華麗なる悪女になりたいわ! ~愛され転生少女は、楽しい二度目の人生を送ります~   作:葉月秋水

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12 美酒

 

「あー、楽しかった! やってやったわね、みんな」

「ええ。とても痛快でした」

 

 目を細めるシエル。

 悪徳子爵であるエドワード・シャルリュスに完全勝利し、私たちは帰り道の馬車で勝利の美酒に酔っていた。

 

「またひとつ、世界が私のものに近づいたわ」

 

 優雅にグラスを揺らして、紫色のそれで喉を潤す。

 

 甘口のブドウジュースは、ワインに見た目がそっくりなこともあって、悪女っぽい飲み物として私が深く愛している逸品だ。

 

「そうですね。お見事でした」

 

 グラスを手に微笑むヴィンセント。

 飲んでいるのは私と同じブドウジュース。

 

 お酒を飲んでもいいと伝えたのだけど、ヴィンセントはエージェントとしての任務に必要な場合を除けば、いつ如何なる時もアルコールの類いは口にしないのだと言う。

 

『他の何よりも職務を優先する。それがプロフェッショナルとしてのあり方だと私は考えます』

 

 なんという素晴らしい職業意識。

 しかも、ヴィンセントは本物のエージェントではなく、それに憧れるファンの人でありながらここまで徹底して大人のごっこ遊びをしているのだ。

 

 フィクションの登場人物に強い憧れを持つ仲間として、なんて尊敬できる姿勢だろう。

 

 その上、今回も警戒心が強く慎重なことで知られるエドワード・シャルリュスを完璧に攻略してしまった。

 

『こちら、不正の証拠資料です。貯め込んでいた金塊も持ち出しておきました』

 

 そう報告されたときはほんとびっくりしてしまった。

 

 エージェントごっこを楽しんでもらえるように、それっぽく調査を指示していたけれど、まさか本当に見つけてきてしまうとは。

 

『でも、シャルリュス家の屋敷って魔術結界が何重にも張り巡らされてるって話じゃ』

『あのレベルの結界であれば、侵入する方法は何通りかあります』

『隠し金庫も普通見つけられないし、開けられないと思うんだけど』

『あの手の者が設置する隠し金庫には傾向がありますから。今回は絵画の裏という比較的一般的な隠し場所でした。金庫は特別製のものでしたが、私の技術なら数分で開けられます』

 

(す、すご……)

 

 さすがリュミオール家で最も仕事が出来る《優雅で完全なる執事》

 エージェントごっこの精度も規格外。

 

 なりきりの質感がすごすぎて、少し気を抜くと本物の凄腕エージェントなんじゃないかと思ってしまうくらいだ。

 

 さらに、シエルも彼の助手として立派な戦力になってくれている。

 

「本当に楽しかったです。侍女として働く中で平民だからといじめられて傷ついた心がすっと楽になるというか。何より、お腹を痛めて産んだミーティア様のためなら、私はどんなことでもがんばれるので」

 

 微笑むシエル。

 最後の方はよく聞こえなかったけれど、うれしそうな表情に私の胸もあたたかくなる。

 

「この調子でどんどん悪徳貴族をぶっ飛ばしてやるわよ」

「お任せ下さい」

「やってやりましょう」

 

 三人で笑い合う。

 なんだか、心の距離が縮まった気がする馬車の中だった。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 魔法国エルミアを支配する陰の最高組織、《三百人委員会》

 

 王室を超える力と財を持つこの組織の中で、リュミオール伯爵家当主ラヴェル・リュミオールは最高幹部の一人を務めていた。

 

 十三人いる最高幹部の中で、序列は十二番目。

 御三家と呼ばれる名門公爵家や財閥関係者も多く所属する中で、この順位は決して悪いものではないのだが、ラヴェル・リュミオールは現状に不満を感じていた。

 

 自分の能力と資質に見合うのはさらに上の立場。

 にもかかわらずこの序列に甘んじている原因は何か。

 

(出来損ないの娘と劣等種どもが私の足を引いている)

 

 魔法適性が人間のすべてを決定するという《三百人委員会》の思想。

 

 魔法適性を持たない劣等種が住むリネージュを領地として所有しているリュミオールの家は、組織の中で不利な立場にあるとラヴェルは考えていた。

 

 加えて、通常魔法の適性を持たずに生まれた五女の娘。

 

 持てるすべての力を尽くした行った隠蔽工作にもかかわらず、彼女が生活魔法以外使えない無能であることを《三百人委員会》の者たちは知っていた。

 

『我々にわからないことはありません。隠し事にはしない方が賢明だと思いますよ』

 

 組織内で序列三位に位置する公爵家当主――アレクシス・ローエングリンは言った。

 

 最高幹部の一人であるラヴェルでもその力の全容を掴みきれない巨大組織。

 

 だからこそラヴェルはさらに上の立場を欲したし、そこに近づくためにはどんなことでもした。

 

 自らの経歴に傷が付かないように娘を地下室に閉じ込めた。

 

 組織によって新種の生物兵器が開発され、試験運用の地を探していることがわかると、ためらいなくリネージュを差し出した。

 

 重篤な感染症を引き起こす生物兵器。

 

 自らの足を引く劣等種を処分しながら、組織の中での貢献度も上げることができる。

 

 表世界での体裁を保つために、出来損ないの娘も当地に送り込んだ。

 

 一族の恥を処理するのと同時に、娘を失いながら懸命に領地を守ろうとした当主として自らの価値も高めることができる。

 

 すべては彼が思い描いていた通りに進んでいた。

 

(これで足を引く無能どもを処理し、私はさらに高みに登ることができる)

 

 胸を焦がす希望。

 薄紙のように繊細なグラスを揺らして、ワインで喉を潤す。

 

 部下が報告のために入って来たのはそのときだった。

 

(領地が病におかされ憂いている姿を演じなければ)

 

 内心の喜びを隠し、傷ついている姿を演出する。

 

「報告が遅くなってしまい申し訳ありません。感染症が猛威を振るうリネージュで信頼できる情報を入手することが難しく時間がかかってしまいました」

「構わない。あまり良い知らせでもないだろうしな。この世は不条理と悲しみに満ちている」

 

 ラヴェルは深く息を吐いてから言う。

 

「リネージュはどうなっている?」

 

 部下は言った。

 

「ミーティア様がやりました……! リネージュの感染症を乗り越え、立ち直ろうとしている模様です」

「………………は?」

 

 

 

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