3人は迷宮の核の破壊の為、遠くにに離れていってくれた。これでカナンとオレは心置きなく全力を振るえる。
「今のは……魔霊の腕か? なるほど、あの娘は魔霊の魔人。それも
一層おもしろくなってきた! いざ死合おうぞ、カナン!!」
「臨むところよ!!」
まず仕掛けたのはカナンだ。
カナンの背に真っ黒な翼を生やし、空中機動力はおよそ互角。
確実に致命傷になるようドレナスの体の急所を狙いつつも、防御もこなしてドレナスと一進一退の応酬を繰り広げる。
お互いに本気である。
『
そこにオレは、魔法攻撃での援護射撃を試みる。
無論、カナンには当たらないようにだ。
「チッ」
……あっさり避けられた。
だが、今のは動きを観察する目的もあったしだいじょぶ。……大丈夫なの!
「〝竜王炎爪〟!!」
ドレナスは眩くなるほどの熱を帯びた腕で掌底を放ってきた。
さっきオレが防いだものと同じ技のようだが、腕の竜化は行っていない。
「受けてもいなしても危険……さすがに避けた方がよさそうね」
ドレナスの攻撃を避けるため、カナンは後方へ飛び退く。
と同時に、オレはドレナスの正面ほぼゼロ距離から拳を顕現させてぶん殴る!
「ぬんっ!」
『あっつ……!!?』
カナンを狙っていた拳の軌道を変え、すさまじい反応速度でオレの拳を相殺してきた。
なんつーパワーだ……、部分とはいえオレの拳を受け止めるとは……
てかまずい、打ち抜かれる! 召喚解除!
『いってぇ~……』
「大丈夫おーちゃん?」
『大丈夫、静電気に当たったようなもんだ』
部分召喚したパーツが破壊されたらどうなるんだろ?
予想では魔力量がごっそり減るとか。
気になるけど試したくはないわな。
『さて……お互い油断できないな』
不用意に飛び込めば手痛いカウンターを食らう可能性がある。まだ向こうの手札もわからない以上、差し込みに行くのは得策ではない。
が、それは向こうも同じ事。
あえて全力で攻めて勢いでゴリ押すというのもありだが、対応されてしまってからでは不利になってしまう。切り札はまだ温存しておきたい。
だったらどうするか?
こちらの手札をひとつ解禁する。
「はあああっ!!!」
「どうしたどうした!」
あえてカナンがドレナスに攻めこんだ。
拳と刀が火花を散らし、空中で三次元的な攻防が繰り広げられる。
「何を狙っているかは知らないが、その前に貴様を倒せば良いこと!」
「簡単にはやられないわよ!」
攻めに回ったように見えるが、防御をメインに立ち回るカナン。目的は時間稼ぎと誘導だ。しかし
「落ちろ!〝竜掌発剄〟!!」
「ぐうぅっ……!!」
空中で、カナンに対してさっきも食らった掌底が懐に入ってくる。
寸前、カナンは【竜鎧】を全力でお腹に集中させて防御。しかしそのまま弾き飛ばされ、床へと叩きつけられてしまう。
「くっ……」
「内臓を破壊しても倒せぬならば、今度は頭を潰すまで!!」
叩きつけられて大きな隙を晒してしまった地上のカナンへ、ドレナスは更に掌底の追撃を仕掛けようとする。
だが
「な、何ぃ!?」
『捕まえた……!』
ドレナスが驚くのも無理はないだろう。なぜなら、自らの
「ぐぐ……」
捕まえたはいいが、パワーがやばすぎる。ひょっとするとカナンより強いかもしれないな。このままじゃ抜けられてしまう。
だが、その前に攻撃を食らわせればいい。
『〝影剣〟!』
魔力が拡散しない影の中で、より密度を高めて錬成した闇と氷の黒いナイフ。
それが百本近く、影の中から飛び出してドレナスへ襲いかかる!
