バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第18話 はじめての

 土の上に、枯れ葉と無数の白骨が散らばっている。ざわざわと木々がざわめく中で、奇妙なアーチ状の石門のようなものが不自然に地面から生えていた。

 

「あれが、迷宮への入り口……?」

 

「そう。……特徴からして〝コクマー大迷宮〟の入り口」

 

 トラックが一台入れる程度の広さを持つ、青い石門。中には遺跡のような空間が広がっているが、門の後ろには何もない。

 

「迷宮って不思議……面白いわ! 尚更早くDランクにならなくちゃね」

 

 カナンがウキウキと目を光らせて言う。

 それにしてもなーんかここ見覚えがあると思ったら、いつかのマンティコアと戦った場所じゃないか。

 

「それで、どうするんですか? このまま中に入るのでしょうか?」

 

「いや、正確な場所がわかったから、今は戻るだけ。意味もなく危険に晒すつもりはない。これからの課題」

 

 ルミレインがそう言うとは、迷宮の中はよほど危険らしい。

 下手に自分の力を過信して突っ込むのはやめておいた方がよさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

(カナちゃん、ルミレインさんって案外……チョロい?)

 

(かもしれない……)

 

 森から帰ってきたオレ達はカフェの〝ステラバックス〟にやってきた。

 昨日の騒ぎから一転、今日は問題なく開店できている。若店長のレベッカさんも機嫌が良さそうだ。

 そんな木製のカウンター席で、ミルクティーを飲みながら中心の人物を見やる。

 

「はにゃふにゃぁ~……さいこぉ~♡」

 

 マタタビを与えられた猫のような甘い声を発し、プリンやクレープをそれはそれは幸せそうに頬張る緋髪の少女、ルミレイン。

 

「そ、そんなにぷりんが好きだったんですね」

 

 作った本人であるレベッカさんが若干引くくらいの変貌っぷりだ。

 さっきまでの強キャラオーラはどこ行った。端から見ればただの甘党JKだ。

 

「1週間後までに、だったね?」

 

「はあぁ~♡ ……ハッ! そ、そうだ。ギルドは1週間後にかき集めたDランク以上の冒険者を迷宮に突入させるつもりだって。

それまでに君たちもDランクになって」

 

 今さらポーカーフェイスに戻ってももう遅い。

 

「となると……あのつまんない素材集めをいっぱいこなさなきゃなんないの?」

 

「それだけじゃなく、己より上のランクの魔物を倒し続ける事。しっかりやればランクの昇格は簡単。第1の課題はDランクへの昇格だよ」

 

「なるほどなるほど。つまりルミちゃんはあえてBから上にランクを上げないのね? どうして?」

 

「フン。注目されるのが面倒臭いだけ。

 さて、腹ごなしに丁度良いからこの後すぐに稽古をつけてあげる」

 

 そう言いながら、ルミレインはくいっと白いカップに注がれたコーヒーを優雅に飲み干す。

 いつの間にかカナンの金で奢られたスイーツを完食していた。

 

「……ごちそうさま。美味しかった」

 

 がたりと席を立ちあがりレベッカさんにお礼を言うと、カフェの扉を開け外へ出た。オレ達も後を追って、ぞろぞろと通りに出る。

 

「さっそく君たちの戦い方を……いや、少し待て」

 

 何かと思えば、目の前で荷物を持ったおばあさんがガラの悪い男にぶつかってしまい、尻もちついて荷物の中身を撒き散らしてしまっていた。

 

「チッ、ダラダラ歩いてんじゃねーよババァ」

 

「あぁ、ごめんなさい……荷物が」

 

 男は謝罪もせず人混みの中に消えていってしまった。ムカつくな。

 あんなに散乱していては、このままじゃ通行人に踏まれてしまう。オレがおばあさんの元に駆け寄ろうとしたら、ルミレインが既に手を差しのべていた。

 

「……大丈夫?」

 

