒューマギアにされただけの人間』なんだ。食事の必要はなくても、好きな食べ物はある。痛みを感じなくても……腕を毟り取られて川に落とされたら最悪な気分にもなる……。考えてみれば当然なんだけど、とんでもなく浅はかな俺ときたら今更のように実感するんだもんな」

 

 出会ったばかりの頃、一織はよく彼女を食事に誘っていた。当然彼女の正体なんて想像だにしていなかったが、それで正当化できるとも思っていない。知らず知らずのうちに傷つけた回数など、両手でも数え切れないだろう。

 しかし廻は「ああ」と、心底なんでもないことのような反応を示した。

 

「そんなことなのね」

「……あれ?」

「それこそ気にしなくて良いことだわ」

「そ、そうなの?」

 

 廻は視線を外し、小さく頷いた。拍子抜けした一織は思わずその視線を追う。そこにはなんでもない、ただの青空が広がっていた。

 

「夏の終わり頃かしら。鈴ちゃんにあることを()かれたのよ」

「あること、って?」

「せい……“食欲はあるのか”という旨の質問よ」

「……せい?」

 

 今、“性欲”って言おうとした……? 一織の思考はその2文字に吸い込まれそうになる。気のせいだという感情と、あの鈴なら訊きかねないという納得感がせめぎ合い、思わず真面目な話であったことを忘れかける。そして哀しいかな、仮に性欲だったとしてもこの先の話に支障はなさそうだと何故か確信できてしまった。

 

「結論から言えば、あるとも言えるし、ないとも言えるわ。機械の身体なのだから、生理現象としてのそう言った感覚は起こりようがない。……けれど、“記憶”はある。好きな食べ物を見たら、『食べたい』って感情が“記憶”の奥から湧き出てくるの」

「(ってことは性欲も――)」

「だからわたしは……ちょうど1年前になるわね――そのような記憶に鍵をかけたの」

「え」

 

 その言葉で、今度は邪念から引き戻される一織。……鍵とは?と、改めて彼女の方を向き直った。

 廻はニット帽のポンポンを撫でている。そして驚く一織に対して薄く微笑んだ。きっと鈴にも同じ反応をされたのだろう。

 

「好きな食べ物や、逆に嫌いな食べ物。暑がりなのか、寒がりなのか。あとはそうね……まあその、色々よ。色々な趣味嗜好のうち、生理現象に直結するようなものは鍵をかけて封印した。感情や記憶も、この身体においてはただのデータだもの。知らないことにしてしまえば、それについて悩んだり苦しんだりすることもない」

「そっか……」

 

 廻は自身の好きな食べ物を知らない。それゆえに、食事に執着を示さない……そういうことなのだろう。だから一織が目の前で食事しようと、彼女は特に何も思わないと。

 

「なんか……それはそれで――」

「『辛い気もする』かしら? 本当、鈴ちゃんと同じ反応をするのね。確かに、この身体になってしまったからこその弊害と言えるわ。ただ、そこまで行ったら『教団のせい』よ。……いえ、今は『琥珀の星のせい』かもだけれど。……とにかく、目白くんも鈴ちゃんも、負い目を感じる必要なんて一切ないから」

「……ははっ。敵わないな、君には」

「当然よ」

 

 廻は言葉を切ると、おもむろにニット帽を外した。それを丁寧に畳んで仕舞うと、入れ替わりとばかりにヘルメットを取り出す。

 

「どうかしら? らしくもない遠慮がちな思考は払拭できた?」

「お陰様で。……でもいつかは知りたいな、霧島さんの好物」

「……そうね。そのときには……特別に教えてあげてもいい」

「身に余る光栄」

「まあ少なくとも、これから向かう場所は“答え”に最も近い場所と言えるわ。気を引き締めて行きましょう」

 

 ヘルメットを被り、廻は道の先を見据えた。人通りのない片側三車線の遥か先に“答え”があることを、彼女は既に知っている。

 

 今日の目的地は廻の実家・霧島邸。

 廻が目覚めた場所であり――廻の“本体”が、今も眠っている場所である。

 

 

 

  *  *

 

 

 

