ようこそスパイの教室へ   作:嫉妬憤怒強欲

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スパイの訓練生の中に一人一般人を入れた時の反応を考えました。


それもこれも全部クラウスが悪い

「殴っていいか?」

「さて、新人の紹介が終わったところでお前たちに言う事がある」

「スルーするな」

 

 オレを置いてクラウスは少女たちと会話を進めていく。

 

「僕の説明不足でお前たちに誤解をさせたようだ。すまなかった」

 

 なんか少女たちに対して謝罪の言葉を述べ出したが悪びれる様子がない。

 

「まずはその勘違いを正しておこう―――お前たちは捨て駒ではない。僕が自ら集めた極上のメンバーだ」

 

 ん?

 

「で、でもっすよ…………不可能任務は一流のスパイでも死亡率が9割と聞いたっす。養成学校で落ちこぼれだった自分達が挑んでも死ぬだけじゃ…………」

 

 落ちこぼれ?

 

「だから僕がいる。僕は一流なんて低い次元じゃない。世界最強のスパイだ。全員で生きて不可能任務を達成させる」

 

 話の流れから察するに、このメンバーで不可能任務に挑むのはこれが初めてのようだ。さらにサラが言った「養成学校で落ちこぼれだった自分達」という言葉………。

 

「そして、お前たちを高める教育方法は既に思いついている――――僕を倒せ」

「「「「「「「は?」」」」」」」

「僕に『降参』と言わせてみせろ。いかなる手段を用いてもいい。全員で作戦を練り、一ヶ月の間に僕を打ち倒せ」

 

 いや、それ教えるとは言わないだろ。駄目だコイツ。

 

「話は以上だ。アヤト、お前の部屋に案内する。ついてこい」

「……わかった。流石に疲れたから少し休ませてくれ」

 

 よし、隙を見て逃げよう。

 

 

♢♦♢

 

 

 クラウスとアヤトがいなくなった後、広間にて七人の少女たちは話し合っていた。

 

「えっと……なにあれ?」

「おそらく実戦形式なのでしょう。弱みを握る。拘束をする。家族や恋人を人質に取る。スパイの世界ではターゲットを操り、篭絡し、支配することが求められます。その訓練かと」

 

 皆が困惑する中、『愛娘』のグレーテが自分なりの考察を説明する。

 

「けどさ、いかなる手段を用いていいって言ってたよね?実戦らしくていいけどさ。なんというか――――」

「ああ、あのクラウスって野郎、完全にアタシ等を舐めてるだろ」

「だね。しかも素人なんかを入れるから正気を疑うよ」

 

 『百鬼』のジビアが苛立たし気に呟いた言葉に『氷刃』のモニカが賛同を示す。

 

「で、でもあの南京錠を数分で開けたってことは、実は凄い人じゃないんすか?」

「俺様もそう思います」

「そんなのマグレに決まってるだろ」

「そうね。影が薄くて人畜無害な感じでいかにも普通の人間みたいだったわ。顔は及第点だったけど」

「いや顔は関係ないでしょ」

 

 『草原』のサラと『忘我』のアネットのアヤトに対する意見に、ジビアと『夢語』のティアは否定的だった。 

 自分達は落ちこぼれだったとはいえ、何年もスパイ養成学校で努力してきた。それなのに自分達にできなかったことをスパイになる訓練を受けていない一般人が数分でやり遂げたという事実を簡単に認めることができなかったのだ。

 

「え、えっと皆……先生のことだからなにか考えて――――」

「こうなったら見せつけてやりましょう!私達の実力をっ!力ずくで十分よ。全員で襲いかかりましょう!」

「「「「「「おー!」」」」」」

 

 『花園』のリリィが宥めようとするも皆の耳には届かず、全員での強襲が決まった。

 

 

 

 数分後。

 

「…………さて、この訓練方法に異論は?」

「「「「「「「…………いえ、ありません」」」」」」」

 

 自室にいるクラウスを強襲するも、全員見事に返り討ちにされて床の上でのびていた。

 

「そうか。次はもっと頭を使うように」

 

 そう言って自室から出ようとするクラウスがそうだとドアノブに掛けようとしていた手を止める。

 

「お前達に一つルールを追加する」

「ルール、ですか?」

「アヤトが外出する際は暇な奴が同伴、或いは遠くから監視するように」

「え?」

 

 クラウスが告げた追加ルールの内容に、リリィはガバッと顔を上げる。

 

