バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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当時かなりニヤニヤして書いてた記憶があります


第19話 魔人

 

 ……今日はステキな日だ。花は咲き乱れ、小鳥はさえずっている。こんな日こそ――

 

 ……

 

 何がチュンチュンだ。こちとら男だったプライドが早々からへし折られかけて最悪な日じゃボケ。

 

「お腹を冷やしちゃダメよ」

 

「量自体はそこまでじゃ無さそうですね。ガーゼで事足りそうです」

 

 ベッドに寝かしつけられ、カナンとコルダータちゃんがオレの顔を上から覗きこんでいる。

 うう、下腹部を中心に全身が熱く、重苦しくて立ち上がる事すらままならない。こんなにもキツイものだったのか。

 

「昔、わたしが使っていたお薬の余りを取ってきますね!」

 

「あぅ……?」

 

「すごい熱……私の時はこんなにならないのに……死なないでおーちゃん」

 

 え、なに、オレ死ぬの?

 オレの手を握って、いかにも看取る感じなんですけど。死亡フラグ立てないで。

 

「お薬ありました! カナちゃんちょっとこっち来て!」

 

「どうしたの?」

 

 足早に戻ってきたコルダータちゃんが、部屋の隅でカナンとごにょごにょ何か話している。お薬の服用法とかだろうか。

 

「……えっ!? そんな所に!?」

 

「……そうです。わたしがやりたいけどさすがに……」

 

 カナンが何か驚いて、コルダータちゃんが難しい顔をしてるぞ。よほど苦い薬なのかもしれない。

 

「わたし、お部屋の外にいますね。おーちゃん頑張って……!」

 

 お薬を飲むだけなのに、なんでそんな戦場に送り出すみたく壮絶な顔をしてんの。

 そこまでこれは苦いのか? 良薬口に苦しとはよく言うが。

 がちゃりと扉を閉められ、部屋にはオレとカナンの二人きり。

 

「おーちゃん……できるだけ優しくするから……」

 

「ま、主様(ますたー)……? 」

 

 カナンが手に持つ、白い紙に包まれた固形の物体。あれがお薬のようだ。思ったより大きくて、紡錘形……ロケットみたいな形をしている。

 確かに飲み込むには少し大きいような気がするが……

 

「悪いけど、ちょっと床でうつ伏せになってくれる?」

 

「いいけど……どうして?」

 

「後で教えるから。そのまま膝を立ててお尻を上げて?」

 

 オレは床に伏せ、お尻だけ天高く突き上げるような体勢をとらされた。

 ……何だか嫌な予感がしてきたぞ。

 

「あの……主様(ますたー)? どうしてオレの上に馬乗りになってるのですか?」

 

「それはね、大人しくしてもらうためよ」

 

「……なぜオレのパンツを下ろすのですか?」

 

「それはね、挿れやすくするためよ」

 

 挿れる? どこに? ナニをどうやって?

 オレの背中を挟み込むように膝立ちするカナンのせいで、体勢を変えられない。更に、丸出しのお尻にカナンの視線が鋭く突き刺さり、背中の上からビリビリと紙を破く音が聞こえる。

 それから片手でお尻の割れ目を押し広げ――

 

「あぅ……あの主様(ますたー)、どうして――」

 

「はい、動かないで」

 

「え……ぅあっ!?」

 

 ずぼっ、という音が確かに聞こえた。

 

 ひくひくと異物を外に出そうとする働きを嘲笑うかのように、カナンは指ごと薬をオレの体の奥深くへと押し込んでゆく。

 

「やめ……お゛っ……やめでぇ……」

 

 お客様は神様だなんて言うけども、神なんてくそ食らえって門番さんが言ってるような気がした。

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

「フー……フー……」

 

「よしよし、よく頑張ったね。おーちゃんは可愛い上に偉いさんよ」

 

 人生における屈辱最高記録を日々更新している気がする。

 カナンはパンツとズボンを上げて、汗と涙でぐっしょりのオレをタオルで拭きながらベッドの上まで運んでくれた。

 

「しばらくは横になったまま動いちゃダメだからね? おトイレも一時間は行っちゃダメらしいよ?」

 

「あぅ……もしかしてオレって今日、お留守番……?」

 

「そうなるね。仕方ないよ」

 

 うう、何だか胸がきゅっと締め付けられるみたいな気分。この気持ちは……寂しさ?

