バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第101話 爆裂剣

 あたしはエリナリア。

 Bランク冒険者をやっている、18歳の女の子だ。

 

 自分で言うのもなんだけど、冒険者の中では強い方だと自負している。

『爆裂剣姫』なんて物騒な二つ名が勝手につけられるくらいには、強いらしい。

 

 そんなあたしでも、目の前のコイツは――

 

「わたし達だけで倒せるのかしらぁ……」

 

「それでも、やるしかないだろう」

 

 隣には、同じく異名持ち冒険者のクラッドさんと、あたしのパートナーであるリナリアが、あのワイバーンと対峙していた。

 

 

「ゴルォォォッ!!!」

 

 最上位飛竜(ワイバーン・ロード)……。

 

 そいつは普通のワイバーンよりも二回りは大きくて全身が赤く、背中や尾にトゲや角がいくつも並んだ見た目をしている。

 

 かつて、一頭で小国を一夜で滅ぼしてしまったなんていう逸話のある、Sランクの魔物だ。

 

 それがあと3体、結界の外でカナンちゃんらと戦っている。早めにこいつを仕留めて加勢に行きたいが……

 

「っ! 来るぞ!!」

 

 結界の天井付近でホバリングするヤツの口内に、恐ろしく高密度の炎の魔力が集束してゆく……

 

【炎球】……

 普通のワイバーンのものならば、そこまで警戒するものじゃあない。けれど最上位種のは――

 

 ワイバーンの口から小さな火の玉がひどく不気味にゆっくりと落ちてくる……。

 

「歌唱魔法〝水の防御結界(リフレクラウト)〟!!!」

 

 それと同時に、リナリアが即座に歌を紡いで、円形をした水の範囲結界を作り出した。

 

 次の瞬間。

 

 圧縮されて小さな小さな火の玉に押し込められていたエネルギーが、解放される。

 

「ぐっ!?」

 

 まばゆい光が溢れだし、結界越しにも関わらず五臓六腑を鈍器で同時に殴られたような爆音と衝撃があたし達を襲う。

 

 最初に撃ってきた爆発は、まだ様子見でしかなかったようだ。

 

 こんなの、いくらリナリアの結界でも……

 

「がっ……げほっげほっ」

 

「リナリアっ!!!」

 

 何とか辛うじて爆発を凌げたけど、その負担は全てリナリアの喉に行ってしまっていた。

 それだけ、今の攻撃はヤバかったのだ。

 

「げほっ……ま、まだいけるわぁ……」

 

「無理するなって!」

 

 たった一発防いだだけでこうなるなんて……。

 

 ヤツは天井付近に留まったまま、再び同じ攻撃をしようとしてきてる。

 クソ、もう一発防ぐなんてできそうにないぞ……!

 

 そもそも、あの高さにいられたら攻撃ができやしない……。

 

 と、あたしが歯噛みしていると

 

「させるものか! 〝風神飛燕〟!!」

 

 クラッドさんが振るった剣の軌跡から、真空の刃がワイバーンめがけて飛んでいった。

 

 クラッドさんは風魔法を飛ばす術式を扱えたのだった。

 

 真空の刃はワイバーンの口の中の火の玉まで届き、軽く爆ぜた。まだ魔力の圧縮がされていなかったのだろう。

 

「助かったよクラッドさん」

 

「どうも。しかし……」

 

 しかし、クラッドさんの攻撃ではワイバーンに傷を負わせる事は不可能だろう。

 

 飛竜(ワイバーン)の鱗……特に飛行中狙われやすい体の下側はとても硬く、下位種のものでも普通の剣すら通さない程なのだ。

 

 これは地上の敵からの攻撃を防ぐよう進化した結果だと言われている。

 それの最上位種の鱗ともなれば、術式版の上位魔弾さえ通さないだろう。

 

「けほっ……可能性があるとすれば、エリナの爆裂剣よねぇ」

 

「当てられたら……だね」

 

 最大出力にすれば能力(アビリティ)版の上位魔弾に匹敵する破壊力を誇る、火炎属性の爆裂剣。まさにあたしの切り札だ。

 

 だけど、これを空中のワイバーンに当てる手段が無い。

 一応あたしも風属性の炸裂魔法を使う事で擬似的に空中を飛べてりはするが、あまり制御は効かないし何より飛竜(ワイバーン)の飛行速度についていける訳がない。

 

 現状あたしは完全な役立たずだ。

 

 そもそも、仮に鱗の上から爆裂剣を当てられたとして、多少ダメージがあっても仕留めるまでには至らないだろう。

 

「どうすりゃいいんだ……」

 

 このままカナンちゃんらが戻ってくるまで耐えるか?