本当は剣を作りたかったんだが、一度に大量に精製するには今はナイフくらいが限界だった。
「ぬ……小癪なぁ!!」
『うおっ!?』
やっぱりとんでもないパワーだ、部分とはいえ魔霊形態のオレの拘束を強引に解きやがった。
が、まだ全方位から襲いかかるナイフを対処しなければならない。避けるか、受け流すか。
「喰らいなさい!!」
さらにもうひとつ、カナンの攻撃の対処もだ。
ナイフを弾いてからの回避行動では、すぐ側まで迫っているカナンかオレの攻撃を再び喰らうリスクが高い。かと言って防御を取れば大量のナイフと共にカナンの攻撃も来る。
「来い!!!」
複数の選択肢の中でドレナスがとったのは、防御であった。
普通の刃物ならば、防御をするまでもないのだろう。だが、オレの作り出したこのナイフどもはそうはいかない。
全身に熱気を纏い、腕を交差させ尻尾を体に巻き付け防御姿勢をとる。
ナイフは刺さりはしないが、ドレナスの皮膚に浅い傷をつけていく。さすがにこれで致命傷は与えられないか……。
だがまあいい。
目的は、カナンの攻撃の補助なのだから。
「はぁっ!!!」
「ぐぅおおおっ!!!」
ガードの上から心臓を狙い澄ました全力の刺突……!!
が、ドレナスはギリギリで刃を両手で掴み押さえ込んだ。
「ぬうぅ……ぐおおお!!」
「はあぁっ!!」
カナンは更に力を込める。
【
その手のひらから血が滴るが、それ以上に刃は通らない。
力は拮抗している。
そこでカナンは、なんと刀を手放した。
そして――
「お返しするわ!」
大きな隙を晒したドレナスの懐に潜り込んだ。
腰を落とし、前屈みに。
肘を伸ばして掌を前に押し出し、ドレナスの無防備な腹部に当ててゆっくりと
「〝発勁〟!!」
「ぐはっ……!!」
それは、ドレナスから二回食らった技を見よう見まねで再現したものであった。
ドレナスはほんの一瞬のタイムラグを経て、くの字に折れながら吹っ飛ばされた。
「ふふん、決まった……!」
ちょっと嬉しそう。
だがあまり喜んでいる暇はない。まだとどめを刺していないのだから。
「がふっ……。あの男だけは……。ワタシから姉さんを奪った挙げ句、100年もの間閉じ込めて……」
「……今、とどめを刺してやるわ」
横たわり、吐血しながらぶつぶつと何かを呟くドレナス。
ゆっくりと警戒しながら近づいて、カナンはドレナスの首に刃を向ける。
だが――
「……許さぬ!
「っ!?」
その瞬間、ドレナスの体が真っ赤に燃え上がり、大きく膨れ上がってゆく。
『まさか……』
さっき【明哲者】でドレナスを解析した時に見えた、《種族:
そう、〝人化形態〟。
「……ここからが本気って事ね」
「――いかにも」
紅い光が収まり見上げると、二つの金色の珠と
それは、紅き巨竜。
全身を鎧のように覆う深紅の鱗に大小二対の角が頭の横から後ろに向かって生えている。また、切れ込みの入った紅葉のような翼が印象的だ。
体格は
「これが最後だ……。ワタシの味方になるならば、命は助けてやろう」
「だから断るって言ってるじゃない? 二言も三言も無いわよ」
「ならばその命、我が贄としてくれる!! 〝
すると、巨竜となったドレナスの口から、極太の紅い熱線が薙ぎ払われる。それが通った後の床や壁は、ドロドロに溶かされていた。
ゴジ○かよ……
「的が大きくなって助かるわ!」
そんなビームを避けて、カナンはドレナスの巨体に臆する事なく跳んで眉間へ斬りかかる。
だが
「甘いわ!!」
「弾いた!?」
どんなに硬い物質でも切り裂けるはずの
カナンは一旦距離を取るが、するとまたあのビームが放たれる。
「くっ……当たったらひとたまりも無いわね……」
いくらカナンでも、このビームに直撃したら骨すら残らないかもしれない。
それでもギリギリ避けつつ、再び距離を詰める。
今度は背面に回り込んで、オレの部分召喚で攻撃だ。
しかし、本気でぶん殴ったのだが、なぜか手応えが無い。
多分、【竜爪】のような
「無駄だ!」
今度は炎を纏わせた拳で攻撃してきた。
人化形態の時と違いかなり巨大な上にスピードもある。
さすがのカナンも避けるのに一苦労だ。
「少しキツイわね……」
ドレナスの本気とあって、今度はこちらが圧され始めている。
さて、どうしたものか。
「な、何だあのドラゴン?!」
小声だが、カナンの聴覚で遠くから声が聞こえる。
どうやら気づかぬ間に三人が潜り込んだ迷宮の奥の方へと追いやられていたようだ。
「まずいわね……」
完全に劣勢だ。
その上、このままじゃ三人を庇いながら戦う事になってしまう。
「カナンちゃん!
