バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第2話 契約

 赤、青、白……様々な色彩に煌めく光の粒子が、広大な闇をまんべんなく飾り付けている。その光景はさながら星空のようだ。

 

 くそ、どうすりゃいいんだ……。何がどうなってるんだよ。

 

 自らの置かれた状況に困惑し、かつあの子がこのままじゃ死んでしまうかもしれないと焦る

 

『――その子を、助けたいか?』

 

『うお、誰だ!!?』

 

 突然、暗闇の中に浮き上がる白衣白髪の少女が話しかけてきた。

 その子はまるで幽霊のような儚さを纏い、首には黒い紐のような何かが締め付けていて見るに耐えない。

 

『君は一体……』

 

『わたしは……あー、めんどくさいから自己紹介はお互い無しで頼むのだー。それよりこれを見るのだ!』

 

 少女の痣だらけな手から、ホログラムのような映像が空中に投影される。その中で、人間に酷似した頭を持つ獅子のような生物が何かを貪り食っていた。口元は赤く染まっている。

 

『んー? これは一体……てかこいつが食っているのってまさか……』

 

『そーなのだ。このままだとカナンちゃんはこの、人を食べる怪物 人面獅子(マンティコア)に食い殺されるのだ』

 

『はあっ? カナンが食い殺される?……って、カナンってオレが中にいるあの子の事か?』

 

 思わぬ所で名前が判明した。カナンちゃんか……可愛い名前だな。

 

『カナンなのだ、そうなのだ。びっくりでしょ? ここは大人なわたしを見習って落ち着いて聞くのだ!!』

 

 大人……? とてもそうには見えないが。せいぜいカナンより少し年下くらい?

 

『ふぇ!? べべ別にわたしはキミよりずっとずっと長くいるのだ!!! わたしの方が大人だもんね!』

 

 おっと心の声が漏れてたか。少女のどや顔が一気に焦りの顔に変わる。オレより年上ってロリババァかな?

 

『あ、おいそんなはしゃぐと転んで怪我するぞ』

 

 少女がオレの回りをぴょんこぴょんこ跳び回る。

 やたら大人という言葉を強調しながら、片足立ちでトリプルアクセルを見せつけてくるが、転んでしまいそうで危ういな。

 

『だから子供じゃないから心配無用なの……のべし!!?』

 

 その時オレは見た。着地の瞬間に足首を違えてバランスを崩してしまうのを。

 それはもう、美しく盛大にずっこけた。

 コントの中でしか見たことのないようなコケ方だった。

 

『……大丈夫か?』

 

 額を痛そうに押さえてる。

 やっぱり子供じゃないか……既にオレの中の印象はお馬鹿さんで固定されてきてるのだが。

 

『今ぜったいバカって考えてたでしょ!!? ざんねーん! バカって言う方がバカなのだバーーーーーーーカ!!!!!!』

 

『いや考えてはいたが、言ってはないぞ?』

 

『のだっ!? じゃあバカはわたしってか!!? もうやだおうち帰りたいのだぁぁ!! ぴええええぇぇ!!!』

 

 お客様の中に泣き虫でわがままで傲慢な女の子の親御さんはいらっしゃいませんかー。

 

 ……茶番はさておき、本題はどこいった。かなり重要そうな話だったし、機嫌を直して聞かないと。

 

『すまんな、オレが悪かった。バカはオレで君は大人だった』

 

『今さら後付けしても遅いのだ。ぐすん』

 

 やれやれ、弱ったな。

 

『んー……じゃあさ、今度甘いものでも奢るから機嫌直してくれよ?』

 

『甘い……もの! ホント!? 約束なのだ! わたしプリンがいいのだー!!』

 

 釣れたな。やっぱ中身も子供じゃねーか、チョロいな。

 

『約束する。だから、さっきの話の続きを教えてくれ』

 

『うん。わたしもカナンちゃんがマンティコアなんかに食べられちゃうの嫌だから教えるのだ』

 

『ありがとう』

 

 

 涙でぐちゃぐちゃだった顔がすっと引き締まり、神妙な表情で語り始めた。

 

『いい? トクベツサービスで一回だけカナンちゃんの体の外に出られるようにしてやるのだ。

 そうしたら軽くマンティコアをぶっ飛ばして、また体に戻される前にカナンちゃんと〝魂の契約〟を交わすのだ』

 

『契約?』

 

 少女は無言で頷き、一呼吸置いてから説明を始めた。

 

『ぶっちゃけ大それたものじゃないのだ。「〇〇してあげるから代わりに××をちょうだい」

 今はそんな〝約束〟みたいなもので全然OKなのだ』

 

『なるほど。じゃあ外に出られるっていうのはどういう事だ?』

 

『そのまんまの意味なのだ。カナンちゃんの体からキミが外に出て、マンティコアをぶっ飛ばせば万事解決なのだー!!』

 

『マジか! 外に出れるんならさっそく……いや、待てよ?』

 

 いきなり戦えと言われても、出会って5秒でバトルとかできません。

 そんなオレの意図を察したのかはわからないが、不意に少女が手のひらをかざし――

 

上位雷魔弾(イナズイガ)!!!』

 

 

 ズダアァン!!!

 

 

 オレのすぐ横へ金色の稲妻が放たれた。何だなんだ?! 重火器でも持ってんのかこいつ!

