仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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こんにちは。イチゴころころです。
毎週土曜日の夜は某大手動画サイトでファイズが観られる日なので楽しみです。





1-6. 喫茶acquario(アクアリオ)

 

 まあ理屈はわかる、と一織は自分に言い聞かせてみる。

 

 打倒『翡翠の光』を胸に、一織と廻はこれから行動を共にするだろう。そして絶対安全が確保される“拠点”の存在は必要不可欠と言える。

 しかし当然、ふたりは頻繁に拠点へ出入りするだろうし、その様子を通りすがりの人に見られることだってあるだろう。スパイものみたいな秘密の通路でもなければ、人目につくことはどうしたって避けられない。どこに教徒の目があるとも知れないこの波妃町で、それは致命的だ。

 

 ゆえに、拠点に出入りする大義名分・一織と廻が行動を共にする建前が欲しい。

 理屈は、わかる。

 

「そこで昨夜、拠点になりそうな物件を探したの。そうしたらちょうどここ、半年前にバーが潰れて以来空きテナントだったみたい。だからここを買って、今朝改装工事をさせたの。適当に調度品も買い揃えて、お昼前に搬入させたわ。出店許可も取っておいたし、ペーパーカンパニーとしては最低限のクオリティが保てたんじゃないかしら」

 

 これがわからない。

 

「いやわけが分からんって。一晩でやったの? これを? 一晩でなんてやれないでしょ。殺人鬼のノートのダミー作るのとは規模が違うよ?」

 

 まあ一晩でダミー作るのもすごいけど、と一織は学生時代に読んだ漫画のことを思い出した。

 呆然とする一織を尻目に、廻はカウンターバーに置いたでかい多機能プリンターをいじっている。例の名刺を増産しているようだ。

 

「行動を起こすのは、早いに越したことはないでしょう」

「早すぎるんだって。てか昨日、集合場所を教えてくれたときにはもうここのこと見つけてたってことだよな? いつの間に調べたんだよ」

「目白くんがへらへらふわふわしている間にわたしは色々と行動を起こしているということよ。ちなみに集合場所を指定したときにはもう手続きも済ませていたわ」

「テンポ感がギャグ漫画なんだよなあ」

 

 プリンターに向かう廻を見つめてみる。慣れた手つきでプリンターを操作する彼女だが、その動作からは単なる慣れとも違う、気品のようなものを感じる気がする。今更ながら、彼女の言葉遣いも(やたらとトゲがあることはさておき)とても丁寧……な気がしてきた。

 

「霧島さんって、もしかして超セレブ?」

「……昨日の時点で気付かれていると思っていたのだけれど」

「なんとなくね。立ち振る舞いと、なにより周到さと行動力。教団のことを詳しく知っていたり、消音器付きの拳銃を持っていたり、人並み以上の社会的地位か財力を持つ人間じゃないと不自然かなって。ただ――」

 

 それが突然喫茶店開業RTAを始めるスピード特化型セレブだとは思わなかった――という言葉を、一織はギリギリのところで呑み込む。

 

「心配せずとも、ちゃんと報酬は払うわよ」

「んー……まあいいけどさ」

 

 店内を見渡す一織。元々バーだったらしいのであのバーカウンターは既にあったものだろうが、いくつかあるテーブルや椅子、海っぽい雰囲気を出している各種装飾、天井でくるくる回るファンに至るまで、廻が買い揃えたもの……らしい。しかも一晩で。

 

「あれ? ってことは……」

 

 入り口のドアを開けてみる。入るときは気付かなかったが、ほのかにペンキの香りがした。

 

「これも、霧島さんが作ったのか?」

 

 玄関の外には細い階段が下まで伸びているが、横の壁に(ペンキ香る)この店の看板が掛けられている。『喫茶acquario』という店名に、なんとなくピカソっぽい不思議なタッチで描かれたロゴマーク。……中央付近にある奇妙な造型は、サメだろうか?

