バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第24話 吸血姫

 「白黒のピエロ?」

 

 そうオレが聞くと、ルミレインは頷いて話し続けた。

 

 「そうだ。通称〝狂乱の道化師〟……こいつは人の身に有り余る物品を与え、それにより破滅してゆく様を側で楽しむというタチの悪い奴。実在はするけど、正体不明」

 

 「……そんなのに会った記憶なんて無いけど」

 

 「そうか、無いなら良い。忘れてくれ」

 

 いやなんで聞いてきたのか。オレや二人が聞いても、ルミレインは特に答える事無く立ち上がってカフェを出ていった。昼食を済ませたオレ達も後を追うように外へ出た。なんなんだよ。

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 

 さて、オレは1日ぶりに野原へやって来た。ここはほとんどスライムしか生息していない上に、素材も何も無い。だから人気も少なく、人目をほとんど気にしなくても良いのだ。

 

 「まずは……オーエン。きみは昨日ボクの指導を受けてないから、とりあえず術式の基礎を――」

 

 「ああ、それならもう覚えた」

 

 「ほう?」

 

 

 

 

 ――どうしてこうなった。

 

 お家でお勉強していたと報告しただけなのに、どうして先生とタイマンやる事になってるんですか?

 慌てるオレに、ルミレインは懐から懐中時計を取り出して見せてきた。

 

 「……1分間、術式を使ってボクに全力で攻撃してきて。ボクは防御はするけど、反撃はしないから」

 

 え、反撃してこないの? よっしゃあ、それなら思う存分やってやるぜ!!

 

 「おーちゃんファイトー!」

 

 「ファイトです!」

 

 ちょっと離れた所から応援してくれてる二人に軽く手を振って応える。

 よーし、おーちゃん頑張っちゃうぞ。

 

 「お覚悟っ!!」

 

 「……おお?」

 

 オレは立ったまんまのルミレインへ、小さな黒い霰に似た氷の弾……【上位氷結闇魔弾】を手のひらから発射する。

 これは、着弾すると一気に枝のように広がる範囲攻撃なのだ。避けた後の油断を刈る事もできる。

 案の定、ルミレインは紙一重で回避した。そのまま死角で地上に炸裂した闇の枝が迫る。

 

 

 だが。

 

 

 だが。

 

 

 「自力で術式を習得とは……やるな。だが――」

 

 「……は?」

 

 なんと、闇を纏う氷の枝を、ルミレインは素手で掴んだではないか。何やってんのこの人!? 手が朽ちるぞ……と思ったのもつかの間、枝の方がぼろぼろと崩れて消えてしまった。無論、ルミレインの手はなんともない。

 

 「これだけか?」

 

 「チッ! なら手数で!!」

 

 オレはルミレインの周囲の空間に、無数の闇氷弾を展開した。

 その全てが魔弾であり、威力こそ単発に劣るものの、やはり炸裂すれば広範囲に枝を広げる術式だ。

 さあ、さすがに一撃くらいは当たるだろ!!

 

 「食らいやがれ!!」

 

 一気にルミレインへと黒い霰が降り注ぐ。ばちばちと弾けるように黒いイバラが地面から伸びて行く。

 さすがに捌ききれるとは思えなかった。にも関わらず、ルミレインにはたったの一発も当たっているようには見えない。

 

 ――だったら!

 

 オレは一発、一際大きく炸裂する特製の闇氷をルミレインへ放った。

 巨大な闇の枝が、ルミレインを覆い隠すように伸びる。

 

 やはり軽々避けられる。だが、それは所詮陽動だ。

 

 ――【影移動】。

 対象の影へ、瞬時に移動できる能力(アビリティ)だ。初めて使うけど、だからこそ意表を突けるかもしれない。

 

 オレはその場で地面……いや、自分の影に沈みこみ、影と影を繋ぐ暗い道を伝ってルミレインの足下へと移動した。

 そして、浮上すると同時に陽動で放ったものより威力を込めた魔弾をルミレインの背中へとおみまいする――はずだった。

 

 「……甘い」

 

 「っ嘘だろ!?」

 

 その時、何か恐ろしいものを垣間見た。

 なぜかというと、ルミレインの背後に回り込んだかと思ったら、逆にオレが背中をとられていたのだ。

 

 まずい、やられる――

 

 ルミレインの剣先がオレの頸へ迫る。

 反撃はしないんじゃなかったのか。いいや、それより防御を……ダメだ、間に合わない。

 オレは頸に差し迫るルミレインの剣先を、見つめている事しかできなかった――

 

 

 「……1分経った。おわり」

 

 「っ!?」

 

 

 この刹那で、一時間は経ったような気がする。

 ルミレインは剣をギリギリで止め、ポケットから懐中時計を取り出し見せてきた。確かにちょうど1分経っていた。

 

 「……次、コルダータ」

 

 「わたし!? はい、がんばります!」

 

 呆然とするオレを置いて、ルミレインはコルダータちゃんと、そしてカナンにも同じ事をした。

 

 コルダータちゃんは、ゴーレムの『ユーナ』を召喚しルミレインへけしかける。

 自身は離れた所から、腕や刺や地割れまで、地面の形を様々に変化させユーナをサポートする。

 だかしかし、結局一つもルミレインには通用しなかった。

 