「また、彼が逃げ出そうとする場合はそれの阻止、駄目な場合は僕を呼べ」

「えっと…どういう意味でしょうか?」

「言葉通りだが?」

「あの、意図がわからなくてですね」

「ああ、そういうことか。ついさっき彼が隙をついて逃げ出そうとしていたから睡眠薬で眠らせた」

「え、ええ…………」

「逃げたいなら逃がしてやればいいだろ。素人がいたところで返って邪魔だ」

「そもそもなんで不可能任務に一般人を連れて行くわけ?」

 

 ジビアとモニカも顔を上げてクラウスに問い質す。

 

「ふむ、あの説明だけでは不十分だったか…………ではこう言おう。彼をただの素人だと思わない方がいい。ある不可能任務で僕は彼に出会った。訳あって彼と衝突したが流石の僕もかなり死ぬかと思った」

「「「「「「「!?」」」」」」」

「彼の能力がどこまでかは把握していないが、僕は確信した。彼が加われば不可能任務の達成率が飛躍的に上がる、と。僕から言えるのはそれだけだ。それじゃあ頼んだぞ」

 

 そう言い残し、クラウスは今度こそ自室から出た。

 

 

「……今の話本当っすかね?」

 

 部屋に取り残された少女たちはゆっくりと立ち上がる。

 

「流石に冗談だろ、あたしらが全員でかかってもこのざまなんだぞ」

「でも噓をつくメリットがないっすよ」

「確かに………凄腕のスパイだとという説明なら納得しますのに」

 

 全員で頭を捻らせるが、答えが浮かばない。

 

「………ちょっと本人に聞いてみます?」

 

 

♢♦♢

 

 

「…………知らない天井だ」

 

 あてがわれた部屋と思しき場所のベッドの上でオレは目を覚ました。

 隙を見て逃げようとした瞬間、クラウスがオレの口元にハンカチを押しつけてからの記憶がない。

 どうやらあのハンカチにクロロホルム系の睡眠薬を染み込ませていて、それで眠らされたようだ。

 窓のない部屋の周囲を見回した後、廊下へ出て窓から外の様子を見るとすっかり日が暮れていた。夕焼けの光が廊下を赤く染めている。

 

「――あっ、アヤト君起きたんですね」

 

 黄昏の空を眺めていると、廊下の角からリリィが出てきてオレに声をかけてきた。リリィは対面した時とは違い、宗教学校の制服を着ている。

 

「ああ、どこかの誰かさんのおかげでぐっすり眠れた」

「あ、あははは……災難でしたね。でもちょうどよかったです。晩御飯ができたので呼びに来ました」

 

 そういえば、こっちに来るまでの間何も食べてなかったな。

 

「そうか。わざわざ悪いな」

「いえいえお気になさらず。なにせ私は頼れる『灯』のリーダーですから!」

 

 えっへんと得意げな顔で胸を張る。その時ゆさっと揺れる瞬間を見逃さなかったがそれより気になることがある、

 

「『灯』ってここのスパイチームの名前か?」

「そうですよ。先生から聞いてないんですか?」

「先生?ああ、クラウスのことか。ここに来るまでの間にスパイの情報戦についてや不可能任務の意味についてあれから聞かされたが、肝心なことはまだだったな」

「そうだったんですね。それじゃあ食事の時に簡単に説明しますね」

「助かるよ」

 

 リリィに案内されて食堂に到着する。既に他の6人もいてテーブルに座っている。

 食堂に入った途端に6人の視線がオレに集まった。視線が痛い。ジビアなんてオレを睨んでいるし。

 

「ささ、どうぞどうぞ」

 

 サラの左隣の開いた席に座るようにリリィに促されたので席に着いた。オレの左隣の開いた席にリリィが座る。

 

「さてと、それではいただきましょうか」

「ああ」

 

 目の前の皿に乗っている料理にフォークで取って口に運ぶ。

 

 おぉ……!これは美味い。

 

「美味しそうに食べるっすね」

 

 黙々と食べているとサラから声をかけられる。

 

「そりゃ誰だって美味しいと思うさ」

「そんなに美味しいっすか?」

「ここに来る前に今まで口にしていた物の百万倍美味い」

「そんな大げさな」

「い、今までいったい何食べてたんですか?」

「人間に必要な栄養素を重視するだけで味なんて二の次の固形物」

「えぇ…………」

 

 オレの真面目な解答にサラやリリィだけでなく他のメンバーも若干引いた様子を見せた。

 

「……まあそれよりこれ誰が作ったんだ?」

「私達ですよ。女スパイ達として鍛えられたので一通り家事ができます。あっ、ところでアヤト君は料理できますか?」

「さあ、やったことないな。できるかどうかやってみないと分からない」

「あっ、じゃあ空いた時間に練習でもしますか?」

「……そうだな。やるだけやってみる」

 

