「ええと……希望するお仕事が『清掃員』ですか……?」
若きCEOの反応に、サルカズの青年はマズかったかと、思わずツバをのむ。
「あ、ダメってわけじゃありません。ただ……ロドスの清掃は──クロージャさんによって、ほぼ自動化されて、現時点で十分、ロドスは清潔感が保たれているんですよね……」
ロドスのCEOこと、アーミヤは、サルカズの青年をフォローするも、フォローしきれていない。
青年のごくわずかな希望を潰すように、アーミヤがさらに追い討ちをかける。
「あと、監視カメラが完全配備されているので、ポイ捨ても見逃しません! すぐにポイ捨て犯が特定されて、即注意がいくようになっています」
これは、もうダメだと内心、絶望するサルカズの青年。
──その流れを変える者が、一人。
「え……ドクター……?」
人さし指でシッ、とアーミヤを口止めした、怪しい出で立ちで、ドクターと呼ばれた人物が前に出る。
「……清掃員って、なにかの暗喩じゃないよね?」
「ち、違いますっ! 普通の、お掃除です!」
「そうか。なら、よかった」
なにを言われるのかと、身構えていたサルカズの青年の答えに対し、ホッとした様子のドクター。
そしてなにやら、アーミヤにコソコソと耳打ちをしている。
突然、わざとらしく、アーミヤがパンッ! と手をたたいた。
「ああっ、そうでした! 各オペレーターの部屋の清掃を業者に頼もうとしていたのですが……。鉱石病や種族を理由に、清掃を断られていまして……困っていたところだったんです。
もし、よろしければ……ロドス全体の清掃ではなく。オペレーターの部屋に入る許可を出しますので、清掃していただけませんか?」
「え……!? いいんですか? ぜひ、やらせてください! ありがとうございます!」
感激して喜ぶサルカズの青年に、アーミヤとドクターは生暖かい目を向ける。
──サルカズの青年が去ったあと、青年について、二人は、話し合っていた。
「あのー、ドクター……。言われた通りにしましたが、ウソをついてよかったんでしょうか? 業者の都合じゃなくて、本当は……オペレーター本人が、定期的な部屋の清掃を頑なに嫌がっていたのが事実なんですが……」
「うん、いいよ。大丈夫」
「……『サルカズ』という名に縛られず、色んな方がいることは知っていた、つもりなんですが……。まさか、清掃員を希望するサルカズがいるとは、思いませんでした。私もまだまだですね」
アーミヤの内省に、ドクターはうんうんとうなずく。
ロドスを背負う彼女が見つめるのは、扉のその向こう──。
(あの方はもしかして……これまでに、たくさんの人を殺めてきたのかもしれません。それで、清掃員になることを願ったのなら……私は……応援しますよ)
アーミヤの心の声を、聞くことができたのならば、サルカズの青年は、違う! と反論したことだろう。
「それじゃあ、制服と掃除用具は、いま倉庫にあるもので間に合うので……。サービスの告知をオペレーターのみなさんにしないと、ですね。本当に困っている方には、きっと、便利なサービスになるはずです」
アーミヤの頭に、数人のオペレーターの顔がポンポンと浮かび、苦笑いする。
ひきつったアーミヤの笑みに、ドクターは重く深く、うなずいた。
サルカズの青年──清掃員の初、お仕事。
記念すべき、一人目の利用者は──
「……私はキララ。って、メールで何度もやりとりしたから、大丈夫か」
キララ曰く、使えるもんは使っとく。ということで、清掃サービスを、いの一番に希望していたのだが──。
価値観が違う非オタに宝物を捨てられたらたまらない、とキララに信用してもらうまで、時間がかかったのであった。
「じゃあ、私は部屋の中でゲームしてるから、よろしくね」
「はい……って、普通は、清掃中は部屋の外に出てもらうのでは……!?」
「えー……でも、ゲームしたいから」
ゴネだしたキララに、サルカズの青年は、せっかくのお客様だし、しかたがないかと受け入れた。
キララもまた、青年相手にワガママが通ったことを、当たり前のように受け入れている。
「……キララさん、もしかして……最初から、そのつもりでした?」
「うん、そうだよ」
クスッと笑うと、キララはゲーミングチェアに体をあずけて、ゲーム画面と向き合う。
「じゃあ、がんばってー」
スチャッ、とゲーム用のゴーグルをつけるキララ。
(あれ……モニターがついてるのに、ゴーグルもつけるんだ……。ゲームのことはまだよく、わかんないな……。もしかして、複数のゲームを同時プレイしてる……? まさか……。おっと、掃除に集中しないと……)
言いたいことを言い終えたはずのキララが、ゲーミングチェアを回転させ、こちら側に振り返る。
「あのさ、このサービスって、ゴハンは……」
「作りません」
「ふーん、了解。じゃあ、注文するから、私の代わりに対応して、受け取っておいて」
「ええ……!?」
ただでは済まさず、ちゃっかりしているキララに引き気味な、サルカズの青年。
まあ、それくらいはいいかと、大人しく青年は流されてしまう。
「……掃除、始めまーす……」
「んー? なんか言った? あと、ゲーム中は、なるべく話しかけないでね」
「……はい」
