バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第32話 迷宮突入前日準備

 ――この世界に創世神話は存在しない。

 

 

 七女神(セブンデウス)

 この世界を管理するという、伝説上の存在。

 

 多々ある神々の中でも最高位に立つ彼女らは、神と呼ばれはしても世界創造を行った訳ではない。

 

 〝神〟の居なかった遥か昔の時代。

 人の身で〝神〟と呼ばれようとする者はいれど、所詮は人。真なる神は、幻想の存在でしかなかった。

 

 世は混沌と戦乱と大災厄にまみれ、ついぞ闇の中で滅びゆくかに思えた。

 

 そこへどこからともなく現れ救ったのが、原初の神でもある七女神(セブンデウス)だったのだ。

 

 オレは寝る前に聞かされたカナンの話を何度も反芻しながら眠りへと落ちてゆく――

 

 

 

 

 

 よっす、と元気そうな少女の声が響く。

 

 気がつくとオレは、筒状のステンドグラスの内側に立つ塔の頂上に立ち、白いワンピースを着た白髪の少女と向き合っていた。

 

「アスター?」

 

「久しぶりなのだ~。アクセスを妨害されちゃってなかなか来れなかったのだ。

 まあそれはそうとして、凄い量なのだ、それ」

 

「それ?」

 

 アスターがオレの後ろを指差した。

 振り向くと、視界に飛び込む玉の山。オレンジ色をした宝石みたいな球体がいくつも積み上がり、その山を形成していた。

 

「カナンが飲み込んだ魂……だったか」

 

 カナンが魂を食べると、オレの魔力が増加する。

 と同時に、元から怪力で分かりにくいが、カナンの膂力も更にパワーアップしているのだ。

 予想だけど、カナンは飲み込んだ魂を体内で何かしらのエネルギーに変換しているらしい。

 

 じゃあここにある原型の魂は何なんだろう?

 消化されなかったのだろうか?

 

「何黙りこんでるのだー?」

 

「っと、すまん。ちょっとぼんやりしてた。また今回も能力(アビリティ)作るんだよな?」

 

「そう、作ってわくわくするのだ! あー、でも、あまり沢山は作らない事をオススメするのだ!」

 

「どうしてだ?」

 

 こんなに材料(・・)が沢山あるのに、なぜ作らないのか。貯めておくと良い事でもあるのか?

 

「より高位の能力(アビリティ)を獲得するには、とても強い願望と沢山のエネルギーを要するのだ。だから、条件が揃うまでは(エネルギー)をここにストックしとくといいのだ!」

 

「ふうん、強く願うってどんくらい?」

 

「うーん、〝これさえあればもう死んでもいい〟ってくらい? その辺は断言できないのだ」

 

 それって死の淵で覚醒する的な能力じゃね? 絶対強いやつやん。

 

「ま、とりあえず今回何か欲しい要望はあるのだ? 貯めるとはいえ、少しくらいなら作っても問題無いのだ」

 

「んー、じゃあ――」

 

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 お金はたっぷりある。昨日、いつの間にか貰っていた飛竜(ワイバーン)討伐の報酬がとんでもない金額だったのだ。

 コルダータちゃんの家にもその半額くらい入れてはいるけど、普通の子供にまず使いきれる額ではない。というか大人でもそうそう持てないらしい。

 

 今日はそのお金で、明日に控える迷宮探検に必要な道具を買い揃える予定だ。

 そう、ついに明日なのである。

 

燻製(くんせい)のような保存食はたくさん買った方が良いって言ってましたよね。それと、回復薬(ポーション)も」

 

 カナンがエルム(ギルドマスター)を半ば無理やり呼び出して聞いた情報によると、魔素を溢れさせている元凶の(コア)まで、入り口からおそらく3日~1週間はかかる見込みらしい。

 つまり、往復で2週間分の食料や諸々が必要になってくるという訳だ。

 一部のアイテムだとかはギルドが出してくれるそうだが、それだけでは確実に足りないだろう。故に各自が準備するのだ。

 

 ただし、所持できる重量も気にしなければならない。

 空間拡張袋は体積を減らせても重量はあまり変わらないのだ。重すぎれば探索の妨げになってしまう。だから、普通は必要最低限な分しか持っていけないのだ。

 

「お嬢ちゃんたち、そんなに買って持ちきれるのかい?」

 

「大丈夫です! 持ち運べるアテがありますから!」

 

 高いカウンターの上からオレ達を心配する丸眼鏡の薬屋さんに対し、下から笑顔で応えるコルダータちゃん。

 このアテとは、オレの能力(アビリティ)の事である。

 

 

【次元収納】――

 容量はおよそ山脈1つ分。アスターいわく、なんでもしまえる超高性能なドラ○もんの四次元ポケットだそうだ。なんで青ダヌキの事知ってんだよ。

 