 最初の探索場所を廻の生家――霧島邸に定めたのは、ひとえに情報収集のためである。

 未だ謎に包まれた『琥珀の星』。その本拠地である東京都へ潜入を果たし、廻たちの一矢はかの組織の喉元まで肉薄していると言える。彼らの拠点が本城家の運営するアイピースカンパニーであることは自明であり、EPビルの場所も既に把握済みだ。しかし、だからと言って意気揚々と殴り込みに行くのは早計が過ぎるだろう。

 現実問題として、廻たちは事態の全容をほとんど掴めていないのである。

 

 なぜ廻はヒューマギアにされたのか。

 教団『翡翠の光』と霧島財閥、及び『琥珀の星』の間に横たわるモノとは何か。

 彼らは如何様にして禁忌の歴史、すなわち旧支配者にまつわる知識を得たのか。

 そしてすべての始まりとも言える――霧島親子を襲った事故とは何か。

 

 仮にEPビルへ殴り込んで輝星やら本城有衣子やらを打倒したとして、これらが明らかでない限り根本的な解決にはなり得ない。ただでさえ久我山吾郎らのようなスマッシュを操る謎の勢力の存在も台頭し始め、事態は現在進行形で混沌を極めているのだ。……よって何よりも先に、“根本”とやらを知ることが必要不可欠なのである。

 そうして――頑なに口を割らない藍珠を“ボロが出やすい環境”に置いておいた上で――目星をつけたのが『霧島邸』と言うわけだ。廻がちょうど1年前にヒューマギアとして目覚め、程なくして家出して以来の詳細は不明だが、少なくとも本城家が実質的な管理者となっているとのことだった。そしてその地下には“本体”――すなわち廻の人間の身体が昏睡状態のまま安置されている。

 総合的に、情報源としてはこれ以上のない場所と言えよう。

 

 

 

 コンビニでの休憩を済ませた一織と廻はそのまま郊外方面へ進み、もはや我が国の首都かを疑ってしまうような閑静な平原へと辿り着く。自然豊かな林道の入り口を塞ぐように建てられた仰々しい正門こそ、霧島邸の敷地への玄関口だった。

 正門を抜け、小綺麗に舗装された広い一本道を並んで走る。正門から屋敷本館までバイクでも10分ほどかかると言われた時点で一織はそれなりに仰天したが、廻があの正門を人生で10回も通っていないと聞くと流石にバイクから落ちそうになった。義務教育から高校・大学までの通学はほぼリモートで、それ以外の私生活は敷地内で完結するから……とのことだが、正味実感なんて湧きようがない。つくづく次元の違う超セレブである。

 

 そんな歓談も束の間、敷地内へ突入してから僅か数分が経過する頃――“ソレ”は突然現れた。

 

「『ビヤーキー』……旧支配者ハスターの眷属、だっけ? この前マッキーが大活躍の末に撃破したって言う」

「正確にはあなたとの同時攻撃で、よ。憶えていないと思うけれど」

 

 裸の木々に縁取られた白い空、その向こうを悠々と滑空し、それでいながらこちらに明確な警戒心を放つ異形の翼……廻がつい数日前、波妃町のクイーンコーストタウンで遭遇した怪物と同種で違いなかった。

 都心の方で満太が戦闘開始したことを確認したふたりは改めて、進行方向の上空を飛ぶ異形を見上げている。

 

「なるほどねぇ、霧島家の私有地だから人目を気にせず門番させられるってワケか。そしてそんなヤツをわざわざ配置してるってことは……」

「本城家にとって“不都合”ってことよね、わたしたちのような連中にお屋敷を探られることが」

 

 廻は静かに、ハンドルを握る手に力を込めた。

 

「……不愉快極まりないわね。わたしの生まれ育ったお屋敷の周りを、あんなのに我が物顔でうろつかれるのは」

「どのみちお相手さんもタダでは通してくれなそうだ。……それじゃあ害獣駆除、開始といこっか」

 

TENTACLE(テンタクル)!》 / 《LAMBDA(ラムダ)

 

 起動したクリオネキーを、滅亡迅雷フォースライザーへ挿入する廻。

 アマゾンズドライバーの左手側グリップを捻り、静かに深呼吸をする一織。

 

