「配下……って、まがりなりにも〝炎竜王〟のあんたが、素性も知らない子供の下につくって?」
いきなりあなたの下僕になりたいです!!! と言われ、さすがにドン引きのカナン。しかしドレナスは、至極真面目な顔で懇願してくる。
「否。ワタシはもはや王ではない。負けた身の上に、自らの愚かさに気がついたのだ。これからは、貴女たちの力になりたい」
「あー、うん……。どうしよう、断る理由が思い浮かばないわ……。とりあえず頭くらいは上げてくれるかしら?」
「お、オレは反対だぞ!
「ほう?」
……はっ!? 今オレ何を言ってた!?
「大丈夫よおーちゃん。私と添い遂げていいのはおーちゃんだけだからねー?」
「にゃっ!?」
そっと抱き寄せられてなでなで。
添い遂げる、って……。
うう、もんもんし過ぎて頭が爆発しちゃいそうだ。
「そうかそうか、二人は特別な関係だったか。安心しろ、ワタシは二人の間には介入しない。なんなら間に介入しようとする不粋な輩はワタシが排除してみせよう」
「なまじありがたいだけにますます断りづらくなってきたわね……」
と会話をしていると、迷宮の外へ続く道からばさばさと無数のワイバーンどもが戻ってきた。
「案ずるな、我が眷属たちにももう敵意はない。わたしの命令で戻ってきただけだ」
「あぁ、なるほどね。それで私の配下になるにしても、こいつらどうするのよ?」
「そこも問題ない。ワタシがこの迷宮を閉じれば、こやつらも共に消える。だが死ぬ訳ではない。ワタシの力でいつでも召喚できるのだ。
すなわち、この軍勢がまるまる貴女のものという訳だ。どうだ素晴らしいだろう?」
うっへぇ、ある程度減らしたとはいえ、数百体ものワイバーンをどうしろと。
「う、うん。とりあえずこの話は保留ね。後は……うーん、ドレナちゃんって呼んでもいい?」
「呼び方など好きにして構わぬ」
「ありがとう。で、ドレナちゃんはこの後は結界の中に戻るの? それとも一緒に来るのかしら?」
「無論後者だ。可能ならば、イルマと話す機会がほしい。目が覚めたとはいえ、やはりまだ燻っているものがある……」
憑き物が落ちた、と言った途端にすげー会話がまともに進む。
元々はかなり聡明な人だったんだろうな。
「わかったわ。連れていくけれど、いま瀕死なのよね? 歩けるかしら?」
「問題ない。だいぶ傷も癒えてきているのでな、魔力や
「あれだけ必死にやってたのにもう回復してるのね……。
ま、
さすがは
もう敵には回したくねーな……。
「さて、このまま話を続けるのもなんだ。これ以上外へ行った人間たちに心配させぬよう、迷宮を閉じるとしよう」
パンッ、とドレナスさんが手を叩くと、回りの景色がぐにゃりと歪み、オレたちを残して複数の色の絵の具をぐちゃぐちゃに混ぜたみたいになる。
それから数秒後、気がつくと辺りはほの暗いただの洞穴になっていた。
入り口からは月の光が射し込み、もう濃い魔力は感じない。本当に消えたようだ。
「迷宮が消えた……」
「あっ! カナンちゃん、オーエンちゃん!! 良かった、勝てたようだね!!」
「もちろん勝ったわよ」
ぽっかりと口を開けた洞穴の外に出ると、リナエリクラッドさんの三人が洞穴のある岩山のふもとでこちらを見上げていた。どうやら
するとカナンはオレをお姫様だっこすると、ぴょんと飛び降りた。
と、その後に続きドレナスさんも飛び降りてきた。
「む……!」
「あらぁ……」
「なんでソイツがここに!?」
とたんに臨戦態勢になる三人。
そりゃあまあそういう反応になるよな。ちょっと説明に困るが、三人には納得してもらわなくても困る。
「大丈夫よ、ドレナちゃんはもう敵じゃない。和解したのよ」
「というより、ワタシは彼女の下僕となった。我が主の友人たちよ、先ほどの非礼をどうか許してほしい」
「ちょ、配下にするって話はまだ保留でしょ!」
「しかしワタシの心はもう我が主様のモノだ。正式に配下となる前から従っていてもよかろう?」
うーん、単純なのかめんどくさいのか。
まあ敵じゃないならいいか。……いい、のか?
