ようこそスパイの教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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学園黙示録の主人公キヨポンをスパイものに導入した場合を考えました。


悪とはなにか―弱さから生ずるすべてのものだ
殴っていいか?


 何もない暗い部屋の中央にある椅子に、鋼鉄製のワイヤーで全身を拘束された少年が座らされていた。

 

「お前の処遇が決まった」

 

 部屋に入ってきたスーツ姿の黒髪の青年は、少年を見据えながら告げる。

 

「今日からお前の身柄は僕が預かることになり、更に内閣府直属のチームの一員として僕の命令に従ってもらう」

「……つまり、オレはアンタの部下になるってことか」

 

 拘束されている少年の無機質な金色の瞳が青年見据え、互いの視線がぶつかる。

 

「もし断ったらどうなる?」

「このまま部屋に拘束されて24時間監視されるか、最悪当初の予定通りのことが実行される」

「初めから選択肢がないのと同じだな。オレに利用するほどの価値があると思ってるのなら買いかぶり過ぎだ」

「謙遜が過ぎるな。スパイの訓練を受けていないお前が僕を苦戦させるぐらいの実力を持っているんだ」

「今こうして捕まってるけどな。そう言うアンタはいいのか?仮にアンタの部下になったとして、いつか寝首をかかれるんじゃないかと心配にならないのか?」

「問題ない。僕は世界最強のスパイだからな」

「……たいした自信だな」

 

 少年は目を閉じ、数秒間思考に耽ってから口を開く。

 

「ちなみにアンタに従えば自由は保証されるのか?」

「ある程度はな。ただし、一定水準の任務を達成しなかったら僕でも庇いきれない」

「自由を守るために、自由を捨てるか………選択の余地はないか」

「決まりだな。一緒に来い」

「その前に拘束を解いて欲しいんだが」

「それくらい自分でどうにかしろ」

 

 少年は大きく溜息を付き、体に力を込める。すると、鋼鉄製のワイヤーが、ブチブチと普通の縄のようにいとも容易く千切れた。

 

「――――極上だ」

「後悔するかもしれないぞ。オレを利用しようとしたことを…そういえば、まだアンタの名前を聞いてなかったな」

「そうだったな。僕は灯のボス、クラウスだ」

 

 

♢♦♢

 

 結局、人間は互いに殺し合うことをやめられない生き物のようだ。

 世界大戦と呼ばれる世界規模の戦争はガルガド帝国の降伏で終結したが、戦勝国側も死傷者が一千万人を超え、実質勝者のいない戦争だった。

 終戦後、世界各地に癒えることのない大きな爪痕を残ってもなお人間は争いをやめられなかった。

 各国の政治家達が大戦の惨状を目の当たりにして学んだことは、戦争は効率が悪いという事だけ。科学技術が進んだ時代、武器は人を殺し過ぎる。

 ならば表立って銃口を向け合う時代は終焉を迎えた。

 講和条約が世界各地で結ばれ、平和を信条とした国際機関が樹立し、世界各国の首脳がニッコリの笑顔で握手を交わす。

 だがその裏では、密かにスパイを使った情報戦が繰り広げられることとなった。

 

 いわゆる『影の戦争』の始まりだ。

 

 

「スパイの情報戦は、具体的に何をやるんだ?」

「いろいろあるが……例えば石油の採掘権を得たい場合、戦車を持ち出さずに敵国の政治家をたぶらかして条約を締結させる方が効率的だ。その手段はいくらでもある。家族を人質に取って脅迫したり、金と亡命を約束したり、女を抱かせて手駒にしてもいい。目障りな政治家をスキャンダルで失脚させてしまえばいい。暗殺してしまえばいい」

「なんでもありだな」

 

 準備されていた制服に着替えたオレは、クラウスが運転する車の助手席に座りながら外の景色を眺める。

 ガイドブックによると、ディン共和国では三番目に人口の多い都市で、首都から離れておらず、海外と繋がる玄関口として栄えた港町とのことだ。見渡す限り、煉瓦造りの建物がぎっしりと並んでいる。

 

「それで、オレに政治家の脅迫なんかをやらせると?」

「いや。僕のチームは『不可能任務』を専門とする」

「なんだそれは?」

「スパイや軍人が失敗した任務、あるいは、その難易度から達成不可能と判断された任務の事を指す。その任務の成功率は一流のスパイでも一割。死亡率は九割だ」

「逃げていいか?」

「駄目だ」

 