どうやら三人はしっかりと目的を果たしてきてくれたようだ。
だが、なぜか迷宮が消えないままだ。
すぐには消えないものなのか? それとも……
「やはり、貴様らの目的は我が迷宮の核の破壊か。しかし残念だったな、あれとは別にもうひとつ核がある」
そんな馬鹿な、カナンの探知じゃひとつしか……。いや、【広域探知】は便利だが万能ではないという事か。
「ハッタリじゃあなさそうね。迷宮が崩壊しないのが何よりの証拠ね、親切にどうも」
「くははははっ!! どちらにせよもはや迷宮など用済みよ! 〝我が眷属たちよ、命令を下す〟!」
すると、辺りで失神していたはずのワイバーンどもが一斉に起き上がって視線をドレナスへ向ける。
「くはは……。命じよう! 〝付近の人里を全て焼き尽くせ!!〟と!」
「なっ?!」
なんだと……?!
無数のワイバーンどもが、一斉に迷宮の出口方面へと飛び立っていってしまう。
こりゃあまずい事になってきた。恐らく野営地に襲撃を命じていたのもコイツだろうが、今度の命令はいよいよ街が……
「そんな事させないわよ!!」
「できる! してみせる!! 貴様らを斃したら、ワタシがこの国を滅ぼしてくれる!!」
コイツ、次の一撃で決めるつもりだ……!
高く飛び上がり、その口の中で紅い紅い光の珠が膨れてゆく。
「カナンよ、貴様ならこの一撃を躱す事も容易かろう。だが、そこの仲間たちはどうだ?」
「っ……! アンタよくも……!!」
そしてカナンはドレナスの前に躍り出る。
攻撃を中断させる? 否、今から叩きに行った所でもはや間に合わない。
選択肢は、ひとつしかなかった。
「受けてみよ! 〝
まるで紅き流星のような光弾が、ドレナスの口から放たれる。
高位魔弾すら凌ぐ程の魔力量と密度……。あんなものを受けたら灰すら――
それでもカナンは避けるなんてそぶりもせず、それに真正面から向き合う。
選択肢はこれしか残されていないのだから。
「「「カナンちゃんっ!」」」
3人の悲鳴にも聞こえる叫びが響くよりも先に、世界が紅い光に包まれる。
そして――
「……勝った」
ドレナスは、眼下に広がる爆炎を見て勝利を確信していた。
自身の誇り高き奥義の一つを食らって生き延びたものなど、同じ七王を除いて存在しなかったのだから。
「誇りに思うがいい、この〝炎竜王〟たるワタシをここまで追い詰めたのだから」
だが。
「……?」
何かがおかしい。
それは違和感ではなく、恐怖に近い本能からの警告だった。
まるで、他の七王と対峙した時のようで……
『やれやれだぜ。もっと早く呼び出してくれてもよかったのに』
弱まりつつある光の中から現れたものは、明らかに自身と同格の――
「馬鹿な……〝
黒く暗く、闇の化身ともいうべき禍々しき
2対の翼に全身を包むは闇の
それから、甲殻のようなものに覆われた手足の首には、黒い鎖が巻きついている。
「ああ、おーちゃん……。これが終わったらいっぱいごほうびをあげるからね」
大きさは竜王と同程度。その肩に腰かけるカナンは、ソレの首筋に口づけをする。
『さあ、第三ラウンドといこうじゃねえか』