バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第12話 上位悪魔の襲撃

 影法師が3人、オレンジの陽に照らされていた。街のいたる所から家庭的でどこか懐かしい香りも漂っている。

 

「今日は色んな事がありましたねー」

 

「夢のような1日だったわ。未だにこれが現実だなんて、信じらんない」

 

 とあるトラブルに巻き込まれたせいで、夕方になるまで時間をとられてしまった。なので、今日はもう帰る事になった。

 宿に泊まろうと思ったが、コルダータちゃんがもういっそ街にいる間は自分の家に泊まり続けてくれたらいいとの事。

 ありがたい半面、メルトさんにはちょっぴり申し訳ない。

 

「明日はもっと楽しい1日になるといいな」

 

 まだカナンと出会って1日しか経っていないとか、本当に濃厚な経験をしていたんだなとしみじみ思う。

 こんな日がこれから毎日続くと思うと、今から胸が高鳴ってワクワクすっぞ!

 

 

「……? どうしたのカナちゃん?」

 

 ふと、カナンが立ち止まって後ろを振り返る。

 何かあるのかと見ると、奇妙な男が後ろに佇んでいた。

 

「あなた、ずっと私達をつけて来ていたでしょ? 何が目的よ?」

 

「……」

 

 黒い外套を深くかぶり、顔は見えない。カナンの言葉には反応せず、男は1人ブツブツ何か唱えている。なんだ、ストーカーか? ロリコンめ。

 

「……〝深淵の女神(アビスデウス)〟よ、我に眷属を貸し与え給え。夢を見せてやろう」

 

 何だ? ……急に風が消え失せ、漂う香りも感じなくなる。

 

「他2匹は殺して構わない――【上位悪魔召喚】」

 

「え?」

 

 

 突如地面に浮かび上がった魔方陣の上に、黒い液状のナニかが溢れて満ちる。その中から、異形の生物が這いずり出てきた。

 

「ありゃあ、まさかオレと同じ……」

 

 コルダータちゃんがカナンに剣を渡す。

 あれは間違いなく、今までで最強の〝敵〟――

 

悪魔(デーモン)……!」

 

 建物の3階に頭が届く巨体のそれは、4本の手を組み合わせて、何かに祈る。

 カラスのような頭部が和服に似た黒いローブのフードの下から垣間見えた。

 

 

『心象顕現 【影牢(カゲロウ)】』

 

 

 ぽつりと、黒い嘴から低い声が発せられる。

 

「何だ?」

 

 街の風景が歪み、陰影が反転する。

 カメラのネガと言えば分かりやすいだろうか。

 色彩が正常なのは、オレ達三人と佇む悪魔だけだ。召喚した男の姿は無かった。

 

「コルちゃんは逃げて! ここは私とおーちゃんで何とかする!」

 

「わ、分かりました!」

 

 剣を抜き、悪魔に飛びかかる。カナンはサイドテールをなびかせ思い切り振りかぶり、悪魔の頭部に剣を直撃させる。

 すかさずオレも魔法を放つ。カナンに当たらないよう弾数が少ない分、より大きな氷の刃が悪魔に襲いかかる。

 

 この氷刃全てにオレの【闇魔法】を付与してある。闇魔法とは、物の事象や概念を『停滞』させる力だ。

 これによって変化という事象を失った物質は、あえなく崩壊する。

 その性質故に闇魔法はその場に留まってしまうが、他の魔法に纏わせれば擬似的に飛ばす事もできる。

 

 さて、これが上位悪魔(グレーターデーモン)にも効くといいが……

 黒い瘴気を纏う氷の刃がいたる所から悪魔に襲いかかる。

 

 

 

『〝縺�繧九∪縺輔s縺�〟』

 

 

 ボソッと、意味不明な言葉が悪魔の口から漏れた。……ん?

 

 忽然と悪魔の姿がふっと溶けるように消えた。迫っていた氷の刃は、何も切り裂かずに宙で霧散してしまう。

 

「どこに行った? どこから来る……?」

 

「気をつけておーちゃん! 私の攻撃が全然効いてなかったわ!」

 

 カナンの攻撃が効かないとなると、後はオレの力頼みになる。

 オレが本来の姿で外に出られるのは時間制限があるし……後は――

 

 

『〝霆「繧薙□〟』

 

 

 悪魔の声がどこからか響く。近くにいる事は間違いないハズだ。姿を見つけようと一歩踏み出した瞬間、また声がした。

 

『〝襍、菫。蜿キ〟』

 

 足下(・・)から声がした――と思った時には、手遅れだった。

 

