バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第107話 竜の迷宮

 日が暮れてすっかり暗くなり、辺りから虫の声が聴こえてくるようになった時間帯。

 

 オレたちは、野営地を出発してあの迷宮の入り口を目指して森の中を歩いていた。

 

「ガルルルッ!」

 

「うっさい」

 

「ギャインッ!?」

 

 普通なら夜中の森なんて、獰猛な魔物が跋扈する危険地帯だろうに。しかしカナンの目と鼻の先に現れた熊か狼のような魔物は、3秒も経たぬ内に肉片と化してしまっていた。

 

「夜の森なんてあたしらくらいの冒険者でも危険なハズなのに……。このぶんなら何が出ても問題なさそうだね……」

 

「ほんとそうねぇ……。主にカナンちゃんとオーエンちゃんのおかげねぇ」

 

 端から見れば、魔物よりカナンの方がよっぽど恐ろしいだろうな……。今の魔物だってBランクはあったらしいし。もうサイコロステーキだけど。

 

 ちなみに迷宮の場所は、明哲者とカナンの【広域探知】をフル活用して正確に把握しているので迷う事は無い。

 

 道なき道を進む道中、魔物に遭遇してもカナンの前に3秒も原型を保っていられるやつはいなかった。

 

 また、崖や谷といった障害物もあったが、オレの【浮遊】を駆使して難なく突破してやった。ひとりずつ翼をぱたぱたさせて運ぶのはさすがに少し疲れたけどな。

 

 ひとまず、迷宮の入り口までは難なく到着できた。

 

 とはいえ、切り立った岩山の中腹にぽっかり口を開けるその洞穴は、地上からだとかなりの高さの場所にある。このまま全員登る前に、少し様子を見てきた方が良いだろう。

 

「先に様子を見てくるわ」

 

「ああ、頼んだよカナンちゃんたち」

 

 そうして、オレは翼をばさりと、カナンはひょいひょいっと宙を駆けてあの入り口まで登った。

 

 パッと見ただけじゃ口の大きな洞穴にしか見えない。ほんと、わざわざワイバーンを追跡しなきゃ分からない訳だな。

 

「入り口には何もいないわね。ふーむ、ほとんどがずうっと奥の方に集まっているわね。けれど動いている様子は無いわ」

 

「寝てるんだろうな。これならみんなで突入しても気付かれなさそうだ」

 

 直近に気配は無い。何より【広域探知】を持つカナンが大丈夫と言うのだから、問題ないのだ。

 

 オレはカナンを洞穴に置いて一旦地上に降りると、待機していた三人に状況を伝えてから上へと運んだ。

 

「腕が鳴るね。けど、昨日の敵みたいのとはもう戦いたくないね」

 

「ええ、だから可能な限り戦闘は避けて迷宮の核を叩くのよぅ」

 

「カナンちゃんの能力があれば核の発見は容易だろう。頼りにしているよ」

 

 ……実はカナン。

 この迷宮の急所である〝核〟の場所を、既に発見している。

 

「ふふ、迷宮探索は日帰りで済みそうね」

 

「……まさか、もう見つけたのかい?!」

 

「たった今ね。一時間も歩けば核の所まで着きそうよ」

 

「はは……カナンちゃんらといると感覚がおかしくなってしまいそうだ」

 

 ほんとそうだよ。これくらいじゃあんまり驚かないオレはもう色々と手遅れなんだろうな。

 

 

 

 

 

 

「〝防音移動結界〟」

 

「あー、あーっ。よし、音の反響も無いし成功ね」

 

 よしよし、思ってたより簡単にできたな。

 

 目を凝らせば辛うじて見えるくらいの、薄い透明な膜。出入りを阻むような効果はなく、触ればすり抜ける。

 オレは今、能力の【防音】を用いた結界を作り出したところだ。

 

 恐らく最奥で眠っているであろうワイバーンの群れを、起こさぬようにする策である。ちなみにオレが動けば結界も併せて動くようにした。だからこその移動結界なのだ。

 

「かわいい上にとっても有能ねぇ、オーエンちゃん」

 

「だね。とてつもない魔力量に色々な能力も持っている。まずSランクの枠組みに収まる器じゃないよ。あとかわいいし」

 

「おーちゃんかわいいって」

 

 かわいい。かわいい……。

 うぅ……。

 

 カナンからも他の人からも言われ慣れてるはずなのに、いざ言われるといまだに戸惑ってしまうぅ……。

 

「これこれ、幼子を困らせるでない。先に進むぞ」

 

「クラッドしゃん……」

 

 持つべきものは同性の友……。なんか違う気がするけど、ひとまずはクラッドさんの助け船に感謝するのであった。

 

 

 さてさて。

 

 そんなこんなでオレたちは迷宮の奥へ進む。

 みんなが自らの足で歩く中、オレだけはふよふよ浮いて移動している。だってみんなに合わせて歩いてたら真っ先に疲れ果ててしまうし。幼女の身体能力の弱さを嘗めないでいただきたい。

 

 それはそうと、奥へ行けば行くほどに入り組んで、壁の色も赤くなってゆく。そして、壁の中を走る魔力も濃く、次第に脈打つようになる。

 

「ほんとに生き物の中みたいだな……」

 

「そうかい?」

 

