ようやく来たか、異世界
シェリーさんに何故か分からないけど気に入られた僕だったが、やはり理由を聞いておきたい。
意味もわからず嫌われるよりも意味もわからず好かれた方が怖いことを知った。
「あのー、シェリーさん?
なんで僕のことをそんなに気に入ったんですかぁ…?」
正直シェリーさんはめちゃくちゃスタイルがよく顔が整ってる、言わば高嶺の花だ。
そんな人に数十分そばにいるだけで気にいられるなんてあまりにもふざけた話だろう。
しかしだ、シェリーさんは服装も礼服のような、しっかりとした生地に包まれているのだが、その生地越しにもわかる筋肉量を持っている。
それだけの筋肉をつけておいてスタイルが崩れないのは一種の魔法だろうか…?
しかも身長も僕より遥かにとまでは行かないまでも、ある程度上だ、しかもエルフと来ている。
少し機嫌を損ねるだけで、明日の朝日は拝めないのはすぐに分かることだ。
「それはキミの魔力が尋常ではなく心地がいいからだ。
精霊たちも集っている事だしな、しかも堕ち人かつ人族でも若い方だろう?アインは。都合がいいんだ私にとって。」
質問しか出来なくなっちまうよ…。
そう言いたくなるほどの情報量がシェリーさんの一言で生まれる。
えーと、目が覚めて頭も回り出した事だし今の状況を少し整理してみよう。
まず僕は記憶をなくして、シェリーさんによるとめちゃくちゃヤバいらしいアウディ大森林の川で流されてた。
そして、滝に飲み込まれたけど美人のエルフ、シェリーさんが助けてくれた。
どうやら僕はこの世界では堕ち人と呼ばれる存在で、シェリーさんからすると魔力が心地がいい…?らしい。
名前を忘れてるからとシェリーさんに付けてもらったが、どうやらエルフにとってほぼほぼ婚約指輪と同じ扱いのようで、それに加えて私を捨てたら自殺しますと同意義の誓いを立てられた。
………。よし!脳内クイズ番組の時間だ!
問題です!
Q エルフで可愛くてスタイル良くてイケメン美女で、強そう。でも地雷の彼女が急にできた場合君たちはどうする?
A 地雷解除して付き合う一択だろ!JK!(常識的に考えて)
僕の中でのクイズ番組で結論が出たため、シェリーさんが僕を殺そうとしない限り、僕もシェリーさんに全力を持って付き合うことにしよう。
「分かりました!ところでシェリーさん、さっきから会話で出てる堕ち人ってなんですか?
話の流れとしてどうやら僕がその堕ち人らしいですけど…。」
笑顔を向けると少し照れながら答えてくれるシェリーさん。
「あぁ…、そうだったな、記憶が無いというのは不便だな…。
堕ち人というのはここ数十年で至るところで呼ばれてる名でな、
曰くどこからともなく出現し、呪われた黒い眼と髪を持ち、不幸とともに数世代先の技術をもたらす者。
だったかな…。 かなり前に聞いた話だから細部は曖昧だが、確かこんな感じの噂が上級では流行っていた。
アインは外見に加え、川に流されているところからしか記憶が無いなんてまさに堕ち人そのものだろう?
私もこの話は隣で探索者達が話しているところに聞き耳を立てていたからな、間違いは無いと思う…多分。」
シェリーさんの言葉の切れ際は不安そうで怪しかった。
しかし、その話はかなり信じられる。ライトノベルで言うところの転生者や転移者なんてのがこの世界では堕ち人と呼ばれているんだろう。
数世代先の知識ってのはきっと他の堕ち人達は現代の知識を齎したのか…?
不幸を呼ぶとは不味いんじゃないか…。
話を聞いて不安そうにしている僕にシェリーさんは優しくなだめてくれる。
「そう怖がるなアイン。大丈夫、私が傍についてる。
白雷のシェリーの名は伊達じゃない!」
何そのカッコいい2つ名!?!?!?
誇らしげに胸を張るシェリーさんだが、胸も大切だが、今はそれどころでは無い。
白雷!?!?余りにもかっこよすぎて、僕自身が雷に打たれたようだ。
ようやく異世界要素が来たようだな…待ちわびたぜ…。
不幸を呼ぶだとかで不安になった気持ちはそんな厨二心をくすぐるワードでどこかへ吹き飛んだ。
「あれ、言ってなかったか?私は探索者ギルドでも上から数えて3つ目に属する魔石級の探索者だ。そら、2つ名くらい持ってるさ。」
魔石級ってこと以外知らないことしかないよ!?
シェリーさんは薄々は気づいていたが見た目のクールビューティ加減とは裏腹にどうやらかなりのポンコツのようだった。
1つ文句を言わせてくれ…。
属性盛りすぎじゃね!?!?!?
クールビューティポンコツイケメンヤンデレ女エルフ騎士!?
情報過多すぎてオーバーフローしちゃいそうだよぉ…ふぇぇ…。
思考停止してるとそれに気づいたのか、スっと先程まで焚き火に当てていた干し肉のようなものをナイフで切り分けると金属製のコップに入ったお湯と共にこちらに差し出してくる。
気も遣えるいい女〜〜〜〜〜!
差し出すと同時に僕のすぐ側まで寄ってきていたことは見なかったことにしよう。
脳みそが停止しても視界から入る情報は止まらない。
焚き火から放たれる黄金色の光に照らされた彼女の髪は絹よりも美しく、黄金よりも輝いていた。
僕はこの光景が世界で最も美しいものだと死んだ脳ながらも確信した。
前世のジャーキーより少し塩辛い干し肉を冷えたからだに染み渡るお湯で流し込み、食い終わるとオーバーフローで死んでいた脳みそが少しづつ再起動を果たす。
言いたいことは沢山あるが、まずはこれだろう。これしかない。
「シェリーさん!!!僕に魔法は使えますか!?!?」
「うぉっ、そんな声も出せるんだな、アイン。
それにしても魔法か、使えるぞ。」
異世界に来たら魔法だろう!!!!!!!異論は認めん!!!!!