 

「店名とモチーフだけ適当にね。あとは発注した先の会社が勝手にやってくれたわ」

「あ、俺分かっちゃった。これどこの国の言葉か知らないけど、『水族館』って意味だろ」

「『acquario(アクアリオ)』。お察しの通り意味は『水族館』ね。イタリア語よ」

「じゃあ、このサメみたいな何かは……ひょっとしてアマゾンラムダか」

「サメを使役して教団を潰す、わたしの前線基地にはぴったりでしょう?」

「使役て」

 

 一織は廻にお金をもらって戦うので、あながち間違った表現ではないかもしれない。

 

「はいどうぞ」

 

 扉を閉めると、『ホールスタッフ 目白一織』がたくさん入った名刺ケースを廻が手渡してきた。

 

「ホールスタッフ、ね……。俺、接客業の経験ないぞ?」

「営業なんてしないからいいのよ、ペーパーカンパニーなのだし。それとも『イメージキャラクター』の方が良かったかしら?」

「……“ホールスタッフ”、頑張ります」

 

 廻は返事代わりに、自身の『店長 霧島廻』が入った名刺ケースをかちゃかちゃと振った。それから奥の方を振り返り、店内を歩き始める。

 

「今後、基本的に集合場所はここよ。情報共有や作戦会議はここで行う。お手洗いはそこの来店客用のを使って」

「わかった。来店客なんていないしな」

「目白くんはここに入り浸ることになるだろうし、状況によってはここに缶詰めになるかもしれない。厨房の調理器具や冷蔵庫は好きに使ってくれて構わないわ。食料とか何も入っていないし、適当に入れておいて大丈夫。ただし常識の範囲内でね」

「電気代もガス代ももったいないから全力で有効活用するよ」

「それから」

 

廻は店の一番奥の方、短い通路の先を指さした。お手洗いとは別の扉がある。

 

「あの扉の先はわたしの生活スペースになるから、決して立ち入らないように」

「えっ」

「“えっ”って何? まさか当然のようにわたしの生活空間に立ち入れるとでも思っていたの?」

「ちげえよ! ってかどういうこと? 霧島さん、ここで寝泊まりするの?」

「わたしの前線基地と言ったでしょう。部下のあなたはともかく、主導となるわたしがいちいち帰宅していたのでは話にならないわ」

「そういうもんか」

 

 まさかのスピード特化型家出セレブだった。

 とはいえ一織も、廻の覚悟の程は少なからず理解しているつもりだ。詳しい事情は知らないしいたずらに詮索する気もないが、廻にとって『翡翠の光の壊滅』は彼女の今までの暮らしよりも重大で、一晩で前線基地を造り上げるに値する最重要案件なのは間違いない。彼女の大胆すぎる行動力には度肝を抜かされるばかりだが、その根底にある想いまで茶化す気にはなれなかった。

 

「……霧島さん、このあとの業務予定は?」

「え?」

「君のことだ。前線基地の紹介と案内だけしてはい解散、なわけないでしょうよ。打倒『翡翠の光』に向けて、行動の見通しは立てているはずだと思って」

 

 廻は少しだけ目を見開くと、訝しげに腕を組みながら答えた。

 

「……日中の内に調査したい場所が一件、あるわ」

「りょーかい。それじゃあ向かいながらになるかなあ」

「急にどうしたの? 積極的なのはありがたいけれど、言いたいことがあるならあらかじめ話してもらわないと困るわよ」

「いやあ……なんというか」

 

 一織は言葉尻を濁し、カウンターの椅子に腰掛けて窓の外を眺める。

 

「知っておいてほしくてさ。――俺がアマゾンになったときの話」

「……! でも、それって……!」

「代わりに霧島さんの事情を聞かせろ、なんて無粋なことは言わないよ。互いの年齢を明かすのとはわけが違う」

 

昨日の昼、港湾区のダイニングカフェで情報交換したときはお互いに疑心暗鬼だった。“情報”は明かしても“エピソード”は明かさず、腹の探り合いをしながら会話をしていた。

 

「俺の過去は、俺自身でさえ持て余している。そんな俺よりも君の方が上手に調理できそうだし、隠す理由もないだろう。別に恥ずかしいものでもないしな」

「……わかったわ」

 

 廻は小さく頷くと、椅子に掛けてあった自身のリュックを背負う。

 

「道すがら聞かせてもらうわよ。あなたが――、目白一織がアマゾンラムダとなり……人間を辞めなくてはならなくなった経緯を」

「――ああ」

 

 一織も立ち上がり、使い古したバッグを肩に掛ける。ガシャリという重みは、人間(いおり)化け物(ラムダ)の間を繋ぐ禍々しい造型の機械装置のもの。

 

 

 “アマゾンズドライバー”

 

 それが装置の名である。

 

 

 

 

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