 互いにマシンを傾け距離を取るのは、それぞれの変身の余波を相手に浴びせないため。

 この言葉を放つのは、彼らが戦う覚悟を示すため。

 

 それこそは波妃町という小さな水槽で生まれた“仮面ライダー”たちの、反撃開始の合図である。

 

 

 「変身」 / 「アマゾンっ」

 

 

《 フ ォ ー ス ラ イ ズ ! 》 ――《FLOATING(フローティング) CLIONE(クリオネ)!》

 

 滅亡迅雷フォースライザーが起動し、挿入されたクリオネキーが無理矢理展開される。接続ポートを介して飛び出したのはクリオネを模した巨大な実体化データ・クリオネライダモデル。ライダモデルの分解シークエンス実行と同時に廻の全身が純白のアンダースーツに包まれ、強化装甲を纏う準備を始める。

 そして彼女の乗るバイク――マシンリボルブリンカーにも変化が現れた。搭乗者である廻から無線信号を受信し変形を開始。マシンの骨格を覆っていた白色半透明のカウルのうち、ヘッドライトを覆う部分と後部マフラーを覆う部分が展開される。流線型の亀裂に沿ってパックリと割れ、配線に囲まれた基部とコネクタが剥き出しになった。

 そこで《ブレイクダウン》の音声と共に廻の変身が最終工程へ移行。クリオネを模した装甲が彼女の全身に纏われるが、普段なら首に巻かれるケーブルは金具に留められず、リボルブリンカーがたった今露出した計6基のコネクタへ接続されていった。

 仮面ライダー(めぐり)――。強大な出力と引き換えに莫大な反動の制御を強いられる純白のライダーは、マシンリボルブリンカーと接続することで余剰エネルギーをマシン動力へ変換。この場において、彼女は最大の弱点である悪燃費を克服しているのだ。

 

《D・D・Dive! To the bottom...! 》

 

 一方、傍らの廻よりワンテンポ遅れたタイミングで一織の全身が変異。ドライバーから発せられるパルスに全身のアマゾン細胞が活性化し、閃光を伴って膨れ上がる様はさながら小規模の爆発だ。光の輪となった爆炎が波紋のように放たれ、道路沿いの枯れ木を数本薙ぎ倒す。

 そして彼のマシン、ジャングレイダーも同時に覚醒へと至る。真っ赤なボディを携えるマシンの各種パーツにはアマゾン細胞が組み込まれていて、一織の装備するアマゾンズドライバーのパルスを自動で受け取っていたのだ。これによって活性化したジャングレイダー内部のアマゾン細胞は一織――正確には彼の中にいる“もうひとり”――と完全に同期。エンジンの駆動音が僅かに転調し、独特なテンポを刻み始める。その生々しいテンポ感はまるで心臓の鼓動のよう……一織はどことなくそう感じ取ると、自分の身体の舵取りを“もうひとり”へと明け渡した。

 爆炎が収束し、サメのような人型のシルエットを形作る。続いて真っ赤なバイクの輪郭をもなぞっていく。黄色い吊り目の複眼と、同じく黄色に光るヘッドライトが一際強く光を放ち、その変身が完了した。

 仮面ライダーアマゾンラムダ――。一度は敵の手に落ちたサメの仮面ライダーは、かつて共に仲間を襲ったマシンすらも従え、その姿を現した。己の身体がどんな姿になろうとも、自分自身だけは決して捨てない。それは2年間で培われた彼の信念だが、それでもこの姿の時はほんのちょっぴりだけ、気が大きくなるらしい。

 

『行くわよ、ラムダ!』

『ああ!』

 

 かけ声と共に両者のマシンが同時に加速、普通の車両では有り得ないほどの急加速に周囲の空気が震える。ラムダと廻、ジャングレイダーとマシンリボルブリンカー……。それぞれのスーパーマシンを得た仮面ライダーは、人智を超えた邪神の眷属など何するものぞと言わんばかりの速度で道路を突き進み、見た目以上の速度を出していたはずの怪物の真下へと瞬く間に追いつくのだった。

 

 ――~~~ッ!?

