若くて元気なサルカズだけど、ロドスの清掃員になりてェ

1 / 1
サルカズだけど、ロドスの清掃員になりてェ

 

 

「ええと……希望するお仕事が『清掃員』ですか……?」

 若きCEOの反応に、サルカズの青年はマズかったかと、思わずツバをのむ。

「あ、ダメってわけじゃありません。ただ……ロドスの清掃は──クロージャさんによって、ほぼ自動化されて、現時点で十分、ロドスは清潔感が保たれているんですよね……」

 ロドスのCEOこと、アーミヤは、サルカズの青年をフォローするも、フォローしきれていない。

 青年のごくわずかな希望を潰すように、アーミヤがさらに追い討ちをかける。

「あと、監視カメラが完全配備されているので、ポイ捨ても見逃しません! すぐにポイ捨て犯が特定されて、即注意がいくようになっています」

 これは、もうダメだと内心、絶望するサルカズの青年。

 ──その流れを変える者が、一人。

「え……ドクター……?」

 人さし指でシッ、とアーミヤを口止めした、怪しい出で立ちで、ドクターと呼ばれた人物が前に出る。

「……清掃員って、なにかの暗喩じゃないよね?」

「ち、違いますっ! 普通の、お掃除です!」

「そうか。なら、よかった」

 なにを言われるのかと、身構えていたサルカズの青年の答えに対し、ホッとした様子のドクター。

 そしてなにやら、アーミヤにコソコソと耳打ちをしている。

 突然、わざとらしく、アーミヤがパンッ! と手をたたいた。

「ああっ、そうでした! 各オペレーターの部屋の清掃を業者に頼もうとしていたのですが……。鉱石病や種族を理由に、清掃を断られていまして……困っていたところだったんです。

 もし、よろしければ……ロドス全体の清掃ではなく。オペレーターの部屋に入る許可を出しますので、清掃していただけませんか?」

「え……!? いいんですか? ぜひ、やらせてください! ありがとうございます!」

 感激して喜ぶサルカズの青年に、アーミヤとドクターは生暖かい目を向ける。

 

 ──サルカズの青年が去ったあと、青年について、二人は、話し合っていた。

「あのー、ドクター……。言われた通りにしましたが、ウソをついてよかったんでしょうか? 業者の都合じゃなくて、本当は……オペレーター本人が、定期的な部屋の清掃を頑なに嫌がっていたのが事実なんですが……」

「うん、いいよ。大丈夫」

「……『サルカズ』という名に縛られず、色んな方がいることは知っていた、つもりなんですが……。まさか、清掃員を希望するサルカズがいるとは、思いませんでした。私もまだまだですね」

 アーミヤの内省に、ドクターはうんうんとうなずく。

 ロドスを背負う彼女が見つめるのは、扉のその向こう──。

(あの方はもしかして……これまでに、たくさんの人を殺めてきたのかもしれません。それで、清掃員になることを願ったのなら……私は……応援しますよ)

 アーミヤの心の声を、聞くことができたのならば、サルカズの青年は、違う! と反論したことだろう。

「それじゃあ、制服と掃除用具は、いま倉庫にあるもので間に合うので……。サービスの告知をオペレーターのみなさんにしないと、ですね。本当に困っている方には、きっと、便利なサービスになるはずです」

 アーミヤの頭に、数人のオペレーターの顔がポンポンと浮かび、苦笑いする。

 ひきつったアーミヤの笑みに、ドクターは重く深く、うなずいた。

 

 

 サルカズの青年──清掃員の初、お仕事。

 記念すべき、一人目の利用者は──

 

「……私はキララ。って、メールで何度もやりとりしたから、大丈夫か」

 キララ曰く、使えるもんは使っとく。ということで、清掃サービスを、いの一番に希望していたのだが──。

 価値観が違う非オタに宝物を捨てられたらたまらない、とキララに信用してもらうまで、時間がかかったのであった。

「じゃあ、私は部屋の中でゲームしてるから、よろしくね」

「はい……って、普通は、清掃中は部屋の外に出てもらうのでは……!?」

「えー……でも、ゲームしたいから」

 ゴネだしたキララに、サルカズの青年は、せっかくのお客様だし、しかたがないかと受け入れた。

 キララもまた、青年相手にワガママが通ったことを、当たり前のように受け入れている。

「……キララさん、もしかして……最初から、そのつもりでした?」

「うん、そうだよ」

 クスッと笑うと、キララはゲーミングチェアに体をあずけて、ゲーム画面と向き合う。

「じゃあ、がんばってー」

 スチャッ、とゲーム用のゴーグルをつけるキララ。

(あれ……モニターがついてるのに、ゴーグルもつけるんだ……。ゲームのことはまだよく、わかんないな……。もしかして、複数のゲームを同時プレイしてる……? まさか……。おっと、掃除に集中しないと……)

 言いたいことを言い終えたはずのキララが、ゲーミングチェアを回転させ、こちら側に振り返る。

「あのさ、このサービスって、ゴハンは……」

「作りません」

「ふーん、了解。じゃあ、注文するから、私の代わりに対応して、受け取っておいて」

「ええ……!?」

 ただでは済まさず、ちゃっかりしているキララに引き気味な、サルカズの青年。

 まあ、それくらいはいいかと、大人しく青年は流されてしまう。

「……掃除、始めまーす……」

「んー? なんか言った? あと、ゲーム中は、なるべく話しかけないでね」

「……はい」

 サルカズの青年が聞いたウワサでは、ほかのオペレーターはキララよりももっと、クセ者ぞろいだという。

 こんなんで大丈夫かな、と。サルカズの青年は先の見えない不安に襲われながら、キララの部屋の掃除を始めるのであった。

 ちなみに、キララの部屋の汚れ具合は、女子以上男未満とぼかしておく。

 