 その時、オレの口から意図せず気持ちがこぼれ出る。

 

「ぐすっ……置いて、行かないで……」

 

「ふふ、おーちゃんったらカワイイ。大丈夫よ、夕方には帰ってくるから」

 

 ぽんぽんと頭を撫でられるのは、カナンの中で目覚めてから何回目だろう。ちょっとだけ、気持ちが和らいだ気がした。

 

「……済みましたか?」

 

 ひょっこりとドアから顔を覗かせたコルダータちゃん。

 オレの泣き顔を見るや否や、慌てたように駆け込んできた。

 

「ど、どうしたんですかおーちゃん!? まさかカナちゃん、座薬を間違えて別なトコロに入れちゃったんじゃ……」

 

「ち、違う! おーちゃんが寂しいっていうから撫でてただけよ! 座薬とは関係ないわ!」

 

「ぐすん……主様(ますたー)の言う通りだ……ちょっと切なくなっただけだから……大丈夫」

 

「そ、そうだったのですか。おーちゃんはとっても頑張ったんですね。よしよし寂しくなーい」

 

 二人から同時に頭をなでなで。

 あぅ……何だかヘンなキモチ……

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 ……行ってしまった。

 一人だけ取り残されるって、やっぱりとても情けなくて切ない。

 

 体を動かそうにも、重くてそもそも持ち上がらねえし。

 暇、ただただ暇過ぎる。

 

「おーちゃんだっけ? 暖かいスープを作ったから飲みなさい」

 

 部屋にトレイを持ったメルトさんが入ってきた。上には何やら香ばしいスープの入った器が乗っている。

 

「あぅぅ……お気遣いありがとう……」

 

「おや、こりゃあ相当参ってるね。コルーの時より重いみたいだ」

 

 ベッドの隣の机にトレイを乗せて、オレの上半身をそっと起こしてくれた。それから、お椀片手に匙を口に近づけてくる。

 

「ほら、口開けな」

 

「……いただきます」

 

 美味しい。甘酒に生姜を入れたような味の暖かい飲み物だ。体の芯に染み渡るようで、不快感の無い温かさが体を包み込む。

 メルトさんの手伝いにより完食し、それから少し体が軽くなってきた気がした。

 

「おーちゃんは魔人なんだっけ?」

 

「多分……そうです」

 

「はは、どうりでそうなる訳だ」

 

「どうりで?」

 

 一人で納得したような顔をするメルトさん。意味がちょっとわからない。

 

「初潮を迎えた魔人に多い症状なんだってさ、それ。

 体内の魔力の制御が一時的に不安定になって、体調を崩してしまうのさ。

 魔物の姿に変身できる子は特に要注意らしい。変身に失敗して死ぬ事もあるんだってさ」

 

「えぇ……!?」

 

 マジかよ。このまま無理して悪魔フォームになろうとしてたら、良からぬ事になっていたかも。お留守番して正解だったな。ていうか

 

「よくそんな事を知ってるな」

 

「ははは、魔人のおーちゃんにちょっとだけ打ち明けたくてね。これから言う事は絶対に秘密だよ。もちろん、カナンちゃんやコルーにも」

 

 オレにだけ話せる秘密とは一体。

 

「……わかった。秘密って?」

 

「実は、本人も気づいていないけど、コルーも〝魔人〟なのさ」

 

 マジかよ。魔人だけに。

 

 ……魔人。カナンから教えてもらった話によると、魔物と同様体内に魔石を有する人種のことだという。

 魔石とは魔力の制御装置。より多くの魔力を体内に貯めて制御できる器官。

 どうりでコルダータちゃんはあんな大きな魔法を使える訳だ。

 

「なんで本人はそれを知らないんだ? メルトさんも魔人なのか?」

 

「あたしはただのドワーフさ。昔、友人のダークエルフが赤ん坊のコルーを残して死んじまってね。

 ダークエルフなんて稀少種族、闇奴隷商人が放っておくハズが無い。だからコルーはただの人間って事にして今まで育ててた」

 

 そういえばカナンも初めは奴隷だったっけ。どういう経緯で奴隷にされたのかよく知らないな。まあ本人が自ら口にする事を待とうと思うが。

 

「にしても奴隷商人……そいつらがいなければ、コルダータちゃんは胸を張って魔人として生きれるのにな」

 

「でもね、近々コルーには真実を告げようかと思ってるのさ。魔人だって事と、他にも……二人のおかげさ。あんなに前向きなコルーは久しぶりに見たよ。ありがとさん」

 

 またぽんぽんと頭を撫でられる。気持ちが良いし、食後だからか眠くなってきた……

 メルトさんには悪いけど、ちょっと寝させてもらう……か……

 

「おやおや――」

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 

 ……また来たぞ、ステンドグラスの塔。

 なぜか横たわるオレの顔をアスターが覗きこむ。

 

「こんな時間帯にここに来るなんて、さては昼夜逆転か? ゲームのやり過ぎは健康に良くないのだ」

 

「違うわい。体調不良で寝込んでるだけだ」

 

 起き上がって、オレより一回りほど身長の高いアスターを見上げる。

 体が重くないな。……待てよ?

 

「アスター、ここで魔法って使えるのか?」

 

「何なのだ急に……現実程じゃないけど使えるのだ」

 

 初めて会った時、アスターがオレにいきなり魔法をぶっぱなして来た事を思い出した。魔法を使えるならばもしかすると……

 

「なら、頼みがある。オレに〝術式〟を教えてくれ」

 

 現実で動けないなら、夢で特訓すればいいじゃない。

 

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