 さすがに男のオレだけ料理しないとなると浮いてしまうしな。

 

「ところで、アヤト君はいくつなんですか?」

「生まれた日付から計算して………15歳だな」

「「「「「「「えっ!?」」」」」」」

 

 年齢を正直に答えただけなのに皆驚いた。

 

「どうした?」

「えっと…てっきり17歳くらいだと思ってたんですが、自分と同い年だったんすね」

 

 つまりサラも15歳なのか。小動物みたいな感じだったから年下かと思った。

 ちなみに女性陣の年齢順は、一番上からティアとグレーテが18歳、リリィとジビアが17歳、モニカが16歳、サラが15歳、アネットが14歳とのことで、チームでオレは下から3番目の序列となる。とはいえそれで態度を変えるつもりはないため、リリィ達にはタメの口調で話すことにする。

 

 その後も食事しながらあれこれと質問されたり、逆にこっちから質問したりを続けて情報を集めた。

 共和国中に何百人とスカウトが存在し、見込みのある子供をスパイ養成学校に通わせる。そして、未熟なスパイは邪悪と言わんばかりに容赦なくふるいにかける。養成学校は四半期ごとに厳しい試験を設けて卒業者の数を絞る。

 そして、クラウスが選んだこの七人全員、それぞれの養成学校で落ちこぼれとみなされていたようだ。一人だけ「ボクはわざと手を抜いていただけ」と認めなかったが。

 

 前途多難だ。

 

「ところで先生から聞いたんですけど………その、先生を追い詰めたって本当ですか?」

 

 ある程度話したところで、リリィが本題と言わんばかりに話を切り出した。

 

「………本当だったら、どうする?」

「え、えっとですね……よかったら先生を倒すのを手伝って――――」

「おいリリィ!少しはプライドを持て!」

 

 目を泳がせるリリィの言葉を遮るように、ジビアが大声を上げる。

 

「やっぱりあたしは反対だ!こんな奴をチームに入れるなんて!」

「ちょっ、ジビアちゃん!?」

 

 ジビアはガタッと立ち上がり、ずかずかとオレのところまで来手指を指してきた。

 

「いいかよく聞けよこの根暗野郎!あの男がお前を推してるみたいだけどな、こっちとらこれまで落ちこぼれと馬鹿にされようが何年も養成学校で自分を鍛えてきたんだ!人の苦労を知らないお前がしゃしゃり出られちゃ迷惑なんだよ!」

 

 そうだろうと思った。オレはあまり歓迎されていない。

 何人か顔に出さないようにしていたが、ジビアだけ凄くわかりやすかった。

 

 ここで変に揉めるのは得策じゃないな。

 

「ジビアちゃん、それは言い過ぎじゃ――」

「確かにそうかもな。オレがいてもチームの輪を乱すだけだな」

「ちょっ、アヤト君!?」

「正直すぐにでも逃げ出したいところだが、オレにも任務に参加しないといけない事情がある。だからそっちの邪魔しないように気をつけておくよ」

「なんだよその事情って」

「事情は事情だ」

 

 そろそろいいな。あまり喋り過ぎるとボロが出る。それにオレがここに長居しすぎると辛そうな奴がいるみたいだし。

 

「それじゃあ失礼する」

 

 食べ終えた皿を手に持って椅子から立ち上がる。

 

「ごちそうさま。皿はオレが洗っておく」

「あっ、ちょっと」

 

 リリィが声をかけるが、オレは気にかけずに流しがあるキッチンの方に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ……大天才リリィちゃんの仲良くなってちゃっかり話を聞こう作戦が失敗です…………」

「改めて思ったけど作戦名ダサ過ぎない?」

 

 アヤトがいなくなって、灯のリーダーであるリリィはしょんぼりする。

 

「結局なにも分からずじまいだったね」

「そうね。先生の話が本当かどうか確認できなかったもの。事実がどうであれ協力するとも思えないし」

「俺様、ジビアの姉貴が悪いと思います」

「そうですよジビアちゃん。あれは流石に酷いですよ」

「あたしは正直に言ったまでだよ」

「でもこのままだとアヤト君抜きで先生を倒すことになるんですよ」

「あたしらで倒せばいい話だろ」

「まぁまぁ、先輩方落ち着いてください」

 

 ジビアとリリィとの会話がヒートアップする前に、サラが二人を宥める。

 