「あらお嬢さん方、ありがとうね」

 

 ルミレインの後に続くように、オレ達は散らばった荷物を集めて土を払いながらおばあさんの鞄に戻す。

 立ち上がったおばあさんは、ペコペコと頭を下げながらオレたちを見送ってくれたのだった。

 

「フン」

 

 人気の少ない場所で稽古とやらをやるつもりらしい。この女子高生、カナンの剣の師匠になるのか。

 

「言っておくけど、ボクは三人とも(・・・・)指南するつもりだから」

 

「え?」

 

 

 

 ――昨日コルダータちゃんが怪鳥ロックに襲われた、スライムが跳ね回る野原。そこで、オレ達三人はルミレインと対峙していた。

 

「ほ、本当に良いんですか?」

 

「構わない。三人まとめてかかってきて」

 

 ……真顔で恐ろしい事を言う。

 オレ達に、〝本気〟でかかって来るよう言いだしたのだ。ニュアンスには多分、オレの悪魔フォームも含まれている。

 

「ふふっ! 後悔しても知らないわよ!!」

 

 カナンは剣を抜いて、脈絡も遠慮も無しにルミレインへ飛びかかった。カナンの長い金色のサイドテールが、動きに合わせて流れ星の尾のような軌跡を画く。

 

 そして剣と剣がぶつかりあい、火花が爆ぜる。

 

「いきなりかよ。それならオレも魔法を使うぜ! 怪我しても知らねえぞ!」

 

【氷結魔法】!

 

 巨大な氷の刃がルミレインを切り裂くべくオレの手のひらから発射される。

 怪我したって、コルダータちゃんの魔法なら何とかなるっぽいからな。

 

「フン。【炎牆壁(フレイウォール)】」

 

「っ!」

 

 まあ、そうなるか。

 氷の刃を防ぐように、炎の壁のようなものが瞬時に展開される。それに触れた氷は一瞬にして蒸発してしまった。

 

「えい! これならっ?! 食らえっ!!」

 

 その場から一歩も動かず、カナンのあらゆる角度からの攻撃を全ていなしてゆく。

 ギリギリと噛み締めるカナンに対し、涼しげな表情のルミレイン。

 カナンの攻撃にはかなりのパワーがあるハズなのに、それを何発も軽々受け止めるとは末恐ろしい。

 

「ぎゃんっ!」

 

主様(マスター)っ!!?」

 

 ルミレインめ、攻撃と攻撃の隙にカナンの腹へ蹴りを入れやがった。弾き飛ばされ、カナンが地面を転がる。

 

「……ほう?」

 

 ルミレインの足元の土が、水面のように波紋を描いた。

 

「……どうなっても知りませんよ。【地操作魔法】!」

 

 

 バコン!!

 

 

 地面がまるで蛇のように蠢き、ルミレインをとぐろに飲み込む。オレはすかさず悪魔の姿となり、拳に魔力と全力を込めて追撃する!

 

『はああああ!!』

 

 拳に【魔性付与(マジックエンチャント)】を用いて魔力を纏わせる。右手に氷結、左手に闇。

 組んだ両手で叩き潰すっ――!

 

「……フン。悪くはないけど、脆い」

 

「嘘っ!?」

 

 土の塊が弾けとんだ……!? ルミレインが内側から何かしたようだ。

 だが、さすがにこれは防げまい! 回避行動をとらせる隙は無かった。

 オレの一撃が直撃するかに見えた刹那――

 

「……きみも」

 

『なっ……!?』

 

 なんと恐ろしい速度で反応し、オレの拳を剣で防いできた。それすら反応するのかよ。だがな、【闇魔法】は物質を崩壊させる効果があるのだ。その剣だけでももらっていくぞ!

 

 ――?

 

「狙いは良い……。けど、魔力の運用に無駄がある」

 

 相殺……だと?

