バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第23話 なんだっけそいつ?

 建物に挟まれた青空が、帯のように頭上を流れてゆく。

 いつかの『裏道』を通って、コルダータちゃんの家までたどり着いた。

 

 すると、庭にある小屋から金属を打ち付ける音が聞こえてくる。

 

 「おかーさーん、早いけどお風呂入ってくるねー?」

 

 「ん? あいよー」

 

 コルダータちゃんとメルトさんがそんなやり取りを軽く済ませ、早速脱衣場へと向かう。今のカナンは、ワイバーンの血を頭からかぶったおかげで凄まじくスプラッタな見た目なのだ。これでは街中を歩けない。

 

 「うーん、パンツまで血まみれだわ」

 

 「さっとセンタクキで洗いに出しちゃいましょう。わたし達がお風呂に入っている間に済みますよ!」

 

 隠すそぶりも無く、オレの前で裸になってゆく二人。オレも無理やり剥がされる前にそそくさと服を脱いでゆくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 裸の二人を前に、オレは黙々と座って自分で体を洗う。……もう心を無にする事には慣れてきている。おかげでそのうち悟りを開けそうだ。

 

 「あ、おーちゃんの尻尾今朝より伸びてるわ!」

 

 「ひゃあぅっ!?」

 

 オレの腰から伸びる黒い尾を脈絡もなくカナンに引っ張られる。あぅ、思わず変な声が出てしまった。

 

 「ふふ、おーちゃんここが気持ちいいのね……?」

 

 ふぁ、ナニコレっ……?!

 

 尻尾の付け根をにぎにぎされると、コリコリと音がして、ちょっと――いや、腰が抜けて声が出せなくなるくらい気持ちいい。やめれ。いや、やめてほしくもないな。

 

 「あれ……何か頭についてますよ」

 

 何かに気づいたコルダータちゃんが蕩けかけたオレの頭を触る。ん、なんだこの妙に硬いの?

 それをコルダータちゃんがぎゅっと引っ張ると――

 

 「あれ、取れない? ……というかこれって、角じゃないですか?!」

 

 「つ、つのぉ!?」

 

 自分で触ってみて、この硬いものが頭の一部であると確かめられた。髪で隠せる長さではあるが、角に尻尾に何なんだ? なぜ急に?

 

 「こうなった心当たりってあるかしら? 何か変なもの食べただとか」

 

 「心当たりか。うーん、主様(ますたー)が食べ過ぎた事以外、特には」

 

 オレとカナンは魂の奥底で繋がっているのだ。なんなら、オレが主様(ますたー)の一部というレベル。だから、魂の食べ過ぎはあり得るかもしれない。

 

 「食べ過ぎって、何をです? わたしに何を隠してるんです?」

 

 疑うよりは、好奇心による疑問をオレとカナンにかけてきた。

 言っちゃう? と目線で聞くと、カナンは頷いて口を開いた。

 

 「コルちゃんなら教えてあげてもいいわ。私ね、倒した魔物の魂を食べる事ができるの」

 

 「魂をですか?」

 

 「そうだ。主様(ますたー)は文字どおり、殺した魔物の魂を喰らって糧にできる。オレは主様(ますたー)と深い所で繋がっているから、影響を受けたんじゃないかって話」

 

 「うーん。荒唐無稽な話ですけど、二人の言う事なら信じます」

 

 一瞬難しそうな顔をするも、すぐに口角を上げて頷くコルダータちゃん。

 あっさりと受け入れてくれたな。まあ、信じないならそれで良かったんだが。

 

 「という事は、さっきのワイバーンはみんなカナちゃんのお腹の中に? お腹大丈夫?」

 

 「今はもう平気よ。お風呂出たらごはん食べたいわー」

 

 きゅるきゅると鳴るお腹をさすりながら答えるカナン。

 そのうち『おーちゃんって美味しそうね』とか言い出すかもしれない。

 ……今のうちにオレは食べ物じゃないって、媚びとこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ひ、非常事態だ! 飛竜(ワイバーン)の群れが街に向かってきている!!」

 

 一人の男がギルドの扉を外から乱雑にバーンと叩き開けるや否や、そう叫んだ。

 その一言で、数日後に控える迷宮探索の為に冒険者のごった返していたギルドは一瞬で静まり返った。

 

 「おいおい、飛竜(ワイバーン)ってBランクの魔物だろ? それが群れって、一体何頭くらいいたんだ?」

 

 「ひ、100頭は超えていた! この街はおしまいだ!」

 

 「マジかよ……」

 

 その場の全員から血の気が引いて行く。

 この街にいる冒険者の大半はCランク以下。Aランクもいるにはいるものの、圧倒的な数の前ではどうしようもないのである。そもそも、Bランク以上との連絡がなぜかつかない。

 

 「み、みんな大変です! 凄まじい数のワイバーンが……って、もう知らされてんのか?」

 

 街の周辺の見回りを行っていた若いギルド職員の青年が、慌てて駆け込んできた。

 これにより、ただの(ホラ)ではないと証明された。

 

 

