バケモノ少女の影魔ちゃん   作:稲嫁とーかちゃん

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第33話 いざ迷宮へ

 翌朝。

 一通り準備を済ませ、メルトさんに送り出してもらい、さてと街へと来たものの、ふと気づいてしまった事がある。

 エルムさんに当日ギルドへ来るよう言われてたけど、オレって厳密には冒険者じゃなくない? 隠れてた方が良さげじゃね?

 

 という訳で、オレは少なくとも迷宮に入るまではカナンの体の中で待機する事になった。

 

「カナンさんにコルダータさん。どうもいらっしゃい」

 

 あれ、思ったより冒険者の数が少ない?

 ギルドに入ると、存外冒険者はちらほらとまばらだ。もっとぎゅうぎゅう詰めかと思ってたんだけど。

 

「ここに来て……良かったんですよね?」

 

「大丈夫ですよ。みなさん一回ここで諸々手続きをしてからすぐ迷宮へ行かせちゃいますから。迷宮の入り口までは、立て看板と魔物避けの魔方陣で守られてますので、すんなり行けると思いますよ」

 

 少し不安そうなコルダータちゃんを安心させるように、受付嬢のニーレさんが説明してくれた。

 そういや迷宮の入り口があるのって南西の森だったな。何かとあそこには縁がある。

 

「よーし、それじゃちゃっちゃと手続き済ませて私達も行っちゃうわよ!」

 

 

 

 

 適当に手続き済ませて南西の森へ向かってゆく。手続きと言っても、書類に名前を記入してからギルドから支給される諸々のアイテムを受けとるくらいだったが。

 ちなみに、明光石も2個もらえた。

 

「あっ! あそこから森に入れるのね!」

 

「うぅ、緊張します」

 

 いつだかの森への入り口に、立て看板のようなものが立っている。オレには何が書かれてるのか読めないが、二人によると道を案内してくれているものらしい。迷宮この先とでも書いてあるのかな。

 

『てか凄いドキドキしてるな』

 

「そーよ、だってまだ調査されていない迷宮なんて全冒険者の憧れよ? 胸も高鳴るってもんよ」

 

 カナンがドキドキする胸を押さえて口角を上げる。

 楽しそうだ。

 

「おーちゃんとお話してるんですか? なんだかうらやましいですね、頭の中でも話せるって」

 

「ふふん、私だけの特権ね。……でも、ちょっとコルちゃんおでこ出してくれる?」

 

「え、おでこに何かついてます?」

 

「そうじゃないわ」

 

 え、何?

 コルダータちゃんが訝しげに前髪を上げておでこを出していると、カナンも同様に前髪を上げて顔を近づけ――

 

 ってストップ!!? 近すぎやしない?!

 おでことおでこを合わさり、二人の吐息が混ざり合うほど至近距離で視線が交差する。

 

「……あれ? おーちゃんの声がします!!」

 

 え? は、え?

 

(でしょ? 喋らなくても会話ができるようになったのよ)

 

 そういえば、昨夜カナンに作った能力(アビリティ)の事を地味に忘れてた。

 

 ――【念話】

 俗に言うテレパシーのようなもので、口に出さずとも頭の中で相手と会話できる便利な能力(アビリティ)である。

 

(――という能力(アビリティ)なんだけど、思ってたより扱いが難しいみたい。まだこうしておでこをくっつけないと使えないみたいだし)

 

(えへへ、わたしはこの使い方でもいいですけどね。もっと二人の近くにいられる気がして好きです)

 

 コルダータちゃんの頬っぺがほんのり、絹に包んだリンゴみたいに紅く染まっている。

 照れてるのかな。

 

『オレも好きかな――』

 

 ……ん、あれ?

 ふと、心の口からそんな声が漏れていた事に気がついた時には既に遅く、聞こえたであろう二人は何やらニヤニヤしていた。

 

「……ふふ、私も好きよ」

 

「わたしもです!」

 

 え、二人とも急にどうしたんだよ?