 ルミレインの剣が、オレの冷気と闇を掻き消すように赤く燃えている。

 ぎりぎりと拮抗するルミレインの剣と、はるかに巨大なオレの拳。いや、オレがかなり力を込めているのに対し、ルミレインは未だ本気を出していないように見えた。

 

『本当に何者なんだよ、アンタ』

 

「フン、想像に任せる。さて、終わりにする」

 

『ぐっ……うおっ!?』

 

 オレの拳が切り裂かれたっ……!?

 硬い鎧のような甲殻に包まれた拳が、ルミレインの一撃で真横に大きく削られた。切断された指が数本、その場で黒い塵となって消えてゆく。激痛が走る。

 

 更に、驚いた次の瞬間オレの首に剣が迫っていた。

 一瞬で間合いをっ!? なんて凄まじい速度……見えなかった!

 まずい、反応が間に合わない、斬られる……!

 

 ……多分この姿でやられても、カナンの中に戻されるだけだろう。あれ、もしかしてオレってカナンが殺られなきゃ不死身?

 いやでも痛いのは嫌だな。

 迫り来る一撃を前に思考を回転させる中、オレとルミレインの間に小さな影が割り込んだ。

 

 

 

「させないわっ!」

 

 

 ガキィン!!!

 

 

 カナンが寸前でルミレインの剣を受け止める。空中で飛び退くルミレイン。

 おかげでオレは痛い思いをせずに済んだ。

 

『助かったぜ主様(マスター)

 

「ハア……全く、おーちゃんは私がいないとダメね」

 

 油断せず剣を構えるカナン。対し、ルミレインは剣を鞘に納め真顔で言った。

 

「終了」

 

「ハア……ハア……私達の戦いは、どうだった? 改善点を教えて欲しいわ」

 

 カナンも剣を納めてオレを体の中に戻し、蹴られたお腹をさすりながら聞いた。

 ルミレインは顎を触り少し考えた後、口を開く。

 

「まず、コルダータから」

 

「は、はいっ!」

 

「結論だけ言う。己の中で、魔法を使う際にどういうイメージがしっくりくるか探ってみる事。それがきみの武器となるハズ」

 

 なるほど、オレにも言える事だな。より具体的にイメージっと。尚更気をつけよう。それから、ルミレインはカナンの目を、いや、その奥にいるオレを見据えて話し出した。

 

「次はオーエン。きみは〝術式〟を学ぶ事。

 これは最適なパターン化された魔法の扱い方。イメージの上位互換。

 詳しくは街の図書館で調べて」

 

 術式……魔方陣とか出てきそうな話だな。なるほど調べてみよう。

 

「最後にカナン。素晴らしいセンスだけど、動きが素直過ぎる。格上相手にそれでは力負けするから、もっと動きが読まれないよう、フェイントをかけるなど工夫して」

 

「どうりで。動きが読まれていたのね」

 

 カナンはそう言ってニヤリと笑うと、ルミレインにありがとうと礼をした。

 

「フン、今日はここまで」

 

 いつの間にか、辺りは黄昏時になっていた。オレンジ色の光に照らされ、オレ達は初めての稽古を解散した。

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 ふと、夜中に寝苦しさで目が覚めた。

 風呂に入れられるために幼女形態を召喚され、そのままカナンの隣で眠っていた所だ。

 

「ん……」

 

 下腹部がキリキリと痛み、全身がなんだか火照る。それに加えて胸の辺りにしこりがあるように張って痛い。なんだこれ。

 うーん、とりあえずおトイレ行こう。

 

 二人を起こさないよう、そっと部屋を出てトイレに入る。まさかの洋式なトイレに腰掛け、ぼんやり。

 

 おしっこしたらいちいち拭かなきゃいけないのがちょっとめんどくさいよなー。

 

 ……ん? これおしっこ……じゃない? 何この赤い――

 

 

 !!

 

 

「ふぎゃああああああああっっ!!!?」

 

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