 そうなるか。こっそり車のドアに手をかけるが、ロックが掛かっていて開けられない。蹴破られないようにより頑丈な素材で補強している。用意周到だな。

 

「それで、今向かってるその秘密基地はこんな街中にあるのか?」

「ああ。勿論周りにバレないように偽装している……そうだ。これを開けてみろ」

 

 そう言ってクラウスは運転しながらポケットから南京錠とピッキングツールのようなものを取り出してオレに渡す。

 

「一ヶ月後、敵国である隣国のガルガド帝国に潜入し不可能任務を果たす。それまでにお前にはスパイの技能を身に着けてもらう」

「たった一ヶ月……」

 

 前途多難だな。

 

「というか、この機構かなり複雑みたいなんだが……」

「僕の指導を受ければそれくらいすぐに習得できる」

 

 凄い自信だな。

 

「じゃあ、これはどうやって開けるんだ?」

「ピッキングツールをいい具合に使う。以上だ」

 

 

…………。

 

 

「は?」

「聞き逃したならもう一度言う。ツールをいい具合に使えば鍵は開く。おしべをくすぐるミツバチのように、と言い換えればなおわかりやすいだろう」

「ごめんなさい。抽象的すぎて余計わかりません」

 

 駄目だコイツ。人に教えるのが下手なタイプだ。

 

「……やはり僕は授業が下手らしい」

「それで良く教えようとしたな」

「…………拠点に着くまでに自力で開けてみろ。できなかったら通った道を引き返す」

「えっ、そんな無茶ぶりな」

 

 冷静沈着に見えて大人げないだろ。

 

「すぐに始めた方がいい。スピードを上げる」

「えっ、ちょっ、せめてハンデを」

「他のメンバーは一分でできたぞ」

「マジかよ」

 

 本当に車のスピードを上げやがったコイツ。もうこうなれば自棄だ。

 

 

 

 

 数分後。

 

「着いたぞ」

 

 車が停まったのとほぼ同時に南京錠がガチャリと開いた。

 

「開けたぞ」

「ふむ、ギリギリだったが極上だ。ちなみに間に合わなかったら引き返すという話だが……あれは噓だ」

 

 なんだろう。生まれて初めて人をぶん殴りたいと思った。

 殴りたい衝動を抑えて到着した場所を確認する。

 時計屋と塗装屋に挟まれた二階建ての建物だ。看板には『ガーマス宗教学校』。来客口では受付らしき男がタバコをふかしていた。クラウスが「彼は新入生だ」と告げると、男は目を細め、「どうぞ奥に」と親指で後方を示した。

 オレは名目上、架空の宗教学校の生徒のようだ。渡された身分証も、着ている制服もそれに合わせたものだ。

 

 奥に進むと、そこは物置だった。大量の木箱があり、それをずらすと、地下通路に繋がる階段がある。明かりに乏しい地下通路をしばらく歩くと、視界が開けた。

 

「あそこが、僕たちの活動拠点……『陽炎パレス』だ」

 

 巨大な洋館があった。宮殿、と言い換えてもいいぐらい豪華な造りだ。

 建物同士が城壁のように並んでおり、視界を覆っている。外から見えない構造のお陰で、街の住人にこの洋館の存在が気づかれないようになってるのだろう。

 

「そういえば、オレやアンタ以外にもメンバーは何人いる?」

「僕とお前以外に七人……あと一人は遅れてやって来る予定だ」

 

 そう言って、クラウスが玄関の扉を開いた。中に入ると大きな広間があり、床は赤い絨毯で敷き詰められていた。

 そこにいたのは、オレと歳の変わらない七人の少女。全員制服とは異なる黒い衣装でオレ達に視線を寄越していた。

 

「あっ、先生おかえりなさい!」

 

 その一人、艶やかな銀髪の少女が駆け寄ってきた。

 セミロングヘアに愛らしい童顔、服の下でも強く主張する豊満なバストが特徴的だ。

 

「彼が新しく来たメンバーですか?」

「そうだ。軽く挨拶でもしろ」

 

