バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第21話 今日も元気に

 妙な夢を見た。蒼い月光の射し込む部屋の中に、左右で色の違う白黒の笑った仮面をつけたピエロがマントをはためかせおどけて踊っている。

 

『ハァイ、調子良い?

 (ワタクシ)は〝月に吠えるもの〟』

 

 ここは現実ではなく、夢なのだ。だからオレは、現実感の喪失にさえ気づけず、ピエロの行動を見守る事しかできなかった。

 

 

『良薬口に苦しとはよく言うモノですネ。トクベツなお薬をお友達に飲ませて差し上げましょう』

 

 ピエロはマントに隠された懐から小ビンを取り出し、中にある丸い薬を涎を垂らしながら眠るコルダータちゃんの口に近づけてきた。

 

「それは……何?」

 

『こちら、〝誓約の秘薬〟というシロモノ。この2つを飲んだ者同士を〝魂の契約〟で繋ぐシロモノでございマス』

 

「契約……? オレが……愛しき主様(マスター)と交わしたモノを……そんな薬で簡単にか? ……騙されんぞ」

 

『ンッふっふ。まあ、これを人間風情が手にするのは容易ではないのですがネ』

 

 ピエロは無機質な手ですやすやと眠るコルダータちゃんの顎を軽く掴み、口を開く。白い陶器のような歯の並ぶ口内へ、丸薬をつまむ指が喉の奥へと押し入る。

 

 

 

 ――ゴクン

 

 

 オレを抱き締めているコルダータちゃんの体が、薬を受け入れたらしい。コルダータちゃんのお腹の辺りが一瞬だけ赤く光ったような気がした。

 

 それからピエロは、主様(マスター)の方にも行って何かしていた。記憶はそこで途切れている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ハッ!?」

 

 

 チュンチュンいつもの小鳥が朝を告げている。

 そこで調度、コルダータちゃんも目を覚ましたようだ。

 

「んぅ……おはようですおーちゃん。寝起きもカワイイです」

 

 ここだけ切り取ったら完全に朝チュンだ。

 抱きついたままいきなり頬ずりされて、頭を撫でられて、朝から変な気持ちにさせてくる。

 そこへ、嫉妬のオーラを纏いしカナンが背後から声をかけてきた。

 

「おはようおーちゃん、コルちゃん。ふふ、昨晩はお楽しみだったようね……。私を差し置いて……」

 

「わ、わたしはおーちゃんの香りを嗅ぎながら寝ていただけです! それ以外は特に何も……!」

 

「不可抗力! コルダータちゃんに従ってただけだもん!」

 

「何よ、別に怒ってないわ? ただ昨日はちょっと……寂しかったわ……。ところでおーちゃん、体調はどう?」

 

 話題を切り替え、オレの体調について問われる。

 うーん、気分は良いな。お腹の痛みもだいぶ収まったし、だるさも熱っぽさもほぼ解消された。あの薬のおかげかな。

 

「すこぶる快調だ。今日は何とかついていけそう」

 

「そっか。おーちゃんは特訓の遅れも取り戻さないといけないし、今日は特に頑張らないとね」

 

 そういえばそうだったな。実は夢の中で練習はしてたから、そこまで遅れちゃいないけど。

 

 

 ――それからオレは、1日ぶりにまともな食事をして外に出た。

 良い天気で清清しい。

 さっそくギルドへ向かう最中、カナンが切り出した

 

「実はね、今日はEランクに上がれそうなの。Dランクへは案外すぐに手が届きそう」

 

「おー凄いな主様(ますたー)。そういやEランクから討伐依頼が出てくるんだっけ」

 

「そうです。でも、大体がFランク魔物(モンスター)の討伐でカナちゃんにはまだ退屈かもしれないですね」

 

「ふうん。無いよりは良いわ」

 

 

 そんなこんなでギルドに到着した。

 ギルドでは、新たに出来た迷宮へ初めて足を踏み入れるという栄誉を求める冒険者達の行列が外まで伸びている。普段は2つしかない窓口も、臨時でいくつか増やして対応しているようだ。

 

「……とりあえずこれをこなすわ」

 

 カナンは受付横の掲示板に書かれていた素材採集を選び、受付横の機械をいじって受注する。ファンタジー世界に機械ってなかなか異質だな。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 街から徒歩で2~30分の草むらで、オレ達は黙々と草むしりをしている。依頼は、ラテスという薬草の採取である。かれこれ数十分はしゃがみこんでずっと草ばかり触っている。

 

「ただ採れば良いってだけじゃないですよ。今後育つ若い芽は残しておいて、大きなラテス草だけを採るのです。また、傷をつけると薬効が劣化しちゃうので、根っこごと優しく掘り出すのがベストです!」

 

 コルダータちゃんの指導がえらい的確だ。さすが先輩冒険者なだけはある。

 ちなみに、ギルドから貸し出される袋には空間拡張とかいう魔法がかかっていて、見た目よりも遥かに多くの物を詰め込めるらしい。小さな巾着袋が次から次へと本来なら許容量を遥かに超える程の草を飲み込んで行く。人1人くらい入れそうだな。

 

「うー、やっぱりつまんないわー。何か、こう、強い魔物とか襲撃してきてくれないかしら」

 

 漫画とかラノベだと、フラグっていうんだよなそのセリフ。

 んな都合良く魔物とか出てくる訳もあるまいし。

 

 ……ん?