 

 いや、あの爆発する火球をあと一発でも撃たれたらおしまいだ。

 

 

「ゴルォッ!!」

 

 そうこうしていると、上空を飛び回るワイバーンから比較的弱めの火球が数発打ち込まれてきた。

 

 これくらいなら何とか、リナリアの結界に頼らなくても防げる。

 

 さっきクラッドさんが溜め最中の火球を斬ってくれたのが、ワイバーンに大爆発火球を撃たせづらくさせてるのだろう。

 

 剣の腹で打ち返してみるも、都合よくワイバーンに当たるはずもなし。

 

 クラッドさんは更に何発か風の刃を飛ばして攻撃を試みているが、やはり強固な鱗の前には意味を成していない。

 

「……飛竜(ワイバーン)の弱点を知っているか?」

 

「弱点? 背中側の鱗が比較的薄いって事?」

 

 そこに爆裂剣を入れられりゃ、正面から入れるより多少マシなダメージが通るだろうね。

 

「それもそうだが、もう一つある。〝逆鱗〟だ」

 

「逆鱗?」

 

「そう。いかに硬い鱗を持っていても、柔軟さが求められる関節までは包まれていない。肘や膝に当たる部分の裏側に翼の関節部分……そして、首の中心部分だ」

 

「!!」

 

 確かにそうだ。

 こちらへ火球を吐いてくる時、アイツは首を若干曲げている。そこに鱗の継ぎ目があるとしたら……!

 

「そこが〝逆鱗〟だ。ドラゴン系全般の弱点だがね。私も逆鱗や関節の裏を狙ってみているが、ことごとく避けられてしまっている」

 

「それなら、わたしの魔法で動きを一瞬でも止めたらいいのねぇ?」

 

「もう喉は大丈夫?」

 

「へーきよぉ?」

 

 リナリアの歌唱魔法なら、強力な重力魔法を再現できる。だが発動に時間がかかるし、効果範囲は広くない。

 

 ちなみに歌唱魔法は、特定の歌を歌う必要はない。「歌う」という動作が発動のトリガーになっているのだ。

 

 それはともかく。

 

 都合よくヤツがその範囲に入ってくれればいいが、そううまくはいかないだろう。

 

 ヤツは相も変わらず火球を投下しながら空中を我が物顔で飛び回っている。

 

 やっぱり、あたしが風炸裂魔法で一か八か行くしか……。

 

 飛行速度についていけやしないし、追い付けても攻撃できるかは別だ。

 いっそ小石か何かに炸裂魔法を込めて投げつけてみるか?

 

 あれこれ思案していると、足に小さくて柔らかいものがつんつんと触れてきた。

 

「きゅんきゅうっ」

 

「え……有翼兎(スクヴェイダー)?」

 

 翼を持つ小さな兎が数匹、あたしの足元に集まってきていた。

 さっきはリナリアの結界に守られてみんな無事だったみたいだけど……どうしたんだ?

 

「きゅーうっ!」

 

 そのつぶらな瞳は、何かを伝えたそうにしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それじゃ頼む」

 

「了解した。〝風神飛燕〟!!」

 

 クラッドさんが渾身の魔力を込めた真空の燕を放った……と同時に、あたしも風属性の炸裂魔法を足元に発動させて空へと飛び立った。

 

 ワイバーンは獲物を狙う鷲みたいに同じところを回りながら飛んでいた。

 だったら先回りすればいい。

 

 そうしてあたしはぐんぐん高度を上げると、文字通りワイバーンの目と鼻の先に出た。真正面から対峙するのはさすがに怖いね……。

 

「ゴルアアァッ!!!!」

 

「うわっ、噛みついてきた」

 

 同じ高度に獲物がいる事が許せないみたいに、あたしへ向かって大きな顎を開いて真っ直ぐに――

 

 ――狙い通り。

 

 次の瞬間、ワイバーンの顔面にクラッドさんの放った風神飛燕が直撃した。

 ……した所で、効かないって?

