バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第27話 サブジェクト

 鏡餅のようにひび割れた地面に立ち、カナンは気絶して泡を吹くアガスの体をゴミのように見下す。

 

 すると、透明な結界が一瞬白く光って解除され、外からギルド職員数人がいそいそ入ってきた。

 

 

 「うわぁ……こりゃあもう冒険者として活動するのは無理だろ……」

 

 「ま、色々問題起こしまくってた奴らしいし、僕は内心ざまあみろって感じですけど」

 

 職員がわっせわっせとアガスの体を外へ運んでゆく。

 それと入れ替わるように、ギルドマスターのエルムさんがパチパチと拍手しながら入ってきた。

 

 「いやあ、君ほんと凄まじいね。お礼といっちゃなんだけど、一つ可能な範囲で欲しいものをあげるよ」

 

 「欲しいもの? ……うーん(おーちゃんは何が欲しい?)」

 

『オレ? そうだなーかわい……じゃなくてちゃんとした服が欲しいな。コルダータちゃんのおさがりのままだと恥ずかしいし』

 

 「おっけー、新しい私たちのお洋服が欲しいわ。見た目も装備としても上質なものよ」

 

 「ならちょうどいいね。今日はこれから有名な仕立て屋が来る所だったんだ。よし、彼女が到着したら格安で売ってもらえるよう交渉しよう」

 

 エルムと話しながら金網の柵をくぐり抜けると、野次馬の冒険者達が好奇の目線を向けてきた。みな口々にSランクがどうのと言っていた。まさかカナンの事だろうか?

 

 

 

 

 ――

 

 

 

 

 「あれっ、コルちゃんどこ行ってたのよ?」

 

 「ごめーん、ちょっとだけ用事があってね」

 

 執務室のドアを開けると、なぜかコルダータちゃんと受付嬢さんが散らかった部屋の片付けをしていた。埃が舞い、カナンがこほんと咳き込む。

 

 「もー、いきなりカナンちゃんをAランク(アガス)と戦わせるだなんて聞いた時には、もー!」

 

 「ごめんねごめんねー、あっそのポテチ食べかけだから残しといてくれる?」

 

 「もー、ちょっとは自分で片付けてよお姉ちゃんったら!」

 

 お姉ちゃん? そういやさっきもそう呼んでたけどもしかして……

 

 「姉妹?」

 

 「お、そうさ。私が姉のエルムで、こっちが妹のニーレ。これテストに出るから覚えといてー。って、そのポテチ私のなんですけどー!?」

 

 ギルドマスターというのに覇気が無いなこの人……

 てか、姉妹だったのか。そして受付嬢の名前も初耳。ニーレちゃんか。

 

 「もー、食べてばっかじゃ太るよ!?」

 

 「はぁー……別にいいもん、まだ秘蔵のポテチがあるし……てかカナンちゃんとコルダータちゃんに大事な話があるから、ニーレは出てってくんない? 仕立て屋が来たら知らせに来て」

 

 「もー、お掃除お願いしたのはそっちなのに何それ?! 今夜はお姉ちゃんの奢りで手打ちね!」

 

 ぷりぷりとニーレが部屋を出てゆくと、エルムはため息をついて部屋の隅にあるクッションに頭から沈みこんだ。

 

 「はぁ~……ギルドマスターなんてやるもんじゃないわぁ……大人しく冒険者を続けてれば……っと、そうだ、仕立て屋が来るまで3人ゆっくりお話しようよ?」

 

 むくりとクッションから立ちあがると、先ほどまでとは打って変わり、少し真面目な顔で話し始めた。

 

 「ぶっちゃけカナンちゃんとコルダータちゃん、二人とも魔人だよね?」

 

 「……え?」

 

 ……は? 待て待て、なんでそれを知ってるんだ?

 コルダータちゃんが魔人だって事は前にメルトさんから聞いた事がある。だが、カナンも魔人だなんて聞いた事ないぞ?