 

「どうしたのおーちゃん?」

 

「何か聞こえなかったか?」

 

 がさがさと草をかき分けながら、何かがこちらに向かって走ってくる。

 なんだろうと立ち上がり、音の主の姿を確かめた。

 

「子供っ!? お嬢ちゃんたちも早く逃げて!! 飛竜(ワイバーン)の群れが来てる!!」

 

 なんだなんだ? 冒険者と思われる男女数人が息を切らしながら草をかき分け走ってきたと思ったら、そのまま過ぎ去っていった。

 

飛竜(ワイバーン)?」

 

飛竜(ワイバーン)って確かBランクの……おーちゃんカナちゃん、あれを見て!!」

 

 コルダータちゃんが指さす上空に、目測で100匹は軽く超えるであろう翼を持つドラゴンの大群がこちらへ迫って来て来ているではないか。完全にオレ達を獲物と認識しているようだ。

 

「最初にコルちゃんに会った時の事、思い出すわね」

 

「はい。あの時と違う事は、わたしも戦えるって事ですね」

 

「久しぶりに思い切り戦えそうだな」

 

 コルダータちゃんは手に魔力を込め、カナンは剣を抜く。そしてオレは悪魔の姿に変身した。

 

「おーちゃんは私と空中戦ね。コルちゃんは例の術式を頑張って!」

 

「二人とも、頑張ってください!」

 

 オレは、一瞬だけカナンの中に戻ってから【部分召喚】で翼だけカナンの体から生やす。この為にカナンは、()()()()()()服を着ているのだ。

 カナンとオレは、飛竜(ワイバーン)の大群と空中で対峙する。

 

 

 

「……美味しそう。ご馳走ね」

 

 何言ってんの主様(マスター)……と、いつもなら言いそうな所だけども、オレも同じ感想を抱いている。

 なお、美味しそうに見えるのは肉ではなく、魂の方だ。実はここ最近、敵を殺す際に腹が満たされるような感覚がする。【魂喰】のせいだろうか? 特にカナンは、昨日あたりから「味」まで感じるようになったらしい。

 

 よってオレとカナンは、戦いに際すると『食欲』を湧かせるのである。

 

「いただきまーす!」

 

 カナンの剣が黒い瘴気を纏う。

 その場で横に一振りすると、一番近くまで迫っていた一匹の飛竜(ワイバーン)が真っ二つに割けた後、黒い塵となって消えていった。

 

 

 ――ゴクン

 

 

 カナンが何かを飲み込んだ。肉体を共有しているオレにすらその味はわからないものの、カナンはもがくそれをしばらく口の中で転がし味わってから飲み下した。カナンのお腹が少し膨れたような気がする。腹の奥でまだ蠢いているのを感じる。

 

「これだけあれば食べ放題ね……少し早いけど、ディナーにするわ!!」

 

 カナン……いや、主様(マスター)は、溢れそうな唾液を飲みこみつつ舌なめずりをしながら、髪をなびかせ金色の尾を引きながら飛竜(ワイバーン)の群れの中へと飛び込んだのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 人気の少ない町はずれにある屋敷にて、うごめく影が3人。

 細身の男とローブを深く纏った男、そして白髪の小さな少年。

 

「この役立たずめ、悪魔を召喚するために何人の奴隷を生贄にしたのか分かっているのか貴様! それを倒されるなど……我に金をドブに捨てさせたと同義ではないかっ!」

 

 細身の男がそう激昂すると、男は頭を下げる。するとそのローブの奥で、黒い髪と紅い瞳が不服そうに揺らめいた。

 

「申し訳ない。ですが、私が召喚したものはAランクに類するハズの上位悪魔(グレーターデーモン)です。それも、数多の魔の神とされる深淵の女神(アビスデウス)の眷属。それを倒すとは、件の魔人と行動を共にする少女はなかなかの手練れのようだ」

 

「もしやすると……貴様と同じ異世界人(メアリースー)かもしれぬな」

 

「呼んだか? お困りなら俺が行って来ようか? 異世界人(メアリースー)だとしても、上位悪魔を倒すくらいならただの雑魚だし。たまには虫ケラを踏み潰すのも悪くない」

 

 白髪の少年がニヤニヤしながら会話に割り込む。

 

「いや、それはまだ待ちたまえ。私と君の存在がこの国に気付かれてしまえば困るのだ、ラクリス君」

 

「はは、俺たちはお前が協力してくれるっていうから大人しくしてやってんだけど? 別に例の魔人を捕まえるのにあんたはいなくてもいいっていうか。

 ……まあいい。その上位悪魔を倒した女の子ってどんな子だった?」

 

「髪先が紅い、金髪サイドテールの少女でした」

 

「へぇ、俺の知ってる出来損ないに似てる。いじめがいがありそうだ」

 

 嗜虐心の溢れる笑みを浮かべながら、少年はその少女に思いを馳せた。

 

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