僕から送る、異世界冒険譚   作:宮之阪

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書きだめなどはないので、不定期更新となります。


始まりはいつも唐突に

 

頭蓋骨が弾けた。

 

脳髄に閃光が走る。

 

記憶が巡る。これは、俗に言う走馬燈だろうか。

ボクであろう人物の主観的記憶をあやふやな足取りで辿っていく。

 

これは覚えてもいない最初の記憶。 オムツを膨らませ、泣き喚いていた頃だろう。これが自分だと思うと少し顔が熱くなる気がする。

 きっとこの時は同じだった。

これは小学校に入学した時だろうか、まだまだ幼かった。よく女の子と遊んでいたからか、男の子にはからかわれていたなぁ。

ズレが起きた、まだ直せたハズだった。

中学校では孤独になった。どこで間違えた。

  ズレは亀裂になった。もう手遅れだ、間違えた。

 

高校では虐げられていた。誰もがボクを拒絶した。

何故だったか。そんなことは大した問題じゃない、いつかは起きていた。ただそれだけの事。

 

問題はボクの異端さだった。

『天才は凡人に殺される』

誰の言葉だったかもう残っていないが、たしか何処ぞの国の有名な心理学者だったか。

 あまり人に興味がなかったボクだったがその言葉だけは何故か覚えていた。

 

 昔から何事も少しだけ人より出来た。

 だから嫌われた。

 だから除かれた。

 

 ボクはただ、()()()いたかっただけなのに。

 

 そんな言葉が産まれると同時に消えていく。

 

そこからの景色は曖昧だ、ボクはそこから目を逸らす。

 

記憶を見ているうちに少しづつ、ボクは僕になっていく。鮮明に。

疑問が生まれる、一体僕に何が起きた。

 

僕は、ボクは。誰だ。 

 

前頭葉が震える。考えがまとまらない。 

 

そうして、脳裏が疑問で埋まった頃、もう水彩画の印象絵のようにボヤけて溶けてしまった記憶に幕が下りる。

 

そういえば走馬灯は、死ぬ時に流れるんだったっけ…?

急に恐怖が襲う。記憶が終わった僕は死ぬのか?

結局疑問は解けるどころか、新たな疑問が生まれる始末。

 

夢を見ているかのような、足がつかない感覚さえ今は手放し難くて。

死という曖昧なものへの、恐怖から今はただ目を背けたくて。

 

そんな考えが融け出していく。銀の太陽に熔かされる。

ドロドロに熔けてしまった意識が浮上する…。

 

 

 

 ――――――――――――――――――

 

 瞼越しに光が刺す。熱が眼球を焼く。

 体はまるで羊水に浮かぶ赤子のように揺蕩う。

 いや、これは違う!まるで、では無い!

 

 体は水に浮いていた。緩やかに流されている。

 遠くで水の落ちる音が耳を打つ。

 これが旅館のウォーターベッドだ、なんてオチだったらどれだけ良かったことか。

 

恐る恐る瞼を開けると雲ひとつない空に煌々と輝く太陽が二つあった。

 

「あー、これ………。異世界転生か。」

 

 長らく声を出していなかった気がする喉だったが呆れ返るような独り言はさほどつかえずにスルリと出た。

 状況がそれ以外考えられないのだからどうしようもない。

 独りでライトノベルを読んでいた時間は無駄じゃなかったみたいだ。

 あまり受け入れたくない現実だが、そもそもこれからどうするかの方が肝心だ。

 

「どうしよっかなぁ。この状況」

 

 人は窮地に立つとかえって冷静になると聞くが、自分がその立場になるとは、聞いた時には思いもよらなかった。

 手足を動かしてみるが水底にはつかない。流れは徐々に加速する。僕一人の運動能力じゃ、この自然の力には到底逆らえない。

 

 気の所為だろうか、足元からと、前世ではテレビ越しに聞いた知識しかない音が聞こえる。

 目覚まし代わりの水の音はすぐそこまで迫ってきている。

 気の所為ということにしておきたい。

 

 これはマズイ。

 

 散々自分が天才だの、異端だの、と考えていたがそんな僕であろうとこんな状況の想定なんかしていない。

 

 対処出来ない。このまま流されていくと気のせいでは済まない音量になってきている滝の音がこれでもかと現実を押し付けてくる。

 

 ハッキリ言ってこれは死ぬ。

 言わずともわかる事だが。

 

 そう考えると意識が覚める前のことを思い出す。

 自分が自分であると保証できず、恐ろしく孤独で、何処にも頼ることが出来ない不安定にも程がある感覚。(今も水に浮いている以上そうなのだが)

 

 最も死に近い感覚だったと僕の僅かながらの記憶が物語るが、その感覚より恐らくもっと惨い死に方になるのは想像に難くない。

 

 何とかしてこの状況から生き延びねば。

 

そう考えると、不思議なことに体に僅かながら力がみなぎる。

 まぁ、今も尚加速している水の流れには勝てないのだが。

 

 首が動かない、手足はぎこちない。脳みそは回らない。

 目覚めたばかりだからだろうか。

 