 

 「……その様子だと、二人とも自覚無いみたいだね」

 

 「わたしが……魔人?」

 

 「ちょっと待ってよ! 私が魔人だっていうなら、なんで魔法を使えないのよ?!」

 

 困惑し、見つめ合う二人。いきなり『お前ら人間じゃねぇ!』とか言われても、困惑するしかないだろう。

 

 「まあ落ち着いてって。順を追って説明するから。

 私は【種族鑑定】というアビリティを持ってんの。これは、見た相手の名前と種族が視界に文字で表示されるって能力でね」

 

 「それで……私達を視たって事?」

 

 「その通り! 念のため言っておくけど、この部屋は外に声が漏れないようにしてあるから安心して」

 

 天井に刻まれた魔方陣を指差しそう言うエルム。

 あんまり信用できないけど、聞くだけ聞いた方が良さそうだ。

 

 「結局私達の種族って何なの?」

 

 「好奇心旺盛だねえ。まずコルダータちゃんは、〝ダークエルフ〟だね。奴隷商の連中に気をつけた方が良いよ」

 

 「わたしが……だ、ダークエルフ……!?」

 

 おいおい、メルトさんが覚悟を決めて言おうとしてた事をこんなにあっさり……

 帰ったら修羅場になるぞこりゃ。

 

 「で、カナンちゃんの種族はわからない! てへ!」

 

 「は?」

 

 「厳密には、〝魔人〟だって事だけおおざっぱに解る感じ。私の能力じゃ解析できなかったんだね。まあ、それより興味深いのが――」

 

 何だ? エルムはすたすたカナンの前まで近づいて、この胸を指差した。

 

 「オーエンちゃんが中にいるね?」

 

 「……っ!」

 

 「私の視界にね、君の体内でオーエンちゃんの名前が表示されてるの。

 恐らくカナンちゃんの魔石そのものに(・・・・・・・)オーエンちゃんの意識が宿ってるみたいだね。彼女を外に出してあげられる?」

 

 ま……魔石!?

 魔石っていうのは、魔物や魔人特有の臓器だって話だ。オレが魔人なんじゃなくて、魔石!?

 

 「……私、今までほとんど魔法使えなかったの。その理由はきっと、おーちゃんに魔力を吸われていたからなのね。――〝オウカ〟」

 

 胸に手を当て、微笑みながらオレの名を呼ぶ。

 オレは人間の姿として三人の前に召喚されると、後ろからカナンに抱き上げられた。

 

 「……オーエンちゃんの種族もおおざっぱに〝魔人〟だね。魔霊の人化形態って事だけしかわからないや」

 

 「はあ……」

 

 何というか、すごいぐいぐい来る。

 オレ達の秘密を脅迫材料にでもするのかと思ったけど……あの少年のように輝く瞳は単に好奇心だな。後で他言無用をお願いしよう。

 

 「カナンちゃんってどこで育ったの? オーエンちゃんとの関係も気になるなぁ」

 

 好奇心の赴くままに、エルムがカナンにそう問いかける。すると――

 

 「……どうした主様(ますたー)?」

 

 「私の……生まれたところ……あ、うぁ……ダメ……」

 

 「カナちゃん……?」

 

 「あぁぁぁ!! やめて……もう……痛いのはイヤ……」

 

 苦しそうに呻き、頭を抱えてうずくまるカナン。

 ガチガチと歯が鳴るほど震え、焦点の合わない目には涙が溢れ……あの強気なカナンは見る影も無くなり……

 

 「す、すまない……そんなつもりじゃ……」

 

 慌てて必死にカナンを宥めようとするエルムだが、その声は一切届く様子は無かった。

 

 「カナちゃんしっかり! わたしの声、聞こえてる?」

 

 「裂かないで……開けないで……入れないで……痛い……」

 

 ダメだ、オレが触ってもコルダータちゃんが声かけても届かない。吸血時よりも呼吸が浅く、脈もはち切れそうなくらい速い。クソ、オレにできる事は――

 

 「たす……けて……おーちゃん……」

 

 ――あれ? おかしいな、なんだかオレまで涙が出てきた。

 ……そうか。オレもカナンの一部なんだ。生まれてからずっと、一緒に生きてきたんだ。記憶は無くても、カナンと共有してる部分が分かっている。

 

 「――痛かったな、辛かったな。今はオレもコルダータちゃんも一緒にいるから。よしよし……大丈夫……」

 

 「痛い……でも……」

 

 ぎゅっと抱きしめてあげると、カナンはそのままオレの腕の中で崩れるように気を失ってしまった。

 でもそのおかげか、呼吸も脈も落ち着いてきていた。冷や汗凄いけど。

 

 「迂闊な質問をした私が軽率だった……すまない……ごめんなさい……」

 

 「いや、いい。オレも主様(ますたー)にこんなトラウマがあるなんて知らなかったから」

 

 「あのカナちゃんがこんなになるなんて……どれほど辛かったのでしょう……」

 

 オレとコルダータちゃんは、執務室のクッションにカナンの体を寝かせ、寄り添いながら〝仕立て屋〟の到着を待つのであった。

 

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