 カナンは、以前より剣の軌道が読めなくなった。要するに、フェイントが増えたという事である。

 対するルミレインは、剣が当たるギリギリまで防御行動(スキ)を見せないため、フェイントには全く乗らなかった。通用しないじゃないかよ。

 

 それから何度も、あるいは多対1でルミレインの指導を受けながら挑んだものの、結局誰一人としてルミレインに食い下がる事は無かった。やっぱ化け物ですね。

 

 

 そして、気がつけばもう黄昏時だった。

 

 

 

 

 

 ルミレインは、また明日とだけ告げそのまま足早に去っていってしまった。

 まあ、カナンはそのうちルミレインも超えるくらい強くなる予定だしな。地道にコツコツいくしかないな。

 

 「オレ達も帰るか」

 

 「そーしましょう!」

 

 元気よく応えるコルダータちゃん。それに対し、カナンはなぜかぼーっとして上の空な様子だった。どうしたのだろうか。

 

 「主様(ますたー)体調悪いの?」

 

 「……はっ、いや違うわ。ちょっと疲れてただけよ。心配しないで」

 

 うーん、嘘だな。明らかに無理してるっぽい。もしかしてカナンも女の子特有のアレ(・・)か? 辛いよな、アレ。

 

 「カナちゃん、気分悪いなら無理しちゃダメですよ?」

 

 「ありがとう……でも本当に大丈夫だから……本当に……」

 

 そこまで言うなら、今はそっとしておいてあげた方がよさそうだ。

 

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 帰ってきたものの、夕食もあまり喉を通らないようだ。カナンはゆっくりと、いつもの倍くらいの時間をかけてやっと食べ終えた。

 

 「お風呂先に入りました。カナちゃん入れます?」

 

 「おーちゃんと一緒に入る……」

 

 「そこはいつも通りだな」

 

 まあ、その為にオレはコルダータちゃんと入るのを拒否したんだがな。そもそもコルダータちゃんと二人きりでお互いに裸って、なかなか危険な状況だし。

 

 そんなこんなで、オレはいつも通りカナンと一緒に本日2度目のお風呂に入った。

 

 

 やっぱり元気が無い。いつもならオレの体を無理矢理洗おうとしてくるのに、今は隣で大人しくシャワーを浴びている。

 

 「あ、おーちゃん羽まで生えてきてる」

 

 「うぇ、マジかよー」

 

 鏡で背中を映してみると、肩甲骨の辺りに黒く小さな小さな辛うじて翼に見えるものが、チロチロとはためいていた。

 

 このままじゃカナンの妹設定が他人にバレそうだな。

 どうしたものか……あれ?

 

 「どうした主様(ますたー)? 顔、近くない?」

 

 「え、あ、いや何でもないわ。先に出てるね」

 

 横向いたら、鼻の当たるくらい近くにカナンの顔があった。

 やっぱりなんか変だ。

 

 とりあえずオレは久しぶりに1人で湯船に浸かってみたけれど、あまりにも広くて物足りない感じがしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんか暑い……

 あれから、いつも通りカナンに抱き締められながら眠っていると、寝苦しさに目が覚めた。

 

 「主様(ますたー)?」

 

 「ハー……ハーッ」

 

 様子がおかしい。

 直に胸に頭をつけているから解るけど、脈がやけに早く呼吸が浅い。

 更に、全身炎のように火照っていて、じっとりと汗をかいている。

 

 「主様(ますたー)起きてる?」

 

 「ハーッ……起きてる……ハーッ、ごめんおーちゃん……」

 

 「な、なんだよ急に謝って? 」

 

 「ごめん……もう我慢できない……」

 

 我慢って何をだよ? オレがそう問いかける前に、カナンはオレを抱き抱え、コルダータちゃんを起こさないようそっと部屋を出て行った。

 

 「ごめん……ごめん……」

 

 そして、おぼつかない足取りで、カナンはオレを抱えたまま暗い暗いお風呂場へと入る。

 

 まだ濡れてる床に下ろされたかと思ったら、いきなりカナンがオレを壁に押さえつけてきた。

 か、壁ドンってやつですかこれ!?

 

 「ふうぅぅぅ……ダメよ私……ハーッ……我慢しなきゃ……」

 

 オレの前でうずくまり、自分で自分の腕をぎっちりと苦しそうに抑え込んでいる。何か、抑えきれない衝動に駆られているらしい。

 

 「……いいよ。ちょっとの間、オレの体を好きにしてもいい」

 

 「そんな、いいの……? ちょっと痛いかもしれない……よ?」

 

 それでカナンの苦しみを止められるなら、構わない。

 オレは無言で頷き、壁に背を預ける。

 すると、ちょうど浴室の小窓から青い月光が射し込んできた。カナンはゆっくり立ちあがり、オレの目を見つめる。

 

 その瞳は、潤んだ緋色に染まっていた。

 

 「ありがとう……おーちゃん……」

 

 カナンは、オレと自らの寝巻きのボタンを外し、胸まではだけさせる。

 

 「主様(ますたー)……」

 

 目の前で、カナンの口ががぱっと大きく開かれる。

 するとぴちゃぴちゃと大量の(よだれ)が床に滴り落ち、小さく鋭い牙が月光に照らされて妖しく光る。

 

 ――オレは(まぶた)を下ろし、カナンの欲望に身を委ねる。

 そして、カプッという音と共に、主様(マスター)の牙が首筋の皮膚をぷつんと突き破った。

 

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