 地面から……否、オレの影からあの悪魔の腕と、黒い無数の小さな手が勢いよく飛び出して、オレの頭や胴や手足を掴み、引っ張られ、全身から、体の中から、言い表せないような凄惨な音がする。凄まじい激痛が体中を突き刺し、視界が暗転した。

 

『くっ……あれ? カナンか?』

 

「お、おーちゃん? 今そこで悪魔に……」

 

『あぁ、そういう事か……』

 

 人間形態の肉体が絶命すると、どうやらカナンの中に戻されるようだ。カナンの視界と感覚に安堵する。ちなみに死体は死んだ瞬間に消失して残らないみたいだ。

 

「良かったぁ、おーちゃん生きてる……!」

 

『心配させてすまねえ、だがまた魔力切れらしい』

 

 出っぱなしだったの時のように、魔力残量が激減している。召喚可能な量に回復するまで10分って所か……

 つまり、それまでカナンには生身で悪魔と戦ってもらう他無い訳だが――

 

 

『〝縺�繧九∪縺輔s縺�〟』

 

 

 また悪魔の姿が消えた。カナンに身構えろと言うと、考えがあると返された。

 

「あの攻撃の発動条件……間違ってたら終わりね。今の私じゃ逃げられる隙が無かったもの」

 

 カナンの心臓がはちきれそうなくらい速く脈を打つ。恐れと焦りが、オレにまで伝わってくるようであった。

 

 

『〝霆「繧薙□〟』

 

 

 来た。この声、さっきと同じだ。この後にもう一言聞こえてから、オレはバラバラに引き裂かれたんだった。

 

「っ……」

 

 カナンは立ったまま動かない。その場に静止して目を閉じた。

 

 

『〝髱剃ソ。蜿キ〟』

 

 

 ゆっくりとまぶたを開く。

 目が、合った。

 黒い黒いフードの下から覗くカラスの顔が、鼻に触れそうな程近くでカナンを見つめていた。

 

「……予想通りね。相手が動かなければ、影の攻撃を発動できない。まさに今、攻撃に失敗して隙を見せているって所かしら!」

 

 そのまま目の前の悪魔の顔面を剣でぶっ叩く。

 強烈な金属音がして、カナンの攻撃はあっさり弾かれた。

 

『鬯ア髯カ縺励>……』

 

 悪魔の腕のひとつが、カナンを掴まえようと上から襲いかかる。

 スッと回避し、その腕に回転して勢いをつけた攻撃をおみまいする。

 

「これならどうよ?」

 

 ――だが、それでも刃は通らない。

 オレと同じで、これは硬いのではなく〝受け付けない〟といった認識が正しい気がする。

 

「ぎゃんっ!」

 

 蚊でも払うかのように、巨大な腕でカナンを薙ぎ払った。

 回避に失敗したカナンは、大きく吹っ飛ばされて()に激突する。

 

 これは……〝見えない壁〟って奴か?

 一見何も無いが、そこから先には壁があるように阻まれる。

 

 そういや言ってたな、心象なんちゃらって。もしや結界か何かに閉じ込められてるのかも。

 

 カナンの肉体はオレとの契約の副産物で頑丈にできているので、これくらいで死にはしない。

 だが、このままでは確実にジリ貧になってしまう。オレが召喚可能になるまであと8分か……。

 

『蜻ス莉、蜆ェ蜈�』

 

 なんだ? 悪魔がカナンを無視して別の方向に移動してゆく。その先には――

 

「うぇ!? わたしですか!!?」

 

『コルダータちゃんが危ない!』

 

 結界に阻まれ避難できていないコルダータちゃんの元へ、悪魔がゆっくりと近づいてゆく。

 

「させないわ……!」

 

 カナンは痛む体を意に介さず飛び出した。

 カナンだけじゃ勝ち目は無い。この難局を打ち破れる〝力〟が必要だ。

 

『……オレの名を呼んでくれ』

 

「何でよ、まだ出られないんじゃなかったの?」

 

『完全には、だな』

 

 ――昨晩の事だ。アスターと作った〝アビリティ〟の中に、コストを抑えてオレを召喚できるモノがあったのだ。

 それの使用可能な値はわからないが、現在の回復した魔力残量なら使えるかもしれない。

 

 悪魔へ十分に接近したカナンは、オレの名前を口にする。

 

「――〝オウカ〟!! お願い……!」

 

 空間に黒い穴のようなものが浮かぶ。

 その中から、金属質な甲殻に包まれた巨大な腕が飛び出し――

 

『鬥ャ鮖ソ縺ェ!?』

 

 オレは、悪魔の頭を横からぶん殴った。

 思わず悪魔は体勢を崩し、地面に倒れこんだ。

 

 

 ――【部分召喚】。

 オレの体の一部分だけを召喚できるアビリティである。

 

 オレ達の反撃が始まった。

 

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