 二人はニヤニヤしたままおでこを外すと、オレの疑問に答える事なく無言で森へと入っていったのだった。なんなんだよ。

 

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

 

 

 

 木々がざわめき、踏みしめる落ち葉が耳ざわりよく音を立てる。

 森に入ってから看板に従って進んできたけど、本当に一切の魔物と遭遇しなかったな。魔物避けの魔方陣とやらすげー。

 

 それはともかく、オレ達はついに目標の〝迷宮の入り口〟までやって来た。

 深みのある青色の大きな石門が目の前に聳え立っている。

 

「やっぱり改めて見ても不思議ね」

 

 正面から見ると、中には遺跡みたいな空間が奥に広がってるのだが、門の後ろには何もない。

 さて行くかと一歩踏み出そうとしたその時――

 

「オイオイオイオイ、なーんでDランク未満がここにいんだよ?」

 

 少年に近い年齢の青年冒険者が後ろから現れた。

 長剣を持つ、いかにも中堅な冒険者。ただしつり上がった目はその性格のキツさを示唆しているようで――

 

「なんでって、Dランク以上だからよ」

 

「へっ、嘘つくならもっとマシなもんにしとけよ」

 

 なんだこいつ?

 カナンは別に相手にするつもりは無さそうだけど、こいつはどんどん突っかかってくる。仕方がなさそうにカナンはため息をつきながら懐からカードを取り出して見せた。

 

「このカードに書かれてる通りよ。正式にこの迷宮の調査を依頼されてるの」

 

「なっ、本当にDランク!? ど、どうせギルド職員だとかに色目使って取り入ったんだろ? 言ってみ……って待てゴルァ!?」

 

 男は無視して背を向け迷宮へ入ろうと歩むカナンの前に再び立ちふさがる。こいつうぜえな……

 

「邪魔」

 

「勝手に逃げてんじゃねーよ!」

 

「逃げてないし。自分より弱い奴からなんで逃げる必要があるのかしら?」

 

「てっめ……あ! よく見りゃお前コルダータじゃねえか! へへ、雑魚はそっちだってバレちまったなぁ? コルダータなんかがいる事が何よりの証拠だぜ?」

 

 おいおい、死ぬわこいつ。今カナンの逆鱗に触れたぞ。

 カナンは自分の事ならどれだけ言われても平気だが、オレやコルダータちゃんが馬鹿にされたりする事が許せないのだ。

 

「ねぇ、あんた殺すわよ? こいつ殺していいわよね?」

 

 ピリッと空気が変わる。肌は粟立ち呼吸は深く、カナンの体は戦闘モードに突入しようとしていた。

 

「カナちゃんそれはダメです……」

 

『人を殺すのはダメだぞ!』

 

 いくらムカつくからって、殺人はよろしくない。命の価値が現代日本の生ぬるい価値観より安いけど、それでもさすがに殺人を擁護する事はできない。それに一応はこの世界でも殺人は禁止されているらしいのだ。

 

「できるもんならヤってみろよ、メスガキ!」

 

殺し(たべ)ちゃダメなの? なんで?」

 

 正直、オレもこいつ腹立つしぶん殴りたいけどな。こんな所でトラブル起こしたらまた面倒な事になる。オレとコルダータちゃんでカナンをどうにか制止していると

 

「バッカヤローー! 一人で勝手に行っちまったかと思ったら、何してんだベルナおめえ!!!? カナンさんに謝れ!!!!」

 

 うぇ? いきなり、青年よりいくらか年上の冒険者が駆けつけてきて、呵責をしだしたのだ。

 

「な、なんだよ?! 俺は間違った事してねえよ! このガキどもに現実って奴を教えてやろうと……」

 

「ガキはてめえだ!! カナンさんはな、おととい闘技場で喧嘩売ってきたAランク冒険者を半殺しにしてたんだぞ!? そんな方を怒らせて……」

 

「え、Aランクっ!?」

 

 ああ、アガスをボコボコにした時この人見てたのか。噂は冒険者づてに広がるたろうし、カナンを知らない方が珍しいかもな。

 

「すまねぇカナンさん。部下の非礼はおれが詫びる。だからどうか見逃してやってくれ! ほらおめえも!!」

 

 まさかの土下座!?

 異世界にも土下座文化ってあったんだなぁ。

 おかげでカナンも殺す気はいくらか失せたようだ。

 

「顔を上げて。私、ジヒブカイから今回は許してやるわ。コルちゃんもそれでいいわよね?」

 

「え? カナちゃんがそう言うなら別に……」

 

「だ、そうよ。次は無いから気をつけてね」

 

 まあ、殺しても闇魔法や次元収納だとかでいくらでも隠蔽はできてしまうな。もしそうなったらオレは協力するつもりだけど。

 

 何はともあれ、駆けつけた男によりこの場はなんとか穏便に納まったのであった。

 

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