「……カナンちゃん、その人ってあれだよね? イセナ大結界に封印されていた7柱の〝準特級〟の一柱の……」
「そうよ。七王とかいうらしいわ」
……。
沈黙がこの場を包み込んで離さない。
うん、オレでさえまだ信じられないからな……。
「そ、そ、そんな大物を、下僕? 配下? はは……ははは……。リナリア、あたしは夢でも見てるのかな?」
「残念ながらそうではないみたいよぅ……。現実、これが現実よぅ……」
「……」
クラッドさんだけ少し落ち着いているが、3人ともその情報を受け入れきれないでいた。
「とりあえずドレナちゃんをギルドに連れてくわ。色々と聞きたいこともあるしね」
「はぁ、こんなの前代未聞だよ……」
「なんだかとんでもない事に立ち会っちゃったみたいねぇ……」
そんなこんなでなんとか受け入れつつ、オレたちはギルドへ帰る方向へ向かうのであった。
「……ほう、最近の魔道具はずいぶんと小さくなったのだな。それは通信用か?」
「……そうです。この水晶を通して音声と映像のやり取りができます」
オレの収納から取り出した品々を見て、ドレナスは興味津々だ。あれやこれやがどんな役割なのか、クラッドさんに聞きまくっている。
クラッドさん、落ち着いているように見えてたけど違うな。急にですます口調で話すし、内心緊張しまくってそう。
気持ちは分かるよ……。
「――という訳で、こちらはたった今
『それはご苦労じゃった。翌朝そっちに迎えの車を向かわせればよいかのう?』
「ええ、頼みます。詳しい話はそちらで」
クラッドさんが、通信用の水晶でギルマスのオニキさんと連絡している。
音と、水晶に映し出される映像でテレビ通話みたいな事をしているな。
そしてそれを後ろからじっと観察する、ドレナスさん。
『それは了解したのじゃ。……が、そやつは何者じゃ?』
「はは……それについてもそちらに着いてからカナンちゃんが説明しますので」
「え、私? はあ、……わかったわ」
心底めんどくさそうに応えるカナン。
しかしこの状況を正確に答えられるのは、オレとカナンしかいないだろう。
色々と諦めて、オレたちは野営をしていた場所まで戻ってきた。
小さめの多重結界の中では、
「なんと!? この兎達が
「ちょ声大きいって。そうだよ、とどめはあたしが刺したけど、この子たちがいなかったら勝てなかった」
「そうか、このような小さき者でも、時には遥か格上を下すに至るのか……」
ドレナスさんは兎さんたちの寝姿を見守り、ふっと微笑んだ。
さっきまでの憎しみに満ちた表情がまるで嘘のようだった。
さて、オレたちもかなり疲れているので、朝までは眠る事にした。収納からみんなのテントを取り出して設置。明日には出てくので、結界も兎さんらを守ってる内の一枚だけを広げておく。
これだけで、そこら辺の魔物程度なら入ってこれないだろう。
そうしてオレたちは、各々のテントの中で睡眠をとるのであった。
ちなみにだが、ドレナスさんはオレたちと同じテントで寝る事になった。
屋外で寝る事には慣れてるみたいだけど、ここまできてさすがに一人で寝させるのは可哀想だしな。
残念ながらそのせいでカナンといつもより密着できなかったが。
いや密着できなくて残念って何だよ。
それはともかくとして、テントに入るなりオレたちはすぐに眠りに落ちてしまうのであった。
*
早朝、迎えに来たギルドの車に乗り込み、オレたちは数日ぶりに街へと帰ってきた。
ドレナスさんからすれば初めての事だらけだろう。
車に乗っている間も終始落ち着いているように見えたが、その目の奥の光だけはキラキラと好奇心に輝いていた。
「凄い、これがイルマの国か……。見たことのないものだらけだ」
ギルドの建物の側で降車すると、きょろきょろと辺りを見渡しなにやら感嘆した様子だ。
「こっちの建物に入るのよ。ここからはくれぐれも暴れたりしちゃダメだからね? 身の程を弁えないバカに絡まれてもね」
「ああ、わかったよ。ここではここのしきたりに従うとしよう」
ドレナスさんはふっと微笑み頷いた。もうただのいい人感しかないが、一応は言っておかないとな。
その直後、オレたちはギルドに入る為、ガラスの自動扉に近づくのだが、それを見たドレナスさんが一瞬ビクッと驚いたのはここだけの話。
「皆さん
「はーい」
青いカーペットを踏みしめ、三階まで吹き抜けとなった広い広い建物の中。
オレたちは横にいくつも並べられた受付の1つに声をかけた。
受付嬢さんはあらかじめ色々と聞いていたみたいで、すんなりと話が進む。
が、見慣れぬドレナスの姿に、言葉にはせずとも困惑してる様子だった。
早朝なので依頼を受けに来た冒険者が他の受付に並んでいるが、オレたちはそれはもう目立ちまくりだ。特にドレナスさんなんてな、見た目が派手だし。
カードを切って少し待っていると、さっきの受付嬢さんが戻ってきた。
「では皆さん、ギルドマスターのいらっしゃる執務室までご案内いたしますので、わたくしに着いてきてください。ところで……そちらはパーティメンバーの方、でしょうか?」
「ああ、うん。そんなものよ……」
「ではご一緒に」
説明を諦め、とりあえず肯定しておくカナン。ドレナスさんも何の話なのかさっぱりわからんといった様子で大人しかった。
それから階段をいくつか登って執務室までやってきた。リナエリの二人はこういう場でギルマスと話す機会はあまりなかったらしく、少し緊張しているようだ。
「さて、まずはご苦労じゃった。Sランクモンスターである
赤肌に額に一本角の生えたおじさんは、ここのギルマスであるオニキさんだ。
「ありがとうございます。早速ですが本題を」
「ああ、わかっておる。して、その者は何者じゃ? そのオーラ、その佇まい、お主ただ者ではないな」
キッ、とドレナスさんを睨み【威圧】した。威圧して人を試すのはどうもこの人の癖らしい。対するドレナスさんは涼しい顔をしていた。
「ワタシはドレナス。カナン様の下僕となった身ではあるが、かつては〝炎竜王〟と呼ばれていた」
「えんりゅ……? 儂も歳かのう。誰か、儂にもわかるよう説明しとくれ」
「私が説明するのが一番納得してもらえそうね。
ドレナちゃんは、イセナ大結界の中に封印されていた〝準特級〟の魔物の一体よ。なんでか今は私の下に付きたがってるけど」
「……」
「何よ?」
「なんじゃそりゃあああああああああ!!?!?!?」
うぎゃあ!?
あまりに驚き過ぎて凄まじい剣幕で叫び散らかすオニキさん。
その人並み外れた声量は、下の受付の階層まで響いたという。
うう、鼓膜いたい……