サルカズの青年が聞いたウワサでは、ほかのオペレーターはキララよりももっと、クセ者ぞろいだという。
こんなんで大丈夫かな、と。サルカズの青年は先の見えない不安に襲われながら、キララの部屋の掃除を始めるのであった。
ちなみに、キララの部屋の汚れ具合は、女子以上男未満とぼかしておく。
「──ふぅ、あとは、キララさんがプレイ真っ最中のゲーム機周辺だけだな……」
事前に、捨てていいものと、ダメなものはすでに、キララからみっちり、教えてもらっている。
たまりにたまった受信メールが、メモ代わりだ。
「キララさん、キララさーん? そこを掃除したいんですが……。……ダメだ、聞こえてない。というより……無視、されてるかも……?」
青年が不安になったところで、ちょうど、キララがゲームをしながら、親指だけをあげて、グッジョブのサインを青年に送る。
「あっ、大丈夫……ってこと? 本当は、よけてほしいんだけど……まあ、やるしかないか」
キララの意図──否、ワガママを察して、青年はゲーム機周辺の掃除に取りかかる。
「意外と……なんとかなるもんだな」
キララが座っているゲーミングチェア以外は、ほぼほぼ、キレイに掃除することができた。
キララのゲーム愛には困ったものだが、ほかにも、似たようなことを希望するオペレーターがいるかもしれないし、いい予行練習になったと青年は最終的に納得していた。
「キララさん、だいたい、終わりましたよ。あと、料理も受け取ってあります」
「……ん、もう終わったの? というか、食事が来たなら、早く教えてよ」
「いや、掃除中に食べるのは衛生的にどうかと……」
「それを決めるのは、私。ま、ありがと。お疲れ様」
サルカズの青年はなんとなく、さっと作業帽を外して、キララに頭を下げる。
「こちらこそ、掃除をさせていただき、ありがとうございました」
それらをボーッと眺める、キララ。
「……あの、どうかしましたか?」
なにか粗相をしたかと、サルカズの青年は焦る。
「……その頭を見たら、本当にサルカズなんだなぁ、って実感が湧いてさ。正直、疑ってたんだよね。サルカズと清掃員のイメージが結びつかなくて。サルカズって、戦闘職向きの種族だと思ってたけど……。
今回で、けっこう……イメージが変わったかも……」
「そ、そうですか……」
どのように反応すればいいか、青年にはわからない。
けれど、遠回しに褒められていると──理解できた。
「悪い意味じゃないよ。これからも、がんばってね。あと、また頼む……気がする」
「ありがとうございます!!」
「……大げさすぎ」
感情表現が控えめなキララだが、ほのかに照れていることがこちらに伝わってくる。
サルカズの青年が部屋を出ようとしたとき、いままで合わなかった目で、キララがじっと青年を見つめた。
「……その、余計なお世話かもしれないけど……。このサービスについて『良かった』って、ほかのオペレーターにも広めておくから……」
「えっ、ありがとうございます! キララさん!」
「うわ……まっすぐすぎて、まぶしい……」
比喩であるはずなのに、キララがまぶしげに目を細める。
青年はキララのそんな様子に気付かず、部屋の外に一歩、出た。
「じゃあ、これで失礼します。キララさん、ご利用、ありがとうございました」
「う、うん……じゃあね……」
名残惜しくも、キララと別れ、サルカズの青年が、仕事の達成感を味わおうとした、そのとき。
──猛スピードで目の前の扉がしまり、ロックがかかる。
「あ、キララさん……ゲーム、好きだもんね……」
キララの中で、青年とゲームを天秤にかけたら、ゲームが圧勝するだろう。キララなら、ゲームを優先して当然だと、青年は自身をなぐさめる。
一方、扉の裏では──。
「あー……やっちまった……。いきなり、扉を閉めたから、絶対、嫌な思いさせちゃったよ……。まるで、掃除が終わったら、用済み、みたいな。……時間を巻き戻したい……でも、できない……。いま、開けちゃう……? いや、それは変でしょ……うわー……」
扉を閉めたのは、とっさの行動であり、無意識であった。あのまま、サルカズの青年と話していたら、余計なことを口走ってしまいそうで。
「それに……サルカズのイメージがどうのこうの、ってすごい偏見……差別だよね。あー……私のバカ……アホ……コミュ障……」
思いつきで、思ったことをそのまま喋っていただけなのだが、いざ会話を振り返ってみると、穴だらけで、キララの頭に後悔の二文字がグルグルしている。
「あと、サービスのこと、広めるって……うう……。なんで、そんなこと言っちゃったんだろう……。私には難易度、高すぎ……」
一生懸命で、バカ正直そうなサルカズの青年の顔が、ふとよぎる。
「もし、人気になっちゃったら、予約がとりづらくなっちゃうのかな……。それは嫌かも……。面倒そうだし……」
決して、青年を独占しておきたいわけではないと、キララはそう思う。
そのはず──だ。
「こんなときは……ゲームだ! ゲームで、忘れちゃおう……!」
思いのほか、キララはゲームに熱中し、青年と顔を合わせるまで、後悔は記憶の彼方に飛んでいった──。
続かない。裏設定も書かない。
読んでくださり、ありがとうございました。