 ――ちょうどその頃、カナンは口いっぱいに詰まったワイバーン達を一気に飲み下していたのだが、誰も知るよしも無かったのである。

 

 

 

 「ギルド職員による事実確認も取れましたので、これよりこの場で討伐隊を募集します! 報酬はAランク相当を適用させます!!」

 

 討伐隊――と言えば、まるで迎え撃つような響きだ。しかし、それは文面だけであり、実際は街の人間が避難するまでの時間稼ぎである。つまり、命を賭けてワイバーンの群れの気を引けというのだ。

 

 「死にたくねえよ……」

 

 当然、誰もそんなものに参加なんてしたくはない。だが

 

 「お、俺はやるぞ! ここには女房と子供が住んでるんだ!」

 

 「そ、そうだ! おれだって恋人がいるんだ!」

 

 ちらほらと、討伐隊に志願する冒険者が増えてゆく。僅かながら、覚悟と己の大切な物の為に命を投げ打つ勇者たち。

 彼らは、ギルドから支給された回復薬や装備を持って街を後にした。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 なんだこの雰囲気は?

 二人と共にギルドに入ると、ほとんど冒険者はおらず、職員も何やら世話しなく動き回っているようだった。

 

 「何かあったのかしら?」

 

 「聞いてみましょう」

 

 とりあえずカナンは近くを通りかかったいつもの受付嬢を呼び止めて聞いてみた。

 

 「大変なんです。100頭以上もの飛竜(ワイバーン)の群れがこちらに向かってきていまして、対応に追われている所です。強いカナンさんにも討伐に加わってほしいですけど、規定上子供を参加させる訳にはいきません……」

 

 ワイバーンって、さっきカナンが完食したトカゲどもか?

 言われてみれば、あのサイズで炎吐くドラゴンが100匹も街に来たら大変な事になるな。まあ、もう全部カナンの胃袋で消化されたみたいだけど。

 

 「ふーん。とりあえず忙しそうだし、依頼(クエスト)の袋だけ置いておくわ」

 

 「ありがとうございます。状況が状況なので報酬は後日お渡しますね」

 

 袋を受け取った受付嬢は、それを持ってバックヤードへ下がっていった。

 その隙に、カナンとコルダータちゃんが冒険者カードをカウンターの上にある機械に差し込む。ピッという音がしてから、引き抜いた。

 

 ――冒険者カードには、魔物を討伐するとデータが自動で記録される。それを、定期的にギルドにある機械で送信する事が義務づけられているとか。

 

 「さて、かふぇに行こっか」

 

 忙しそうだし、オレ達はギルドを出ていつものカフェへと向かった。

 

 ちょうどギルドに入れ違いになった冒険者たちが、口々に『どんな化け物だよ』『ありゃあ、ワイバーンより上のランクの魔物がいるって事だよな』等と、震える声で話し合っているのが聞こえた。こわいね。

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 さて、良い陽気の昼下がり。

 ギルドを後にしてカフェへと向かう道中、ふとカナンが立ち止まった。

 

 「どうしたんですか、カナちゃん?」

 

 「ねえ、あのお店に売ってる髪飾り、おーちゃんに似合いそうと思わない? それに角も隠せそうだし」

 

 指差す先には、髪飾りを専門に売っているらしい露店があった。様々な色彩やデザインのリボンやカチューシャ等、色々なものが売っている。中には明らかにコスプレ用としか思えないネコミミまでも……。

 2人の目がギラリと光った。

 

 「お、オレはそんなのいらないからな?! このままで十分カワイイからっ!」

 

 「ついに自分がカワイイって認めたわね? なら、この赤いリボンなんて黒髪に映えてカワイイと思うわ」

 

 「わたしはこの猫耳や兎耳も似合うと思います!」

 

 寄り道した露店の前で、唐突にオレに対する公開処刑(着せかえ)が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 「……なんだその頭?」

 

 かふぇに待ち合わせていたルミレインが、オレの髪飾りを見るや否やそう聞いてきた。

 

 「カワイイでしょー?」

 

 結局二人はあれから、数種類の髪飾りを購入する事となった。

 そして、『さっそくそうびしていくかい?』と言わんばかりにオレに大きな赤いリボンを着けたのだ。恥ずかし過ぎてハスキー犬になりそう。わんわん。

 

 「あうぅ……」

 

 頭の上で動くたびにリボンが揺れる。

 基本的にポーカーフェイスのルミレインがフンと鼻で笑った。笑うな。

 

 「……んむ! はわぁ……やっぱプリン最高~!!」

 

 プリンを口に運んだ瞬間ルミレインが豹変する。甘い物を食べている間、この人ただのJKになるよな。もう隠す気も無さそうだし。

 

 

 

「――さて、ボクは一つオーエンに聞きたい事がある」

 

 「ん、オレに?」

 

 プリンやその他のスイーツをたっぷりと堪能したルミレインが、急にポーカーフェイスに戻って切り出した。

 

「アイツ……いや、白黒のピエロ(・・・・・・)に会わなかったか?」

 

 白黒のピエロ……? なんだっけそいつ。

 

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