 

 そんな衝撃的な光景を目の当たりにしたのは当然、当事者たるビヤーキー本人だ。名状しがたい容姿を持つ翼の化け物はその翼竜とも猛禽類とも表現できる頭部をもたげ、驚愕の唸り声を上げる。そしてすぐさま翼を畳んで急降下、一時的な落下による加速を得て飛行速度を上げ、追随してきた仮面ライダーたちを引き離しにかかる。

 しかし――、

 

 ――ッッ!!?

 

 くすんだ茶色の皮膚を持つ怪物は再び驚愕を露わにすることとなった。

 ほとんど予備動作のない加速だったにも関わらず、2台のバイクとふたりの仮面ライダーはぴったりと追ってきたのである。彼らは各々の緻密な分析能力と驚異的な動体視力でビヤーキーの動きを読み、完璧なタイミングで加速を行うことでほぼ離されることなく追随してきたのだ。当然、ビヤーキー本人には知りようのない事実ではあるが。

 

『さてと……追いついたはいいけど、どうやって倒そうか……。空にいる敵を攻撃するにはやっぱ……って、ん??』

 

 そんなラムダが思考を巡らせていると、視界の端で何かが瞬く。横を見やると、マシンリボルブリンカーのフロントカウルの一部から砲身のようなものがにょきっと生え、そこからさも当然のようにエネルギー弾が撃ち出されたではないか。

 

『えっ!? なにそれ、なにその“プレデターの肩にあるやつみたいなやつ”!!?』

『なにって、“リボルブキャノン”よ』

『バイクにそんなもの搭載してたの!?』

『わたしのバイクなのよ、わたしの勝手でしょう!』

『てか変身の時もカチャカチャこちょこちょ無駄に変形してたよね!?』

『無駄じゃない、断じて無駄じゃない!』

『ずるいぞ! 好きにデザインできたからって自分ばっかりカッケぇギミック満載にしちゃって!』

『うるさいわね! あなたはあの女からもらったクリスマスプレゼントに乗っていればいいのよ!』

『すげえ根に持つじゃん!? ――あっ』

『あっ』

 

 ぎゃいぎゃいと言い合う彼らの眼前に迫る巨大な影……。いつの間にか(と言うほど突然でもないのだが)旋回していたビヤーキーが、真正面からラムダと廻に突撃してきていた。

 

 ――――――ッッ!!

 

 悲鳴のような咆哮。コンクリートが爆ぜ散る破砕音。巨体によるタックルを紙一重で躱したふたりの仮面ライダーは大きくバランスを崩すが……、

 

『なによ、もう!』

 

 正確無比な身体制御により一瞬でバランスを整えた廻がすぐさまプレデターの肩にあるやつ――もといリボルブキャノンで反撃。すれ違いざまにビヤーキーの体躯へと光弾を叩き込み、逆に相手のバランスを崩させた。

 

『空気読めっての!』 ――《VIOLENT(バイオレント) SPLASH(スプラッシュ)

 

 片やラムダは身体能力だけで体勢を立て直し、その勢いのままバイクごと跳躍。廻の反撃によってバランスを崩したビヤーキーの真上からアマゾンスピアを投擲した。

 かくして――直前まで割としょうもない理由で気を逸らしていたとは思えないほどの――華麗な連携によって、ラムダと廻は結果的に先制攻撃を成し遂げたのだった。思わぬ反撃を許したビヤーキーは苦悶の呻き声を漏らしながらも即座に飛翔。右翼の付け根にスピアが突き刺さったまま器用に身体を捻ってリボルブキャノンの追撃を躱し、再び彼らの射程距離外を滑空し始めた。

 

『……ねえ。普通にジャンプしていたけれど、どうなっているの、そのバイク?』

『いや、なんだろね? 当たり前のように跳んだけど、俺もちょっとよくわかんない』

『…………』

『おっ、「めぐりん号にも跳躍機能つければよかった」とか思ってる?』

『………わたしだってやろうと思えば跳べるから』

 

 そうして『あと「マシンリボルブリンカー」ね』と低めの声色で呟き、廻は再びマシンを発進させた。ラムダも思い出したように追随、尚も屋敷方面に向かって飛行するビヤーキーを追い立てる。

 手傷を負わされたビヤーキーはと言うと怒りを露わにし、遥か上空にてその脚部をしならせた。かつてバルバトスと戦った個体も見せた、投石攻撃の予備動作である。

 