 まあ、そう見えるのはオレだけだろう。みんなにこの血管みたいなのは見えてないし、赤っぽい洞窟程度の認識だろうな。

 

「そこを右に曲がってしばらく直進……ん、先からワイバーンが一匹だけ来てるわね。どうする?」

 

「ふーん、迂回したらどうなるんだい?」

 

「それだとかなり遠回りになりそうよ?」

 

「じゃあオレは真っ直ぐ行く方にしたいな」

 

「あたしも同じく」

 

 戦闘は可能な限り避けておきたいが、できる限り近道もしておきたい。なのでここは満場一致で右折の後直進コースに決まった。

 

「ここで待ち伏せして仕留めるわ」

 

「了解カナンちゃん」

 

 オレたちは、岩陰に隠れて正面からやってくる敵を待ち伏せていた。

 というのも、ワイバーンのような魔物は人間には聞こえない声で仲間を呼び寄せる事があるらしい。

 

 なので、オレの【防音】の範囲内に入れてから攻撃するつもりだ。

 オレも【防音結界】の効果範囲を頑張って広げたし、準備は万端だ。

 

 ちなみに攻撃に出るのはオレとカナンだけだ。

 全員でかかってもいいが、オレとカナンだけで事足りるだろうというつもりである。万が一にでも逃がしたら面倒だし、他の三人にはその際に動くよう頼んである。

 

「……今よ!!」

 

「ぎゃ!? なんだオマエラ!?!?」

 

 えっ、喋った?!

 というかこいつ、ワイバーンじゃない……?!

 

 そこに居たのは、人型のトカゲのような生き物――

 直立で二足歩行をし、手には粗末な槍を携えた何かだった。

 

 

 《蜥蜴人(リザードマン)。下位のドラゴン系の魔物の人化種》

 

 

 魔人だって?

 

 

「ふーん、あなた話せるのね。ちょうどいいわ、色々教えてくれるかしら?」

 

「キッ! オマエラ侵入者に教える事など無い!!! ここで死ね!!」

 

「あっそ」

 

 

 キンッ

 

 

 

 鋭い音が聴こえた後、持っていた槍がバラバラに折れて、蜥蜴人の腹部から大量の鮮やかな赤色が噴き出した。

 

 あわれ、トカゲ人間くんはカナンの斬撃に切り裂かれて命を終えるのであった……。

 

 と思ったら、どうやら手加減をしていたらしい。

 

「ぎぎぎ……な、なんなんだキサマ……!?」

 

「私はカナン。こちらの質問に答えてくれるなら命だけは助けてあげるわよ?」

 

「誰が答えるものか……! キサマらなぞドレナス様の前にはゴミ虫に等しい……!! ここへ侵入した事を後悔するといい!!!」

 

「ふーん……。ドレナスっていうのがここで一番強いのね?」

 

 質問してないのに情報提供してくれたよこいつ。もしかしておマヌケさん?

 

「オノレ人間の小娘が、謀ったな!」

 

「勝手に答えたのはそっちじゃない? まあいいわ、気に入った。殺すのは最後にしてあげる」

 

 これまた主様(ますたー)が悪役っぽいセリフを……

 

 端でこっそり覗いてるリナエリもドン引きしてんじゃん。もう少しこう、手心というか……。

 

「という訳でおーちゃん、こいつ飼ってもいい?」

 

「はぁ?!」

 

「ふふ、冗談よ。私のかわいい下僕はおーちゃんだけだもの」

 

 オレいつから下僕になったんだよ……。

 そんなジョークは置いといて。カナンはこのトカゲ魔人をどうしたいのか聞くと、ちょっと面白そうだから色々質問してみたいと答えた。

 

「誰がキサマらニンゲン風情に……」

 

「まさかニンゲン風情にそのドレナス様が負けると思ってるのかしら? 私たちなんてゴミ虫と同等なのよね?」

 

「っ……。ああ、そうさ! 我らが竜王様に敵うものなど他の〝七王様〟くらいなモノだ!」

 

「七王?」

 

 なんか新しい言葉が出てきたな。七って事は、七体いるのか。ドレナスとやらもその内の一柱と。

 

「ふうん……七王って何かしら?」

 

「ハッ……!? ええい、これ以上はもう話さん! 何をされてもな!!」

 

 やっと自分がベラベラ喋っている事に気がついたのか、蜥蜴人はぷいっとそっぽを向いて口を閉ざしてしまった。

 

「カナンちゃん……少し怖いね」

 

「綺麗な薔薇にはトゲがあるのよぅ」

 

 ……。うちの主様(ますたー)はまあ、色々極端だからな。オレへの愛情表現も、敵への攻撃も。

 

 むしろ今回は生かしているあたりだいぶ穏やかというか。もちろん後で殺すんだろうけど。

 

「しかし主様(ますたー)。アイツが言ってた七王って一体……」

 

「口ぶりからして、七体いる王を冠する魔物……って考えられるわね。ひょっとしたら……」

 

 脳裏に、以前戦った獣王の姿が一瞬だけ浮かぶ。イセナ大結界の中の魔物でも特に強大とされる、準特級の魔物たち。確か、獣王を含めて七体だったような……

 

「まさか、な」

 

 そうしてオレたちは、迷宮の先を急ぐのであった。

 

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