僕から送る、異世界冒険譚   作:宮之阪

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ご了承ください。


異世界ではどうやら僕に都合が良すぎるみたいです

 

「異世界…?」

 

 先程まで意気揚々と話していたエルフはその白磁器のような肌に皺を作り怪訝そうに聞き返してくる。

 しまったな、僕にとってはここは異世界だが彼女にとっては此処こそが現実だ。

 そもそも助けて貰った感謝の言葉すら言えていない。

 

「いや、なんでもないんだ!まだ目が覚めたばかりで意識が朦朧としてて…。

 それよりも!多分僕は滝壺に落ちて、助けてくれたのは君だよね!本当にありがとう!!!」

 

 勢いに任せて口先を動かすと思っていたよりスムーズに動いた。

 まぁ、嘘はついてないんだ。先程のビンタで意識が揺さぶられたのは事実だし…。

 そういえば顔の痛みが引いてる気がするな。

 色んなことが起こりすぎて顔の神経が麻痺したかな。

 

「あぁ、確かに私が助けたが、私は君を水際から引き上げただけだ。私はエルフの氏族、シェリー=ブランシェ。人族にエルフの文化の理解は求めない、気軽にシェリーと呼んでくれ。」

「さて、アウディ大森林で揺蕩っていた貴公の名はなんという!」

 

 彼女が自身の名前を語る際先程までは感じなかった覇気のようなものを感じ取ると同時に何故か体が震えた。

 脊髄の奥から響くこの感覚は一体なんだろうか…。

 恐らくだが、彼女の威風堂々たる姿から発せられた覇気のせいではない気がする。

 まぁ僕のことだ、今さっきも天使と悪魔を見間違えてしまったし信用は無いが。

 

 どうやら彼女、シェリーさんの話から察するに身元不明の人間が気軽に話しかけてはいけない存在だったみたいだ。

 恐らくだがシェリーさんの立場が街にいる貴族だったら、明日には首だけを晒されて、それ以外は残ってないんじゃないか? 

どうやらこの世界では死亡フラグを立てるのはゲームなんかの数十倍容易いことみたいだ。

 

 それにしても僕の名前か、僕が聞きたい。なんて返したら殺されるだろうか…

 しかし、名前を思い出そうとしても頭痛が襲う。そもそも川で流される以前の記憶が不明瞭だ。現代日本の知識は思い出せる当たり、前世…?の僕は日本に住んでいたらしい。

 記憶喪失でもしたのか、知識はあるが記憶が無い。これ以上に言えることがないのだから仕方がないだろう。正直に伝えてみるか。

 

「信じられないとは思うんだけど…、僕には川に流される以前の記憶がなくて…。」

 

「ふむ、噂に聞く堕ち人と言うやつか。アウディ大森林を全裸で泳ぐやつがそうだったとはな…」

 

 驚いたのか翡翠色の瞳孔が少し開く。

 クールビューティ然とした凛々しい顔立ちだと思っていたが意外と感情が素直に出るようだ。

 

 ………ん?

 待てよ、聞き逃せないワードがあったぞ。()()で泳いでいた…?

 つまり今の僕は…!?

 

 あまりにも唐突な出来事が連続して襲ってきていたため自分のことに対して疎かになっていたが、慌てて下腹部を見ると、粗い生地で編まれた腰巻のようなものをつけていた。

 

「その腰巻か、探索者である以上こういった不測の事態は想定されるし、それに対する多少の対策も持っているものだ。こんな場所で起きるとは思っていなかったがな。

 さて、記憶が無いんだったなキミは。差し支え無ければ私が名付けてもよろしいだろうか…?」

 

 名付けか…自分の意識がしっかりしてる時に名前をつけられるなんて中々ないんじゃないだろうか。

 特にこんな顔の整った美人に付けられるなんてそれなんてご褒美?って感じだ。

 しかも少し照れているような表情で伝えてくるのもGoodだな。

 理論的に考えても名付け親が身元がしっかりとしてる人なら証明しやすいはずだ。

 つまり合理的だしこの話に乗らない訳にはいかないな。決してシェリーさんの美貌に釣られてこの話を受けたわけじゃないことをここに記す。

 