 ……ともかく、【次元収納】なら重量なんて気にする必要は皆無だし、中に入れている物が劣化したり腐ったりする事は無い。

 食料お薬魔法まで、なんでもかんでも入れ放題。しまっちゃうおーちゃんだよ~。

 

「……!?」

 

 薬屋さんが丸眼鏡の下の目も丸くする。なぜなら、会計を済ませた途端、カウンター上で山積みにしていた大量の小瓶(ポーション)が一瞬で消えてしまったのだから。

 

「おじさんありがと。また来るわね」

 

「え、ああ、まいどあり!」

 

 驚きつつも見送られ、オレ達は次の目的の店へと向かう――

 

「え、フルーツをこんなに……?!」

 

「え、パンをこんなにですか……?」

 

「え、お肉やお魚をこんなに……!?」

 

 訪れるお店の人に毎回同じような事を言われる。その度にカナンは

 

「大丈夫よ。しまっちゃっておーちゃん」

 

 と言い、オレは会計済みのそれらを【次元収納】にしまってしまうのだ。

 そうして目をまん丸くする皆に明るく礼をして去ってゆく。

 

「――食料は2週間分以上確保したわね。あとは、お水や生活に必要な道具かしら?」

 

「お水なら、たくさん手に入れられるアテがありますよ?」

 

 コルダータちゃんが言う。大量のお水が入手できるって、そりゃまたどんなアテだろうか?

 

 

 

 

 

 

「あらいらっしゃーい」

 

 カランカランとドアチャイムを鳴らし、カフェことステラバックスの扉を開ける。

 

「ん……二人とも、今日は特訓は無しだと――」

 

「ルミちゃん! ちょっと付き合ってもらえるかしら? 後でたっぷり奢るから!」

 

「いいけど……何?」

 

 

 

 

 

「【上位氷結魔弾(クリオガ)】!!」

 

「【上位炎魔弾(フレイガ)】!」

 

 青と赤。ぷよぷよスライム跳び跳ねる平原で、異なる二色の魔法が激しくぶつかり合い、大量の蒸気を発する。

 

「ありがとルミちゃん! おかげでお水がたっぷりゲットできたわ!」

 

「ボクの魔法を使うなんて……発想がぶっとんでる」

 

 ルミレインの炎魔法とオレの氷結魔法。この2つをぶつけ合わせ、氷が融解してできた液体の水をオレの【次元収納】で回収する。この行程を何度か繰り返して、【次元収納】の中には学校のプール数杯分くらいの水が貯められた。

 

「……多分お湯になってると思う」

 

「飲むとき冷ませばいいだけの話よ」

 

「でも、おかげで迷宮内でもお風呂に入れそうですね!」

 

 なんていうか、ちょっとズルい気がする。他の冒険者たちは必死こいて重量削りながら色々なものを持ってこうと試行錯誤してるんだろ? なのにオレ達はほぼ手ぶら状態でありながら、他の誰よりも大量の物資を持ってる訳だ。まさしくチートだな。

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 それからオレ達は、必要になりそうな様々な道具を取り揃えていった。

 

 石鹸やタオルや生理用品などは元より、路地裏の怪しいお店に売ってた「明光石」なんて物も買った。

 

 一見ただの丸い水晶に見えるこれは、魔力を込めると込めた分に応じた時間強く発光するというものだ。

 迷宮の中はとても暗い場所もあるので、これが重宝されるのだという。

 

 これをカナンとコルダータちゃんは大小合わせて

 

 

 10個買った。買ってしまった。

 

 

 怪しい店主に勧められるがままに、あるいは口車に乗せられたと言うべきか……

 とにかく買ってしまったのだ。

 

 ――ぼったくられてない?

 

 そんな気がしてたまらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――

 

 

 

 

 

 

 

 明日、やっと迷宮に入れると思うと、胸が高鳴ってワクワクして眠れない。

 

 それはカナンもコルダータちゃんも一緒みたいで、薄暗い中でさっきからずっともじもじしている。

 

「カナちゃんとおーちゃん起きてます?」

 

「もちろんよ。なかなか寝つけないわ」

 

「ベッド、くっつけて3人で寝ません?」

 

「あぅっ!?」

 

 オレを抱いてるカナンのすぐ隣にコルダータちゃんが来るって事は、つまり……?

 

「これで一緒ですね♪」

 

『川』の形ですかそうですか。

 

 左右の耳へ別々に二人の呼吸音と脈が入ってくる。

 予想通り、カナンとコルダータちゃんのベッドがくっつくと、オレは二人の間に挟まって眠る形で……

 

 何をとは言わないけど挟まるなんて、なんだか一部の界隈から大バッシングされそうだな――と、少し焦りながらオレも眠りへと落ちていったのであった。

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