仮面ライダーLAMBDA   作:イチゴころころ

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イチゴころころです。
ギーツ&キングオージャー映画観てきました。面白かった……。
デザイアドライバーを買いたい衝動に駆られています。






1-7. シーン0:一織がアマゾンになった日

 

 目白一織は平凡な青年だった。

 平凡な家庭のひとり息子として、優しい両親に見守られながら幼少期を過ごした。中学時代には級友たちとどうでもいいことで笑い、高校時代には甘酸っぱい恋に泣いた。

 

 波妃学院大学に進学してからは故郷の街を離れ、波妃町でひとり暮らしを始めた。友人が多い方ではなかったが、いつも決まったメンバーで遊び、試験の結果に一喜一憂し、人並みの学生生活を謳歌していた。

 

 そうして人並みの人生を歩んできた一織は、人並みに“就活の壁”というものにぶち当たる。家出セレブに『ふわふわ男』などと揶揄されるような彼のマイペースさはこの頃から健在で、就職難が問題視される現代社会とはどうも相性が悪いらしかった。

 不合格が重なりようやく焦り始めた一織は、大学時代に懇意にしていた藤堂(とうどう)という教授のもとを訪ね、就職先を紹介してもらうことになる。

 

「……株式会社AZ(エーズィー)セキュリティ?」

「ああ。私の古い友人が興した民間警備会社だよ。ちょうど若い人手が足りていないみたいなんだ」

「でも俺、武道とか習ったことないですし、特段体を鍛えてるわけでもないっすよ?」

「特別な経験や資格は問わないそうだ。目白くんが興味があればだが、話を聞きに行ってみるかね? 主体性に難アリだが、きみの愛嬌ならどこでも上手くやっていけるだろう」

「ははは、またひどい言われようっすね。でも正直、めっちゃありがたい話です」

 

 そうして一織は藤堂教授の紹介状を引っさげて民間警備会社AZセキュリティの採用試験を受け、見事合格。大学を卒業し、社会人一年生となった。

 

 この一手が、彼の平凡な人生を終わらせるとも知らずに。

 

 

 

 

 

 入社後待ち受けていたのは新人研修。その第一段階となったのは徹底的な体力測定だった。走力測定やボール投げ、幅跳びや前屈など、中高生時代によくやったようなテストをひたすらにこなした。研修担当の社員によれば、測定の結果に応じて研修カリキュラムが組まれ、一織の適性に合った新人研修が施されるのだとか。

 

 この方針は専門知識も技能もない一織にとってはありがたかったが、一通りのテストを終えた彼に告げられたのは、思いもよらない言葉だった。

 

「え、今日も測定、ですか……?」

「はい。本日はこちらの補助装置を装着した状態で、いくつかの測定を再度実施していただきます」

 

差し出されたのは腕輪のような機械。ふたつの丸いランプが青色に点灯している。

 

「えっと、確か、今週から研修本番だったと思うんだけど……」

「新入社員の方には、弊社の開発する新装備のテストも兼ねて最終測定を行っていただいております。本日の測定を終え次第、研修カリキュラムが設定されますのでご安心ください。テスト最終日、頑張ってくださいね」

「はあ……。そういうもんなんですね」

 

 首を傾げながら、一織は“補助装置”なる腕輪を受け取り、腕に装着した。

 

 ……その後のことはよく記憶していない。

 既に終えていたはずのいくつかのテストをこなす間、どこか遠いところから自分の身体を動かすような感覚がしたことを覚えている。そして、とても気分が良かったことも。

 

 我に返ったとき、最終測定はすべて終了していた。そして手に持っていたスコア表に目を落とし、一織は息をのむ。

 

「なんだ、これ」

 

スコア表を投げ捨てるようにして、一織は廊下を走り出す。装着されたままの腕輪からは、変わらず青い光が漏れていた。

 

「目白さん、本日もお疲れ様でし――」

「おいどういうことだ! 俺に何をした!?」

「落ち着いてください。貴方は素晴らしい結果を出してくれたのですよ」

「とぼけるなって! 何が素晴らしい結果だ! あんなの人間の出して良い数値じゃないだろ!!」

 

 スコア表に乗っていた測定値はめちゃくちゃだった。好成績なんてものではない。成人男性の平均や世界記録なんて一織は知らないが、どう考えてもおかしい値だった。ある値は数字のケタが明らかに多く、ある値は単位がt(トン)で表されていた。最も不気味なのはそれらすべてが誤植やいたずらなどではなく、間違いなく“自分自身が出した数値である”という奇妙な納得感があることだった。