「その顔を見るに私の案を受け入れてくれるようだな。

 そうだな………、アインなんでどうだろうか。

 私の住んでいた地域での言葉で未知という意味を持つ言葉なんだが。」

 

 シェリーさんは安堵したかのように名前を伝えてくる。

 

 彼女からの提案を聞いて浮かれているのはシェリーさんにはお見通しのようだ。僕の顔もどうやらかなり素直なようだった。

 

それにしても【アイン】か、僕とは思えない程のかっこよさ、しかも意味は未知だって?カッコよすぎるだろ。Xって名乗るのもありかもな…。

 

「シェリーさん、ありがとうございます!これから僕のことはアインって呼んでくださいね!」

 

「どうやら気に入ってくれたみたいだな…良かった。

 さてとだ、早速だがアイン。街に戻ったら婚儀とするが、お前は人族方式とエルフ方式どっちが好みだ?あー、記憶が無いんだったな。まぁそこら辺はまた街に着いてからでも遅くは無いな。」

 

 彼女はまるで未来が輝かしいものだとして話をしてくる。

 ん…????????

 シェリーさんの言ってることがよく分からなかったので聞き返す。

 

「えーと、シェリーさんは誰と結婚するんですか?もしかして婚約者さんが街にいらっしゃるとか?」

 

「おい、しっかりしてくれ。私とアインだ。

 当然だろう?エルフの血族の掟は有名だろうに。

 まさかそれすら忘れているのか…?

 冗談だったらタダじゃ済まないぞ?」

 

 呆れた顔で僕とシェリーさんが結婚するという冗談を挟んでくる。

最後の脅し文句で股座が少し湿った気がする。

 

 ??????????

 

 聞けば聞くほど疑問が増えるなんて初めての経験だ。

 彼女は一体何を言っているんだ。

 

「その顔は本当に知らなさそうだな。

 堕ち人の記憶喪失度合いは人によって違うと聞くがアインの場合、かなり深刻そうだな。」

 

 僕がまるで宇宙を眺める猫のような表情になっていることを見たシェリーさんは察してくれたようだ。

 

「いいか?エルフは妖精樹の森の奥地で住んでいるが、女性しかいない。

 そのため、成長すると人族との交流を求め街へと出てくるんだ。方法はエルフ一人ひとり違うがな。」

「私の場合はそれが探索者だったという事だな。

 まぁ、それは置いておいてだ。」

「そして気に入った男の人族と契りを交わす。

 これが今行った名づけだ。名付けをすることでこの男は私のモノだというマーキングと言ってもいい。

 人族ではエルフには気をつけろと魂レベルで刻み込まれているはずだがアインにはそれは無いようだな。堕ち人だということは私からすれば好都合だ。」

 

 シェリーさんは少しジト目でこちらにエルフの掟とやらを伝えてくる。最後の方の声が消え気味で木の葉の擦れる音で聞こえなかったが。

 しかし、美人のジト目もご褒美だな。

 

 

 しかし話を聞けば聞くほどソレ、ナンテ、エロゲ?って感じだな。

 

 【速報】エルフはエロフだった。

 

 僕がもし現代に戻ったらこんなタイトルで掲示板を作ろうと決心した。

 

 まぁそんな冗談はさておき、あの名づけが契りだったとは思いもよらなかった。

 まぁ考えてみれば日本でも古代から名前には色々と意味があったみたいだしそういう類のものかと思えば納得がいく。

 だが、納得のいかないことがある。

 彼女との結婚だ。エルフの掟をそもそも僕は知らなかったし納得いくわけが無い。

 まぁ、別に?顔整ってるし?スタイルもよく見たら整っていて長身のイケメン美人だし?性格も今の感じかなり丁寧な人だから嫌じゃないんですけどね?