 

 甘い甘い。

 

 

「グオッ!?」

 

 

 突然の爆発。今まで一切通らなかった風の刃が、突如として赤く爆発して、ワイバーンの顔を炎が包み込んだ。

 

「ひっかかってやんの」

 

 クラッドさんの剣に、簡易的ではあるがあたしの炸裂魔法の術式と魔力を込めて飛燕を放ってもらったのだ。一回限定の、爆発する風の刃。

 名付けて〝爆殺風神剣〟……。

 

 何でもない。

 

 よし、怯んで少しだけ飛行速度が落ちた今のうちに懐に……

 

「うわっ、危な」

 

 あたしの意図を察知したのか、ワイバーンは鋭い爪を振るいながら火球を吐き出しまくって近づけさせてくれなかった。

 

 やはりあの程度の爆発じゃ、鱗の防御力を貫通するのは無理だったか。

 

「ゴアアアッ!!!!!」

 

 逆鱗に触れちゃったか。

 ワイバーンの視界を遮っていた煙が晴れて、あたしへ怒りを向けて竜の爪を振り下ろす――

 

 その瞬間。

 

「爆ぜろ!!!」

 

 あたしは手をきゅっと閉じて、遠隔で魔法を発動した(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

「ガァッ!?!?」

 

 

 

 ドドドドドッ!!!

 

 

 

 突如として、ワイバーンの肘や膝にあたる関節の裏(・・・・)が、同時に爆発した。

 

「爆発はあんたの専売特許じゃないんだよ!!」

 

 爆発した箇所の肉がえぐれ、黒く焼け焦げている。

 クラッドさんの言った通りだったよ。鱗の部分だけ綺麗に残ってら。どんだけ硬いんだか。

 

「ありがとう、ウサギちゃんたち(・・・・・・・・)

 

 ワイバーンの巨体と比べると羽虫にも見間違う鳥のような何かが羽ばたいて、地上へ降りてゆくのが見える。

 

 それは有翼兎(スクヴェイダー)の群れだ。

 

 あたしの〝炎爆烈〟の術式を書いた魔方陣を、あたしより飛行の得意な有翼兎(スクヴェイダー)たちにワイバーンの関節部分へこっそり運んで差し込んでもらった。

 そしてそれを遠隔で起爆して、四肢を使い物にならなくさせる事に成功した訳だ。

 

 あたしと風神飛燕は、意識をこっちに向けさせる為の囮だった訳。

 

 ちなみにこの作戦はリナリアの能力で通訳して兎たちに伝えてもらった。

 そして理解して成功させるなんて、この子たちは本当に賢い生き物なんだね。

 

 さて。あの子たちにはあとでいっぱい感謝するとして、今はコイツだ。

 

 

「グギャアアアアッ!!!!」

 

 断末魔をあげながら、若干速度と高度を下げたワイバーン。どうやら逃げつつも火の球で反撃するつもりらしい。

 

 だがそっちは――

 

「今だリナリア!!!」

 

「わかってるわよぅ! 歌唱魔法〝鳥に恋した大地の子(ガイアフォール)〟!!」

 

 それは大地が抱き寄せるように。

 リナリアの歌が作り出した重力場によって、ワイバーンの体は強引に大地へと引きずり落とされる。

 

 だが……

 

「なんて抵抗力……。リナリアの魔力に抗うなんて……」

 

 動きを止められたのは、ほんの一瞬だけ。

 すぐにまた動き出して翼を広げて飛び立とうとした。

 

 しかし、その一瞬で十分なのだ。

 

 地上に降り立ったあたしは、ワイバーンの首の下に潜り込む。真上に剣を突き上げて、鱗の継ぎ目……柔らかい部分に、思い切り剣を捩じ込んだ。

 

 そして――

 

 

「爆裂剣ッッッ!!!!!!」

 

 

 

 激しい爆風と共に、ワイバーンの頭が弾け飛んだ。

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