 

『ちょおま、殺す気かっっ!?』

 

『ふぇ!? ごめんなのだ……わざとじゃないから怒らないでほしいのだ!』

 

 むしろ怒らないと思ってたのか……?

 そんな可愛く怯えられるとあまり強く怒れないじゃないか……。

 しゃーなしだ。もう怒れない。

 

『……で、今のは何だ?』

 

『今のはわたしの雷魔法なのだー! 凄いでしょー? 実はキミも同じように、氷結魔法を使えるのだ!!』

 

 は? 今のが魔法だと? ここって魔法のあるマジのファンタジー異世界なん?

 

『困惑してるようだなー。この世界はキミの考えている通り、ファンタジーな異世界なのだ』

 

 ははは。全然実感湧かないが、信じる他あるまい。魔法を使えるのはちょっぴりわくわくするけど。

 

『……それでどうやりゃ今のを出せるんだ? 技名唱えるだけじゃないだろ?』

 

『ふふふ、コツはイメージなのだ。例えば敵が凍りつく所を強く想像すれば、氷結魔法を使えるのだ! そもそもキミはもう人間じゃないのだ! だからマンティコアごときワンパンでいけるのだ!』

 

『人間じゃないって……しかしイメージか、わかったぜ。じゃあ今度こそカナンと契約を……』

 

『あっ!!! ちょちょちょ待つのだー!!』

 

 少女が慌ててオレを制する。

 今度は一体何だというのだ。

 

『はぁ。まだ何かあんのか?』

 

『ごめん忘れてたのだ! 〝魂の契約〟をするには相手のことを詳しく知る必要があるのだ!』

 

『詳しくってどんくらいだ?』

 

『厳密にどれだけかっていうのは無いのだ。でも、互いを詳しく知ってるほどより契約が強固になるのだ』

 

 付近を漂う星屑を少女が掬い取り、オレに渡してきた。

 

『これは……?』

 

 

 

 途端に視界が開け、見知らぬ場所に立っていた。

 ここは……教会? 荘厳なステンドグラスがかかる大きな建物の庭だ。そして、周りには幼い子供がたくさんいる。ここは多分、孤児院じゃなかろうか。

 オレのすぐ側にはカナンが難しい顔をしながら木に向けて手を合わせていた。

 

『カナン!!』

 

 呼び掛けてみるが反応は無い。

 

『これはカナンちゃんの記憶なのだ。当時の映像が再生されているだけで、キミが干渉する事はできないのだ』

 

 少女の声がどこからか響く。なるほど、映画を見ているようなものと考えればいいのかね。

 

「おい、役立たずの17番(ゴミ)が魔法を使おうとしてるぜ! 本当は使えないくせに!」

 

 小馬鹿にするような少年の声が背後からした。

 二人の取巻きと共に、声の主と思われる体格の良い白髪の少年が後ろから近づいてくる。

 

「やめてよ、ラクちゃん! 私だって魔法くらい使えるもん!」

 

「じゃあやってみせなよ!

 おーいみんなーー!! 17番が今からすっごい魔法を使うって!!!」

 

 少年が大声を張り上げると、途端に周囲の子供たちの視線がカナンへ釘付けとなる。

 ニタニタ笑みを浮かべる少年、手先が震えるカナン。

 

「い、下位雷魔弾(イナズイア)……」

 

 

 パチン

 

 

 指先で一瞬赤いものが光った。

 

 ……それだけだった。

 

「だっはははは!!! なんだそれ、静電気かよ! ダッセェ!!!」

 

 周囲からもクスクスとカナンを嘲笑う声がする。

 

「今に見ててよ……絶対に見返してやるんだから!!」

 

 

 

 

 

 

 

 映像はそこで終わった。辺りは元の星空のような空間に戻ってきていた。

 

 なぜだか〝17番〟と呼ばれていたが、どういう事なのだろうか。

 

 ともあれこれでやっと契約ができるのかと力を抜いたところで、白髪の少女が蜃気楼のように透けて薄くなっている事に気がついた。

 

『なんか体が透けてきてるぞ? 大丈夫なのかお前?』

 

『ふぅ、そろそろ時間切れみたい。一回だけ、キミの意思でカナンちゃんの体の外に出られるようにしてあるのだ』

 

 みるみる内に少女の体が暗闇へ溶け込んで薄くなる。まだ聞きたい事が山ほどあるってのに、もうお別れらしい。

 

『なんで君はオレに色々と教えてくれたんだ? 一体何者なのか教えてくれ』

 

『えー、やだ。教えなーいのだ! そもそも名前なんてとうの昔に無くしてしまったし……

 そうだ! 次に会う時までにわたしの名前、考えておいてほしいのだ!!』

 

『はぁ!? 名前って……』

 

『バイバイ、カナンちゃんの〝影〟くん。キミはどこかあの子に似てるのだ。だからきっと、何があっても大丈夫……』

 

 あの子?

 その言葉を最後に、少女は声も形も完全に消えてしまった。

 暗闇に呼び掛けても、もう反応は返ってこなかった。

 

 

 契約。それが、カナンを救う唯一の方法らしい。

 

 

 星空のように暗かった視界が、徐々に明るくなってゆく。

 

 やがて体の感覚もまた、カナンのものに変わって行き……。

 

 

 

 オレは、外の世界へ飛び出した。

 

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