 

 それと納得がいくかという話はイコールでは無い。

 

「いや、ちょっと待ってよ!掟があることなんて知らなかった…。

 シェリーさんも僕のような訳の分からない男と結婚なんて無理な話じゃない!?」

 

「は?何を言っているんだ?

 キミが何者かなんて関係ないだろう。私がアインのことを欲しくなっただけだ。まさか…私との婚約が嫌…だなんて言うわけないよな?そうだよな?そうだと言え!!!」

 

 シェリーさんは僕の言葉に重ねるように言葉を吐く。

 必死に

 不安げに

 怒りながら

 様々な感情が詰まった怒涛の言葉を並べる。

 翡翠色の瞳には本気だと書いてあるかのような真剣さが写っている

 

 うーん、これは俗に言う重い女ってやつか?参ったねこりゃ。隙あればナイフで刺されるかもしんないね。

 冗談はさておいて、本当に驚いた。こんなに好かれる理由は無いはずだが…。

 

 現時点での僕のことを客観視すると、

 記憶は無い。

 服は下着のみ(目の前の美人が着けてくれた)

 技能は何もなし

 住所不定無職

 顔はもし前世の知識のままなら多少は優れていると言える範囲だが、エルフのお姉さんと比べればミジンコと並べても分からないレベルでしかない。

 

 なにこれ?変質者ですか?

 そう言われていないのが奇跡だと言える状況だ。

 

 仮に僕が彼女を助けた立場ならともかく反対の立場で好かれるなんてどれだけ都合がいいんだって話しだ。

 一応考えられるのはこの世界の男の顔がAPP3レベルだってことだけどなんとなくだがそうじゃない気がしている。

 しかし、彼女は何か勘違いしているようだからまずそこの訂正からだな。

 

「シェリーさん。落ち着いて!僕はあなたとの結婚を否定してるわけじゃない!

 まだお互いのことを何も知らないからまだ早いって言ってるんだ。」

 

「それは私と結婚しないという意味では無いのか…?」

 

 瞳を瞬かせ、いつの間にか家出していたハイライトを呼び戻したシェリーさんは少し落ち着いた様子で質問をする。

 

「僕も貴女のような「シェリー」シェリーさんのような美人と結婚できるなんて普通ならすぐさま承諾するよ。

 でも、僕は普通ならあるはずの記憶が全くない。それどころか何が出来て何ができないのかすら分からない。だから、シェリーさんさえ都合が良ければこれからの僕のそばにいて(サポートして)欲しい。」

 

 貴女と呼ぶと彼女はすぐさまシェリーと呼べと訂正してくるがさすがに命の恩人を呼び捨てになんてできない。

 

 僕の話を聞くうちに冷徹な視線で僕を貫いていた瞳は溶けてきて体も心なしかくねくねと照れ出した。

 

 ん…?まるでプロポーズみたいなことを僕、言ってしまったんじゃないか…。

 

「い、いや!ちょっと待って!今の言い方は語弊が…」

 

「いや、皆まで言うな…!!アインの気持ちはよく分かった!!確かにその通りだ、私としたことが少し流行りすぎたな。誓いは立てたがすぐさま行う必要も無いな。

 私は探索者である以上時間の融通がつけやすい。

 

 これからアインのそばに常にいよう。

 病める時も健やかなる時もあらゆる時をキミに捧げ、艱難辛苦すら打ち破る槍としてキミを守ろう。

 パートナーとして

 妻として

 槍として

 盾として

 君を支えよう。」

 

 誤解を解くための言葉は途中でシェリーさんに打ち切られた。

 こうかは ないようだ…。

 頭の中にそんなテキストメッセージが流れてくる。

 まさか冒険を始める前に、ヤンデレ彼女が出来て終わる危機が迫ってくるなんて、これが恋愛ゲームならクソゲーオブザイヤー受賞は確実だろうな。

 

「異世界って本当にこれでいいのか…?」

 ストレスから出た言葉は銀の月明かりに溶けて行った。 

 

  都合って良すぎると悪くなるんだなぁ…

そう思ったアウディ大森林の夜だった。

 




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