「──ふぅ、あとは、キララさんがプレイ真っ最中のゲーム機周辺だけだな……」

 事前に、捨てていいものと、ダメなものはすでに、キララからみっちり、教えてもらっている。

 たまりにたまった受信メールが、メモ代わりだ。

「キララさん、キララさーん? そこを掃除したいんですが……。……ダメだ、聞こえてない。というより……無視、されてるかも……?」

 青年が不安になったところで、ちょうど、キララがゲームをしながら、親指だけをあげて、グッジョブのサインを青年に送る。

「あっ、大丈夫……ってこと? 本当は、よけてほしいんだけど……まあ、やるしかないか」

 キララの意図──否、ワガママを察して、青年はゲーム機周辺の掃除に取りかかる。

「意外と……なんとかなるもんだな」

 キララが座っているゲーミングチェア以外は、ほぼほぼ、キレイに掃除することができた。

 キララのゲーム愛には困ったものだが、ほかにも、似たようなことを希望するオペレーターがいるかもしれないし、いい予行練習になったと青年は最終的に納得していた。

「キララさん、だいたい、終わりましたよ。あと、料理も受け取ってあります」

「……ん、もう終わったの? というか、食事が来たなら、早く教えてよ」

「いや、掃除中に食べるのは衛生的にどうかと……」

「それを決めるのは、私。ま、ありがと。お疲れ様」

 サルカズの青年はなんとなく、さっと作業帽を外して、キララに頭を下げる。

「こちらこそ、掃除をさせていただき、ありがとうございました」

 それらをボーッと眺める、キララ。

「……あの、どうかしましたか?」

 なにか粗相をしたかと、サルカズの青年は焦る。

「……その頭を見たら、本当にサルカズなんだなぁ、って実感が湧いてさ。正直、疑ってたんだよね。サルカズと清掃員のイメージが結びつかなくて。サルカズって、戦闘職向きの種族だと思ってたけど……。

 今回で、けっこう……イメージが変わったかも……」

「そ、そうですか……」

 どのように反応すればいいか、青年にはわからない。

 けれど、遠回しに褒められていると──理解できた。

「悪い意味じゃないよ。これからも、がんばってね。あと、また頼む……気がする」

「ありがとうございます!!」

「……大げさすぎ」

 感情表現が控えめなキララだが、ほのかに照れていることがこちらに伝わってくる。

 サルカズの青年が部屋を出ようとしたとき、いままで合わなかった目で、キララがじっと青年を見つめた。

「……その、余計なお世話かもしれないけど……。このサービスについて『良かった』って、ほかのオペレーターにも広めておくから……」

「えっ、ありがとうございます! キララさん!」

「うわ……まっすぐすぎて、まぶしい……」

 比喩であるはずなのに、キララがまぶしげに目を細める。

 青年はキララのそんな様子に気付かず、部屋の外に一歩、出た。

「じゃあ、これで失礼します。キララさん、ご利用、ありがとうございました」

「う、うん……じゃあね……」

 名残惜しくも、キララと別れ、サルカズの青年が、仕事の達成感を味わおうとした、そのとき。

 ──猛スピードで目の前の扉がしまり、ロックがかかる。

「あ、キララさん……ゲーム、好きだもんね……」

 キララの中で、青年とゲームを天秤にかけたら、ゲームが圧勝するだろう。キララなら、ゲームを優先して当然だと、青年は自身をなぐさめる。

 

 一方、扉の裏では──。

「あー……やっちまった……。いきなり、扉を閉めたから、絶対、嫌な思いさせちゃったよ……。まるで、掃除が終わったら、用済み、みたいな。……時間を巻き戻したい……でも、できない……。いま、開けちゃう……? いや、それは変でしょ……うわー……」

 扉を閉めたのは、とっさの行動であり、無意識であった。あのまま、サルカズの青年と話していたら、余計なことを口走ってしまいそうで。

「それに……サルカズのイメージがどうのこうの、ってすごい偏見……差別だよね。あー……私のバカ……アホ……コミュ障……」

 思いつきで、思ったことをそのまま喋っていただけなのだが、いざ会話を振り返ってみると、穴だらけで、キララの頭に後悔の二文字がグルグルしている。

「あと、サービスのこと、広めるって……うう……。なんで、そんなこと言っちゃったんだろう……。私には難易度、高すぎ……」

 一生懸命で、バカ正直そうなサルカズの青年の顔が、ふとよぎる。

「もし、人気になっちゃったら、予約がとりづらくなっちゃうのかな……。それは嫌かも……。面倒そうだし……」

 決して、青年を独占しておきたいわけではないと、キララはそう思う。

 そのはず──だ。

「こんなときは……ゲームだ! ゲームで、忘れちゃおう……!」

 思いのほか、キララはゲームに熱中し、青年と顔を合わせるまで、後悔は記憶の彼方に飛んでいった──。




続かない。裏設定も書かない。
読んでくださり、ありがとうございました。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。