 まずはリリィ。お前からだ、と言われて銀髪の少女が、「了解しましたぁ!」元気よく応えた。

 

「はじめまして!コードネーム『花園』、リリィちゃんです!」

 

 銀髪の少女ーーリリィが自己紹介をする。

 

 リリィに続き、次々と他の少女たちも自己紹介をしていく。

 

「……コードネーム『百鬼』、ジビアだ」

 

 ショートヘアの白髪に右目の下に泣きぼくろがある少女が凛然と告げる。

 

「コードネーム『夢語』、ティアよ。よろしくね」

 

 ストレートヘアの長い黒髪の美しい少女が艶かしくウインクする。

 

「コードネーム『愛娘』、グレーテと申します」

 

 儚げな赤髪の少女がお淑やかな口調で名乗る。

 

「俺様はコードネーム『忘我』、アネットです!」

 

 左目にアイパッチをつけた灰桃髪の少女が元気よく名乗る。

 

「こ、コードネーム『草原』、サラっす」

 

 パーマ気味の茶髪に気弱な顔立ちの少女がオドオドしながら名乗る。

 

「……」

 

 最後に、1人、青銀髪の少女がその流れを遮るかのように黙っていた。「ほら、モニカちゃんも!」とリリィに促され、口を開いた。

 

「コードネーム『氷刃』、モニカ。よろしく」

 

 面倒くさそうな感じで名乗られた。

 少女たち全員が名乗り終えると、「次はお前だな」とクラウスが挨拶を促された。

 

 一人一人、これから共に過ごすメンバーの顔を眺めながらオレは、重たい口を開いた。

 

「えー……えっと、オレの名前はアヤトです。えー、コードネームとか特にありません。えー、皆と仲良くなれるように頑張りたいです」

 

 

「「「「「「「「…………」」」」」」」」

 

 反応が薄い。

 

「え、えっと……パチパチパチパチ、よろしくお願いしますねアヤト君。一緒に仲良くなっていきましょう」

 

 リリィに滅茶苦茶気を遣われた。

 失敗した。

 確信する。オレは多分、良くてコミュ障、悪くて根暗そうな奴だと認識されたに違いない。

 

「ちょ、ちょっと待て。お前、コードネームが無いってどういう意味だ?」

 

 ジビアが睨みを利かせて聞いてきた。

 

「どういう意味もなにもそのまんまの意味だが…………」

「…………確認だが養成機関の成績教えろ。くだらん噓つくなよ」

 

 こっちに近づいてきて刺すような鋭い視線を向けてくる。引き締まった身体つきも相まって、中々に威圧的だ。

 

「成績以前に…オレは養成学校とかに通っていない。そこにいるクラウスという男に捕まるまでスパイになる訓練も受けていないんだ」

 

「「「「「「「え!?」」」」」」」

 

 この反応……まさかクラウスの奴話してないのか?

 

「おいこら、くだらん噓つくなって言っただろッ」

「彼が言ってることは本当だ。彼は今までスパイの訓練を受けたことがない新人だ」

 

 殴り掛かって来そうなジビアを止めるようにクラウスが説明する。

 

「一ヶ月後の不可能任務に彼も参加する」

 

「噓でしょ…」

「不可能任務に素人を参加させるとか正気?」

「俺様、このままだと全滅だと思います」

「やっぱり、自分達は捨て駒なんすね」

 

 殆どが絶望に満ちた表情をしている。そんな彼女たちにクラウスは「安心しろ」と告げる。

 

「確かに彼は素人だが吞み込みが早い。一ヶ月の間に僕が指導すればすぐにお前たちに追い付くだろう」

 

 いや無理だろ。

 

「その証拠に、お前たちが開けられなかった南京錠を、彼はここに着くまでに僅か数分で開けたぞ」

 

「「「「「「「え!?」」」」」」」

 

 え?

 

 全員が信じられないものを見るような目でオレを見てくる。

 

 というか待てよ。お前たちが開けられなかった南京錠?

 

「あの、クラウスさん」

「なんだ改まって」

「さっき車の中で他のメンバーは一分でできたって聞いたが?」

「ああ、あれか。あれは噓だ」

「殴っていいか?」

 




アニメでのクラウスとジビアの声の人がよう実のあのキャラクターなのでずっと前から考えていました。
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