「あの人がどうであれ、わたくしたちがやることは変わりません。襲撃を繰り返しつつそちらの方にも少し気を配りましょう」

 

 グレーテは議論を進める方へと、会話を誘導する。

 

 

 

 

 

♢♦♢

 

「………これで最後か」

 

 休日の朝、大量の粗大ごみが入ったゴミ袋の口を閉める。

 オレにあてがわれた部屋を調べると思っていたよりもゴミが大量に隠れていて、仕方なく今日までの数日間掃除に徹することになった。

 天井裏もやったため蜘蛛の巣やら埃やらで服やら頭が汚れてしまい、汗と混じって気持ち悪い。

 

「アヤトか。どうした?そんなに汚れて」

 

 ゴミ置き場にゴミ袋を置いているとクラウスから声をかけられた。

 

「ちょっと部屋の大掃除をしてた」

「……そうか。シャワーでも浴びるといい」

 

 クラウスに案内されて2番のシャワー室を借りることになった。

 クラウスの方は朝にシャワーを浴びる習慣のようで、隣にあるもう一つの1番のシャワー室を使っている。

 この数日間少女たちの奇襲を受けているというのに、図太いというかなんというか。

 まあ、オレにとってはどうでもいい話か。

 

 

 脱衣所で服を脱ぎ、一糸纏わぬ姿でシャワーヘッドの水栓をまわす。

 泡立てた石鹼で身体についた汚れと汗を洗い流しながら、頭から全身へと流れるお湯の温かさに包まれるのを堪能する。

 誰かに監視されることもなく、時間の縛りもなくこういうことができるのは悪くな――――

 

 バタン

 

「は?」

 

 突然シャワー室の照明が消えた。それと同時に窓が黒い天幕で覆われて室内が完全に真っ暗になる。

 さらに脱衣所の方のドアがバタンと開き、複数の影が素早く入ってきた。

 暗がりに目が慣れていない隙を狙っての奇襲か。

 

 

 オレは咄嗟に手に持っていた石鹼を襲撃者の方に投げつける。

 

「あいたっ!?」

 

 一人に見事に命中したようだ。他の奴を巻き込んで倒れたようで、そのまま濡れた浴場の床を滑った音が聞こえる。

 

「ちょ、どこ触ってんだよ!?」

「変なところ触らないで!」

「わ、私じゃないですよ!」

 

 ん?聞き覚えのある声が……。

 

 

 嫌な予感がした時に、カーテンが開いて光が差し込む。

 

「なにやってんだよ………」

 

 奇襲に来たのはティア、リリィ、ジビアの三人だった。

 

 三人の方もオレだと気付いた途端、ジビアは「げっ」と嫌そうな顔を、リリィは固まってしまい、ティアの方は「まぁ」とオレの目線よりも下の方を見ていた。

 

 女子三人の前で全裸は流石にマズい。すぐにオレは近くに置いていたタオルを取り、下を隠すように腰に巻く。

 

 

「な、なんでお前がいんだよ!?」

「シャワーを浴びに。クラウスなら隣の1番にいるぞ」

「それなら知ってるわ。ここが1番の筈よ」

「は?そんなはずはない。ここは2番――――」

 

 ちょっと待てよ。確かシャワー室のドアに番号が刻まれたドアプレートが付いていた。あのプレートは簡単に着脱が可能なタイプだったな。

 

「ひょっとして、ドアプレートがすり替えられたてたり?」

「「あっ」」

 

 オレが2番に入った後にドアプレートを入れ替えたということは……あいつ、オレを身代わりにしたな。

 

「くっそ!行けると思ったのに!」

 

 奇襲が完全に失敗したことにジビアは悔しさを隠さない。

 

「なあ…………それよりさっさと出てくれないか?オレまだ身体を拭いていないし」

「あら?恥ずかしいの?」

 

 さっきからオレの身体を観察するように見ているティアがからかってくる。

 

「当たり前だ。好きで人に裸を見せる趣味はない」

「こ、こっちだってお前の裸を見る趣味なんかねえよ!ほら行くぞ!」

 

 ジビアに引っ張られてリリィ(放心状態)とティアもシャワー室から出ていった。

 

「はぁ……」

 

 思わず重いため息が出る。

 最悪だ。

 ここは女子が七人もいる屋敷だからそういう事故が起こらないように注意していたんだが…とんでもない形で起こってしまった。

 ただでさえ関係がギクシャクしてるのに余計悪化したに違いない。

 

 それもこれも全部クラウスが悪い。

 





三人は見てしまった。
オリ主のあれを
………嫌な事故だったね
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