『来るわ……!』

『おっけー……!』

 

 先のタックルの際に掴み取っていたのだろう、コンクリートの破片が上空より投げつけられ、砲弾の雨のように降り注いだ。ラムダと廻はそれぞれのマシンを蛇行させ、速度を落とすことなくその暴力の嵐を掻い潜っていく。

 

『槍が突き刺さってるのに、元気いっぱいだな!』

『図体の大きさに見合った生命力よ。必殺技でも一発では倒せないと思った方がいいわ』

『……「ディープ・ワン」は? あのランスなら、ハスターの眷属相手に効果抜群なんじゃないの?』

『残念ながらインサニティ・ジャッカーは()()()()()よ。ディープ・ワン自体も、この距離感での戦闘には不向きだから……』

『あれ? 今の状況って結構面倒? ……っと!』

 

 再び襲い来る、ビヤーキーの突進攻撃。2度目ともなれば挙動はラーニング済みか、廻は車体を傾けて危なげなく回避、先ほどと同様にカウンターを仕掛けようとするが……、

 

『うっ……?』

 

 頭上から迫る圧――。翼の化け物が既に投擲していたコンクリートの砲弾が、時間差で彼女へと飛来していたのだ。カウンターの動作に入っていた廻は、それらの攻撃に対応できない。

 

『しまっ――』

『霧島さんちょっと失礼!』

 

 複数の砲弾が道路に突き刺さり、さらなる破片と粉塵が巻き上がる。しかしマシンリボルブリンカーは無傷のまま、粉塵を切り裂くようにして姿を現す。

 廻のすぐ前でマシンを操縦していたのは、咄嗟に飛び乗ってきたと思しきラムダだった。彼は直前でリボルブリンカーに飛び移り、降り注ぐコンクリートを両手足で防御、そのまま廻のケーブルに囲まれる形で運転を代わっていたのだ。ちなみに乗り捨てられたジャングレイダーはどういう理屈か無人のまま併走している。

 

『危なかったねぇ。自慢のマシンがあと少しで粉々だったよ』

『う、ぁ……。――っ、―――……』

『ん? え、今なんて? ごめんからかってるとかじゃなくて、ホントに聞き取れなかったんだけど!』

『うるさい! そのまま運転していなさい!』

 

 普段とは逆に一織の背後に座る形となった廻はアタッシュライフル取り出し、後方より迫り来るビヤーキーに向けてリボルブキャノンとの同時射撃を繰り出した。邪神の眷属はそれらを躱し、投石で反撃。しかしラムダも車両の変化をものともせずにほぼセンスだけで操縦し、道路を斜めに移動することで砲弾を避けていく。

 

『おおおお……どうよ霧島さん! 人生で初めて後ろに女の子乗せたにしてはなかなかなモンじゃない!?』

『背ビレ邪魔』

『うーん辛辣!』

 

 そうこうしているうちにビヤーキーは彼らを追い越し、再び前方へと躍り出る。廻による迎撃も、ある程度の高度を保たれているためかすべてギリギリで躱されてしまった。

 

『埒が明かないな……。霧島さんハンドル返すね、援護よろしく!』

『なにを――あっ、ちょっと!』

 

 言うが早いか、ラムダはジャングレイダーへと飛び乗るとそのまま急加速。彼を乗せた真っ赤なバイクは車道を飛び出し、道路沿いの小さな崖を壁走りの要領で一気に駆け上る。相変わらず原理は不明だが、その一連の挙動で彼の意図を汲み取った廻はリボルブキャノンを操作し、ビヤーキーに射撃を繰り出すことで敵の気を逸らしにかかる。

 

『ハアアアアアアアアッッ!!』

 

 果たしてラムダは大きく飛翔、ジャングレイダーを切り離しロケットのごとく踏み台にすることで空中でさらに加速し、ビヤーキー目がけて一直線に向かっていった。

 

VIOLENT(バイオレント) WAVE(ウェイブ)

 

 渾身の拳がビヤーキーに直撃する。強靱な生命力をもつ邪神の眷属に対し必殺技の一撃では有効打になり得ないはずだが……それが既に突き刺さっているアマゾンスピアへの直撃なら、些か話が変わってくる。

 

 ――――――~~~~ッ!?!?