「うーん、もしかして、これは無理かな」

 

せっかく生き延びる決心がついたはいいがこの状況から脱出するなんて言う難問の解決法など、異世界ならば美人で素敵なエルフなんかに不思議な力で助けてもらうか、奇跡的な逆転の発想が突如降ってくることくらいだろう。

 しかし、現実は無慈悲なのは充分知っている。

 

 首が動かない以上、周りは見れない。天才イケメンな僕の脳みそは滝の瀑声に揺らされ、意識がとどまっているのがそもそも奇跡のようなものだ。

 つまり……答えは……。

 

 そこまで考えていると足元が水から飛び出た。

 すぐさまぎこちない全ての筋肉に脳みそから全力の命令を出す。防御姿勢だ。

 

 そのまま川の流れで加速した身体は射出される。

 数秒の浮遊感を味わいつつ、前回とは違い、心構えができた状態で意識を失う。

 

 ――――――――――――――――――

 

 パチパチと弾ける音が微かに聞こえる。

 近くで木を削ぐ音が心を安らげる。

 

 僕は死んだはずでは……?

 

 だが、実際に感覚はある。身体が土の冷たさを伝える。

 

 起き上がろうとすると、全身がまるで42.195kmを全力疾走した後のような筋肉痛が走り、苦悶の声が腹の底から這い出してくる。

 

「おや、ようやく目を覚ましたんですね、お身体は大丈夫ですか?」

 

 目を開けるとそこには金髪ロングの耳が尖ったいかにもエルフといった女性が弓を背中に担ぎ、手元で薪を削ぎながら、こちらを見ていた。

 

 問題の答えは現実は無慈悲である。

 しかし、異世界では慈悲に溢れてるらしい。

 ということでいいようだ。

 

 焚き火から放たれる熱がそばに横たわる僕の体を温めている、あたりは既に真っ暗で、僕の記憶の最後から夜まで記憶の連続性を失っていたようだ。

 なんと言えばいいか頭がまとまらず、少し硬直していると彼女はおもむろに近づいてくると、

 

「まだ目覚めたばかりだろう、意識は明瞭か?」

などと言いながら顔をぶつ。

 

 あまりにも急でまたも硬直すると返しの右が飛んでくる。これは俗に言う往復ビンタだ。

「ちょ……まっ……」

 止めようとして声を出そうとしても口を開こうとした瞬間に頬に衝撃が走るため、口を閉じる。

 

 そんなやり取りを繰り返していると頬がパンパンに腫れてしまった、頭が2倍に膨れたんじゃないかと震えている。

 まさか目覚めた時より状況が悪くなるなんて。

 

 さすがに彼女も僕が目覚めていることに気がついたようで一切の悪気もない声で

「よかった、意識がはっきりとしてきたみたいだな。まったく驚いたぞ、あの滝壺で休憩しようと考えていなかったら。」

 

 

 目が覚めて、初めて見た瞬間は彼女をまるで天使かなにかのように思っていたが、人の頭部を二倍に腫れさせてなお、欠片も謝罪の意思がないのを見るにどうやら本当は悪魔だったようだ。よく見ると顔は整っているが何となく悪魔チックだ。鼻が高いとことか、耳がとがってるとか、きっと三又の槍なんか持ってるはずだ。

 これでは助けてくれたことに感謝すべきか、急な暴力により、顔の面積が倍になったことに感謝すればいいのか分からなくなってしまう。もちろん後者は皮肉の意だが。

  

 迷いに迷った末、まずは助けてくれたことに感謝しようと口を開いた途端、彼女はそんなことを気にした様子もなくその整った凛々しい顔立ちをすこし穏やかに緩めながら言葉をかけてくる。

 

「いや、それにしてもこの大魔境という2つ名で恐れられている、アウディ大森林を東と西で分断する大河を裸1つで流れる人族なんてものもいるんだな。エルフとして生を受けて幾年経つが、まだまだ世界は果てしないな!」

 

「そもそもアウディ大森林内の魔物全ての種族が、外の世界で特別撃退対象として指定されているのは知っているとは思うが、それに加え、あらゆる魔力を吸収し栄養へと還元する植物が至る所に生えているため、危険生命体がその過酷すぎる環境に淘汰されている。たしか、ここに入るためには探索貢献証として水晶以上ないと不可能なはずだと記憶しているが。」

「まぁ、キミも水晶以上なら知っていると思うがお互いの認識のすり合わせは大切だからな。」

 

 ……?

 何を言っているか分からない。

 正しくは分かりたくないだが。

 今重要なことを沢山言っていた気がするが、それどころでは無い。

 この残酷な現実から目を逸らしたくて、未だにこの土地の恐ろしさを心なしか眼を輝かせてに語る彼女から目を離し、空を見ると暗闇の中に煌々と輝く星達がこちらを見つめる。

 その中心には三連星と化した白銀の月が回っているのを見て腹の底に溜めておいた言葉が堪えきれず言葉が出る。

 

「異世界……だなぁ……」

 

 

 

 




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