そんな僕の気持ちはさておき、すんなりと使えると断言してくれたシェリーさんの魔法に関する説明が始まった。
「おそらく魔法についても知らないはずだな?
そもそも、魔法と呼ばれるものは三種類ある、1つ目は基礎魔術。これは魔力さえあれば誰でも使うことが出来る名前の通り基礎的な魔法だ。」
例えば、という言葉と同時にシェリーさんが指を鳴らすと僕の目の前に水を薄く円状に張ったものが現れた。
「これは水鏡、他にも焚き火の火種や、濡れた際に乾かすための熱風みたいな生活において欠かせないのがこの、基礎魔術だ。」
まぁ戦闘にも使えるがなと言いもう一度指を鳴らすとバスケットボール大の火の玉がシェリーさんの指先に生まれる。
「さっき堕ち人の話をしたが、アイン。キミはまだ自分の顔すら見てないよな?目が覚めた時からあたりは暗かったしな。」
そう言われればその通りだ。僕は目が覚めてから自分の顔すら見ていない。
早速焚き火の灯りを上手く使い自分の顔を見てみると、知識の中にある自分の顔とそっくりそのままだ。
「確認できたみたいだな。さて、ここからの話が魔法においては大切だ。
2つ目が固有魔術。これもその名の通り、人によって違う効果を発揮する魔法だ。
私だと、この固有魔法は2つ名にもある白雷だ。」
そういうとシェリーさんは腰に指していた先程まで干し肉を切り分けるのに使っていたナイフを手に取ると白い雷をその刀身に纏わせる。
「私は生憎魔法が得意ではなくてな、魔力で言えばエルフの平均からかなり落ちる。人族と比べればそれでも多い方だが。」
そう言いながらナイフをその辺に生えている木に当てると一瞬バチバチッという音が耳を劈く。まるで金属の溶接のようだ。その次の瞬間には周りの木に比べれば細い木だったが、ナイフを当てた所々か、その木丸々炭と化していた。
……………。
「あの、ちょっといいですか…?」
「なんだ?アイン。恥ずかしいが魔法は本当に得意じゃなくてな、この程度しかできないんだ。済まない…
だが!私は武技には自信があるんだ!キミは安心してくれ!」
「いや、そうじゃなくて…。
シェリーさん。ここ何処でしたっけ…?
「アウディ大森林だろ?禁忌区域だな!
普通の人族だと入って数秒で骨すら残らんなんて言われるが言い過ぎだ。数分は体の形は残るだろう!」
「アウディ大森林ってそんなやばいのかよ…じゃなくて!
アウディ大森林がなんでその、禁忌区画…?に指定されてるんですか?」
「アイン。禁忌区画ではなく禁忌区域だな、ここの魔物はこの魔力を拡散、吸収する植物たちに囲まれて育つから魔法の通りが悪くてな。固有魔術に関しては本当に人によるが、基礎魔術に関してはほぼほぼ効果がないと言えるだろう。」
「あの…シェリーさんはいま、魔力を拡散、吸収する植物を触れただけで炭にしたんですよ…?」
「…?ああ!そうだな!私の氏族だと私が1番魔法が苦手でな…得意なやつならもっと広範囲を跡形もなく消し炭にできたと思うんだが…。」
「それにしてもどうした…?アイン、私は確かに魔法は苦手だが、得意だったヤツすらお前のためなら屠れるよ。
心配しないでくれ…大丈夫だ。」
急にハイライトが死ぬなぁ!いまさっきまでの朗らかさとのギャップでくしゃみしちゃうよ!
「人族にもこんくらいのことはできるの?シェリーさん。」
「うーん、私もあまり詳しくは無いが、同じ魔石級だとアウディ大森林に入ってるヤツは見かけないからな…。この前素材として納品したのも魔術師たちのサンドバックとして使われてたくらいだし、恐らくできない、できるにしてもひと握りになるんじゃないか…?」
「やっぱりシェリーさんはポンコツだなぁ!
でもそこも可愛いってズルいぞ!」
勢い余って言葉になっていたようだ。でも事実なんだから仕方がない。
「可愛っ…!!! 急に褒めるんじゃない!照れてしまうだろう!」
「
アインの頼みなら答えたいが、やはりハジメテはもう少しロマンティックにだな…。」
エルフはやっぱりエロフじゃないか!!!!!
異世界って最高!!!!!!!
そうはしゃいでいると流石に疲れが来たのか急な眠気が体を襲う。
瞼がゆっくりと落ちてきているのに逆らっていると、その様子に気づいたらしく声をかけてくる。
「おや、眠たくなってきたみたいだね。
確かにもう月も頭上を越している。
硬い地面じゃあ寝にくいだろう、おいで。」
少し砕けた口調になったシェリーさんの言われるがままに近づくと柔らかなモノに頭をうずめる。
「人族で言うところのひざまくら…だったかな?
あまりエルフはスキンシップが多くなくてね、これからはそういうことも勉強するべきだろうか…?
それにしても今日はアインと出会うことが出来たし、善い日だったな。」
僕に語り掛けているのかそれとも独り言なのか、それすら判断できず疲れ果てた意識は暗闇へと落ちていく…。
そうして僕の異世界一日目が過ぎていった。
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ここまで読んでくださった方、ありがとうございます。