 

 アマゾンスピアを深々と押し込まれ、ビヤーキーは甲高い悲鳴を上げて空中でのたうつ。大きな翼に勢いよく弾かれたラムダは冷気を放出し、落下しながらその変身を解除させた。

 

『目白くん……!?』

「――いまだぁぁぁぁーーーー!!」

『……!!』

 

 そう、彼ほどの人物があの程度で変身解除する筈がないと、廻は知っている。すなわちそこまでが、一織の作戦なのだ。

 仮面ライダーアマゾンラムダの変身解除にドライバーの操作は必要なく、ほぼ一織の意志で行うことができる。活性化したアマゾン細胞が再び鎮静化することによって彼はヒトの姿に戻り、()()()()()()()()()()()()()()()解除するのである。

 

 ――――ッッ、~~~ッ!?

 

 たった今、化け物の胴体の奥深くまで突き刺さったアマゾンスピアが今度は一瞬で消失。柄部分のグリップのみが弧を描いて落下していく。あとには胴体に空いた大穴だけが残り、開いた傷口からどす黒い血液が一気に噴き出した。

 予想外の大ダメージを立て続けに受けたビヤーキーはついにその体勢を崩し、大きく高度を落とした。そして――その隙を逃す彼女ではなかった。

 

『いっけえええーーーっ!!』

 

 マシンリボルブリンカーを一気に加速させ、ハンドルの根元に備えられたソケットにペンギンキーを装填。キーに込められた風のアビリティデータが車体を駆け巡る。

 

《Progrise key confirmed. Ready to LINK...》

 

『“跳べる”ってところ、見せてあげるわ――!』

 

 

 《 STORMING(ストーミング) / REVOLVE-BRAVE(リボルブレイブ)! 》

 

 

 突風を纏い跳び上がるマシンリボルブリンカー。それは一筋の風の矢となり、落下してきたビヤーキーと空中で交差。地球外生命体の胴体を貫き、真っ二つに引き千切った。名状しがたい悲鳴が白い空へと打ち上がると、大爆発をバックにリボルブリンカーが着地。変身を解除した廻の肩の上では、ついでにキャッチされた一織が後方を呆然と見上げていた。

 

「(バイクの音声……思いっきり本人の録り下ろしだったな……)」

 

 正直彼女が跳んだことなんかよりそっちの方が気になる一織だったが、廻はそんなことなど露知らず、微妙に得意げ寄りの凜とした表情のまま前方を向き直る。

 

「このままお屋敷まで直行するわ。もうすぐのはずよ」

「あ、ああ、うん。えっと……降ろしてくれるかな」

「面倒だからこのまま行く。あなたのバイクは勝手についてくるのだし、いいでしょう」

「いや、でもその――」

「なに! そんなにあの女にもらったバイクがいいってこと!?」

「そうじゃないって! あっ、待って。せめて肩からは降ろして? ちょ、このままいくのか? ホントに? 怖いんだけど、ねえ。聞いてる!? ねえ!!」

 

 最後までそんな調子のまま、一織と廻は屋敷へと向かっていく。

 自分たちのゴールはあくまでも“真実”、旧支配者の眷属相手に手間取っている暇などない――。普段通りの気の抜けるようなやり取りこそ、ふたりのそんな意志の現れなのかもしれない。

 

 

 

  *  *

 

 

 

 一方その頃。

 都心のとある地下通路では、もうひとつの激突が続いていた。

 

『……弱すぎますわね、あまりにも』

『はぁ……はぁ……、こっの……っ!!』

 

 

 仮面ライダーバルバトス――彼こそが謎の解明を目指すもうひとつの意志であり、

 

 ランブルルージュ――彼女こそ、その“真実”に最も近い場所にいる人物のひとりである。

 

 

 

 

 




読了ありがとうございました。
今回の戦闘は本当は存在しなかったのですが、せっかくふたりの専用バイク揃ったなら活躍させたいよね?と思い至り差し込まれる運びとなりました。基部露出ギミックとケーブル接続ギミックは人類の夢だ。


というわけで次回

「5-3-A. 満太の執念/藍珠の信念」

バルバトスvsルージュ
激突の行方や如何に――?

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