 

「はい。貴方は少量の投与でこれほどまでの測定値を出しました。しかも馴染むのも早かった。わたくしどもとしても、大変喜ばしい結果となりました」

「投与だって……? なんなんだよ、ほんとに……俺になにしたんだよ! これ……これ外してくれ!!」

 

左腕の腕輪を掴む。それはびくともせず、ただ青いランプが見返してくるのみ。

 

「もちろん、外して差し上げますよ。腕輪程度の装置など、貴方にはもったいない――」

「なにを――」

 

その瞬間、一織の後頭部に鈍い衝撃が走る。暗転する視界の中で聞こえた陰鬱な笑い声を最後に、彼の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 その後、たぶん自分はずっと叫んでいたのだろう、と一織は思う。

 光の届かない深海のような暗闇の中、自分が別の何かに侵食されるような感覚があった。呼吸もできず、全身が圧迫され、暗闇から這い出てくる影から逃げることもできない。その影は黄色く吊り上がった両目を光らせ、動けない一織をあざ笑うように暗闇を泳ぐ。伸ばした手は重たい水を掻くように空を切り、どんなに足を動かしても底につかず、かといって目の前の影から目を背けることもできず、ただただ、深く沈んでいく。

 

 遥か上方、水面(みなも)の向こうに見えるのは、手術台に固定された自分の姿だった。白衣の男たちが、自分の周りで忙しなく動いている。

 

 “アマゾン細胞”という単語が聞こえた。注射器をあてられる自分の腕が見えた。

 “アマゾンズドライバー”という単語が聞こえた。冷たい感触が腰に巻かれた。

 “やめろ”と聞こえた。たぶん自分が言った。

 

 水面に手を伸ばしても届かない。沈み行く意識はそこから遠ざかるばかりだ。

 そんな一織と水面の間に割って入ったのは、黄色い双眸を持った黒い影。その影はゆっくりと近づいてきて、一織の耳元で口を開く。

 

 

――――LA()aaa………mmMB()bbb……、…DA()aaa――………

 

 

 まるで、壊れた管楽器のような

 

 海底を震わせるほどに低くて重たい、そんな声だった。

 

 

………………。

 

…………。

 

……。

 

 

 

「――うああっ!?」

 

 冷たい床の上で一織は目覚めた。上体を起こすと、床に転がったつり目のベルト――アマゾンズドライバーと目が合った。

 

「あ、あ……」

 

左腕に例の腕輪はない。しかしうっすらと、注射の跡のような傷が見えた。いくつも、……いくつも見えた。

 

「おれは……」

 

記憶を辿るように、自分の内側を覗くように意識を集中すると――、

 

「――っ!?」

 

意識の底で“彼”と目が合う。黄色い双眸の“彼”、深海のような暗闇を優雅に泳ぐ“彼”。

 

 そして、否応なしに、一織はすべてを理解した。

 

 自分に施された手術。移植された“彼”こと、アマゾン細胞。“彼”を宿した自分はもはや人間にあらず、目の前に転がる装置を使えば簡単に化け物になり、最終測定で見せた数値すらも軽く超える力を行使できること。

 そして、自分の中にいる“彼”が他でもない、人間の血肉を欲していること。

 

「ふざけるなよ……」

 

 拳を握り、床を叩いた。乾いた音が転がり、鈍い痛みと冷たい感触が返ってきただけだった。

 

「ふざけるなよ! ひとの身体で好き勝手しやがって! どこにいる! 出てこいよ! 出てこい! なんで! なんで……っ!」

 

怒声が虚しく反響する。一織の怒りに返答する声はなく、春の夜風がただ窓を揺らした。

 

「なんで……、誰もいないんだよ……」

 

 株式会社AZセキュリティの社屋には誰もいなかった。研修担当の男性も、藤堂教授の友人だという社長も。それどころか人がいた形跡、()()()()()()()()()()()()すらなくなっていた。小綺麗なフローリングの廊下に、白い壁しかないいくつもの部屋。ただの3階建ての空きビルになっていたのだ。

 

 一織は空きビルを飛び出し、ひたすら走った。

 

 近隣の住人は、あそこはずっと空きビルだったと言った。

 大学の事務員は、藤堂教授はひと月前から行方不明だと言った。

 

「なんで……だよ………」

 

 株式会社AZセキュリティは消えた。まるで最初からなかったかのように。

 

 人間を辞めた平凡な青年という、唯一の痕跡を遺して。

 

 

 

 

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